ARTICLEワイン記事和訳 本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

133-1.jpgこの記事の短いバージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。「Salomon Syrah v Shiraz taste-off」内のテイスティング・コメントも参照のこと。

ワイン学習者が最初に習うことの一つに、オーストラリアのシラーズは北部ローヌのシラーと同じという事実がある。世界的に有名な品種はそのほとんどが世界中同じ名前で通っているが、最近非常に人気が高く世界で6番目に栽培面積の多いこの品種だけは2つの全く異なる性質を有している。

シラーズは典型的には肉付きが良く豊満で凝縮感があり力強い、バーベキューの際にその力を見せつけるようなタイプのワインだ。一方の典型的なシラーははるかに辛口で香り高く、時には儚く(リヨンのすぐ南にあるコート・ロティのように)、時には理知的で(はるか南部、花崗岩のエルミタージュの丘から生み出されるワインのように)あるが、全般的にシラーズよりフレッシュだ。

この多重人格の品種からワインを作る場合はそれをシラーズと呼ぶか、シラーと呼ぶか、理想的にはそのスタイルによって、実際には時に流行を考慮しながら決めなくてはならない。オーストラリア・ワインが流行の最先端だった頃は、シラーズは南アフリカやチリの多くの生産者が好む選択肢だった。そのターゲットだったヨーロッパのワイン愛好家たちが当時、オーストラリアから輸出されたバロッサやマクラーレン・ヴェールのシラーズに夢中だったためだ。

それより早い時期には、シラーという名称が一般的だったカリフォルニアで勢力を増していた比較的大量生産のワインにもオーストラリア人気にあやかろうとシラーズと表記するものが現れ、一部のフランスワインですら、例えばワイルド・ピッグ(明らかにフランス語の名前ではないが)などはシラーではなくシラーズと表記していた時期があった。

だが近年赤ワインの理想的な概念が大きな転換期を迎えたため、オーストラリア・ワインの生産者ですら、とりわけこの品種からよりフレッシュなバージョンを作ろうとする場合には南半球の他の地域での変化に倣い、自分たちのワインをシラーズではなくシラーと呼ぶようになってきた。ビーチワースのジュリアン・カスターニャ(Julian Castagna)は自身の繊細なワインを1998年に最初にシラーと呼び始めた一人だ。

私は、世界の最も有名なシラーおよびシラーズのサンプルをブラインドで比較するという非常に興味深いテイスティングの間、この点に思いを巡らせていた。このイベントは今月初め、ロンドンでオーストリアの生産者であるバートルド・サロモンとゲルトルド・サロモン(Bertold and Gertrud Salomon)が開催したもので、彼らはこれもまた1998年にマクラーレン・ヴェールの南35kmにある、比較的冷涼な南オーストラリア州フルリオ半島にブドウを植えている。バートは1980年代にシュルンベルガーで働いて以来、オーストラリアのワインをオーストリアへ輸入しており、彼とゲルトラッドはクレムスタールにあるサロモン・ウントホーフという一族のワイナリーとは別に、自身のオーストラリアでの起業の夢を温めてきた。

現在彼らは毎年2月と3月をオーストラリですごし、バートルドの兄エリックが2007年に亡くならなければオーストラリアに永住する予定すらあった。彼らのシラーズ・カベルネのブレンドはアデレード郊外、19世紀にイエズス会の神父だったバートの先祖が教会を建てた地名にちなみ、ノーウッド(Norwood)と呼ばれている。

オーストラリアで起業したサロモン・エステートの目玉はアルトス(Alttus)で、彼らの畑の中で最も標高の高い畑に由来し、そのワインは少なからず北部ローヌの繊細さと冷涼なヴィンテージを感じさせるにもかかわらず、彼らはそれをシラーズと呼ぶ。今回のテイスティングの意図はアルトスと、同じヴィンテージ(2003、2009、2010)のオーストラリアで最も有名なペンフォールズ・グランジ、北部ローヌの最も著名な生産者のエルミタージュをブラインドで比較することだった。バートルドが事前に送ってきたメールで書いているように、「野心的で、ほとんど自殺行為とも言えるラインナップ」と言えるだろう。

