ARTICLEワイン記事和訳 本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

113.jpgこれはフィナンシャル・タイムズに掲載された記事の別バージョンである。「43 current offerings from the Jura and on 16 vins jaunes」でのテイスティング・ノートも参照のこと。

二週間前、ヴィクトリア州にあるクリッテンデン・エステート(Crittenden Estate)のワインメーカー、ロロ・クリッテンデン(Rollo Crittenden)はフランス東部のジュラ地方に初めて足を踏み入れた。全ての始まりはオーストラリアに送られた穂木のラベルの誤表記だった。

アルバリーニョの人気と、オーストラリアで「(有名品種へ切り替えると言う意味での)代替」品種と呼ばれるものの流行にあやかって、数十人のオーストラリアのブドウ栽培者が今世紀初めに国の公式ブドウ販売業者から穂木を購入した。ところがオーストラリア生まれのアルバリーニョが地元市場に影響を及ぼし始めたちょうどその頃、オーストラリアを訪問中だったフランスのブドウ専門家が、そこに生えているブドウがスペインの品種ではなく、サヴァニャン・ブランというジュラに特異的な品種だと指摘したのである。

オーストラリア人たちは頭を抱えた。サヴァニャンなどという名を聞いたことがある者は誰もいなかったし、その名前が(味わいは全く異なるものの)人気上昇中のソーヴィニヨン・ブランに似ているではないか。さあ、どうしたものか。

以来20~30軒のオーストラリアのワイン生産者がこのサヴァニャンと対峙することとなり、その名をラベル表記してワインを販売し、そのうちクリッテンデンを含む2軒は「スー・ヴォワル(sous voile)(酵母の膜の下で、の意;写真)」という薄い酵母の膜の下で熟成を行う、ジュラの非常に特徴的で伝統的な方法を試みている。その最高峰がジュラで最も高価なワイン、ヴァン・ジョーヌで、この地方のブレス鶏に最適だとされ、酵母の膜の下で6年以上熟成し、なんとなく最も辛口で主張の強いタイプのフィノ・シェリーに似た、それでいて軽やかで鼻にツンとくる味わいを持つワインである。

ロロ・クリッテンデンがジュラで実際どのような作業が行われているのか知ることに熱心な理由は明らかだが、彼は出端をくじかれることになる。初日に彼はとあるセラーを備えたワインショップの一つに立ち寄った。それはアルボワというルイ・パストゥールがかつて住み、働いた田舎町のメイン・ストリートにあった。彼がオーストラリア人でサヴァニャンを作っていると知った途端、中年の生産者の態度が一変し、ロロにこう言い放ったのだ。「君はそんなことをしてはいけない。サヴァニャンは私たちのブドウであり、君たちのではない。サヴァニャンはジュラだけのものだ。」

「私はこの反応に非常に驚きましたし、がっかりもしました。」ロロは言った。「少なくともある程度の関心を持ってくれると思っていたし、彼らがフランスの最も小さな生産地で育てている地味な品種が地球の反対側で注目を集め始めていることに誇りを感じてくれることを期待していましたから。」しかし幸運なことに、彼は翌日信頼のおけるドメーヌ・ジャン・ルイ・ティソで歓待を受けることになる。彼らはアドバイスだけでなく、日曜のランチまで提供すると言って聞かなかった。ヴァレリー・ティソ(Valérie Tissot)が言った。「これがジュラなんです。これが私たちのやり方です。さあ食べますよ。」

私はクリッテンデンの2013スー・ヴォワル・サヴァニャンのカスク・サンプルに大きな感銘を受けた。それはオーストラリアのモーニントン・ペニンシュラで育ったブドウから作られているものだった。そのワインには今や、このスタイルのジュラ・ワインに見られるクミンやカレー粉のような香りがあり、内向的で退屈な2011から大きな一歩を踏み出していた。

面白いことに2009年、オーストラリア人が「おかしな」サヴァニャンという品種を流行のアルバリーニョの代わりにあてがわれたことに驚き、政府の苗木業者を訴えると騒いでいたちょうど同じ頃から、ジュラ・ワインはアメリカ東海岸のソムリエに代表される流行仕掛人たちによって大きな波に乗っていた。私のワイン・ライター仲間であるウィンク・ローチ(Wink Lorch)は「ジュワ・ワイン」をこの分野の英語の専門書として初めて自費で出版した人物だが、ニューヨークでは今やセレブ扱いである。

必然的に彼女は16名のジュラの生産者がロンドンまでやってきた先日のテイスティングの主催者の一人となった。ロンドンでジュラ・ワインは流行に敏感なワイン・バー、レストラン、小売業者でじわじわと人気が高まっている。彼女はまた、16種のヴァン・ジョーヌのテイスティングを1988まで遡って流行に敏感なソムリエ達に提供した。私は心から、それらがどれほど素晴らしい宝であるかを彼らが気づいてくれるよう祈っている。

