ARTICLEワイン記事和訳 本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

この記事はフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。これまでの取材記事と650本もの2013ローヌのテイスティング記事も参照してほしい。

ドライ・フルーツがほとんど手元にないのにフルーツ・ケーキを作って欲しいと言われたらあなたはどうするだろうか。それこそまさに2013年にローヌ南部のワインメーカーたちが直面した課題である。しかしその結果はすこぶる良いものであり、ここ最近のヴィンテージの中でローヌ好きの愛好家の皆さんが最も気に入るのは2013ではないかと思えるほどだ。

今回問題になったのは彼らの主要品種であるグルナッシュが受けたクールール(花振い:訳注;果房につく果粒が極端に少なくなるブドウの生理障害)の被害で、これは2013年の南ヨーロッパ全土で大きな問題となった。繊細なグルナッシュの開花期の天候が不安定で、寒く、雨が多く、風も強かったために結実が均一とならず、多くの未熟な果房がそのまま枯れてしまったのである。平均として見ると2013年のグルナッシュの収穫は南ローヌでは約30%の減少だが(スペインの同品種であるガルナッチャも大きな影響を受けた)、畑によってはその90%にもおよぶ果実を失っているのだ。

ジゴンダスのシャトー・ド・サン・コム(Château Sainte-Cosme;現在公式に認証された白のジゴンダスを掲げ、ジゴンタスをクレレットの王国と称している)のルイ・バリュオール(Louis Barruol )はこの損失を「壊滅的」だと表現し、特に若木の被害が最悪だと述べた。彼が例年6000キロのブドウを収穫する若い畑から、この年はたったの700キロしか収穫ができなかった。彼の父で50年以上もワイン作りを続けるベテランでさえ、このような事態は一度も経験がないという。しかし私にとっては、ジゴンダスは2013南部ローヌのなかで最も出来のいいアペラシオンの一つである。少なくともすぐ南のヴァケイラス(私は6本のヴァケイラスに20点満点で17点をつけてはいるが)よりよくできているし、多くのコート・デュ・ローヌ・ヴィラージュのものより調和のとれたワインになっている。

ローヌ南部は公式に認可されたブドウ品種が多いことで知られ、最も有名なシャトーヌフ・デュ・パプでは18もの品種が認可されているが、その中でグルナッシュは圧倒的な栽培面積を占めている。典型的なヴィンテージではグルナッシュはブレンドの80%をゆうに占めるものだが、2013のアッサンブラージュではほとんどが半分以下である。実はこれは良いことなのかもしれない。グルナッシュの問題点は良いワインを作るため果実を成熟させるとアルコール度数が非常に高くなってしまうことにある。このことは気候変動とも連動し南ローヌのアルコール度数が驚くほど上昇していることにつながる。中にはゆうに16%を超えるものさえあり、14.5%が一般的な下限値になっているのだ。

一方で2013のシャトーヌフは平均的に14%程度を保ち、キュヴェ・ド・ロスピス(Cuvée de l’Hospice)に至っては13.5%しかない。この理由の一つはブレンドに占めるグルナッシュの割合が30%しかない点にあるのではないだろうか。常にアルコールの高いクロ・デ・パプ(Clos des Papes)ですら、その2013はオークの大樽、フードルに移す前のブレンドが終わった時点で、グルナッシュの占める比率が低いために今回に限ってはアルコール度数が「たったの」14.5%にすぎない。ヴァンサン・アブリル(Vincent Avril)は嬉しそうにコメントした。「2013は悪い年ではないんだ。ただ量が少ないだけ。おかげで20世紀に作っていたスタイルに戻った感じがするよ。たぶん重さと色は控えめだと思うけど、美しいタンニンのワインに仕上がっている。ブルゴーニュ風シャトーヌフなんてどう?」いいに違いない。

例年になく寒く雨の多い春は長引き、2013は成長期の訪れが遅かった。そのためグルナッシュの収量は非常に少なかったし、収穫も通常より遅く、今年の品質をなんとか取り戻してくれた良好な秋を待ち10月にまで伸びた。一方グルナッシュの主なブレンド相手であるシラーと年々人気の高まっているムールヴェードルは、条件のよい畑のものでは全体的に非常に高品質で、多くのワインには甘みが控えめなこれらの品種が多く使われている(アヴリルによるとムールヴェードルの成熟は年々早くなっているそうだ)。

