ARTICLEワイン記事和訳

ロワールのバトンは託された 18 Feb 2017

207.JPGこの記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。Can you afford to ignore the Loire?も参照のこと。

私が出会うほとんどのワイン消費者の間で今の時代を強く反映する精神と言えば、おそらくは完熟して力強いワインが流行した一時期の流れに反発する形で、アルコールが高すぎず、樽の香りを感じない、フレッシュで生き生きとしたワインを求める動きだろう。彼らはさらに、高い信頼性とトレーサビリティも求める。匠という言葉が食とワインの世界でこれほどまでに良いニュアンスで使われたこともなかった。長い歴史と何世代にもわたる生産者は完ぺきをもたらす。

では、なぜロワールが良いのか?たとえ今月、グラスでシュナン・ブランを飲むことがニューヨークの流行に敏感な人たちの間でお気に入りだとしても、それは単発でおそらくほんの一瞬の出来事だ。イギリスでは長きにわたってその名声を確立したサンセールを除いて、ロワールが少数派の飲み物であるのは強固かつ説明のつかない事実でもある。

イギリスのワイン商の中でロワールを専門とするものはごく少ない。事実私が思い浮かぶのは唯一つ、ヤップ・ブラザーズ(Yapp Bros)だけで、1969年にローヌとロワールの専門家が立ち上げたものだが、ジェーソン・ヤップは彼らの扱うロワール・ワインの割合が年々減少し、その地位をラングドックに奪われつつあることを認めている。

彼に言わせると、この問題の原因の一部はフランスにあるそうだ。「彼らがマーケティングについて学ぶべきことは沢山ありますね」彼は不満げに、今月初めに開催され、かつては重要だった例年のアンジュ・ワイン・フェアの規模の縮小具合に触れ、ロワールの生産者と生産者団体が改善すべき点があることの明らかな表れだと指摘した。「一部のアペラシオンは十分なプロモーションができていないだけなんです。」彼は述べた。一方、安定して団結したソーミュール・シャンピニーの若い生産者たちについては称賛に値するとも述べた。

もしかしたら伝統的なイギリスのワイン業界においてはロワールの代表者が少なすぎるのかもしれないが、そんな中シノンを拠点とするイギリス人夫婦は我々のロワール・ワインへの意識を驚くほど高めてくれた。チャールズとフィリッパのシドニー夫妻(写真はシャンボール城の前で撮影)は1987年にレイスウェイトを退職して以来、これまでロワールのワインをイギリスのインポータや小売業者に卸してきた。チャールズは灰色の口ひげを生やしロワール川の支流の全て、そして畑を知り尽くした人物だが、おそらく私の記事を読んで鼻息を荒くし、「ブルゴーニュに割いている記事の10分の一でもロワールのことを書いてくれればいいのに」と苦々しくつぶやいていることだろう。

このような気持ちを彼は何十年も抱き続けてきたわけだが、ロンドンで最近彼の取り扱うワインをテイスティングした際、私は彼への共感がこれまでになく大きくなった。セラードアでは1本3ポンド以下で販売されている2016ミュスカデ、ジェローム・ショブレ(Jérôme Choblet)のシャトー・ド・ラ・ピエール(Château de la Pierre)をテイスティングすると、私はブルゴーニュの白にその10倍以上を支払うのがもったいないと思わされた。私はロワールのピノ・ノワールで(一番高価なサンセールの赤ですら)赤のブルゴーニュに匹敵するほどのものは飲んだことがないが、ロワールの優良年のカベルネ・フランは多くの赤のボルドーを優雅さ、フレッシュさ、そして価格の面で優に上回る。ジャスティリーニ・ブルックス(Justerini & Brooks)のリストに掲載されていた保税価格1本5ポンドのドメーヌ・ボーセジュール、レ・グルネット・トゥーレーヌ・ソーヴィニヨン・ブラン(Domaine Beauséjour, Les Grenettes Touraine)を飲むと、価格がその2~3倍はするニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランが明らかにたるんで過熟なものに思われた。

ミュスカデ、ソーヴィニヨン・ブラン、極辛口から極甘口までのシュナン、カベルネ・フランなどが並ぶテーブルの間を歩き回り、テイスティング・シートを読み、それらがどの会社にたどり着くのかを見て気づいたのが、イギリスには(ヤップとル・カーヴ・ド・ピレーヌ(Les Caves de Pyrène)という例外は除き)協同組合からコーニー&バーロウに至るまで、シドニー夫妻を通さないインポータおよび小売店は実質的に存在しない。

