ARTICLEワイン記事和訳本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

謎多きワイン、ノン・ヴィンテージ・シャンパーニュ 13 Jul 2019

306-1.jpgこの記事のショート・バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。60本以上に及ぶ現行のノン・ヴィンテージ(NV)シャンパーニュのテイスティング・ノートも参照のこと。

まずはいい知らせだ。シャンパーニュの販売の94%を占めるNVシャンパーニュの品質がこれ以上にないほど良くなってきている。(またもや)気候変動のおかげでシャンパーニュ地方のブドウは近年では未熟なことはほとんどない(最近私が指摘したドイツワインと同様だ(訳文))。また安価なスーパーマーケット・ブランドのシャンパーニュはシャンパーニュの市場でシェア縮小の一途をたどる一方、有名なシャンパーニュ・ハウスや野心的な小規模で職人気質のワインメーカーによるものは存在感を増してきている。

一方であまり好ましくないニュースもある。多くのシャンパーニュ・ハウスが、近年どんどん洗練されていく消費者を過小評価している点だ。かつて、前年に作られたワインを主体に古い、いわゆるリザーヴ・ワインを春にブレンドして作られているNVシャンパーニュは各ハウスの顔だった。そしてその宣伝文句は毎年味わいが変わらないためブレンド、あるいはキュヴェの明示は必要ないというものだった。

そのため消費者はボトルを見てもそのワインがいつ作られたもので、この上なくばらつきのあるシャンパーニュのヴィンテージのうち、いつのものが主体となっているのか知るすべがなかった。その言い訳としてはNVシャンパーニュは流通システムに余すところなく投入されているため最新のキュヴェが販売されているはずだ、というものだった。確かにそれは商品の回転が十分に早いスーパーマーケットでは真実かもしれないが、小規模の独立系ワイン店ではそうでもないだろうし、ましてやレストランやバーで提供されるものとなると決して真実とは言い難い。

そのうえ、例えばボランジェやルイ・ロデレール、ポル・ロジェなどのようなハウスのNVシャンパーニュは数年熟成させた方がその真価が発揮されることがよく知られている。だがボトルの中身がわからないのに、そのタイミングをどうやって計ればいいのだろうか?

さらにそれほど複雑さがなく、ヴィンテージ表記のあるシャンパーニュに比べて長期熟成に向かないNVシャンパーニュを長く熟成させすぎてしまうという問題もある。私はかつて明らかに年配のオーストラリア人女性から、自分の結婚式の時のポル・ロジェを二回の引っ越しを経てまだ冷蔵庫に大切に保管していると誇らしげに書いた手紙を受け取ったことがある。彼女はそれにどれほどの価値があるかと尋ねてきた。私は非情だとは思うがそれに全く価値がないと回答した。なぜなら冷蔵庫内での保管ではコルクを乾燥させ熟成のプロセスを早めてしまうからだ。

現在シャンパーニュを(プロセッコやカバ、イギリスのスパークリング・ワインなどに浮気することなく)購入し続ける非常に多くの人たちは個々のNVシャンパーニュを区別すること、少なくともいつ(リリースするために)デゴルジュしたのか、できることならそのブレンドがいつのヴィンテージを主体としているのか知ることが有用であることを知っている。非常によくできた小規模生産者はいわゆる(常に正確な表現ではないが)グロワー(訳注;栽培者の意)として知られているが、彼らのほとんどはそのシャンパーニュの非常に細かい情報をバックラベルに記載することをいとわない。ブレンドに使われている品種やその収穫場所などの正確な詳細が記載されることは普通で、多くの場合はシャンパーニュの生産で一般的なドサージュ、すなわちデゴルジュの際にどれだけの糖分をブレンドに加えたかも記載されている。

NVシャンパーニュは毎年安定した味わいなのだという神話は2011年、最も尊敬を集めるシャンパーニュ生産者の一つ、クリュッグによって崩された。彼らは自社のグラン・キュヴェがどれほど複雑に、毎年異なった顔を見せるのかを述べ、以後はロットごとに異なるコードをバックラベルに記載し、クリュッグ愛好家がウェブサイトからそのワインの詳細を見ることができるようにしたのである。Eight (surprising) Krugs for breakfast参照のこと。

ブルーノ・パイヤールによって設立された行動力のある家族経営のハウスはそれより何年も前からNVのボトルのバックラベルにデゴルジュの日付を記すようになったパイオニアだ。

それから付け加えておくべき点は、規模によらずほとんどの生産者が個々のNVシャンパーニュを需要に応じて年に数回、異なるタイミングでデゴルジュし流通に乗せている点で、熟成によって味わいが豊満になるため一般的にそのデゴルジュが遅くなるにつれドサージュの量が減っていくという点だ。これもまたデゴルジュの日時を記載する重要性がわかる例だろう

そこで私はいつものように、最近ロンドンでタイソン・ステルツァー(Tyson Stelzer)によって開催されたテイスト・シャンパーニュという大規模な一般向け試飲会や、シャンパーニュで20ほどの生産者を超集中的に訪問した際の経験で、おそらく若干うんざりされるであろう消費者の視点から、生産者たちに自分たちの顧客に最も重要な製品についてどれほどの情報を提供すべきと考えているのか尋ねてみた。

