ARTICLEワイン記事和訳本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

キウィのワイン、ブリクストンの活況 14 Jul 2018

272-1.jpgこの記事のショート・バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。テイスティング・ノートについてはNZ beyond Sauvignon and Pinotを参照のこと。

私がニュージーランドの北島東海岸にあるギズボーンの、ビオデナミで作られたヴィオニエを飲んでいる間、会場をレゲエの低音が揺らしていた。スパイシーなジャーク・チキンの香りが古い輸送用コンテナに流れ込んでいたが、そのコンテナは今ニュージーランドの輸出戦略が数量ベースで最も重要な市場であるイギリスで今、注目を集めているものだ。

ニュージーランド・セラーというワインバーかつワインショップは、「セラー」ではない。ポップ・ブリクストンの、地元の鉄道のほぼガード下に位置する色とりどりの場所にある。改装されたこの場所は、無料の家庭教師サービスや地域のガーデニング、映画スタジオ、ラジオステーション、レコードショップ、さらにベネズエラ、日本、カリブ、メキシコなどの特徴のある料理を提供する店など50ほどの企業が利用している。3年前、地元の議会が当時見捨てられていた廃墟のようなこの場所の利用法を募集したところ、カール・ターナー建築事務所が古い輸送用コンテナや提供されたリサイクル物資を使うという斬新な提案をし、それが認められたのである。

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キウィの(訳注;英語でニュージーランド人の愛称)メラニー・ブラウンはそれまでニュージーランド人のシェフ、ピーター・ゴードンに彼のロンドンのレストラン、プロヴィドアズ(Providores)のワインリストやインターネットでの小売りについてアドバイスをしていたが、実店舗での商売を行いたいと思っていた。あるいは、この場合は「実店舗(訳注;英語ではbrick and mortar、直訳は煉瓦とモルタルでできた)」というよりはアップサイクルされた木材や金属を使った店舗、というべきか。2015年5月、彼女はクラウドファンディングでそのための資金を集めることとし、目標額の42,000ポンドを5日間で達成した。今、やや詰め込み気味のかつての輸送用コンテナの中には、オレンジの箱を再利用した小売り用の棚の横に、彼女に250ポンド以上提供してくれた人たちのリストが背の高い石板に美しく刻まれている。最初のひと塊はニュージーランドのワイナリーで、次は多くのインポータを含むイギリスの企業、そして最後には善意ある個人の名が連なる。

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事業は非常に順調であり、彼女はこの賃貸を2020年10月まで延長したところだ。さらに便利なことに、彼女は家族と共に近所に住んでいるのだ。一方、特殊な点は彼女の扱うワインが地元の人々には若干高価であることだ。私がそこにいた時に若い女性が入ってきて、シャルドネを1本探していると話したのだが、やや憂鬱そうにこう付け加えていた。「でもここでは30ポンドぐらいは出さないとだめなんですよね。」と。だがブラウンは親切に、そして得意げに彼女を28ポンドのノイドルフ、ロジーズ・ブロック・シャルドネへと案内した。その若い女性は感激していた。「しかも私の名前、ローズなの!」と述べて。(訳注;ロジーズ・ブロックのロジーズはRosie'sで、「ローズの」という意味にもとれる)

沸騰するほど暑い平日の午後、私がそこにいた1-2時間の間にそこを訪れたのはもちろん彼女だけではなかった。ブラウンは私に彼女のセレクションのいくつかをテイスティングさせてくれたが、その間中それらを(たとえ赤ワインでも)十分冷たく保つために、氷でいっぱいのバケツの中から瓶を出し入れするのに忙しかった。他の客には、ニュージーランドで以前飲んだことのあるワインを探しに来ていた若いカップルや、イギリスでニュージーランドのワインを一般向けに販促する責任者などもいた。

彼の事務所はピカデリー・サーカスのすぐ南、非常に静かで60年代の空気を感じる、堅苦しい場所にあるニュージーランド・ハウスという15階建てのオフィス・ビルにある。クリス・ストラウドは明らかにブリクストンへの訪問を楽しんだようで、この新しい前哨基地とブラウンのソーシャル・メディアでの目覚ましい活躍を嬉しそうに話してくれた。おかげでより多くのニュージーランド人のワインメーカーがロンドンを訪れ、これまでにないほどイベントやテイスティングをするようになったのだ。ワインライターとして言えることは、一般向けのテイスティングがいつも行われるこのニュージーランド・ハウスの上からの眺めがどれほど素晴らしくても、そしてその部屋がどれほど広くても、空気感とエネルギーではあくまであの輸送コンテナの方がはるかに勝っている。

