ARTICLEワイン記事和訳

世界をけん引するワイン教育機関とは 26 May 2014

008.jpg私は最近引退した。と言ってもワインライターのことではない。この素晴らしい魔法のワイン王国を自ら離れるなんて想像すらつかない。私が引退したのは刺激的な名誉職のことである。

今年の初め、3年間の任期満了に伴い私はWSET(ワイン・アンド・スピリッツ・エデュケーショナル・トラスト)の名誉校長を退任した。私の役目は毎年ロンドンの歴史的なギルドホールでWSETの最も優秀な生徒およそ200名に証書や記念品の授与を行うことだった。彼らの多くはWSETの最難関試験であるディプロマに合格した人々で、このセレモニーのために世界中から集まってくる。

毎年心を動かされるのは、この上なく厳しいマスター・オブ・ワイン試験のわずか1ステップ下に位置するこの難関に挑むため、自分自身と愛する家族を犠牲にし、高度なブラインド・テイスティングや膨大な受験勉強に取り組んできた生徒たちの姿である。

WSETの最高責任者であるイアン・ハリス(Ian Harris)はその国際化の責任者でもあるわけだが、このセレモニーの司会を行い、一人一人の生徒の名前と共に簡単な紹介を添えている。世界各国からの生徒すべてにこれを行うのは並大抵のことではない。 私はここ数年、銀行員がワインの勉強を始める傾向が急速に高まっていることに気付いた。これはおそらく、(個人的には歓迎しないが)ワインを投資の対象として見る世界の流れが影響しているのだろう。他にも卒業生には学識経験者、弁護士、病院役員、科学者や研究者、もちろんフルタイムでワイン・トレードに携わっている人々など多岐にわたる職業で成功を収めた人々が名を連ねている。

ワイン・スクールの人気がこれほどまでに高まったのは驚くべきことで、イアン・ハリスによる功績も大きいが、WSETが今やワイン教育の世界的な第一人者であることは動かしようのない事実である。昨年は50ヶ国以上、17か国語で約5万人もの生徒がWSETのコースを受講し、今年はそれが6万人に達しようとしている。

私はこのように人気が高まってきた分野をけん引する彼らがイギリスの団体であることを非常に誇りに思っていると同時に、友人でありワールド・アトラス・オブ・ワインの共著者でもあるヒュー・ジョンソンからWSETの3人目の名誉校長を引き接いだ(彼はマイケル・ブロードベントから引き継いだ)こともまた、誇りに思う。私は卒業セレモニーの間、できるだけ迅速に物事を進めるように努めていた。なぜならギルドホールに集まった数百人の人たちは、次から次へと登壇し証書やトロフィを受け取る晴れやかな卒業生たちをただひたすら眺め続けなくてはならないからである(しかもそのほとんどは彼らにとって赤の他人なのだ)。そして何より彼らが楽しみにしているのは式典後のレセプションであることも知っているからである。しかしマイケルの時代は、かわいい生徒たちに賛辞を述べることに非常に熱心だったため、私の時よりもセレモニーははるかに長時間にわたったそうだ。

私がWSETに強い親近感を抱くのには理由がある。1975年の終わりにワインライターとして活動を始めた頃、私は組織運用能力を見込まれてワイン流通関連の雑誌のアシスタントディレクターとして雇われていたが、自分がどれほどワインのことを知らないかは十分にわかっていた。そこですぐ、当時設立して6年しか経っていなかったWSETに入学し、全く興味のなかったジンの蒸留について強制的に学ばなくてはならなかったことを含め、このスクールが素晴らしいものだと知った。その結果1978年に私はディプロマをトップの成績で取得し、ルイエ・ギレ(Rouyer Guillet)杯を獲得した。私はその時もらった6インチの地味な木製の盾を今でも持っているが、現在の生徒に与えられるヴィントナーズ・カップ(Vintners' Cup)が5000ポンド相当の研修旅行と素敵な銀のトロフィ、美しく彫刻されたマグナムサイズのデカンタであるのと比較して紹介しては、生徒たちの笑いを誘っている。

コースは私がいたころよりはるかに進化していて、スピリッツ専門のコースやホスピタリティ専門のコースもできた。しかし何より私が感嘆するのは、それらが3年ごとにきっちりと見直しされていることである。私自身ワイン関連書籍の著者であり編集者でもあるため、ワインの世界がどれほどめまぐるしく変化するかは身をもって知っている。そのため教育の水準を保証することは私自身にはとてもできないと思っているし、そのためにすべき事柄は非常に多岐にわたると考えるが、WSETはそれを成し遂げるために最大限の努力を払っていると強く信じている。

おそらく、WSET(国によって読み方は異なるらしい)について最も驚くべきことの一つは、アジアでの人気の高さだろう。今年の中国での生徒数(香港と中国を合わせた数かもしれない)は、WSETの本国であるイギリスを上回ったのである。

3月に香港と上海を訪れた時、私は文字通り数百人のWSET受講生に会った。彼らは本格的かつ体系的にワインを学ぶことを心の底から楽しんでいるようだった。私は両会場で卒業生のためのワイン・テイスティングとディナーに参加したが、彼らの知識の深さと傾倒ぶりに感嘆した。これは10年前の中国のワイン市場がいかに未発達だったかを考慮するとさらに感慨深いことである。私の著書であるOxford Companion to WineがWSETの推奨テキストであることも関係していると考えるが、アジアの若いワイン学習者の非常に多くが私の仕事についてすでに深く理解していた。また、最近のヴィントナーズカップの受賞者は2年続けてアジアの女性である。白人男性諸君には頑張ってほしいものだ。

では、次のWSETの名誉校長はだれなのだろうか?この国際的な組織にふさわしい、イギリス人以外の初の名誉校長、この1月に私が引き継いだ相手は誰あろう、ジェラール・バッセである。彼の名前の後ろには私のそれとは比べ物にならないぐらい素晴らしいアルファベットが並んでいる―OBE(大英帝国勲章)、MW(マスター・オブ・ワイン)、MS(マスター・ソムリエ)、MBA。彼はおそらくこれから、卒業セレモニーで200回カメラに向かって笑顔を作る大変さを知るだろう。私の場合は特に、1回目のセレモニーは母が亡くなった数時間後だった。しかし4年前に世界最優秀ソムリエ選ばれたときユニオン・ジャックをまといたいと主張したこのフランス人は、私と同様この素晴らしい教育機関の名誉校長となることを誇りに思っているに違いない。

詳しい情報はhttp://www.wsetglobal.com/へ。

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