ARTICLEワイン記事和訳 本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

この記事はフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。また「南アフリカのエキサイティングな新しい波(South Africa’s exciting new wave)」でのテイスティングコメントも参照してほしい。

私はワインに関して世界で「アイコン(訳注;名品)」と騒がれるものにそれほど興味があるわけではない。言わせてもらえば、ワインというのはそれを愛する人たちによって自然にアイコンとしての地位が確立されるべきもので、売り手によってその地位を勝手に決められ、押し付けられるものではないのだ。

だから先月「南アフリカのアイコンワインたち」と銘打ったワインテイスティングに参加した際、最初はかなり懐疑的だったことは否めない。提供されたワインは南アフリカのMW、グレッグ・シャーウッド(Greg Sherwood)が選んだもので、彼は25年前におなじくMWであるジェームス・ハンドフォード(James Handford)が立ち上げたロンドンのワイン商、ハンドフォード・ワインズに勤務している。シャーウッドはイギリスで10年以上、上質な南アフリカのワインというコンセプトを推進し続けてきた人物だが、その道はけして容易なものではなかった。イギリスのスーパーマーケットは消費者に、ケープのワインは棚で最も安く、基本的にイギリス国内で瓶詰めされたものであると刷り込んでしまっており、昨年南アフリカにとって最大の市場であるイギリスに輸出されたワインのほぼ三分の二はケープからボトルではなく、バルクで運び出されている。

このお手頃だがそれほど刺激的ではない品質のワインの一枚上を行っていたのは長いことその名をとどろかせてきた南アフリカの名ワイン生産者たちで、彼らはすでに確立されていた国際的なスタイルのケープ版を作り、ケープ独自のピノ・ノワールとサンソーの交配種、ピノタージュに代表されるようなケープ独自の交配種を生み出してきた。しかしイギリスでのテイスティングで最近私が感じるのは、全く独自のスタイルでワインを作り始めている若い南アフリカの生産者たちの生み出す新しい波である。だから「アイコン」という名前が付けられていたものの、私はこのテイスティングに興味を持ったのだ。

そして私の期待が裏切られることはなかった。実際最も興奮したワインの多くはこれまで有名だった生産者のものではなく、傾向としてセミヨン、クラレット、ベルデホ、グルナッシュ・ブラン、パロミノ、サンソー、グルナッシュ・ノワール、そしてもちろん南アフリカで最も多く栽培されているシュナン・ブランといった品種のブレンドを用いていることが多かった。これらの多くは今注目の的であるスワートランドの古樹から作られており、中にはほぼ無名の生産者によって作られたものもあったが、味わいは大変面白くバランスがとれ、食欲をそそるワインであり、もちろん今でも楽しめるし、熟成も可能だろう。たいていのテイスティングでは私は自分がすでに知っていることを確認するだけの場にすぎず、その地域や生産者や新しいヴィンテージを代表する名品を確認するだけである。しかしこのワインたちはこの国のワインの歴史が今新しい時代に入っていることを確信させてくれるものだった。

翌日、シャーウッドはワインを選んだ基準を説明してくれた。「昔から名声を誇っているクラッシックなワイン、たとえばミアルスト(Meerlust)、ワーウィック(Warwick)、ハミルトン・ラッセル(Hamilton Russell,)ももちろんだけど、それと同時に一発屋じゃなく、新しい波を起こしている若い作り手も紹介したいと思ったんだ。僕はドノヴァン・ラル(Donovan Rall)、クリス・アルヘイト(Chris Alheit)、クリスタラム(Crystallum)のピータ・アラン・フィンレイソン(Peter Allan Finlayson)、ダンカン・サヴェッジ(Duncan Savage)、テスタロンガ(Testalonga)のクレイグ・ホーキンス(Craig Hawkins)たちは注目に値するって自信を持って言うよ。」たとえばサヴェッジ・ホワイト2012はこの新しい生産者の初めての製品で全く実績はないが、勤務先であるケープ・ポイント・ワイナリーでダンカン・サヴェッジは影響力のあるプラッターズ・南アフリカワインガイド誌から誰よりも多くの5つ星を獲得している。

