これはフィナンシャル・タイムズに掲載された記事のロング・バージョンである。
完全なティスティング・ノートは「Chile’s revolutionary new reds」「Chile’s fresh whites」「Chile answers back to red bordeaux」を参照してほしい。取扱業者はwine-searcher.com.で探すことができる。
自分のワイン知識に欠けている部分を補うため、そして最も厳しいイギリスの冬を脱出する都合のいい言い訳として、南アフリカのワイン・シーンを再確認した2週間後に私はチリにいた。この二つの国の類似点は驚くほど多かった。
どちらもヨーロッパの外では世界で最も重要なワイン生産国の一つであり、最近まで大企業主導でヨーロッパのクラシックな作りを意識した独自のスタイルのワインを生産してきた。しかしここ数年はどちらの国でもはるかに小規模で若く、因習にとらわれない生産者が台頭している。彼らは古い常識に無頓着に背中を向け、その国で最も古く、過小評価され、10年前には見向きもされていなかったブドウを使って全く新しいワインを作り始めている。
南アフリカの「スワートランドの革命(Swartland revolution)」は漠然と「新しいチリ」と呼ばれるチリの動きより数年早く起こってはいるが、この二つの国の変化に因果関係は認められない。ただ一つ、世界的なワインの時代思潮、すなわち大規模でアルコールが高く技術に依存したワイン作りよりもフレッシュさと自然さ、そして畑の性質を重んじる点においては共通している。
チリの新しい世代の生産者(彼らはワインメーカーという呼び名すら否定するかもしれない)に席巻されつつある地域は伝統的な生産地域の南部、特にマウレやイタタといった最近まで上質なワイン産地としては圏外と考えられていた地域である。しかしそこでは非常に樹齢の高いブドウが栽培されている。それらは1940年代と1960年代の後半に起きた大地震の後に政府の支援で植えられたもので、特にサンソーとカリニャンはその地域の伝統的な品種、長きに渡り蔑まれてきたパイスに色素を加えるためのものだった。パイスはラテン・アメリカに入ってきた最初のヨーロッパ系品種で、コンキスタドール達によってもたらされ、現在ではカリフォルニアの古くからの品種ミッションやアルゼンチンのクリオージャ・チカと同じものだと判明している。
チリのワイン産業は伝統的にボルドーに匹敵するラテン・アメリカという位置づけであり、首都サンティアゴ近郊を拠点にワイン以外にも多くの事業を展開する少数の有力な家族経営の企業によって運営されてきた。20世紀終盤に人気の出た芳醇でパワフルなワインを生産できるアパルタのような地域では新しい動きが出ている。太平洋から生まれる霧による冷却効果が期待できる栽培地域の開発が進み、フレッシュなシャルドネや注目のソーヴィニヨン・ブラン、そして一部では試験的にピノ・ノワールが作られている。
しかし2009年6月1日、12人のチリのワイン生産者が集まってMOVIと呼ばれる団体を設立した。「MOVIは、健全だけれども安定して保守的で、青のブレザーとグレーのフランネルを着てひたすら可能性を追い求める産業集中型のチリのワイン業界に新しい風を吹き込むことを目的とする」という一文を掲げている。以来、MOVIのTシャツを着た人々は増え、型破りなやり方で物議を醸し、そこからVIGNOと呼ばれるワインカテゴリーが生まれた。これはマウレにある古い無灌漑のカリニャンを用い、フランスのAOCを彷彿とさせる非常に厳しい規律に従って作られるワインのことだ(この活動は南アフリカのスワートランドでワインに関する独立した規律の策定が行われたのとほぼ同時期のことである)。
MOVIとVIGNOの面々は小生意気な連中で、チリワインの保守派と言われる人々を小馬鹿にすることを楽しんでいる。それが更に注目を集め、彼らに衝撃を受けた大企業たちがあわててそのあとを追う動きが出ている。カーサ・ラポストール(Casa Lapostolle)、ミゲル・トーレス(Miguel Torres)、サンタ・エミリアーナ(Santa Emiliana)、ウンドラーガ(Undurraga)、バルディヴィエソ(Valdivieso)、デ・マルティノ(De Martino)、ザ・アメリカン・ジャクソン・ファミリー・エステート、そして最大の企業であるコンチャ・イ・トロまでがVIGNOクラブに加盟を願い出て、少なくとも1つのシリーズにはその目を引くロゴを使うようになったのだ。
もし私が最近テイスティングした多くのチリワインの中でこの南部のワイン産地の大転換を最も明確に示すような例があるかと言われれば、最近コンチャ・イ・トロが満を持して世に送り出したマルケス・デ・カーサ・コンチャのシリーズを挙げるだろう。以前はソーヴィニヨン・ブラン、シャルドネ、ピノ・ノワール、メルロ、カベルネ・ソーヴィニヨン、シラー、そしてチリの名産であるカルムネールから成っていたこのシリーズに今ではアルコール度数12%でマウレ産のブレンド、2014「オールド・ヴァイン・ドライ・ファームド・パイス・サンソー」が含まれているという事実を私はにわかには信じがたかった。これはほんの2,3年前までには想像すらつかなかったことだ。