残念ながら、この流行はここ3年の、特に2012と2013の非常に収量が少なかったヴィンテージと重なってしまったため、何人かの生産者、例えばラベ(Labet)のように前回のロンドンでのテイスティングに参加していた生産者は参加を見送っていた。また、ジュラの多彩な農業が混ざり合うジュラの丘でブドウ畑はたった2000ヘクタールしかなく、生産されるワインの60%が農協(安価なスパークリングの大いなる供給源でもある)またはネゴシアンから作られているため、個々のジュラのドメーヌによるワインはけして安価にはならない。

しかし、それらには独自のスタイルと味わいがある。シャルドネとピノ・ノワールは隣接するブルゴーニュのブドウと言われているが、おそらくジュラで最も多く植えられている品種であり、独自の軽やかで生き生きとしたスタイルのワインとなる。そしてこの地域には強く鼻を刺激するサヴァニャンだけではなく、まだまだ特別な赤ワイン用品種が2つもあるのである。その品種はどちらも明らかに、そして場合によっては都合よく、アルコールが低く仕上がる。

プールサール(Poulsard/Ploussard)は非常に軽やかで柔らかい赤、普通ではありえないトマトのような色をしたワインを生み出す。古典的なワイン・バーのネタになりそうだ。またトゥルソーは今まさに流行を享受しているカリフォルア風の品種で、類まれなワインを生み出す。プールサールのように低アルコールでありつつきめ細かいタンニンを持ち合わせ、プールサールほど酸が高いわけではないもののラズベリーからスミレ、そしてエンピツのような香りに至るまで非常に幅広い独特の香りを持つワインとなる。

最近になるまでジュラは全くもって閉ざされた地域で、外部からの投資は実質的に皆無だった。おそらくそれがワインの特別な個性を保つことができた理由だろう。

マコンの生産者、ジャン・リケール(Jean Rijckaert)は自身のドメーヌをジュラに1998年に立ち上げたが、ジュラとマコンの中間のようなスタイルのシャルドネの管理を、新しい共同経営者であるフローラン・ルーヴ(Florent Rouve)に譲りつつある。

注目を集めるブルゴーニュの投資家によって作られるワインがどのように進化していくのかを見届けるのは面白いに違いない。ヴォルネイにあるドメーヌ・マルキ・ダンジェルヴィル(Domaine Marquis d’Angerville)のギョーム・ダンジェルヴィル(Guillaume d’Angerville)がジュラへの投資を決めたのは、タイユヴァンのソムリエが非常に説得力のあるアルボワのシャルドネをブラインドで出してきたときだった。5ヘクタールのブドウを手に入れ、自身のドメーヌ・デュ・ペリカン(Domaine du Pélican)を2012年に設立するには、全員が彼の動機に懐疑的な15名の地元の人々から成る審査会を通過せねばならなかった(詳細は木曜に公開された「Jura current releases」指南を読んで欲しい)。彼の初めてのワインはまだまだ不安定だと評されるかもしれないが、彼はさらに4.5ヘクタールの畑を「ジュラの法王」と呼ばれるジャック・ピュフネイ(Jacques Puffeney)から借り、「法王」のアドバイスも受けている。これは間違いなく注目に値する。

お勧めジュラ・ワイン

以下のワインは見つけるのは難しいかもしれないが、入手する方法はあるだろう。wine-searcher.com が役に立つかもしれない。

Dom Benoit Badoz, Les Roussots Trousseau 2013 Côtes du Jura
(£14.50 The Sampler – a rare Jura bargain)

Dom Baud et Fils Chardonnay 2013 Côtes du Jura

Dom Daniel Dugois Savagnin 2011 Arbois

Fruitière Vinicole d’Arbois, Cuvée Béthanie Chardonnay/Savagnin 2013 Arbois

Dom Pignier, Sauvageon Savagnin 2012 Côtes du Jura

Dom Pignier, Chartreux Chardonnay 2011 Côtes du Jura

Dom Pignier, Les Gauthières Trousseau Rouge 2013 Côtes du Jura

Dom de la Pinte, Fonteneille Chardonnay 2012 Pupillin

Dom de la Pinte Savagnin 2008 Arbois

Dom Rijckaert – Rouve, Les Sarres Savagnin 2010 Côtes du Jura

Dom Rolet Père et Fils Chardonnay 2011 L’Étoile

Dom André et Mireille Tissot, Clos de la Tour de Curon Chardonnay 2012 Arbois

Dom André et Mireille Tissot, Les Graviers Chardonnay 2012 Arbois

Dom Jean-Louis Tissot Poulsard 2011 Arbois

Dom Jean-Louis Tissot Trousseau 2011 Arbois

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