ARTICLEワイン記事和訳本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

新境地を拓くシャンパーニュとイングランド 24 Apr 2021

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Danbury Ridge winery by John Mobbs
この記事はスパークリングワインについての記事ではなく、2018ヴィンテージに生み出されたスティルワインが拓いた新境地について書いている。この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。上の写真はエセックスにあるマルドンに近い、特に温暖な場所にあるダンベリー・リッジのもので、ジョン・モッブスの提供だ。

どんどん暖かくなる夏のおかげで、かつてブドウが成熟しづらく、病気のリスクにも悩まされていた20~30年前には想像もつかなかったようなワインが生み出されるようになった。ノルウェイのリースリング、ノヴァ・スコティアのスパークリング。ベルギーのシャルドネはピュリニー・モンラッシェのライバルとなり得るし、かつてスパークリングの産地とみなされていた土地からは本当に素晴らしいスティルワインが作られるようになった。

スパークリングワインのベースワインは上質で酸が高くある必要がある。泡を生み出すために加えられる酵母と糖の影響を考慮した上で、最終的なワインが食欲をそそる爽やかなものとなるようにするためだ。そのためシャンパーニュやイングランドなど気候が冷涼で、ブドウをようやく熟させることができるような産地は自然とスパークリングワインの産地と目されてきた。

20世紀にシャンパーニュを訪問すると、コトー・シャンプノワと呼ばれる、シャンパーニュ用品種で作られたスティルワインのテイスティングが用意されることがあった。時にはアイ村にあるボランジェの本部に隣接する、特に日当たりのよいピノ・ノワールの畑から作られるラ・コート・オー・ザンファンに巡り合うこともあったが、それら「酸っぱい液体」を飲みながらいつも感じていたのは、だからこそシャンパーニュには泡が必要なのだということだった。

同様なことは20世紀終盤になって、シャンパーニュと同じ品種と方式で作られながらも独自の特徴を持つスパークリングの品質を証明し始めたイングランドにも当てはまる。当時のイギリス産スティルワインは痩せすぎていて、まったくもって完熟したブドウから作られたものとは思えなかった。

だが、全ては変わり始めている。2019年に私が最後にシャンパーニュを訪問した際には、数人の生産者が当時取り組んでいたスティルワインのテイスティングを自信ありげに勧めてくれた。シャルル・エドシックは、シャルドネで名の知れた複数の村から作られた一連の素晴らしいシャルドネを開発中で、中でも最もわくわくしたのは、おそらくシャンパーニュで最も尊敬を集めるワインメーカー、ルイ・ロデレールのジャン・バティストが注いでくれた2015と2016の赤ワインだった。それは彼が1990年代後半、ハウス所有の畑の組成調査を始めた頃から取り組んできたプロジェクトで、スパークリングワイン用のブドウを作るのに適した石灰質ではなく、スティルワインとしてピノ・ノワールを作るのに適した粘土質の土壌を探し求めて出来上がったものだ。

赤ワインを作るために初めて選ばれたのはマルイル・シュル・アイにある0.43ヘクタールのシャルモンという白粘土質の区画で、2002年にブルゴーニュからセレクション・マッサールによって選ばれた苗木を植えていた。「シャンパーニュで同様なセレクション・マッサールを行うには15年から20年はかかっていたでしょう」。ブルゴーニュに多くの友人のいるルカイヨンはそう話した。彼らはそれ以来、スティルワインを作るためだけの区画をみつけては、ブドウを植えてきた。

シャルモンのブドウがその根系の発達がほどほどだった間は、そこから収穫されたブドウはロデレールのノン・ヴィンテージ・ブレンドであるブリュット・プルミエに使われていたのだが、2014年、ルカイヨンはスティルワインを作るゴーサインを出すことにした。「でもあまりうまくいきませんでした。」ルカイヨンはZoomでそう告白した。「私はまだまだシャンパーニュ人の習性が抜けていなかったんです。だから収穫を長く待ち過ぎました。待って待って、潜在アルコールが13%になるまで待ちましたが、それは完全に間違いだとわかりました。ワインは引き締まりのないものとなり、フルーティではありましたがエネルギー、塩味、骨格に欠けていました」。結局、そのワインは製品化されなかった。

2015年、彼はそれよりは満足のいく結果が得られたようだったが、2016年にはオークの判断を誤った。彼の手元にはどちらのヴィンテージもまだ約1000本ずつ残っているため、今後そのワインがどのように発達していくのか見守ることにしている。その後2017年はカビ病が猛威を振るったためにスティルワインを作ることすらしなかったが、2018年の収穫でついにリリースする価値のある赤ワインと白ワインをつくるに至った。スティルワイン用ブドウの収穫はスパークリング用のわずか3日後に行い、それらのブドウはあえて高く仕立て、多くの葉を残した。酵母は市販ではなく、手持ちの酵母のなかから吟味を重ねて選び、そのワインは現在様々な新樽(樽の影響を和らげるため、かつて炎であぶって曲げていたものを現在は蒸気で曲げている)と一度使用した樽、そして一部のシャルドネはステンレスの樽と、樽と同じぐらい透過性のある250リットルの砂岩でできた容器を用いて熟成している。