この新しい波は称賛されるべきだろう。サディ・ファミリー・ワイン(Sadie Family Wines)のイーベン・サディ(Eben Sadie)は大規模な生産者での実践的な経験をもとに彼ら自身のアイデアでスワートランドに古いブドウ畑を見つけ出し、誰にも1ペニーも借りずに(と彼は誇らしげに述べた)栽培を行っているという点で小規模独立型ワイン生産者としての最初のモデルとなった。「金持ちにも有名にもなりたいわけじゃないんだ」彼は4月にロンドンを訪れた際こう言っていた。「僕はその熟成を将来にわたって見守ることができるワインが作りたいだけなんだ。」

南アフリカワイン生産者仲間たちの劇的かつ冷静な変化についても彼は指摘した。彼らは皆、アメリカで高得点がつけられるような過熟したワインではなく、フレッシュさを追求するようになったのだ。「14%以上のアルコールは高すぎるね。」と彼は断言した。私がテイスティングした新しい「アイコンワイン」たちの多くはアルコール度数が14%に満たず、うち2本は12%未満だった。

このケープ・ワインの革命に深くかかわっている女性がローザ・クルーガー(Rosa Kruger)だ。以前私が”Rosa Kruger – old-vine champion“で取り上げた自称「栽培マネージャー」である。彼女ほど希望に燃えた新しい生産者たちのために古いワイン畑を発掘した人物はいない。そしてその新しい生産者たちはシャーウッド曰く「自分たちの味覚を鍛えるために世界中のアイコン・ワインに全財産をつぎ込んでいる」のだ。しかし、彼らの多くは大きく資本に恵まれた会社の買収のを恐れ、具体的にどの畑のブドウを使っているか明らかにしていないことを付け加えねばならない。そのため細かい産地ではなく「ウェスタン・ケープ」や「コースタル・リージョン」といった大雑把なアペラシオン名しか使うことができないのだ。

その「アイコン」テイスティングに行ってからというもの、私はできるだけ多くの新しい南アフリカワイン生産者たちのワインをテイスティングすることを心がけるようになった。ハンドフォード・ワインズではテイスティングに提供されたワインのほとんどを在庫しているが、イギリスにはほかにも素晴らしい南アフリカワインの供給源がある。ロンドンのネットショップであるスウィグ・アンド・ハロゲート・ファイン・ワインズ(Swig and Harrogate Fine Wines)、ストーンやヴァイン&サン(Vine & Sun)などは長きにわたって南アフリカワインに情熱を注いできた。サウスアフリカン・ワインズ・オンライン(South African Wines Online (www.sawinesonline.co.uk))では非常に幅広い品ぞろえを提供しているが最低6本からの販売としている。インポーターでは、レチュレイド(Lechlade)とホンコンの2か所に拠点を置くヴィニシヴ(Vincisive )と、ロンドンのインディゴ・ワインズ(Indigo Wines)は刺激的な新しい生産者たちを追い求めているし、ロンドンのミレニアム・ブリッジの下にあるハイ・ティンバー(High Timber)は、イギリスで最も素晴らしい南アフリカワインのセレクションを持つレストランの一つだ。

昨年アメリカはボトルで販売される南アフリカワインの市場としては4番目でしかなかった(イギリス、ドイツ、オランダが上位)が、頑固な料飲業界のコメンテーターとして知られるシャンケン・ニュース・デイリー(Shanken News Daily)ですら最近は「南アフリカワインのアメリカ国内での人気が上昇中である」ことを認めた。アフリカワインに多大な投資を行っているナパで最も高価なワイン、スクリーミング・イーグルの元責任者チャールズ・バンクス(Charles Banks)や著名なカリフォルニアの醸造家でヴィラフォンテのゼルマ・ロング(Zelma Long)は間違いなく南アフリカワインのアメリカでの認知度を上げていくに違いない。

オックスフォード辞典には「アイコン」とは「代表的な象徴あるいは畏敬の念を持たれるもの」とある。シャーウッド、あなたの勝ちね。

最近テイスティングした南アフリカワインで20点満点中17.5点以上をつけたワインを以下に記す。これ以外にも17点をつけたワインはたくさんあった。

白ワイン
A A Badehorst 2010 Coastal Region
Alheit Cartology 2012 Western Cape
Mullineux 2012 Swartland
Rall 2012 Swartland
Sadie Family, Old Vine Series Skerpioen 2012 Swartland
Sadie Family, Old Vine Series Palladius 2012 Swartland

赤ワイン
Crystallum, Cuvée Cinema Pinot Noir 2012 Hemel-en-Aarde Ridge
Rall 2012 Swartland
Sadie Family, Columella 2010 Swartland

今週の初めに公開したテイスティングコメントも参照してほしい。

原文