その答えは多岐にわたった。ボランジェとモエ・エ・シャンドンはヴィンテージ表記をする商品に関してはラベルに詳細を記載することに積極的だったが、NVについてはそうではなかった。モエの方針では彼らのNVであるブリュット・アンペリアルを飲んでいる顧客はデゴルジュの日時などのように一部の人にしか意味をなさない難解な詳細情報を求めていないから、というもので、確かにその点は私もそうかもしれないと思う節はあった。再興を遂げた小さなエペルネのハウスであるルクレール・ブリアンはバックラベルに詳細な情報のモデルともいうべきものを載せており、スタッフからも顧客からも好評だと言うが、とあるスウェーデンのホテルでカップルが、デゴルジュの日時をブドウの収穫日時と勘違いしてワインが若すぎるという理由で返品したという話もしてくれた。ポル・ロジェではボトル1本ずつではなく6本箱にのみデゴルジュの日時を記載していると述べ、ポル・ロジェUKのジェームス・シンプソンMWによると、そのような貴重な情報は「本格的な消費者」にだけ限定しているのだと話した。

シャルル・エドシックは長きにわたり最高級のシャンパーニュを生産してきたが、フロントラベルにはブレンドがセラーに入れられた年、すなわち「ミザンカーヴ」を明確に示してきたが、これは自動的にほとんどのブドウが収穫された翌年にあたることになる。現在はその「セラーに入れた年」は控え目に、だがほとんどのシャンパーニュ愛好家が詳細な情報を求めて目をやるバックラベルに記載されるようになった。

ドラモットはヴィンテージを表記したシャンパーニュしか作らない超豪華なサロン(さらに2008は2007,2006,2004につづいてマグナムでしか作られていないため非常に希少だ)と近い関係にあるが、NVについて消費者に情報提供をするのを積極的に避けてきた。ドゥーツも手の内を見せない方針でいるべきだと考えるハウスの一つだ。私がボトルにどんな手掛かりがあるのかと尋ねると帰ってきたのは「ベースワインのヴィンテージを公表したくないとは考えていますが、フォイルに記載されているロットナンバーの最後の2桁はデゴルジュの年ですから、そこから3を引けばわかるようになっています」という答えだった。なんとシンプルなことか!

ロットナンバーとは通常関係者が解読するためのもので、一般の消費者が使うものではない。生産者によってはそのコードをコルクに記載することがあるため、ボトルを開けるタイミングを判断したい場合には使えないこともある。

ルイ・ロデレールなどの生産者によって最近選択されるようになってきた解決策はQRコードをバックラベルに設置することだ。見た目には決して美しい選択肢ではないかもしれないが、多大な量の詳細情報をもたらすことが可能になる。別の選択肢はウェブサイトだ。この歓迎すべき手法はローラン・ペリエが、これまでは常に非公開の3ヴィンテージのブレンドだったマルチ・ヴィンテージのプレステージ・キュヴェであるグラン・シエクルに新しく採用した方法だ。これまでは中身が全くの謎であるワインに1本100ユーロ以上も支払うことになっていたということだ。これからはそれぞれのブレンドに「反復」番号が明記され、grandsiecle.com で検索することができるようになる。

ワイン・オタクにとってはいいニュースだ。

そういえば、この話題に関してスカラ・ワインのティム・ホールがこんなことを付け加えていた。「私にとって、より多くの情報が得られるということの利点の一つは、そのベースワインのヴィンテージを明確にしてくれれば、そのヴィンテージを知るために多くの推測をしなくて済む点です。ベースワインのヴィンテージが偉大な年かどうかすぐにわかるわけです。もしそれが偉大な年だったら(例えば今なら2008や2012ですが)、そのNVは安くはないにしても本当にお買い得なものとなるはずです。もしボトルの中身の70-80%が偉大な年にあたるのであれば、良質なヴィンテージ・シャンパーニュと同等のものがNV価格で購入できるといことになりますからね。もちろん畑の区画の選定はそれほど厳しくないかもしれないし、澱の上での熟成期間も短いかもしれませんが、それでもそういうボトルを見つける価値はあると私は思います。」

消費者の立場に立つ NVシャンパーニュ生産者

これらは最近テイスティングする機会のあったNVシャンパーニュ生産者だ。ほかにも野心的な小規模生産者(自身が作ったブドウのみでワインを作っているが、最近は信頼できる生産者からブドウを仕入れる生産者もいる)のほとんどはバックラベルに完璧な詳細情報を掲載している。

Ayala
Chartogne-Taillet
Collard-Picard
Ulysse Collin
Devaux
Nathalie Falmet
Fleury
Geoffroy
Pierre Gimmonet
Philippe Gonet
Piper-Heidsieck
Gosset
Charles Heidsieck
André Jacquart
Jacquesson
Krug
Benoît Lahaye
Lanson
Jacques Lassaigne
Leclerc Briant
A R Lenoble
Lombard
Nicolas Maillart
Bruno Paillard
Philipponnat
Eric Rodez
Louis Roederer
Jacques Selosse
Suenen
Vazart-Coquart
Veuve Fourny
Vilmart

ロンドンでテイスティングしたこれらシャンパーニュ全てのテイスティング・ノートはこちらを参照のこと。取扱業者はWine-Searcher.comで見つけることができる。

原文