ARTICLEワイン記事和訳本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

ワイン不耐症にようやく光が 18 Sep 2021

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Spotlight photo by Ahmed Hasan on Unsplash

この記事のやや短いバージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。アレルギーと不耐症の違いについてはオックスフォード・コンパニオン・トゥ・ワインの「アレルギーと不耐症」の項も参照のこと。

ほぼすべてのワインボトルに記載されている「亜硫酸塩含有」という文言に疑問を抱いたことはないだろうか?また、一部の人はわずかな量のワインすら体に合わないことがあるのはなぜか考えたことはあるだろうか?一般に信じられていることとは異なり、これら2つの間に関連はない可能性があることが、マスターオブワインであるソフィー・パーカー・トムソンの新たな研究で示唆された。彼女はかつて弁護士だったが、現在はニュージーランドのマールボロでワイン生産者およびコンサルタントを務めている。

過酷な論述試験と3種類のブラインドテイスティングに合格したのち、未来のMWがそのアルファベット2文字を自身の名前の後ろにつけるべく求められるのは、研究論文の提出だ。正直なところ、これまでに選択されてきた題材はその興味の対象に限りがあった。近年の題材をいくつか挙げてみると「ノルウェイにおけるオンライン・テイスティング講座:オンライン・プラットフォームを介したフィードバックの質と改善の可能性について」や「3種のオエノコッカス・オエニの科学的検証:MLFの速度とブルゴーニュのピノ・ノワールの色と香りに関連した化学組成への影響」などがある。

だが、パーカー・トムソンの研究ではこちらでジュリアが紹介し、本人がこちらでも書いているように、「SO2の使用とワイン中の生体アミン量の関連」について切り込んだ研究だ。この論文はワインメーカー達にとってはワインの醸造法とその有用な指標を、一方でワインを飲んだ後に体調を崩す人たちへにとっては解決の手掛かりを与えるという意味で非常に大きな影響をもたらすと言える(ここでいう「体調を崩す」とは二日酔いではなく、アルコール以外の原因によってもたらされる不調を指す)。私個人としてはパーカー・トムソンの論文を読んで喜ばしく思った。なぜなら私自身も長い間、ワイン業界が人口の7~8%もの人が抱えるワイン不耐症という問題に無関心であることに不満を抱いてきたからだ。だが、ついにその流れが変わるかもしれない。昨年7月、MW協会が彼女の発見を基に行ったウェビナーには50か国以上から500名以上が参加した。

地球上で5番目に一般的な元素であるにもかかわらず、硫黄は不当に非難されることが多い。それは硫黄の形容詞、sulphurous (訳注:「冒涜的」という意味を持つ)からも見て取れるだろう。その硫黄がワイン造りや食品加工において非常に有益な道具となり得るSO2を含む、複数の保存料の総称、「亜硫酸塩」の一部であることがその不幸の始まりなのかもしれない。有害な微生物を抑制し、生鮮食品や飲み物が褐変するのを防ぐ、この上なく有益な物質であるのに。

1970年代後半から1980年代初頭にはサラダバーやフルーツ、野菜などを置くカウンターで亜硫酸塩を大量に噴霧するのが一般的で、そのために喘息患者に深刻な影響があったことは事実だ。その結果、1988年にはアメリカのFDAは10ppm以上の亜硫酸塩を含有するすべての食品および飲料に「亜硫酸塩含有」表記を義務付けることとなり、これが世界中で受け入れられることとなった。この場合、亜硫酸塩と書かずにE22と記載することもある。

それ以降、ほとんどのワインよりはるかに亜硫酸塩を多く使用していた(例えばドライ・アプリコットは数百、場合によっては数千ppmもの亜硫酸を含有する)フルーツジュースやドライフルーツなど多くの食品加工業者では亜硫酸という表記を避けるため、別の保存法を模索するようになった。その結果、亜硫酸塩と最も明確な関連性を残した製品のひとつがワインとなったのである。さらにいかなる添加物も悪とみなされるいまの時代において、亜硫酸塩は完全に悪者扱いされ、「亜硫酸無添加」(場合によっては科学的正確性に欠ける「硫黄無添加」)というワインのカテゴリーが出現したのだ。

ただ、実際のところはワインには自然発生する二酸化硫黄がわずかに含まれるし、ワインメーカーたちが使う二酸化硫黄の量がこの数十年で劇的に減少し、辛口のワインで150ppmを超えることはめったにない。ところが、パーカー・トムソンの研究でも明らかになったように、亜硫酸塩を含まないワインには皮肉なことに、亜硫酸塩を含むワインよりも大きな健康リスクが潜んでいるのである。

亜硫酸塩はワインによる有害な影響の原因だと非難されることが常だが、複数の研究で亜硫酸塩過敏症の割合は非常に低く、ぜんそく患者の3-10%程度であることが報告されている。このような人々は通常、毎日ステロイドを必要とするほど深刻な患者だ。彼らに起こる亜硫酸塩に対する反応は、一般の人々に起こる不耐症由来の不調とは異なり、呼吸器系のものだ。そしてもし亜硫酸塩が責められるとすれば、赤ワインよりも亜硫酸塩含有量が高くなりがちな白ワインでその影響がもっと見られるはずなのに、通常はその逆である。

