ARTICLEワイン記事和訳 本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

029.jpgニュートン・ヴィンヤードはもはやナパ・ヴァレーで最も話題になっているワイナリーではない。彼らが注目を集めていたのははるか昔、1980年代のことで、有能な醸造家であるリック・フォアマン(Ric Forman)がスターリング(Sterling)からニュートンに移り、コカ・コーラ資本の波に乗っていた頃のことだ。ニュートンはのちにジョン・コングスガード(John Kongsgaard)に引き継がれることになる。贅沢な庭園のあるこのワイナリーはピーター・ニュートン(Peter Newton)と彼の二番目の妻、スー・フア・ニュートン(Su Hua Newton)によってセント・ヘレナの北西部、スプリング・マウンテンに建てられた。イギリス人であるニュートンは後にコカ・コーラに売却するスターリングを1960年代、ある意味ナパ・ヴァレーの先史時代とも言うべき時期に設立した。彼はサンフランシスコで製紙会社の経営に成功しており、かつてはFT(訳注:フィナンシャル・タイムズ)のレックス・コラム(Lex column)の責任者も務めていた人物だ。

現在ニュートン・ヴィンヤードはLVMHグループの傘下にあり、覚えにくいモエ・ヘネシー・エステート&ワインズという名で呼ばれている。以前”Cloudy Bay and cousins“で書いたように、これは長いことこの部門の新しい責任者、ジャン・ギョーム・プラッツの頭痛の種の一つだった。ニュートンは誰をときめかせることもできずにもがき苦しんできたのだが、ボルドーのスーパー・セカンドであるシャトー・コス・デストゥルネルの経営に人生のほとんどをつぎ込んできたプラッツはおそらくそれを変えたいと考えたのだろう。

ニュートンの新しい醸造家の名はカリフォルニアのワイン界ではあまり馴染みがないかもしれないが、オーストラリアにとっては一大事である。ロブ・マン(Rob Mann;写真)は有名な醸造家一族の出身で、オーストラリアで最も崇拝されている醸造家の孫にあたる。彼の祖父、ジャック・マン(Jack Mann)はベストセラーであるホートンズ・ホワイト・バーガンディ(Houghton’s White Burgundy (当時の表記そのまま))を生み出しただけではなく、彼の50年に及ぶキャリアの間に西オーストラリアで多くの偉大なカベルネ主体の赤ワインを作り出し、ハーディーズ(Hardys)の最高級品は彼にちなんで名づけられていることで知られている。ロブは2005年にLVMHからマーガレット・リヴァーにある基幹ワイナリー、ケープ・メンテルのかじ取りを依頼されるまで、南オーストラリアにあるハーディーズの歴史的なティンタラ・ワイナリーでシニア・ワインメーカーを務めていた。これについては”New winemaker for Cape Mentelle at last“も参照してほしい。

素晴らしいイベント、ランドマーク・オーストラリアの最初のセミナー週間を業界に影響力のある批評家向けに企画した際、カベルネ・ソーヴィニヨンの紹介者として白羽の矢が立ったのもロブ・マンだった。2009年のランドマーク・オーストラリアでジュリアが撮影したカベルネを紹介しているマンのビデオを見てほしい。彼がいた10年の間にケープ・メンテルは2回の最優秀生産者賞とロブ・マン自身の最優秀醸造家賞を受賞している。

どちらもワイン愛好家に愛されている旅行先とはいえ、マーガレット・リヴァーからナパ・ヴァレーへの転向は、私なら相当なカルチャーショックを覚悟するだろう。しかし、たとえテロワールが全く異なるとしても、マンはカベルネと共に重ねてきた経験が彼の味方になると考えているに違いない。それにマンにとってこれは全く新しいことではないとも言える。なぜなら彼は以前ケープ・メンテルからニュートンに派遣され、2007ヴィンテージに携わったことがあるからだ。
ニュートンは現在120エーカーを所有しており、その一部はマウント・ヴィーダー(Mount Veeder)、ヨーントヴィル(Yountville)、カーネロス(Carneros)にあるが、その核となるスプリング・マウンテンの畑は、非常に高い評価を得ているエイブリュー(Abreu)と私の大好きなスポッツウッド(Spottswoode)の間という絶好のロケーションにある。(近日中にスポッツウッドの垂直テイスティングについての記事を公開する予定だ。)

この新しい挑戦に対するマンの公式なコメントはこうだ。「私はカベルネ・ソーヴィニヨンの謎を追求し続けることができてとてもうれしく思っています。オーストラリアの最も有名なカベルネ産地であるマーガレット・リヴァーからアメリカの最も有名なカベルネ産地であるナパ・ヴァレーに移ることは私にとってこの上ないチャンスです。」

2011年、マンから彼の2007年のナパ・ヴァレーでの経験談を聞きとったヒュオン・フック(Huon Hooke)はシドニー・モーニング・ヘラルド誌にこう掲載している。「マンは結論としては「カリフォルニアでは果実の収穫が遅すぎてブドウが過熟してしまい、ワインはエレガントさに欠ける。果実の品質は素晴らしいけどね。」と言いつつも、そこで行われていたカベルネ・ソーヴィニヨンのクローナル・セレクションにひどく感銘を受けていた。」個人的にはニュートンでのカベルネの今後の進化に非常に興味があるところだ。

もちろん、プラッツはクラウディ・ベイの設立に取り掛かったデイヴィッド・ホーネン(David Hohnen)が設立した高名なケープ・メンテルを(訳注:ロブが去った後)超有能な人物の手にゆだねなくてはならない。彼は一枚も二枚も上手のワインメーカーで、最近メートル・ド・シェ(この名前がどう受け取られるのかよくわからないが)と名乗ることにしたエヴァン・トンプソン(Evan Thompson;左写真)を指名した。

新しいディレクターにはキャメロン・マーフィー(Cameron Murphy)が選ばれた。彼は醸造家ではないが、モエ・ヘネシーのアジア・パシフィック・日本・オーストラリア・ニュージーランド部門の元ビジネス・デベロップメント・マネージャーである(そしておそらく彼の名刺はこの肩書きのため巨大なものに違いない)。技術ディレクターはフレデリック・ペラン(Frédérique Perrin)と言われている。彼女はシャンパーニュのクリュッグで醸造・生産マネージャーをしており、2007年から2012年まではなんとニュートン・ヴィンヤードの共同醸造家だった。

ケープ・メンテルのウェブサイトでは偶然にもマンが「カベルネ・ソーヴィニヨンは天国でも育つ唯一の品種である」と述べている部分が引用されている。一方でトンプソンは「ボルドー、特にサンテミリオンのワインに強い興味を持ち、モーゼルのリースリングの大ファンでもある。」と述べている。賢い男だ。

というわけで公式な人事異動通知をまとめると以下の文になる。

モエ・ヘネシーのワイン部門であるエステイト&ワインズはナパ、ブラジル、アルゼンチン、インド、中国、オーストラリアの各シャンドン、クラウディ・ベイ、ケープ・メンテル、ニュートン・ヴィンヤード、テラザス・デ・ロス・アンデス(Terrazas de los Andes)、シュヴァル・デ・アンデス(Cheval des Andes)、ヌマンシア(Numanthia)、そして中国雲南省のシャングリラ(Shangri-La)という素晴らしいグループ会社で構成されている。

どうやら「中国ワイン最前線」で紹介した壮大なプロジェクトの名前も決まったようね。

原文