ARTICLEワイン記事和訳本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

新進のシャンパーニュ生産者となるには 23 Jun 2018

269.jpgこの記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。New wave champagnes 2018も参照のこと。

さてさて、近くにお越しなさい、シャンパーニュの昔話をしてあげよう。かつてそれは夢であり、優越感に満たされた贅沢の象徴だった。友人にそれを振舞う時は、相手がそれを魔法のように、そして自動的に他のどんなスパークリング・ワインより上質であることがわかるという前提で注ぐものだった。

それは謎に包まれたワインだった。ワインマニアですら、それぞれのボトルの中に具体的に何が入っているのかほとんどわからなかったからだ。だがそのブランドは世界で最も力を持っていた(そしてそれはワインの世界だけではなかった)。そのイメージはあまりに力があり、しっかりと守られていたため、価格が高くても売るのは難しくなかった。シャンパーニュは、供給過剰な市場で揉まれながら、まったくと言っていいほどその印象を植え付けることに成功できていなかった世界のワイン生産者にとって羨望の的だった。

これは昔々のお話だ。だがこれから話すのは現在のことだ。シャンパーニュの売り上げはプロセッコの熱狂的なブームに押され著しく落ち込んでいる。シャンパーニュの気温が上がるにつれ、イギリスのスパークリング・ワイン生産者たちは誇らしげに、自分たちの酸の高さを自慢する。そしてシャンパーニュの名声を確立するために大きな意味を持ってきた販促に莫大な予算を確保する大手のシャンパーニュ・ハウスは今、まったく異なる種類の新進シャンパーニュ生産者からも戦いを挑まれている。

この新進の生産者たちを「パワフルな」と書こうとしたのだが、それが真実であるかどうか確信はない。彼らはまだ小規模な少数派であり、経済的な力も比較的小さい。彼らの多くは(すべてではないが)小さな家族経営であり、大規模な国際的企業ではない。彼らは仲間と協力して小さな組合を作り、毎年4月に自分たちの製品を紹介している。これはシャンパーニュでは比較的新しい試みであり、新進のシャンパーニュが紹介される1週間である。

では新進のシャンパーニュ生産者とはどんなものだろうか。

スーツを着てはならない

旧式の典型的なシャンパーニュ生産者は美しいスーツをまとい、エルメスのネクタイをしている。だが典型的な新進生産者はジーンズをはき、開襟シャツを着ていることが多い。ロンドンの67ポール・モールにあるワインに注力したプライベート・クラブ主催で最近開催された3回目の新進シャンパーニュのテイスティングでは彼らはまさにその本質である農家の人といった出で立ちだった。

栽培者たれ

シャンパーニュの生産者はハウス(ネゴシアン・マニピュラン、通常ラベルには小さくNMと表記される)、協同組合(CM)、自分でシャンパーニュを作る栽培者(レコルタン・マニピュランRM)に分類される(なお自社ブランドはMAと表記する)。RMというカテゴリーには多くの退屈なものもあるのは確かだが、現在流行という名の脚光を浴びている、シャンパーニュを自分で作る栽培者としてそれは最高のものであるともいえる。個々のテロワールを雄弁に表現し、ボトルごとの違いを示す能力は、味わいで感じられる違いの背景にある情報を巨大なハウスで作られるシャンパーニュが開示しないことに不満を募らせていた現代のワイン愛好家たちの気持ちに同調したのだ。

一方、まだ多くのシャンパーニュ・ハウスはある意味工業的に生産されている原料を使い、ブランド名以外は消費者に知らされないノン・ヴィンテージのブレンドに終始しているものの、21世紀の情熱に呼応し最高の栽培者同様、品質に惜しみなく力を注いだワインを作るハウスも増えてきている(New wave champagnes 2018記事中でのティム・ホールによる「新進」の定義参照のこと)。シャンパーニュの大物、ブルーノ・パイヤールは1980年代初頭、自身の名を冠するハウスのノン・ヴィンテージ・シャンパーニュのバックラベルにデゴルジュ(最終瓶詰め)日を記載し消費者に知らせることで新しい道を拓いた。クリュッグは2011年以降全てのボトルに個々のワインの来歴を記している。その大きさにもかかわらず、ルイ・ロデレールはシャンパーニュ愛好家の尊敬を一身に集めているが、それは彼らが効率的な栽培者であり、非常に多くの畑を所有しそれを耕しているためだ。さらに早い時期から有機栽培に取り組んでおり、現在はビオデナミまで手を広げているのもその理由の一つだろう。

