ARTICLEワイン記事和訳 本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

130.jpgこの記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズに掲載されている。

アーヴァイン(Arvine)、コトー・ブルギニヨン(Coteaux Bourguignons)、セラー・トラッカー(CellarTracker)、崩積土(colluvium)、ステファン・ドゥルノンクール(Stéphane Derenoncour)、ヴィンヤード・エコシステム(vineyard ecosystem)、ゲオスミン(geosmin)、グリニャン・レ・ザデマール(Grignan-les-Adhémar)、ヒストリック・ヴィンヤード協会(Historic Vineyard Society)、成分表示(ingredient labelling)、レイスウェイト(Laithwaite)、マブロトラガノ(Mavrotragano)、微生物学的テロワール(microbial terroir)、ムツヴァネ(Mtsvane)、オプティカル・ソーティング(optical sorting)、栽培権(planting rights)、プラスティック・ボトル(plastic bottles)、プランプトン(Plumpton)、プロキシマル・センシング(proximal sensing)、レッド・ブロッチ(red blotch)、ロタンドン(rotundone)、ソーヴィニヨン・グリ(Sauvignon Gris)、土壌生物相(soil biota)、サントリー、トリビドラグ(Tribidrag)・・・

これらの単語は新しいオックスフォード・コンパニオン・トゥ・ワイン第4版に加わった300もの項目の一部だ。そして以下の太字の単語は世界のワインの進化を如実に示すバロメーターと言える。中には未来への急進というよりは伝統への回帰を示す言葉もある 。(訳注;太字がわかりにくいので赤字にしました)

現代は間違いなく、今世紀初頭にもてはやされたものとは大きく異なる基準でワインが審査さる時代であると言える。重さは排除され、繊細さが評価される。技術という言葉は、かつてオーストラリアがその隆盛を極めた時代には世界中のワインメーカーが熱狂した言葉だったが、今ではワイナリーではもはや禁句と言っても過言ではない。一方で、完璧なブドウを完璧なタイミングで確実に収穫すると言う意味で、積極的に畑で利用されるようになった。

フランスのビオデナミの畑では昔ながらの馬(horses)が最新の武器だ。トラクターよりもはるかに土壌圧縮を低減でき、有益なミミズ(earthwormsの数を間接的に増やすことができるためだ。どちらの項目も今回初めて登録された。

自然派ワイ(Natural wine)という言葉はここ数十年存在していたが、この数年で主流となり、世界中の生産者が添加物(additive)不使用ワインを支持するようになった。関連する初出の事柄としてはペット・ナット(pet-nat:訳注;ペティヤン・ナチュレルの略語)として知られるセミ・スパークリングや、赤ワインと同じように果皮などと共に発酵させるオレンジ・ワイン(orange winなどがある。

関連する傾向は、(忌み嫌われるようになった新樽とは明らかに真逆に位置する)コンクリート(concrete)という項目にも反映されている。かつてこれ以上ないほど時代遅れだとみなされていた素材が今その息を吹き返したのは、ニュートラルで、ステンレスとは違い温度にほんのわずかな影響しか与えないためだ。サンテミリオンの1級格付けでLVMHの資金援助を受けているシャトー・シュヴァル・ブランですら、ぎっしり並んだ緻密な形の新しい発酵槽にコンクリートを選んだ。世界中のワイナリーが熱狂するのは今や卵型のコンクリート(concrete egg)で、若いワインと発酵中の澱の理想的な接触を促進すると考えられている。

アンフォラ(amphora)に関する項目はつい最近まで、オックスフォード・コンパニオン・トゥ・ワインに多大な貢献をしてくれた著名な歴史学者たちだけが興味を示すものだったが、今回「近年の利用法」という項目を追加した。その形と、コンクリートや粘土といった素材がワインの醗酵および熟成のために大きな注目を集めているためだ。この動きはフリウリのアイコン・ワインメーカーであるヨスコ・グラヴナー(Josko Gravner)に触発されたことと、ジョージア共和国の独特な、ほとんどが自然派のワインの台頭に後押しされた結果でもある。ジョージアの項目は最も大きく原稿が書き換えられたものの一つだ。そしてジョージアの特別な陶製のワイン容器、クヴェヴリ(qvevri)が独自の項目となったことも必然だ。

概念に変わりはないものの、項目名を変更することで新たな見出しとなったものもある。現代のワイン界で稀に見る成功を収めた生産地であるプロセッコは、次第に人気の高まる彼らのワインがそれに使われる主要な品種の名にちなんでいるため、その品種を植えれば誰でもそのワインをプロセッコと呼ぶことができることに気付いた。そのため、狡猾にもそのブドウ品種名を2009年にグレラ(Glera)と変更し、プロセッコを保護対象となる原産地名称としてフリウリにある同じ名前の村(およびイタリア北部の大部分)を含む地域にまで拡大することでEUに登録することに成功した。