そしてさらにそのプレッシャーを増強すべく、サロモンたちは第一線のワイン評論家たちをヨーロッパ全土およびオーストラリアからこのテイスティングに呼び寄せた。期待に胸を膨らませてロンドンのバー・ブリュ(Bar Boulud)のテーブルを囲んだのはドイツのイェンス・プライウェ(Jens Priewe)、スイスのアンドレアス・ケラー(Andreas Keller)、オーストリアのペーター・モーゼル(Peter Moser)、スウェーデンのミケル・ジャマイス(Michael Jamais)、ポーランドのトマス・プランジ・バルチンスキ(Tomasz Prange-Barczynski)、
オーストラリアのソフィ・オットン(Sophie Otton)と私、そしてプノンペンでの休暇から帰る飛行機から直行したイギリスのワイン・ライター代表、スティーヴン・ブルック(Stephen Brook)だった。下の写真の物思いに沈んだ表情のテイスターはテーブルを囲んで反時計回りに、プリウェ、ロビンソン、モーゼル、オットン、ジャメ、プランジ・バルンスキ、ケラーだ。

133-2.jpg

この種の比較試飲はけして目新しいものではない。来年にはあの有名なパリの審判で旧世界と新世界の候補をブラインドで比較してから40周年となる。だがグランジとフランスの最も偉大なシラーを含む企画は比較的珍しい。おそらくつい最近になるまでオーストラリア側のブドウがエルミタージュやコート・ロティと性質がかけ離れたていたためだろう。

我々はまず肩慣らしとして2012と2010の、サロモンのやや野望の低いフィニス・リヴァー(Finniss River)とドゥエマーニ(Duemani)のトスカーナのシラー、ポール・ジャブレ・エネ(Paul Jaboulet Aîné)の有名なエルミタージュ・ラ・シャペルのセカンドワインであるプティ・シャペル(Petite Chapelle)のフライトから始めた。このロットではどちらがオーストラリア・ワインかは明らかに熟度と甘味が高かったため明白だった。ここまでは全く予想通りである。

次の3つのフライトでは、ペンフォールズのグランジはその類まれなる凝縮感、ユーカリの香り、そして咳止めシロップの香りが顕著だった(そして非常に良かった)一方、サロモンのアルトスに関しては、私は自分が各テイスティング・ノートに「間違いなく」と記しており、うち2つには「これは間違いなく北部ローヌだ」と書いていた。(非常に温暖だった最も厳しいヴィンテージである2009に関してはやはり、オーストリア人によるオーストラリア産アルトス3本の中で最もアルコールが高く明らかにオーストラリア風な出来になっていた)。

私がオーストラリアと間違えた、あるいはもう少し言葉を濁し、間をとって赤道あたり、と例えた北部ローヌのワインはどちらも最高品質のエルミタージュ(その古い名前のErmitageと表記される)であり、シャプティエが自信をもって作ったものだった。これはそれほど驚くことではない。なぜならミッシェル・シャプティエはオーストラリア好きで知られており、シラーズに特化した複数のオーストラリアの「前哨基地」を北部ローヌから運営しているのだから。

他のヨーロッパのワインは非常にわかりやすく、軽やかで辛口だったが、成功の度合いはバラバラだった。シャーヴ(Chave)のエルミタージュは間違いなく2003のフライトで最も高価で通常は屈強なワインであるはずが、保存状態は申し分のないはずのノルウェイの独占販売団体から購入したものにも関わらずその熟成状況には失望させられた。ブラインド・テイスティングでは二度、両社のスタイルが全く異なっているにもかかわらず私はサロモン・エステートのアルトス2003(72.75ポンド、リー&サンデマン(Lea & Sandeman))をペンフォールズのグランジ2003(332.46ポンド+送料 レイ&フィーラー(Lay & Wheeler))より好ましいと感じた。

シャプティエのワインに加え、ラ・シャペル2010は非常に良く、2003よりはるかに良かった。ギガルのシャトー・ダンピュイ・コート・ロティ2003と2009も同様である。我々はギガルの天文学的な値段の付いた単一畑のコート・ロティの「ララ」も、ギガルの2010もテイスティングしていない。一般的に徐々に違いがなくなってきている南北半球どちらにおいても2010は2009より更によいヴィンテージであったにも関わらず、だ。

私はバートルドに自分のワインをシラーと呼ぼうと考えた事はないのかと尋ねてみた。「いいえ」彼は言った。「その必要がありますか?」と。私は今週初めに我々が開催した南アフリカの新星たちのテイスティングでケープの生産者の中にシラーとシラーズ両方を作る生産者がいたのを思い起こした。彼らはこの品種が生み出すことのできる二つの大きく異なる二つのスタイルをはっきりと認識していた。

最高のシラー/シラーズ(1本当たりの価格を併記)

Penfolds Grange 2010 South Australia £459

Paul Jaboulet Aîné, La Chapelle 2010 Hermitage £161

Tua Rita Syrah 2010 Toscana £109

Guigal, Château d’Ampuis 2009 Côte Rôtie £90

Salomon Estate, Alttus 2003 Fleurieu £72.75

Salomon Syrah v Shiraz taste-off」内のテイスティング・コメントも参照のこと。