パーカー・トムソンの調査から示唆されるのは、ワイン不耐症の原因として責められるべきは亜硫酸塩ではなく、生体アミンと呼ばれる一連の物質で、中でも最も有名で最もヒトに対する毒性が高いものがヒスタミンだ(それ以外に問題となると考えられる物質はチラミンの他に、楽し気な名前のプトレシンとカダベリンが挙げられている)。生体アミン毒性による症状は頭痛、吐き気、発疹、紅潮などであり、まさにワイン不耐症に見られる症状そのものだ。

生体アミンはSO2に非常に敏感な特定の微生物によってつくられる。そのため近年の、抗菌剤としてSO2をほとんど使わないでワインを造るという流行はこれら生体アミン生成細菌にとって完璧な環境を創り出していると言える。

生体アミンに対する感受性は遺伝子構成および内臓の状態によって大きく異なる。過剰な生体アミンを排除しようとする特定の酵素の働きを阻害するアルコールもまた、一定の影響をもたらす。だからこそ生体アミンはワインのようなアルコール飲料と共にせっしゅすることで特に有害となるのだ。ただし、抗ヒスタミン剤を服用したとしても効果が出るとは限らない。なぜなら抗ヒスタミン剤自体が上記の酵素を阻害する場合もあるし、人体のアルコール分解能が妨げられる場合もあるためだ。またワインと生体アミンを多く含有する食品、例えばカビで熟成させたチーズなどと一緒に摂取すると、生体アミンに敏感な人にとっては最悪の経験となる可能性がある。

パーカー・トムソンの調査では異なるワイン醸造技術が生体アミンの含有量に与える影響を100種のニュージーランド産ソーヴィニヨン・ブランを用いて検証している(彼女はこの分野の研究ではこれまで赤ワインが注目されていたため、あえて検証がほとんどされてこなかった白ワインを選択した。また、同種の研究論文ではこれまで扱われてこなかった、亜硫酸塩不使用のワインもあえて使っている)。

鍵となった発見は、30mg/L(30ppm)というほんのわずかな量のSO2をアルコール発酵の前に添加すると、最終産物としてのワイン中の生体アミンの含有量が非常に低くなり、それ以外の醸造法の違いはその結果に大きな影響を与えないという点だ。一方で、亜硫酸を全く添加しないか、醸造の終盤にのみ添加した場合には、敏感な人には何らかの反応が出るとされるほどの高濃度で生体アミンが含まれることが分かった。

有害な微生物を阻害するために有用な、自然界に存在する酸が気候変動によって低くなりがちであることに加え、亜硫酸塩を添加することを嫌う自然派ワインの流行によって、生体アミンの発生率は大幅に上がってと考えられる。

パーカー・トムソンの論文によってワイン造りの習慣が大きく見直されることとなるだろうし、ワインという文脈における亜硫酸のイメージも同様だろう。このことは自然派のワインを中傷する意図はないものの、これまで提唱されていたほど、自然派ワインが従来法のワインと比較して健康にいいものではないかもしれないという一つの可能性を示唆していると言える。

あなたがもし重篤な喘息を持っているならば、深刻な呼吸器系発作を防ぐために亜硫酸を含むあらゆる食べ物や飲み物を避けるのがベストだろう。だがワインを飲むと頭が痛くなったり、かゆみや吐き気を感じたり、唇の腫れや熱を感じたりするようならば、その原因はもしかしたら亜硫酸ではないのかもしれない。事実、適正な量の亜硫酸を使うワイン造りによってそれらは解決できるかもしれないのだから。

パトリック・ルーカス博士(Patrick Lucas)はボルドーの微生物学教授であり、生体アミンをつぶさに研究してきた人物だ。上述のウェビナー内で彼はパリに拠点を置くワイン機構、OIVがワイン中の生体アミン量を制限する法令に強く反対していることを報告している(スイスではかつてワイン中のヒスタミンの最大含有量を規定していた)が、生体アミンの含有量が低いワインを作る方法とそれに関する情報はすでにワインメーカーたちの間で広く広まっている。

亜硫酸は言われているほど冒涜者ではないのかもしれない。


生体アミンの含有量が低いと考えられるワイン

フレッシュでフルーティな白ワインで瓶詰め後すぐにリリースされたもの、かつラベルに「亜硫酸塩含有」と記載のあるもの。例えば若くて樽を使っていないソーヴィニヨン・ブラン、リースリング、ピノ・グリージョなど


生体アミンが比較的多く含有される可能性のあるワイン

澱の上で長く熟成させたもの、例えばシャンパーニュなどトラディショナル・メソッドで作られたスパークリング・ワイン。品質上の観点からSO2の添加が少ないとされている。


生体アミンの毒性を避けるコツ

水をたくさん飲むこと。自然のヒスタミン量は脱水によって増加するため。

アルコールを摂取する際には生体アミンを多く含有する食べ物をできるだけ避けること。例えばゴルゴンゾーラやエポワスなど、微生物の力を借りて熟成させたものや、サラミなど燻製したり発酵したりした肉、aubergine* やザウアークラウトなどの発酵した野菜、発酵大豆食品、熟成させた魚加工品など。
(*訳注:ナスを発酵させた食品があるようなのですが調べてもよくわかりません。ご存知の方がいらっしゃればご一報ください)

もしワイン不耐症が強く出るのであれば、SO2を含まない、あるいは少量しか添加していないワインを避けた方が良いかもしれない。

Photo by Ahmed Hasan on Unsplash.

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