有機栽培をせよ

シャンパーニュの畑は初めて訪れる人にショックを与えることがある。長年にわたり、そこはパリのゴミ廃棄場であり、灰色の核時代後の乱雑に散らかった荒地のようだった。だが状況は次第に良くなっており、この地域の畑は少しずつ、すくなくともサステイナブルに栽培されるようになった。認可を受けた新進生産者のほとんどはここからさらに一歩進み、有機栽培や、さらに要求の厳しいビオデナミに取り組むなど活発な試みを見せている。これは他のほとんどのワイン産地の全体的な流れと一致しており、シャンパーニュの畑はかつてそうだったように、ブドウとブドウの間にも緑があることが目で見てわかるようになってきた。

特異性を持て

偉大な大量の均一なブレンドを作るよりも、新進のシャンパーニュ生産者は数多の単一畑ワインや単一品種(好ましくは無名の)からワインを作る。シャルドネ(唯一ブラン・ド・ブランの原料となる)、ピノ・ノワールとその変異種であるピノ・ムニエはこの地域で圧倒的に栽培面積の多い品種だが、アルバンヌ、ピノ・ブラン、プティ・メリエのシャンパーニュも今では存在するし、広く知られるようになってきた。

樽を使え

ボランジェやクリュッグなどは発酵と、シャンパーニュを作る前段階で発泡していないベースワインの熟成に古樽を用いる点で特別だったが、今ではシャンパーニュ地方は樽を販売するセールスマンの旅程に組み込まれる産地となった。多くの新進生産者たちは発酵と熟成に樽を使おうと実験を行っている。小さなハウスであるアンリ・ジローは、20世紀終盤一斉にステンレスタンクに移行する前までシャンパーニュで伝統的に用いられていた、ランスのすぐ東にあるアルゴンヌの森で取れたオークに回帰した先駆者だ

ドサージュは最小限に

伝統的に、シャンパーニュはいわゆるドサージュと呼ばれる、出荷前に個々のボトルから澱を取り除き最終的にコルクで栓をする段階で行われる工程で甘みが加えられている。これは夏が寒く酸が高くなってしまった場合には特に必要だった。最近は収量が高すぎたためにすっぱくて若いシャンパーニュの味をごまかすために多めのドサージュが使われることもあり、その結果安いシャンパーニュによくみられる甘さはあるのに酸っぱいという特徴につながる。一方多くの場合は温暖な夏の影響で平均的なドサージュの量は減少傾向にある。多くの栽培者である生産者は、ゼロ・ドサージュ、あるいは限りなくドサージュを減らしたということを名誉の勲章のように掲げているのだが、私から見て必ずしも適切でない場合もある。シャンパーニュは爽やかであるべきだが、酸が高すぎて口の中を痛めつけるようなものであってはならない。

最大限の情報を提供せよ

栽培者のシャンパーニュを(ラベルのRMという文字以外に)明白に語るヒントはバックラベルにいい意味で詰め込まれている情報だ。 典型多岐な内容は、ブレンドした品種の具体的な割合、それらがどこで獲れたのか、樽の種類や割合も含めてワインがどうやって作られたのか、味わいを和らげるマロラクティック発酵に関する方針、瓶内二次発酵のために瓶詰めした日付、デゴルジュの日付、リットル当たりのグラム数で正確に表記されたドサージュなどだ。

新進生産者の最初の小さな波と言えばアグラパール、ベレッシュ、野心的な価格のシャルトーニュ・タイエ(残念ながら栽培者とメゾンのシャンパーニュの価格差はほとんど消えてしまった)、エグリ・ウーリエ、ラルマンディエ・ベルニエ、エリック・ロデズ、ピエール・ペテルス、ジャック・セロス、ヴィルマールなどだったが、その波はいまや大きなうねりとなり、すでにその名を確立した多くの生産者や大手ハウスまで飲み込んでいる。最高品質のシャンパーニュの本物の海が見られることを楽しみにしたい。

最高の新進シャンパーニュ
以下のワインにはここ数カ月で20点満点中17.5点以上をつけた。

Drappier, Grande Sendrée 2008
£81.50 Hedonism 他

Geoffroy, Volupté 2008
£40.95 Champagne One, Yorkshire

Jacquesson, Cuvée 741 NV
£46 Huntsworth Wine 他多数

A R Lenoble, Chouilly Blanc de Blancs, mag 14 NV
£58.33 Stannary St Wine Co および The Whisky Shop

Penet-Chardonnet, Grand Reserve NV
€98 Hardy, Berlin

François Secondé, La Loge NV
£33.20 Savage Selections, £44.99 The Winery

Vazart-Coquart, Chouilly Cuvée 82/12 Blanc de Blancs NV
£76.57 Scala Wine

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