「とにかく、モダンなワインを作りたかったんです。美味しくなくてはなりませんし、それ以上のものをもたらしてくれることも必要です。(シャンパーニュ作りの)副産物的な位置づけでチェリー味がするコトー・シャンプノワは嫌いなんです」。ルカイヨンによれば、スパークリングワインで素晴らしい成果を上げたことでロデレールを所有するルゾー家は彼がトップの座に就くことを認めた。その後彼は有機栽培やビオデナミへの転換を率い、ルゾー家は数多くの機材の導入を許すことで彼のご機嫌を取った。この2018カミーユ・ピノ・ノワール(Camille Pinot Noir)は確固たるピノの特徴をデリケートさと明確な熟成のポテンシャルと共に示すものとなった。

ロデレールは結果として単一畑のスティルワインをいくつも生産することとなり、そのブランド名であるカミーユは、人を楽しませようとするときにはいつでもコトー・シャンプノワをふるまっていた、フレデリック・ルゾーの曾祖母にあやかって付けられたものだ。そのカミーユ2018白はル・メニル・シュール・オジェにある0.55ヘクタールのボリバールという区画のシャルドネの古木から作られたもので、カミーユの時代である1961年に同村で作られたスティルワインにインスピレーションを受けたものだ。だが、実は思っていたよりも苦労したのだとルカイヨンは認めた。彼はブルゴーニュのコピーは作りたくなかったのだ。2018はある意味シャブリのようだが、リースリングのようなニュアンスも加わっている。期待の持てる兆候としては、私が持っている750mlのカミーユのサンプルボトルは抜栓後10日が過ぎ、何度も試飲を繰り返しているにも関わらず、まだまだ十分に力強い点だ。

この2本のワインは、コトー・シャンプノワのハードルを刺激的な意味で上げたように思える。だが、なにしろ2018ヴィンテージの赤は2880本、白は1621本しか生産されていないことを考えると、来月初旬に満を持してリリースされたとしても、決してお買い得品であることはないだろう。

しかし、上質なスティルワインをこれまでになく生産しているのがシャンパーニュだけでないことは、おそらく想像に難くないだろう。2018と2020はイギリスでも非常に素晴らしいスティルワインが作られた年だ。栽培コンサルタントでマスター・オブ・ワインのステファン・スケルトンはイギリスで40年以上も栽培に関わってきたが、彼によれば2020のイギリスのシャルドネに関しては潜在アルコールが14.7%に至った畑すらあったというのだ。更に彼がコンサルタントを務める、グラスゴー郊外にある出来立てのワイナリーでは、まさに来月植樹が行われようとしている。

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上質なイングランド、あるいはウェールズのスティルワインをすでに生産してきたブラックブック(Blackbook)、ボルニー(Bolney)、ブライド・ヴァレー(Bride Valley)、チャペル・ダウン(Chapel Down)、ガズボーン(Gusbourne)、ハッシュ・ヒース(Hush Heath)、ライム・ベイ(Lyme Bay)、シンプソンズ、ストファム(Stopham)などの存在を考慮しても、上述のダンベリー・リッジの新しい畑はエセックスの特に温暖な場所にあり、その2018のピノ・ノワールとシャルドネはまさに新たな境地を拓くものと言える。ロデレール同様、ダンベリー・リッジのブドウはスティルワイン専用として栽培されており、その目的のために選抜したクローンを用い、多くの房を落とすことで残った房に豊かな風味をもたらすように工夫されている。その結果は本当に素晴らしいものだ。

世界のワイン地図は少しずつ極方向へ広がっている。シャトー・レイキャビクなんてどうだろうか。

はるか北の地から作られる珠玉のスティルワイン

Louis Roederer, Camille Chardonnay 2018 Coteaux Champenois
£130 approx from the likes of Hedonism, Harrods, The Finest Bubble and possibly Selfridges, Fortnum & Mason from May

Louis Roederer, Camille Pinot Noir 2018 Coteaux Champenois
£155 approx from the likes of Hedonism, Harrods, The Finest Bubble and possibly Selfridges, Fortnum & Mason from May

Danbury Ridge Chardonnay 2018 Essex
£32 Swig, £32.50 Grape Britannia, Padstow Wine Co, £32.99 Loki

Danbury Ridge, Octagon Block Pinot Noir 2018 Essex
£54 Swig, £55.50 Grape Britannia, Padstow Wine Co, £55.80 Hedonism

Gusbourne, Guinevere Chardonnay 2018 Kent
£25 producer's website, £27 Quercus Wines, £27.95 Grand Cru Co

Ch de Bousval, Gouttes d'O Chardonnay 2019 Belgium
£34 Haynes Hanson & Clark

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