ARTICLEワイン記事和訳 本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

20.jpgこれはフィナンシャル・タイムズに掲載された記事のロング・バージョンである。また、オーストリアのトップ・ピノとトップ・ザンクト・ローレントについてはテイスティング・ノートも参照してほしい。

ブルゴーニュ赤の価格はボルドーに続いて天井知らずの上昇を続けている。このありがたくない成長を目にして、他の産地を検討する高品質ピノ・ノワール愛好家もいるだろう。オレゴン、カリフォルニア、ニュージーランド、オーストラリアのピノは、その品質の向上には目を見張るものの、彼らに7世紀もの栽培実績はない。しかし、ブルゴーニュと同様、ドイツとオーストリアにはそれがあるのだ。

ドイツとオーストリアには14世紀の終わりまでに中世の修道士たちがピノ・ノワールを持ち込んだといわれており、ドイツ語ではシュペートブルグンダーやブラウブルグンダーなど、様々な名前で呼ばれている。そしてそのピノ・ノワールから作られていた当時のワインは美味しかったはずである。しかし、20世紀後半のそれらはけして素晴らしいとは言えなかった。私の経験上、その頃ドイツで作られていた典型的なピノ・ノワールはグレイがかったピンクで酸が高すぎ、さらに腐敗したブドウに由来する香りを隠すために甘さも残している、というものだった。ただ、この問題は地球温暖化が解決してくれた。ドイツの夏はより暑く乾燥するようになり、多くのピノ・ノワールが健全に完熟するようになり、原料ブドウの品質は格段に上がった。しかし消費者がその魅力を十分に楽しめたわけではない。

より熟したブドウを好む傾向は世界的なオーク樽ブームと同時に広がったからである。ドイツのワイン消費者の赤ワイン人気はますます高まり、ピノ・ノワールの栽培面積は爆発的に増えた。21世紀初頭にはドイツで3番目に栽培面積が大きい品種となり、ミュラー・トゥルガウを抜くのも時間の問題と言われていた。しかしほとんどのドイツのピノ・ノワールは長いこと、その魅力的な香りがオークによってかき消されているものばかりだった。ごく最近になってオーク・ブームが去り、ようやく多くのシュペートブルグンダー(多くはラベルにピノ・ノワールと表記しているが)生産者が非常にバランスのとれた、ブルゴーニュの赤に匹敵するようなものを作り始めるようになったのである。

ドイツは最近少なくとも3人の素晴らしいピノ・ノワールの使い手を比較的若くして失った。ピノの聖地であるアール渓谷ではゲルハルト・ジャン・ストゥッデン(Gerhard ‘Jean’ Stodden)とドイチャーホフ(Deutzerhof)のヴォルフガング・ヘーレ(Wolfgang Hehle)を、バーデンではマルターディンゲン(Malterdingen)のベルンハルト・フーバー(Bernhard Huber)を、である。しかし、彼らの家族はその栄光の軌跡を引き継ぎ、描き続けるに違いない。 そして他にもドイツ・ピノの灯を引き継いでいく人たちがいる。たとえばフランケンのルドルフ・フュルスト(Rudolf Fürst)、 ラインヘッセンのグッツラー(Gutzlers)、アールのネーケルス(Näkels)、バーデンのハンスペーター・ツィアライゼン(Hanspeter Ziereisen)だ。今やドイツは最高品質のピノ・ノワールを生産し、その多くが同等品質のブルゴーニュより安価である。(ドイツの専門家であるマイケル・シュミット(Michael Schmidt)はお気に入りのドイツ・ピノの生産者としてフーバー、フュルツト、ストゥッデン、クニプサー(Knipser)、モリトール(Molitor)を挙げている)

ではオーストリアはどうだろうか?ピノ・ノワールはこの国ではそれほど重要視されていないが、ばかばかしいほど高額なものはない。最近までオーストリアといえば優れた白ワイン結び付けられていたが、今はこの国も赤ワインルネッサンスを謳歌している。ただし成功している赤ブドウ、たとえば栽培面積順にツヴァイゲルト、ブラウフレンキッシュ、ポルトギーザー、ブラウブルガー、ザンクト・ローレントなどが圧倒的に多く、メルローやカベルネ・ソーヴィニヨンもまた、デリケートなピノ・ノワールよりも一般的である。

