TT:木曜特別シリーズの意。最近の事例に関連のある過去の記事を再掲するコーナーです。
2014年12月4日 木曜特別シリーズとして今回はバローロ2010に関する記事を、最近公開した史上最大のテイスティング・ノート、昨日掲載されたバローロ2011に関するウォルターの楽観的なレポート、月曜に公開予定の「バローロ2010ナイト」でのテイスティング・ノートを考慮して再掲する。
2014年4月12日 これは当時のフィナンシャル・タイムズに掲載された記事のロング・バージョンである。「Does Barolo 2010 live up to the hype? 」に掲載したテイスティング・ノートと「Other Piemontese on offer…」も参照してほしい。
今やワイン収集家がボルドーのプリムールをかき集めようと先を争う時代は終わり、イギリスの伝統的なワイン商たちはそこに開いた大きな穴を埋める手段を考える必要が出てきた。ブルゴーニュはその明確な答えの一つであり、ワイン愛好家を引き付ける絶好の対象ではあるが、生産量が比較的少ないためブルゴーニュとの取引経験の長いワイン商でさえ入手できる量は限られている。つまりブルゴーニュを新規に扱おうとするワイン商が入り込む余地は事実上ない。
そこでイギリスの多くのワイン商や上質ワインを取り扱う業者はそれぞれ時期は違うものの、ローヌに最大限の力を注いできた。一方、ピンストライプのスーツ軍団はその時が来るのを待っていた・・・フランスを飛び出す時を、である。この命知らずの冒険の先陣を切っているのがロンドン、セント・ジェームス・ストリートにある2つの老舗ワイン商、ベリー・ブラザーズとジャスティリーニ&ブルックス(J&B) (原文)である。ベリーズはイタリアに非常に注力しており、一族の一人であるデイヴィッド・ベリー・グリーン(David Berry Green)をピエモンテに常駐させているほどだ(ウォルターが感動したベリー・グリーンの品ぞろえについては2012年の記事、「St James’s Italians – an audit」で読むことができる)。一方、宿命のライバルであるJ&Bのヒュー・ブレア(Hew Blair)はランゲの丘に点在するイタリアのトップ生産者たちとの関係を築きあげることに熱心だ。
ブレアは15年以上の間多くの有名生産者たちと親しい関係を続けてきた。最初はイタリア系アメリカ人のマルク・デ・グラツィア(Marc de Grazia)を通していたが、彼が最近エトナ (原文)の自身のブランド、テッレ・ネレ(Terre Nere)に注力するようになってきたため、直接取引をするようになった。彼は8年ほど前、ピエモンテにとって最も重要な市場であるアメリカが停滞したときに大きく取引を増やしたと話す。それ以来J&B はイタリアの最高級のワインをこれまでに以上に大量に購入してきたし、ブレアによると2010のバローロは彼らにとって大きな転機となったヴィンテージだそうだ。
彼の顧客たちが2010のバローロに投資することに夢中になったおかげでJ&Bの2010の売り上げは柔らかくやや早熟な2009の3倍に達し、これまでにない関心の高さを伺わせると彼は言う。これは通常の販売戦略である大規模なテイスティングを行わずに成し遂げられたというが、正直なところ1、2軒のバローロの主要な生産者、硬派な近代主義者であるロベルト・ヴォエルツィオ(Roberto Voerzio)などは最近ロンドンに来てJ&B提供のワインメーカーズ・ディナーを開催している。
バローロ2010は5月まで世界のメディアに公開されることはないが、ブレアによると少なくともイギリスへの分配分は多くが売約済みだそうだ。伝統的には、先週末ヴェローナで開催された国際的なトレード・フェアであるヴィニタリーが各種インポーターへの配分を決める場であるのだが、J&Bは自分たちがこれまで入手していた分を確保することに必死で、ヴィニタリーの前にそれぞれの生産者の蔵から買い集めたのだ。
かつて1980年代には、トリノの南部で独特の雰囲気をもつ単一文化のランゲにとって最重要顧客はドイツとスイスだった。彼らはメルセデスやBMWを最新のヴィンテージでいっぱいにし、イタリアの平均的なバイヤーよりもはるかに大量の買い付けをする資金を持っていることが多かった。
しかしドイツの経済問題は最終的にこれらのワインに対するドイツ人の需要を大きく引き下げた。一方で1990年代半ばまでにはアメリカのワイン商、例えばカリフォルニアのザ・レア・ワイン(The Rare Wine Co)のマニー・バーク(Mannie Berk)がテロワールを如実に映し出すネッビオーロの忘れがたい魅力を見出した。これは2連続の偉大なヴィンテージである1989と1990のおかげでもある。1990年代にこれらのワイン への注目を最大限に引き出したのがワイン評論家のロバート・パーカーである。今回は彼の元共同経営者であるイタリア専門家、アントニオ・ガッローニ(Antonio Galloni)が前途有望な2010について同様なことを行っている。