だが、この品種だけがイタリアのこの地域の新規項目では全くない。デザートワインであるトカイを誇りとするハンガリー人はトカイ(Tokaj、Tokay 、Tocai)の名が他で使われないようにすることに成功した。そのためフリウリでトカイ・フリウラーノとして知られているソーヴィニョナッセまたはソーヴィニヨン・ヴェール(Sauvignonasse/Sauvignon Vert)は今では単にフリウラーノ(Friulano)として知られ、項目も更新した。一方スロベニア側の国境ではかつてTokaj とラベル表記して売っていたワインをスロベニア人が頭を使い、逆から読むヤーコット(Jakot) として売っているのも(ごく短いものの)新しい項目である。タイ・ビアンコ(Tai Bianco)がイタリア北東部でのこの品種に対する新しい呼び名だが、タイ・ロッソ(Tai Rosso)はグルナッシュの呼び名として使われており、これもまたマイナーではあるが新版の追加項目となった。

とある一連の項目はとても重要かつ陰鬱なものだ。粗悪品と詐欺の項目は1994年の初版からあるがほとんどが過去のことだった。しかし今は違う。新たな項目として偽造ワイン(counterfeit wine)、 認証(authentication) 、来歴(provenanceなどという言葉が劇的に拡大したワイン投資やオークションの項目に加えられることになった。第3版が出版された2006年には少なくとも1件はワイン基金(funds, wineの項目内)、すなわちワインをケース単位で現金に換えてくれる基金が存在していた。しかしその最盛期は高級ワインの価格が高騰した後に衰退したため7,8年ほど続いただけのようだ。香港(Hong Kongに関する新たな項目には経済的な面、すなわち2008年にワインの関税が廃止となって以来香港がアジアのワイン拠点となった事実が反映されている。

確かに香港はアーバン・ワイナリー(urban wineries)の流行の代表例と言えるかもしれないが、新規項目で注目をすべき地名は輸入マストからではなく自社畑で育てたブドウからワインを作っているものがほとんどである。その多くが、例えばスウェーデン(Sweden)ノルウェイ(Norway)のようにブドウ栽培の限界に位置し、気候変動のおかげで本誌に登場することとなった産地だ。タヒチ(Tahiti )レソト(Lesotho)といった産地も新規項目に入っているが2006年時点でワイン用ブドウを栽培していることを単に私が知らなかっただけである。一方ブリティッシュ・コロンビア(British Columbia)エリム(Elim)は第3版の大きなくくり(それぞれカナダと南アフリカ)から独立することとなった。チリの項目ではエルキ(Elqui)は第3版でついでに触れられた程度だったがそれ以降新しいワイン産地としての地位を確立し、800㎞南のイタタ(Itata)は劇的な復活を遂げている。

新規項目の中には単に時代の変遷を反映したものもあり、Oxford Companion シリーズのどの本でも現代的な事象として取り上げられるものもある。アプリ(apps)、ソーシャル・メディア(social media)、フィルム(films)、サステイナビリティ(sustainabilit)などである。他にも味覚の進化によるもの、煙臭(smoke taint)、テントウムシ臭(ladybug taint)、シラー・デクライン(Syrah decline)、(ブドウの)幹の病害あるいは脅迫者や恨みを持つ元従業員による非道な行為として知られる破壊行為(vandalism)などがある。

新たな項目の中には第3版が準備されていた頃ほんの小さなスケールだったものが確立した現象もある。もしこの第4版を不要だと思うワイン愛好家がいるなら私からたった二つだけ、新しい項目を述べておこう。プレマチュア・オキシデーション(premature oxidation)ミネラル(minerality)だ。

オックスフォード・コンパニオン・トゥ・ワイン第4版 (£40/$65)は今週木曜、9月17日に9年ぶりの改訂版として出版される。その改訂期間はこれまでで最も長い。

副編集者であるジュリア・ハーディングと私は2年以上もの月日を費やし、第3版の60%以上の項目の改訂と300の新規項目の追加をした結果、第4版にはおよそ4000項目が掲載されることになった。

約100万語、三段組み912ページ、90枚の写真、完全に更新された地図とイラスト。180名以上の各専門分野の専門家が寄稿し、そのうち58名は新規の執筆者である。
www.oxfordcompaniontowine.com も参照のこと

(原文)