ワイン雑誌の販売で儲けるのは年々難しくなってきている一方、ワインコンクールの設立で稼ぐのは年々容易になっているようである。イギリスの一流ワイン雑誌、デカンターが設立した年1回のデカンター・ワールド・ワイン・アワードは、はるかに長い歴史を持つインターナショナル・ワイン・チャレンジ(ビジネス出版者であるウィリアム・リード所有)とインターナショナル・ワイン・アンド・スピリッツ・コンペティション(資産家であるタイ・コンフォート所有;おそらくカプリス(訳注:イギリスで人気のモデル)の彼氏としてのゴシップの方が有名だろう)の大きなライバルとしてその地位を確立している。参加料100ポンドで数千の応募があるため、審査員は莫大な費用を負担することなく数日間のテイスティングを喜んで行うことができる。効率の良い収入源だ。
デカンター・アワードはカテゴリーごとに審査を行う形式で専門家の審査団によって運営される。シャンパーニュ部門の責任者は長いことワイン・ライターであるトム・スティーブンソン(Tom Stevenson)で、メールアドレスに「mrfizz(訳注:ミスター・泡の意)」という言葉を含むことからも彼の嗜好を伺い知ることができる。しかし2年前、彼はその立場を退いて同時に担当していたアルザスの審査のみ受け持つよう打診され、断った。そして彼自身が主催するシャンパーニュとスパークリングワインのコンクールを立ち上げ、その最初の結果がつい先ごろ発表された。
彼は偏見と執着の持ち主ではあるが、スパークリング業界ではその名の知れた人物である。彼は審査員の小さなドリームチームを招集した。フィンランドのシャンパーニュ専門家でマスター・オブ・ワインであるエシ・アヴェラン(Essi Avellan;彼女は数年間デカンター・アワードで彼の後任を務めた)とLVMHがオーストラリアで展開するスパークリングワイン、ドメーヌ・シャンドンなど多くのビジネスを立ち上げたオーストラリアの科学者、トニー・ジョーダン(Tony Jordan)博士を筆頭とするチームである。彼らは5月に集結し、史上初となるシャンパーニュ&スパークリングワイン・ワールド・チャンピオンシップの審査を行った。
審査員の名声も手伝ってか、初年度に彼らは650近いエントリーを集めることができ、その中にはかの有名なドン・ペリニヨン・エノテークやグランシエクルなど、これまでコンクールに出品されたことのないと彼らが強調するものまでが含まれていた。穿った見方をすると、今回究極の世界チャンピオンにロデレール・クリスタル・ロゼ2002を選んだことで、来年以降より多くのシャンパーニュの名門を引き寄せる狙いがあるのではないだろうか。
事実、優秀なトロフィー獲得ワインを紹介するためのディナーでスティーブンソンとアヴェランはクリュッグやサロンについて物欲しげに話していた。彼らはまた、恐ろしく口うるさかった。サボイのウェイターが抜栓したボトルのゆうに三分の一を却下したのだ。仲介役だったエシによるとごくわずかに酸化していたり、劣化していたり、ブショネだったりしたからだそうだ。また、例えばワールド・チャンピオン・ノン・ヴィンテージ・ブリュット・ブレンドという賞がポメリーのマグナムに与えられたことにも大変驚かされた。最近では受賞実績の全くないワインで、実際最初に開けられたマグナムは締まりがなく、埃臭かった。2本目に開けたものはまだフレッシュでまあ納得のいくものではあったが。
他にも、これは大衆紙でも大きく取り上げられたが、自身のラベルであり24.99ポンドで生協向けにパイパー・アンド・シャルル・エドシックのチームが作ったル・ピオニエ(Les Pionniers)2004がワールド・チャンピオン・ヴィンテージ・ブレンドを受賞したことも驚きであった。
多くのワインが一つ以上の賞を受賞したにもかかわらず、賞の数は不足しなかった。合わせて50以上の(ワールド・チャンピオンの)トロフィと85の金メダルは全て分け与えられ、その結果は今年のデカンター・ワールド・ワイン・アワードのものとは対照的だった。デカンターでは新しいシャンパーニュの審査委員長であるスウェーデン人の専門記者であるリチャード・ジューリン(Richard Juhlin)が549のシャンパーニュのエントリーに対し全て合わせて6つの金メダルを授与している。
