ARTICLEワイン記事和訳 本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

028.jpgこれはフィナンシャル・タイムズ(FT)に掲載した記事のややロングバージョンである。

普段FTウィークエンドの編集者に原稿を送る時、私は記事の主題が明確になるようにと必ずお願いしている。しかし今週はFT読者の皆さんが第2段落にたどり着くまで主題がわからないようにと願っている。というのもその主題は多くのワイン消費者がつまらないと感じるものだと知っているためで、それでもそれを知って、好きになってほしいと心から願っているからだ。

この記事の主題はアルコール分を下げたワインではないし、ワイン好きの「なんちゃって評論家」たちが今最もつまらないワインの烙印を押したボルドーのプリムールでもない。私が皆さんに興味を持ってもらいたいのは世界で最も偉大な白ブドウ品種である。ただしそれはシャルドネではない。そのブドウは重くて樽を使うことが多いシャルドネよりはるかに料理との相性が良く、他のほとんどの白ブドウに比べて雄弁にその由来を語る。そして瓶内で数年どころか数十年も確実に(プレマチュア・オキシデーション(訳注)とは無縁に)熟成を続ける。

そう、私にとってのヒーローはRieslingである。「リースリング」と読むのだが、発音と同じようにスペルも間違われやすい品種だ。上述の性質を知っているほとんどのワイン業界人はこの品種を愛してやまない。そして多くのパープル・ページャーも然り。しかしプロ向けではないワインのウェブサイトでリースリングやドイツワインに力を注いでいるものはほとんどないと思うし、私の経験上、普通のワイン愛好家は積極的にそれを嫌っている。しばらくの間私はリースリングの非常に強い香りに由来する個性の強さが人々を寄せ付けないのだと考えていた。しかし同じぐらい力強く香る(そして場合によっては同じぐらい甘い)ソーヴィニヨン・ブランの人気を見るとその理由には無理がある。

私は最近プロではないリースリングの熱心な愛好家に出会ったが、下の娘のルームメイトであるその人物がこの品種を好きな理由は多くの人が嫌うもの、そのほのかな甘さにあるという印象を持った。

リースリングの甘さの度合いは常に議論の的である。温暖化による気候変化が起こる前の古き涼しき時代にはブドウの成熟より収量を優先していた。そのためドイツではその貧弱なリースリングに由来する高すぎる酸を糖で補っていた。しかし現在、多くの優れたリースリングの生産者は、世界のどこにいてもブドウを完熟させることができ、(やろうと思えば)すべての糖をアルコール発酵で消費することでボーン・ドライと呼ばれる超辛口のワインにすることが可能だ。ドイツで現在販売されている多くのリースリング、中でも南部のワイン産地で生産されるものは辛口(トロッケン=trocken)またはやや辛口であり、最近はハルプトロッケン(halbtrocken)よりもファインヘルブ(feinherb)と表示することが好まれている。

事実、20世紀終盤からはドイツで販売されるリースリングの味わいに劇的な変化が起きた。そのため現在ではほとんどが辛口に仕上げられ、ほんの一部、その年の状態によって、そして貴腐菌による糖の凝縮を求める場合にのみ極甘口に仕上げられている。この変化は大きな違いをもたらした。伝統的な生産者の中には、昔から甘くないフルーティなワインのカテゴリーだったカビネットやシュペートレーゼが廃れていくことを嘆く者もいる。

ただし北部のモーゼルや、さらに冷涼な地域でモーゼル川の支流であるザールやルーヴァーでは今でも多くの生産者がフルーティなスタイルのリースリングを頑固に作り続けている。エゴン・ミュラー(Egon Müller)やツィリケン(Zilliken)のような生産者は今でも羽のように軽やかなカビネットやシュペートレーゼを作っており、アルコール度数はわずか8%(多くのシャルドネは13%)であり、多くの、しかし美しくバランスのとれた糖を残している。これらのワインが甘ったるくならないのはこのような北部では澄んだ酸がブドウに残るためで、地球上のどこにもない、しっかりとして繊細な、すっきりとしたスタイルが出来上がるのだ。これらのワインは年月を経るにつれて複雑なアロマを生み出し、そのような香りこそがまさにブーケと呼ばれるにふさわしい。こういうワインは一日のどんな時にでも飲むことができるが、そのデリケートさゆえ、軽い食事としか合わない。

リースリングはもともとアルコールが高くなる性質のものではないが、その個性の強さと抽出の容易さから香りや味わいの豊かな品種である。

オーストラリアは伝統的に、そして意外かもしれないが、ドイツに次いで世界で2番目に多くリースリングを生産している国である。その気候は非常に温暖でリースリングを最大限まで成熟させることができ、逆にその酸を維持することが課題である。そのためオーストラリアのリースリングは常に超辛口である。柔らかさを出すための糖は必要ないからだ。南オーストラリア州のリースリングの聖地と言えばクレア・ヴァレーとイーデン・ヴァレーだろう。ライムやトースト、時には花の香りがして、最低でも10年は熟成が可能なワインを生み出す。そしてオーストラリアのほとんどすべてのリースリングにはコルクではなくスクリューキャップが使われている。西オーストラリア州の南にあるグレート・サザンもまた良質な辛口のリースリングを生産するが、よりハーブの香りが強くなる。オーストラリアのリースリングは一般的にアルコール度数が11.5%~13%であり、オーストラリアで腕を磨いたシェフたちが作るスパイシーなフュージョン料理とも抜群の相性を見せる。

