ARTICLEワイン記事和訳 本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

105-1.jpgこの記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズに掲載されている。

様々なクメウ・リヴァーのシャルドネおよびブルゴーニュ白のトップワインについての詳細なテイスティング・ノートも参照のこと。

先週、ニュージーランドが最も誇りに思うべき白ワイン用品種はソーヴィニヨン・ブランではなくシャルドネであるという私の主張が正しかったことを証明する機会を得た。この20年間でニュージーランドは北島、南島共にソーヴィニヨン・ブランの波に飲み込まれ、その波はオーストラリアの市場にまで影響を及ぼし、オーストラリア人はそれをソーヴァランチ(Sauvalanche;訳注 ソーヴィニヨン雪崩という意味の造語)と呼んだ。ニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランは商業的に偉大な成功を収めたのは確かだが、一方で繊細なスタイルや長期熟成可能なワインを批判する権利もないはずだ。

最近のブラインド・テイスティングでクメウ・リヴァーのシャルドネを2007まで遡り、同じヴィンテージの高級ブルゴーニュの白と比較したところ、少なくともオークランド郊外にあるこのトップ生産者の作るニュージーランド・シャルドネは全く引けを取らない品質であることが示された。また価格の面ではもはや楽勝で、彼らが打ち負かしたワインのほんの数分の一でしかないのである。

クメウ・リヴァーのワインの1ダースあたりの保税価格は140ポンドから220ポンドだがドメーヌ・ルフレーヴの村名クラスであるピュリニー・モンラッシェ2012やピュリニーのプルミエ・クリュであるクラヴォワイヨン2007はそれぞれ700ポンドと1400ポンド、ドメーヌ・コント・ラフォンのムルソー2009は700ポンド、ドルーアンのピュリニー、ピュセル2007は700ポンドである。

オークランドはスペイン南部とほぼ同じ緯度にあり、ブルゴーニュの白にじわじわと反撃できるような緻密で透明感のあるワインを生み出す畑がある場所とは想像しにくい。しかし、街の北西の郊外にあるクメウ・リヴァーの畑は東西両方から海の影響を受けるため涼しく、夏は雲が多い。「ここでは摂氏30度(華氏86度)になったら非常に暑いと言えます。そのため酸が高く保てるのです。」クメウ・リヴァーのワイン・メーカーであり、イギリス人以外で初めてマスター・オブ・ワインを取得した一人でもあるマイケル・ブラコヴィッチ(Michael Brajkovich)は語る。

3年に一度ぐらいは霜の被害を受けるものの、この家族経営のワイナリーにとって気候の脅威は年々この地を侵略している都市化ほどではない。ブラコヴィッチ所有でマイケルの弟であるミランが運営しているハンティング・ヒルとマテズ・ヴィンヤード(後者は亡くなった父の名を冠している)はおそらく安泰だろう(マテズ・ヴィンヤードは上の写真、ハンティング・ヒルは下の写真)。しかし映画製作者のティム・コディントン(Tim Coddington)とその妻アンジェラはその名を冠した、マイケルが単一畑のシャルドネを2006年以来作ってきた畑を売りに出してしまったし、ベーシックなクメウ・リヴァーのワイン用にブドウを供給してきた近隣の小さな畑のオーナーたちが上昇する地価の誘惑に屈する恐れもあるためだ。

先週のテイスティングは高級ワイン商社であるファー・ヴィントナーズ(Farr Vintners)のオーナー、ステファン・ブラウィット(Stephen Browett)の主催だったが、彼はニュージーランドを初めて訪問した1990年以来、クメウ・リヴァーのワインを販売し続けている人物だ。マイケルの弟、ポール・ブラコヴィッチが営業でロンドンにいたため彼もブラインド・テイスティングに参加したのだが、彼が自分のワインにつける20点満点中の点数(一貫して20点だった)が我々の審査に影響することを恐れ、沈黙を余儀なくされた。

14名の我々ワインのプロは5,6種からなるワインをヴィンテージごとに4フライトでテイスティングを行った。ヴィンテージは2012、2010、2009、2007で、ブシャール・ペール・エ・フィスのムルソー・ペリエール2009に0.7ポイント及ばなかったマテズ・ヴィンヤード2009を除き、クメウ・リヴァーのワインには全てのフライトで最高点がついた。しかも、グランクリュレベルと考えられる白のブルゴーニュよりはるかに若々しかった。

2009はラフォンのムルソーが引き締まっていたためやや迷ったものの、我々は全員がほとんどのフライトでクメウのワインがどれかを推測することができた。クメウ・リヴァーのワインは非常によく作られていて、上品かつ洗練され、常に輝きを放っていたからだ。これはブラコヴィッチがとにかくコツコツと仕事をした結果だろう(下の写真は今年初めの一点の曇りもないハンティング・ヒルの状態だ)。そして衝撃だったのはこの比較的安価なニュージーランド・ワインの品質ではなく、白のブルゴーニュの状態だった。