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ブラウンはカリスマ的で何かに突き動かされているような人物だ(彼女は現在同様なネット事業をオーストラリア・ワインでも計画している)。最近ワイン棚の前で羊の皮がかけられた椅子に座った目を引く白黒のポートレイトと共に投稿したツイートでは「我々は多くを求めない。なぜならそれが我々自身のことではないから。我々は人々に経験の機会を与え、ニュージーランド・ワイン(#nzwine)に息を吹き込むため、そして味蕾を目覚めさせるための導管として働く。今度大量生産されたスーパーマーケットの自社ブランドのワインを買ったら、自分に訊いて欲しい。自分はだれを支えているのか、と。間違いなく、それは我々ではない。」と書いている。

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あるとしたら問題は一つだったが、それも初めから解決されていた。このポップ・ブリクストン全体が小売りと飲食両方のアルコール免許を取得している点だ。ブラウンのビジネス・モデルでは店内でグラスで提供されるワインの利益率が比較的低い。周囲の屋台をぶらつきたい客や共有のテーブルに座りたい客のために彼女はプラスチックのカップを提供している。ニュージーランド・セラーは夜はずっと開いているが、午前中に開くことはめったにない。いずれにしても、彼女は、私の質問が何度も答えたことがあるものであるかのように少し疲れた様子で答えた。「地元のコミュニティは最初に我々が考えていたよりはるかに多様だとわかりました。高級市場であるダリッジは道を少し行ったところです。私たちはお金のあるミレニアルやそれより上の人達に訴求しているんです。」

彼女はまた、ずる賢くもある。 テムズ川の北側に寄りがちな私の足を向けさせるため、彼女が厳選したニュージーランド・ワインを、しかもその国の主要品種であるソーヴィニョン・ブランとピノ・ノワール以外の品種から作られたものをテイスティングしないかと誘ってきたのだ。確かにこれらの2品種がどれほど人気が高くても、記事にするほどの目新しさはないのが正直なところだ。実際、ニュージーランドがこの2品種にあまりに依存し過ぎており、国の栽培面積のうちソーヴィニヨン・ブランは60%、ピノ・ノワールは15%をも占めていると知った時は衝撃的だった(さらにソーヴィニヨン・ブランは生産性が高いこともあり、ニュージーランドのワイン生産量の60%以上を占める)。

通常小売店の品ぞろえをテイスティングする際は、品質の高いものから低いものまで出会うものだ。ところが彼女が提示した24本のワインは全て一律に品質が高かった。確かに価格は安くはないし、聞いたこともない生産者のものは一つもなかったのだが(この点は残念だった)、ニュージーランドでは無名の品種、特にツヴァイゲルトからこれほどの品質のものが出るとは驚きだった。

価格はマールボロにあるテ・アワの作るガリシア沿岸部伝統の品種、アルバリーニョ2017の納得のいく14.90ポンド、あるいは同じ価格の北島のシャルドネ名人、クメウ・リヴァーの生き生きとした2016ピノ・グリから、マールボロの丘にある高密度で植えられ有機栽培を採用しているクレイヴィン・ヴィンヤードの完璧に熟成した2012シラーの43ポンドまでの幅があった。最も際立っていたワインは(私から見るとニュージーランドの強みだと思うのだが)シャルドネで、ノース・カンタベリーにあるブラック・エステートのホーム・ヴィンヤード2016で、樹齢の高いブドウから作られている。これはニュージーランド・セラーで33ポンドで入手可能だ。

これらのワインはニュージーランドの北島および南島がどれほど「異常気象」と呼ばれるものに大きな打撃を受けているかを思い出させた。昨年彼らは一度のみならず、三度もサイクロンに見舞われ、2017年の収穫量は激減した。さらに今年は観測史上初めて気温が40度まで上昇している。

ニュージーランドのワインメーカーたちは生き残りの重要なカギとなる輸出市場を守るため、さらなる順応を求め続けられるだろう。

ニュージーランドのお気に入り
記載されている価格はニュージーランド・セラーのものだが、ほとんどのワインは他でも入手可能だ。wine-searcher.comを参照のこと。完全なテイスティング・ノートについてはNZ beyond Sauvignon and Pinotを参照。

白ワイン

Kumeu River Pinot Gris 2016 Auckland £14.90
Millton, Riverpoint Viognier 2015 Gisborne £19.80
Bellbird Spring, Home Block White aromatic blend 2015 North Canterbury £28
Greywacke Riesling 2015 Marlborough £24
Dog Point Chardonnay 2014 Marlborough £24.30
Trinity Hill Marsanne/Viognier 2016 Hawkes Bay £24.80
Seresin Estate, Reserve Chardonnay 2015 Marlborough £27
Ata Rangi Pinot Gris 2016 Wairarapa £27.60
Black Estate, Home Chardonnay 2016 North Canterbury £33
Burn Cottage Riesling/Grüner Veltliner 2015 Central Otago £49
Churton Petit Manseng sweet 2015 Marlborough £44 for 50 cl

赤ワイン

Seifried Zweigelt 2014 Nelson £16.80
Craggy Range, Single Vineyard Syrah 2016 Hawkes Bay £24
Giesen, Clayvin Syrah 2012 Marlborough £43

原文