「でも今回は前とはちょっと違う気がするんだ」とバークは言う。「たぶん、ヨーロッパとイギリスのワイン商たちは今までみたいにボルドーに大きく依存しすぎてはいけないと気付いたんだじゃないかな。ブルゴーニュの状況も厳しくなってきているし、バローロを取扱いリストに加えるのが一番魅力的に見えるんだと思う。別にそういうワイン商が最初はバローロの取り扱いを歓迎してなかったって言いたいわけじゃないんだ、でもアメリカからの要求を満たさなくてはいけないブローカーは前よりずっと歓迎しているんじゃないかな。」
そう、うれしいことに今回は違う。バローロとその小さな隣人、バルバレスコの比率はイギリス本土で増え続けるように感じるし、最近「改宗」したファイン+レア(Fine + Rare)の熱心なジョス・フォウラー(Joss Fowler)が言うように「彼らの手作りのワインにはブルゴーニュのようにそれぞれの畑のある丘ごとに物語がある」。彼の顧客たちはそれを投資目的で所有するのではなく、飲むために購入するのだという。これは最近のボルドー市場の発展とは全く対照的である。
しかし今、彼らは拡大してくるスカンジナビア半島、アジア、そしてアメリカの需要との競合を強いられている。ネッビオーロ好きのソムリエでポッドキャストのキャスターに転身したリーヴァイ・ダルトン(Levi Dalton)はその実情をよく把握している。「今の市場にはバローロの「新しく開拓すべきもの」と「長い歴史のあるもの」という二つのイメージが同時に存在しているようです。バローロには非常に伝統的な生産者がいるというイメージは、伝統的なものが評価される時代に好印象だし、同品質のブルゴーニュを買う価格でバローロは熟成したものが買えるという実情もあります。この良さがわからない人はいないでしょう。」.
ニューヨーク在住のイタリアワイン商、セルジオ・エスポジト(Sergio Esposito)は高品質なイタリアワインの投資に賛成であることを認めた。彼も経済的な側面について同じことを言ったが、もう少し冷静だった。「2010のヴィンテージはこれからブームになりますね、在庫は希薄で価格は上昇していますから。でもバイヤーはこのヴィンテージは氷山の一角だと思っていますよ。だってほとんどの偉大なバローロは250ユーロ以下で取引されていますが、フランスのそれに対応するようなものは3000ユーロを超えますからね。この差は間違いなくこれからの数年で埋まっていくでしょうから、今バローロを買うことはワイン市場において最も良い投資の選択肢となるでしょう。」
しかし、イギリスのワイン商にとってイギリスでバローロを売ることが必ずしも容易ではないこともわかってきた。高級ワインのバイヤーであるレイ&ウィーラー(Lay & Wheeler)のニック・ダグリー(Nick Dagley)は彼自身も長いことバローロの大ファンであり、上質な2010のバローロとバルバレスコを収集しているが、それを顧客に販売するのはまだまだ骨の折れる作業だと漏らした。ステファン・ブラウィット(Stephen Browett)はイギリス最大の高級ワイン貿易会社であるファー・ヴィントナーズ(Farr Vintners)のオーナーで自らをイタリア恐怖症だと公言している。彼はピエモンテに対する会社の方針についての私の質問に皮肉たっぷりに「バローロってなんですか?」と返信してきた(返信はボルドーからだった)。
硬派な伝統主義のワイン商、ロンドンのベリー・ブラザーズのデイヴィッド・グリーンに、あなたのロンドンやアジアの同僚は試行錯誤の末ようやくバローロに辿り着いたのね、と尋ねたところ、笑って、しかしきっぱりとこう言った。「いや、本当の意味ではまだ辿り着いていないよ。」
2010 バローロのお気に入り生産者
私は同僚であるウォルター・スペラー(Walter Speller)と共に100本以上の2010バローロを最近ロンドンでテイスティングした。Fine + Rare and Lay & Wheelerに感謝する。我々の気に入った生産者を以下に記す。
Luigi Baudana
Brezza
Brovia
Cavallotto
Michele Chiarlo
Elvio Cogno
Aldo Conterno
Cordero di Montezemolo
Ettore Germano
Elio Grasso
Silvio Grasso
Massolino
E Pira di Chiara Boschis
Paolo Scavino
G D Vajra
Vietti
Roberto Voerzio
「Does Barolo 2010 live up to the hype? 」と「Other Piemontese on offer…」でのテイスティング・ノートも参照してほしい
冒頭の写真はコンソルツィオ・デッレ・ランゲ(Consorzio delle Langhe)から転載した。