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ラギッシュのシャサーニュ、モルジョ2010はケースで500ポンドを超える価格のワインであるにもかかわらず汗に濡れた靴下の香りが際立っていた。ジラルダンのムルソー、ナルヴォー2009はグラスの中で酸化してしまった。2007の5つのブルゴーニュのうち、3つはピークを過ぎており、テイスティングしたワインの中で最も高価なルフレーヴのクラヴォワイヨンは完全に死んでいた。最近アイルランドのコーク近郊にあるバリーマローでディナーを楽しんだ際、私はルフレーヴのピュセル2007を2本とシュヴァリエ・モンラッシェ2007(小売価格で1本約400ポンドである)を味わう機会があった。しかし、全てピュリニー・モンラッシェにあるドメーヌから直送されたものだったにも関わらず、その3本のうち楽しめるだけの若さを残していたのはたった1本、ピュセルのみだった。

一方、クメウ・リヴァーの全てのワインはデイジーのようにフレッシュで熟成の偉大な可能性を秘めているのが明らかだった。ポール・ブラコヴィッチは、彼らのシングル・ヴィンヤード・シャルドネ2004は12年経ってようやくそのピークにあると断言した(彼は2010と2007も同様に素晴らしいヴィンテージだと述べた)。

我々はニーヨンの村名クラスのシャサーニュ・モンラッシェ2012は飲むことすらしなかった。明らかにブショネだったためだ。これらの白のブルゴーニュとニュージーランドの新参者の明らかな違いの一つは、1998のシャルドネがブショネのためにアメリカで600ケースのリコールを余儀なくされた2001年以降、クメウ・リヴァーが完全にスクリューキャップに切り替えた点である。

我々ワイン愛好家にとっての良いニュースは、2010はニュージーランドのシャルドネにとって明らかに素晴らしいヴィンテージであるが、2014もまた最高のものになるだろうことと、それが来年輸出市場に出回る予定であることである(クメウ・リヴァーはイギリスにはボックスフォードワインズ(Boxford Wines)とファー・ヴィントナーズ、アメリカにはウィルソン・ダニエルズ(Wilson Daniels)がそれぞれ輸入している)。ブラインド・テイスティングのあと、収量が低く寒かったにも関わらず印象的な2013のクメウ・リヴァー・シャルドネ全てをテイスティングした。クメウ・リヴァーのシャルドネの産出量の約半分を占める緻密なヴィレッジ・ブレンド、残りの四分の一から三分の一を占める、5つの畑から作られる張りのある樽発酵の醸造所元詰、官能的で早熟なコディントン・ヴィンヤード(Coddington Vineyard)、引き締まったハンティング・ヒル(ファーでは「ニュージーランドのピュリニー」と呼ばれていた)、そして引っ込み思案で凝縮感のあるマテズ・ヴィンヤードである。

長いことニュージーランドのシャルドネは人気の高いソーヴィニヨン・ブランに道を譲るために引き抜くよう生産者が促されていたこともあり、混とんとしていた。しかしベル・ヒル(Bell Hill)、ブラック・エステート(Black Estate)、フェルトン・ロード(Felton Road)、フロム(Fromm)、ミルトン(Millton)、マウントフォード(Mountford)、ノイドルフ(Neudorf)、ペガサス・ベイ(Pegasus Bay)、ピラミッド・ヴァレー(Pyramid Valley)のような作り手たちはニュージーランドが白のブルゴーニュ品種の素晴らしい故郷であることを証明する、という信念を持ち続けた。特に現在ワイン・メーカーであるヒュー・クライトン(Hugh Crichton)はヴィダルでの高級シャルドネづくりで重要な役割を担っている。

また、このテイスティングはロンドンで最も重要な地位にある高級ワイン取扱い業者で行われ、その日はボルドーの、シャトー・マルゴーを含む多くの生産者が2014のプリムールを発表する日でもあったのだが、ボルドーについては一言も触れられなかったことも述べておきたい。

テイスティングしたトップワイン
クメウ・リヴァーは1ダースの価格、ブルゴーニュは1本当たりの価格を併記。

Kumeu River, Hunting Hill Vineyard 2013 (£200 Farr Vintners から近日)
Kumeu River, Maté’s Vineyard 2013 (£220 Farr Vintners から近日)
Kumeu River Estate 2012 (£140 Farr Vintners)
Kumeu River, Coddington Vineyard 2010 (£200 Farr Vintners)
Kumeu River, Maté’s Vineyard 2009 (£220 Farr Vintners – 完売)
Kumeu River, Hunting Hill Vineyard 2007 (£200 Farr Vintners)

Jean-Noël Gagnard, Chassagne-Montrachet Boudriottes 2010 (£55 Berry Bros)
Fontaine Gagnard, Chassagne-Montrachet Vergers 2010 (£41.25 Four Walls Wine)
Domaine Comtes Lafon Meursault 2009 (£54 The Butlers Wine Cellar)
Drouhin, Meursault Perrières 2009 (£158.80 mマグナム Hedonism)
Jean-Philippe Fichet, Puligny-Montrachet Referts 2007 (入手不可)

詳細なテイスティング・ノートも参照のこと

原文