アンデスを覆う雪の帽子がどんどん小さくなるほど明白な気候変動と、水の供給への圧力が日々厳しくなっていることに伴い、北部の生産地域では一握りの本当に資金に余裕のある事業者しか水を確保できなくなっている。今世紀の変わり目にサンティアゴの北にあるリマリは素晴らしいポテンシャルを持つ太平洋から冷却効果が期待できる地域として開発された。それが今では事実上水が枯渇し、チリのワイン業界は揃って降雨量のより多い南部に未来があることを認めている。だからこそ、コンチャ・イ・トロは豪華な研究施設を設立する際、その開設地としてマウレを選んだのだ。
マウレの生産者ギルモア(Gillmore)のアンドレス・サンチェス(Andrés Sanchez)は現在VIGNOの代表を務めるが、彼が言うにはMOVIとVIGNOはすでにマウレの小規模生産者たちに好影響を与えているそうだ。カリニャンのブドウとしての価格は1939年から2010年の間には広く一般的だったキロ当たり100ペソから10倍のキロ当たり1.5ドルになり、大企業の参入により地価も高騰している。今では若い世代がこの土地に未来を見出すことができる。
しかしマウレだけで話は終わらない。ここの小規模生産者たちがどんどんアンデスを上って高地でのワイン作りを始めている一方、古参の生産者を含む多くがマウレから更に南に下ったイタタの可能性を見出すのに忙しい。サンソーとミュスカがここで持ち味を発揮できる品種であり、デ・マルティノなどの企業が伝統的な陶器の壺、ティニャハス(tinajas)で熟成した非常に新しいスタイルのワインで大きな注目を集めている。(例えばこの「wine of the week」を参照してほしい)
マウレもイタタも樹間を広く取った古い株仕立てがほとんどで、農薬を使わずに生き延びてきたブドウだ。これは肥沃な北部のセントラル・ヴァレーで生産量の高いトレリスに仕立てられ、先の四半世紀の間低価格でありきたりの国際品種から生み出されていたワインと対照的である。中国からチリの銅資源への需要が高まったために昔のブドウ畑の労働力が減り、北部の畑は現在ほとんど機械化されている。コンチャ・イ・トロの醸造長マルセロ・パパ(Marcelo Papa)が言うように、「労働者の準備が整うのを待つよりも自分が収穫したいタイミングですぐに機械で収穫できる方がいい」のだ。しかしマウレやイタタの株仕立てでは人の手による作業が必要であり、MOVI運動の目標の一つは地元の経済再生に一役買うことである。
チリと中国は今ワインで強い結びつきがある。昨年からの自由貿易協定の恩恵を被って中国でチリワインの輸入が急速に伸び、現在世界最大の市場にチリより多くのワインを送り込んでいるのはフランスワインだけである。
おすすめチリワイン
以下は新しいチリワインのお気に入りでマウレやイタタ、あるいは特にアンデスの高地で作られているものである。一方で伝統的なスタイルのワインにも素晴らしいものも多く見られた。
Aristos, Duque d’A Chardonnay and Cabernet Sauvignon 2010 Cachapoal
£41 Justerini & Brooks
Bodegas Re, RE Nace Carignan de las Tinajas 2011 Maule
£73.50 Berry Bros & Rudd
Concha y Toro, Marques de Casa Concha , Old Vines Dry Farmed Pais-Cinsault 2014 Secano Interior Maule
£13 RRP 未入荷
De Martino Muscat, Viejas Tinajas 2013 Itata
£82.23 for six bottles スコットランドのExel Winesおよびスペイン、ブリティッシュ・コロンビアでも入手可能
Garcia y Schwaderer, Bravado Red Blend 2013 Itata and Mourvèdre, Piedra Lisa Vineyard 2013 Itata
Naked Wines in UKと Vine Connections in USで取扱い予定
Gillmore, Vigno Carignan 2011 Maule
£15.49 Naked Winesのメンバー価格
Koyle, Don Cande Muscat 2014 Itata
£8.75 The Wine Society
Pandolfi Price, Los Patricios Chardonnay 2012 Itata
£17.50 from Stone Vine & Sun, £19.75 from Berry Bros & Rudd
Tabalí, Roca Madre 2013 Limari
£20 RRP 2015年4月に Boutinot in the UKと Biagio Cru in the USからリリース予定
Miguel Torres, Vigno Cordillera Carignan 2012 Maule
Undurraga, TH Pais-Cinsault 2014 Secano Interior Maule
£15 RRP, not yet available
完全なティスティング・ノートは「Chile’s revolutionary new reds」「Chile’s fresh whites」「Chile answers back to red bordeaux」を参照してほしい。取扱業者はwine-searcher.com.で探すことができる。
(原文)