アルザスとオーストリアは辛口のリースリングの産地として長い歴史をもち、世界で最高品質のものも生み出す。私は以下の生産者の辛口リースリングで失望したことは一度もない:アルザスのジョスメイヤー(Josmeyer)、トリンバック(Trimbach)、ドメイヌ・ヴァインバック(Domaine Weinbach(ファレー:Faller))、ツイント・フンブレヒト(Zind Humbrecht)、オーストリアのブリュンドルマイヤー(Bründlmayer)、シュロス・ゴベルスブルグ(Schloss Gobelsburg)、ヒルツベルガー(Hirtzberger)、クノール(Knoll)、FXピシュラー(FX Pichler)、プラガー(Prager)。そして他にも前途有望な信頼のおける生産者がいる。

しかし今ではニュージーランド、南アフリカ、チリやアメリカの冷涼な地域でも熟練した辛口のリースリングが生産され始めている。私がマルボロのフラミンガム(Framingham)に初めて興味を持ったのは彼らの作る恐ろしく正統派でドイツの甘口リースリングに匹敵するリースリングだったのだが、最近は彼らの作るアルザスの最高品質のものをモデルとした辛口リースリングに再び圧倒された。また南島の南部にあるペガサス・ベイ(Pegasus Bay)もまた、ニュージーランドで希少なリースリングのスペシャリストだ。

チリの巨大企業、コンチャ・イ・トロ所有生産者の中で最も独創的なコノスルは、長いこと南部の冷涼地域でリースリングについて試験的な取り組みを行っているが、チリのリースリングで最も印象的なのはコウシーニョ・マクル(Cousiño Macul)のもので、これは19世紀にドイツから温暖なサンチャゴ郊外にある彼らの本拠地に持ち込まれた古樹から作られている。また、海を目の前にする新しい産地で太平洋の冷涼な影響を受けるサン・アントニオのものも印象的だ。

北アメリカのリースリングは、アメリカのほとんどのワインがそうであるように上述のワインに比べてやや甘口となる傾向があるが、ニューヨーク州のフィンガー・レイクでは最近特に優れた辛口のリースリングが生産されている。そしてドイツとアメリカの合資会社のうち1社がリースリングの運命をワシントン州にゆだね、パワフルなアメリカの市場でその答えが出始めている。辛口のリースリングは食卓に最も合うワインと言えよう。

訳注)
プレマチュア・オキシデーション:本来は十分長期熟成が可能であると考えられているワインにおいて、その熟成よりも酸化が早く進行してしまう劣化現象のこと。ブルゴーニュの白を代表として多くのワインに認められている。
コルクの質、不十分なSO2の添加、過剰なバトナージュ、ブドウへの過度なストレスなど、様々な原因が示唆されているが、現時点ではっきりした結論も明確な対策もない。

印象的な辛口リースリング
100本に上るドイツ以外の世界中の辛口リースリングに関する詳細なテイスティングノートを参考にしてほしい。さらに今週追加したコメントも見てほしい。またこのドイツの2013ヴィンテージおよび2012ヴィンテージついてのガイドも読んでほしい。2013のドイツの優良辛口ワインについては9月のリリース後に改定する予定だ。

オーストラリア

Jim Barry, The Lodge Hill Dry Riesling 2013 Clare Valley
£9.99 Co-op, Majestic, Tesco – コストパフォーマンスが素晴らしい

Jim Barry, The Florita Riesling 2009 Clare Valley
£23 Hennings, Jeroboams

Grosset, Springvale Riesling 2013 Clare Valley
£20 The Wine Societyおよび Slurp.co.uk, Exel Wines etc

Grosset, Polish Hill Riesling 2013 Clare Valley
£25 The Wine SocietyおよびNicholls & Perks, Noel Young etc

Henschke, Julius Riesling 2013 Eden Valley
£21.50 Great Western Wines, Exel Wines など

ニュージーランド

Pegasus Bay, Bel Canto Dry Riesling 2011 Waipara
£17.46 Bottle Apostle, The Good Wine Shop

Framingham, F-Series Old Vine Riesling 2012 Marlborough
£21.29 Noel Youngおよび Hedonism, Joseph Barnes – コストパフォーマンスが素晴らしい。以前今週のワインでも取り上げている。

チリ

Casa Marín, Miramar Vineyard Riesling 2011 San Antonio
£21.90 Hedonism

Cousiño-Macul, Isidora Riesling 2013 Maipo

アメリカ

Long Shadows, Poet’s Leap Riesling 2011 Columbia Valley

原文