その結果ワインは全体的にいつもよりも軽くフレッシュになった。この成熟とフレッシュさのバランスは非常に重要で、ともすれば痩せて渋いだけのワインになってしまう。色は非常に美しく濃い(おそらくこれはシラーとムールヴェードルが一般的に色素の薄いグルナッシュよりも濃いことにも由来する)。2013は雨に事欠かなかったおかげで、乾燥や干ばつの際に作り出されるタンニンがなく、南ローヌの強く若いローヌでも飲みやすい。事実、タンニンは全体的に魅惑的なほど熟しているか、中程度の強さしかない。

私はシャトーヌフ・デュ・パプの多くのワインを楽しんだが、2013に関しては生産者自身が通常のレシピから外れ、いつもよりフルーティでジューシーなワインを楽しんでいるように感じた。一方、他の多くのコート・デュ・ローヌの村のワインから感じるのは生産者が「深刻な」ワインを作らなくてはならないと感じながら陰気な様子でワインを作っている様子なのだ。

私がテイスティングした南ローヌの白ワインは、いつもは大味なグルナッシュ・ブランの影響が少なくなったことでよくなったと思えたし、やや酸も高かった。コンドリューや一部の素晴らしエルミタージュ・ブランのような白ワインは疑う余地のない2013の北部ローヌのスターであるが、サン・ペレイもまた、毎年面白いキリッとした白を提供してくれる産地として最近頭角を現してきた。9月下旬と10月上旬の涼しい夜は収穫が非常に遅かったこの年でも酸を保持するのに一役買っている。

8月の終わりには、多くの北部ローヌの生産者が2013の収穫は全くできないのではないかと恐れていた。ギガル、アンピュイに拠点を置く大手の生産者は休暇から戻ると糖度計を手にして畑へ向かい、潜在アルコールが8%しかない事実に驚愕したそうだ。しかし、9月のインディアン・サマーのおかげでそのレベルは多くの畑で月末までに14%に達した。ギガルは10月6日までにすべての収穫を終えてしまったことに胸をなでおろした。なぜならその後80㎜の降雨に見舞われたからである。しかし、10月の雨は2014の方がひどく、とくにエルミタージュでは壊滅的だった。もし赤のエルミタージュをセラーに加えたいと思ったら、2012か2013を買うべきだろう。

コート・ロティもよいものがあるが、このアペラシオンは品質に大きなばらつきがあり、柔らかでエレガントな香りを楽しめるものもあれば、エルミタージュに対抗した濃く深い紫の色調と凝縮感をなりふり構わず追求しているものもある。エルミタージュとクローズ・エルミタージュについては来年早々にも詳細な報告をする予定である。一方、今情熱的なな生産者が60軒を超えるサンジョセフは年々非常に面白いシラー主体の赤ワインを生産し、上述の北部ローヌの二大名醸地よりもはるかに手の届きやすい価格で提供している。コルナスは天候不順をなんとか避けることができたが、このアペラシオンでは比較的新人のマーク・ハイスマによると「すばらしく退屈」な出来だそうだ。2013年にローヌの他のワイン産地では絶対に聞けない表現である。

2013の650本におよぶテイスティングノートを参照してほしい。販売者はwine-searcher.com でも見つけることができる。それぞれのワインの詳細とテイスティングコメントを参照したら’See prices and stockists’ をクリックすればよい。

2013ローヌのお気に入り

基本的にブラインドテイスティングを行い、その中で高得点を付けたローヌのワインを紹介する。もちろんこれ以外にも多くの素晴らしいワインがあった。

シャトーヌフ・デュ・パプ 赤

Ch de Beaucastel
Clos des Papes
Clos du Caillou, Réserve
Isabel Ferrando, Colombis
Ch Jas de Bressy

ドメーヌ・ポルテ 赤

Le Vieux Donjon (great value from Yapp Bros – see wine of the week)

ジゴンダス

Pierre Amadieu, Romane Machotte
Dom de la Mavette, Cuvée Traditionelle
Les Semelles de Vent
Tardieu Laurent, Vieilles Vignes

コート・ロティ

Clusel-Roch, Les Grandes Places
Guigal’s singel-vineyard La La’s
Paul Jaboulet Aîné, Dom des Pierrelles

エルミタージュ

Chapoutier, Sélections Parcellaires (red and white)
Yann Chave
Delas, Dom des Tourettes
Ferraton, Les Miaux (white)
Tardieu Laurent
Les Vins de Vienne, La Bachole (white)