私の中ではこの事実はイギリスのワイン業界の欠点として映った。ロワールはロンドンからそれほど遠くにあるとは思えない。イギリスのワイン商が足しげく通うオーストラリアや南アフリカと比べたらはるかに近いではないか。だがほとんどの経営者たちは新しい才能を自分たちで見つけ出すどころか、その重労働をシドニー夫妻に押し付け、それでよいと思っているようにすら見える。おそらくシドニー夫妻がこれほど素晴らしい仕事をしてくれるために他の個人の取り組みは必要ないのかもしれないが。事実、現状はこの勤勉なイギリス人夫婦の働きが非常によく機能していることを示している。

だが、現状が永遠に続くわけではない。その年齢には珍しく、シドニー夫妻の子供たちはワイン・ビジネスに興味がない。そのためイギリスの大手小売りであるマジェスティックで長きにわたりトップ・バイヤーを務め、家族がロワールの家に長く住んできたクリス・ハーディが彼らに連絡を取り仕事を依頼したとき、チャールズとフィリッパは二つ返事で引き受けた。3人は今後4年間ともに働くことになる。その頃には、クリスはチャールズと同じレベルまでロワール・ワインについて学び、フィリッパほどの有能さも身に着けていることだろう。

ロワールがほかの名声を確立したワイン産地と比べて不利であることは事実だ。新規性もなければ確立した二次市場もない。そして現代の多くのワイン消費者は確実なものまたは新規性のあるものにしか投資をしようとしない。品種という視点から見ると、人気のソーヴィニヨン・ブランを多く抱える点は利点だろう。だがロワール川中流域の二大品種、カベルネ・フランとシュナン・ブランはどちらも流行という観点で目立たず、人気が高いわけでもない。もちろん、イギリスの奇抜なインポータであるル・カーヴ・ド・ピレーヌのような珍しもの好きにとっては、ロワールは流行からかけ離れたピノ・ドーニス、ムニュ・ピノー、ロモランタン、ソーヴィニヨン・ロゼ、グロロー・グリなどといった珍しい品種の宝庫なのだが。

しかし、ロワールの主要な問題はこれほどに活発なワインを生み出すことができることによるものだ。すなわち、ヴィンテージによるばらつきである。フランス最北のワイン産地であるがために、気候変動が助けになっているものの、年によっては気候の不振で収量と品質に大きな影響が出ることがある。ロワールの生産者は2014と特に2015では素晴らしい品質に恵まれた。だが昨年は春の壊滅的な霜の影響で収容に関してはひどい年だった。ひどく雨の多い春と早い夏の訪れは開花に影響をあたえてさらに収量が下がり、ひどいうどん粉病に見舞われ、ブドウの成長を止めるほどの夏の干ばつは一部のブドウの日焼けももたらした。

だが夏の終盤に成長の再開に間に合うタイミングで雨が降り、一部では量は少ないものの最高品質のワインが作られることになった。きっとロワールのワインに世界がまだそれほど注目していないのは今の時点ではいいことかもしれない。だがそれが長く続かないことを祈る。

ロワールのお買い得品
場合によってはこれより前の(良い)ヴィンテージのものも入手可能だ。2016のミュスカデはまだ瓶詰めされていない。

ミュスカデ
Bonnet-Huteau, Les Dabinières 2016 Muscadet-Sèvre et Maine sur Lie
Jérôme Choblet, Château de la Pierre 2016 Muscadet-Côtes de Grandlieu sur Lie
Pierre Sauvion, Château du Cléray 2016 Muscadet-Sèvre et Maine sur Lie

ソーヴィニヨン・ブラン
Domaine Beauséjour, Les Grenettes 2016 Touraine Sauvignon (Justerini & Brooks)
Pierre Marchand & Fils, Les Kerots 2016 Pouilly Fumé Les Kerots (Adnams)
Alphonse Mellot, Génération XIX and Cuvée Edmond 2014 Sancerre (Laithwaite's)
Vincent Pinard, Cuvée Nuance 2015 Sancerre (Justerini & Brooks)

シュナン・ブラン
Domaine des Forges 2015 Coteaux du Layon St Aubin 2015 (Fields Morris & Verdin, Tanners)
Domaine de la Taille aux Loups, Le Clos Mosny 2015 Montlouis Sec (Justerini & Brooks, Waitrose)

カベルネ・フラン
Domaine de la Butte, Le Haut de la Butte 2015 Bourgeuil (Justerini & Brooks, Lay & Wheeler)
Couly-Dutheil, Clos de l'Olive 2014 Chinon
Château de Targé 2015 Saumur-Champigny

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