我々は、トム・スティーブンソンのコンクールのメダルが満場一致で授与されたと聞かされた。3名の審査員がブライトンの郊外にあるプランプトン大学で7日間連続して審査を行った。この大学はイギリスのワイン産業の教育大学あり、彼らが生産に協力したザ・ディーン(The Dean)の白とロゼ両方とも金メダルを獲得している。この3名の審査員は間違いなく、再生力のあるエナメル質と酸に強い舌を持っているに違いない。シャンパーニュのプロでさえ、1日のテイスティング数は1~2ダースに制限しているが、この3人は650ものエントリーに順位をつけるためにはるかに多くのテイスティングをしたに違いないからである。彼らは来年は週末に休日を挟んで2週間におよぶ審査が必要になるだけのエントリーを期待しているそうだが、彼らの今年の思い出は過剰な、いや活力にあふれた審査業務ではなく、ブライトンの宿に帰るための前払い制のタクシーを延々と待たされたことなのだそうだ。
世界中のプロセッコやカヴァの人気は今やとどまるところを知らず、シャンパーニュの人々はもはや他のスパークリングワインとは別格であるなどとあぐらをかいてはいられない。彼らは数十年間、その堅実な伸びに慣れてしまっていたが、今やその足元は揺らいでいる。これは気候変動がシャンパーニュの基礎をつくるベースワインの骨格に影響し、その糖が高く酸が低くなっているということだけに限らない。一方、気候変動によって恩恵をもたらされた人々の中で注目すべきはイギリスのワイン生産者たちである。彼らが最も成功を収めているのは間違いなく、非常にキリリとした辛口のスパークリングワインで、シャンパーニュと同じ技術を使って作られているものである。
この点を考慮すると、この新しいコンクールでシャンパーニュが他のスパークリングワインと比較されることをどれほど恐れていたかを知ることができる点で興味深い。シャンパーニュ人の性質に精通し、彼らが最も嫌うのは他の「模倣者」たちと直接比較されることであることを知っているスティーブンソンは、エントリーを地理的に分類することでそこを切り抜けた。そのため有名なスパークリングワイン産地あるいは生産国別にトロフィが与えられた。カヴァ、プロセッコ、フランチャコルタ、DOCトレント、オーストリア、イギリス、南アフリカ、アメリカ、チリ、オーストラリア、ニュージーランドである。また、彼はカヴァを毛嫌いしていることで有名だったが、辛うじて超熟成したグラモナ(Gramona)2000にトロフィを与えている。また、彼はドサージュと呼ばれる、熟成後最後のコルクを打栓する直前に糖分を加える工程を行わないシャンパーヌニュの新しい流行にも極めて批判的だったため、地理的分類ではなくワインのスタイルで分類されたワールド・チャンピオン・ノン・ドサージュにはシャンパーニュではなくフランチャコルタを選んだことも驚きに値しない。これはイタリアの北部の上質なスパークリングが作られる地域で、シャンパーニュの地域よりも日照と温暖な気候の恩恵を受けられるのである。
その他の衝撃的な結果は、地域を問わないベスト・ヴィンテージ・ロゼのトロフィがイギリスのワイン、2011のハンプシャーにあるハッティングレー・ヴァレー(Hattingley Valley)に贈られたことである(イギリスのトロフィはネゴシアンであるディグビー(Digby)の2009リザーブ・ブリュットが獲得した)。また、東南ヨーロッパ部門のトロフィがセルビアのワイン、アレクサンドロビッチ(Aleksandrovic)2009トリウムフ・シャルドネ(Trijumf Chardonnay)に贈られた点は非常に納得のいくものだった。詳細はchampagnesparklingwwc.co.uk.を参照してほしい。
以下はトロフィ受賞ワインからシャンパーニュ&スパークリングワイン・ワールド・チャンピオンシップの審査員たちが祝賀ディナーのために選んだものの中から選んだ中のお気に入りで、価格の低い順に並べてある。これらのテイスティング・ノートも参照してほしい。
ロゼ
Hattingley Valley 2011 England
Il Mosnel, Parosé Non Dosé 2008 Franciacorta
Charles Heidsieck Réserve Rosé NV Champagne
Louis Roederer, Cristal Rosé 2002 Champagne
白
Ca’ del Bosco, Cuvée Annamaria Clementi 2005 Franciacorta
Dom Ruinart, Blanc de Blancs 2002 Champagne
Laurent-Perrier, Grand Siècle NV Champagne (based on 1999 vintage)
Dom Pérignon, Oenothèque 1996 Champagne
(原文)