ツヴァイゲルトはジューシーな果実味が特徴で、ザンクト・ローレントと人気上昇中のブラウフレンキッシュの交配種であり純粋なオーストリア品種と言える。21世紀らしい清涼感と明確なテロワールの組み合わせが魅力だ。人気の衰えが見えるポルトギーザーはあまり特徴のないワインになるが、ブラウフレンキッシュとの交配で深い色のブラウブルガーを生み出す。ザンクト・ローレントはオーストリアが得意とするブドウだが、チェコ、スロバキア、ドイツ南部にもある。そのルーツは長いこと議論されてきたが、ニュージーランドのオタゴ大学によると遺伝子的にはピノとジュラの白ブドウ、サヴァニャンの子孫であると同定されたようだ。

私は最近2011のオーストリアのベスト・ピノ28種をテイスティングした。その直後に同じヴィンテージのザンクト・ローレント11種をテイスティングし、この二つの品種の味わいの違いに驚いた。オーストリアのピノ・ノワールは甘やかなピノの果実味ですぐに品種がわかるが、最もよいサンプルでは、余韻の長いピノの芳香はシダ、スミレ、ハーブから甘く赤い果実、キノコ、ミネラルまで幅広かった。これらはドイツの最高品質のものほど複雑さはないかもしれないし、ブルゴーニュの最高のものほど洗練されてもいないが、価値があると思うものには20点中17点をつけた。

オーストリアで失敗しているピノというのはこの10年から20年の間に多くのオーストリアの赤に付きまとう悪い癖とでもいえる過剰なオークが原因であり、トーストしすぎたオークの使用に由来する「フラペチーノ」香がするものさえある。あるいは過剰な抽出と乱暴な濃縮がピノの偉大さを表現する最短ルートだと勘違いしてい生産者もいるという声もある。このようなピノはザンクト・ローレントに似てはいるものの(ただしザンクト・ローレントはさらに色が濃く青みが強い)、繊細さにはるかに欠け、多くの場合余韻に残る酸が強すぎる傾向にある。

ピノ・ノワールの品質とその産地の関連性はほとんどないが、この国の最も温暖な地域で作られるものには私のお気に入りは一つもなかった。私が17点をつけた4本はそれぞれ別々の産地のものである。私のお気に入りの一つはピノ・ノワールとすぐには結び付かない産地、ヴァインフィアテルにあるエブナー・エベナウアー(Ebner-Ebenauer)の芳しく、羽のように軽いブラック・エディション(Black Edition)だ。正直、黒いラベルに黒い文字のラベルデザインを褒めるべきかわからないが、このワイナリーがブルゴーニュの「手をかけすぎない」技術を踏襲した結果は認めたい。ワインの中心地であるランゲンローイスを見下ろすフレッド・ロイマーのデシャント・ヴィンヤード(Dechant vineyard ;写真)から作られるビオデナミはウィーンからドナウ川を少しさかのぼったところにあるカンプタールのもので、スタイルは全く異なり、非常に熟した果実味と考え抜かれたオーク使いを感じるエネルギッシュで垢抜けた味わいだった。

カルヌントゥム(Carnuntum)のゲアハルト・マルコヴィッチ(Gerhard Markowitsch)はすでにピノ・ノワールの生産者として尊敬を集めているが、ライムストーンを多く含むシェイブナー・ヴィンヤード(Scheibner vineyard) の2011リザーブ は自信に満ちていて、その土地を感じさせるごつごつした岩っぽさを感じる。最後にウィーンのはずれに畑のあるヴィーニンガー(Wieninger)であるが、彼もまたピノ・ノワールの作り手としての名声を確立している。彼のグランド・セレクト2011はライムストーン土壌であるビザンベルグ・ヴィンヤー(Bisamberg vineyard)で栽培されており、シャイで控え目な花は感じず、アルコール度数は14%であるにもかかわらず偉大なピノ・ノワールの繊細さを持ち合わせている。香りはそれほど華やかではないが食欲をそそり、わくわくするほどピュアな余韻を楽しめるブルゴーニュを彷彿とさせるものである。

もちろん、全てのピノ・ノワールをブルゴーニュを基準評価するべきではない。ドイツとオーストリアはどちらも私たちに彼らのスタイルというものを教えてくれるのだから。

トップ・オーストリアン・ピノ

ウィーンで2年に1度開催されるヴィー・ヴィノムでのオーストリアの次世代の赤ワインを表彰するテイスティングで私は以下の2011のオーストリアン・ピノすべてに20点中17点を付けた。価格はオーストリアでの価格をポンドに換算したものである。

Ebner-Ebenauer, Black Edition, Niederösterreich £25-30
Fred Loimer, Langelois Ried Dechant, Niederösterreich €25 ウェブサイトによる (約20ポンド)
Gerhard Markowitsch, Reserve, Niederösterreich £20-30 現在オーストリア、ドイツ、ケベックで入手可能)
Wieninger, Grand Select, Vienna £28-30

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