ARTICLEワイン記事和訳 本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

145.jpgこれはフィナンシャル・タイムズに掲載した記事のロング・バージョンである。写真は67ポール・モールでマット・マーティン(Matt Martin)が撮影したものだ。

この華やかな季節、お祝いに飲むスパークリングのお勧めに起こった大きな変化と言えば、最高品質の泡が今やイギリスで作られているという点だろう。

私は常にイギリスのスパークリングの成功を願ってきたが、過去にテイスティングしたものはおおむねよくできてはいたものの、やや単調で酸が強すぎるという傾向が長いこと続いていた。ところが最近になって最高品質のイギリスのスパークリングは、シャンパーニュ以外あり得ないと考えている向きにも多くを与えてくれるという確信が持てた。

最近私は魅惑的に美しくデザインされたグルメ雑、ノーブル・ロット主催の発見に満ちたブラインド・テイスティングに参加した。コンセプトは編集者たちにお気に入りシャンパーニュとイギリスのワインを比較しようと言うものだった。シャンパーニュはノン・ヴィンテージのブレンドからポル・ロジェ、ヴーヴ・クリコ、テタンジェといったもの、ベレシュやシャルトーニュ・タイエ、マルゲやサヴァールまで多岐にわたった。

テイスティング・パネルにはフランスのソムリエも数人おり、ワインの内容を知らされていなかった我々全員が12本のワインは同数のシャンパーニュとイギリスのスパークリング・ワインからなると予想していた。ところが驚いたことにイギリスの物はたった4本で、更に驚いたことには全員の点数を合算する方式で最高点が付けられた2本はどちらもイギリス・ワインである、ハンブルドン・エステート・クラシック・キュヴェ(Hambledon Estate Classic Cuvée;28.5ポンド www.hambledonvineyard.co.uk)とナイティンバー・クラシック・キュヴェ(Nyetimber Classic Cuvée;23.99ポンド Hennings および Berry Bros & Rudd)だったのである。

20点満点で17.5点以上つけた私の総合的なお気に入りは、現行のヴーヴ・クリコ・NV(29.88ポンド Amazon.co.ukおそらくLVMHのオーナーはがっかりするだろう)だと予想したものだったが、じつはこれもイギリスのワイン、ウィストン・エステート・キュヴェ2010(Wiston Estate Cuvée;32.95ポンド www.wistonestate.com)だったとわかった。それ以外のイギリス・ワイン、ガスボーン・リザーヴ2010(Gusbourne Reserve;29.95ポンド Lea & Sandeman)にも私は17点を付けているが、ノーブル・ロットお気に入りのシャンパーニュの中には14.5点という低い点をつけたものもあった。

一時期、業界のプレスはシャンパーニュがプロセッコや一部のカヴァとの競合のためにその地位が脅かされているとしきりに噂していたが、おそらく海峡を隔てた新たな脅威がワインと二酸化炭素が織りなす世界で彼らの優位性を脅かしていることにも目を向けるべきだろう。

もちろん、プロセッコやカヴァにはシャンパーニュよりはるかに安価であると言う偉大な魅力がある(この時期人々を引き付けるためにスーパーマーケットで販売されている安価なシャンパーニュは別として)。イギリス・ワインは一般的に地価の高い場所で不安定な環境下で作られている(2011、2012、2013年の収穫は全て困難な状況に直面した)ため、けして安価ではない。イギリスの泡を飲もうとすれば対抗馬であるシャンパーニュとコストの面では変わらない。

だが、私自身が今回のテイスティングでとても喜ばしい進歩だと感じたのは、どれがシャンパーニュで、だからそれが優れているのだと考えることなく、熱のこもったこんなコメントを書いている自分に気付いたことだった。「洗練されている。おそらくとても良いイギリスのものだろう」’

シャンパーニュをイメージして非常に良く作られたスパークリングの供給国と言えばイタリアだろう。プロセッコは非常に人気が高い一方、その多くはとても工業的な方法で作られ、シャンパーニュに使われるような伝統的製法ではない。また、私からするとやや甘いと感じることもある。だがフランチャコルタとトレントでははるかに繊細で辛口の泡を作っている。その多くは我々ワインオタクにとってありがたいことに、ボトルの中の情報が全てバック・ラベルに記載されている。すなわち、ヴィンテージ、デゴルジュの日付、ほとんどの場合にはブレンドの比率(通常はイギリスの泡同様、シャンパーニュの偉大な2つの品種、シャルドネとピノ・ノワールの)などだ。

フランチャコルタのカ・デル・ボスコ・アンナマリア・クレメンティ1985(Ca’ del Bosco, Annamaria Clementi;85ポンド、Vini Italiani)は最も口うるさいシャンパーニュ派ですら感動させるに違いないし、フェッラーリ・ペルレ2008(Ferrari Perlé;25.79ポンド、Drinks Direct)は長期熟成して非常に複雑なシャルドネのみで作られたスパークリングで、アルプス山麓の斜面から生み出される。これら生産者は2社ともけして掘り出し物というわけではない。どちらも間違いなく、それぞれの地域を牽引している
生産者だからだ。だが悲しいかな、これ以外の珍しい例となるとイギリスの小売店で見つけることはかなり難しくなる。

スペイン北東部で最高品質かつ魅力的なストーリーを備えたスパークリング・ワインを作ろうと懸命に努力を重ねる生産者と言えばマニュエル・ラベントス(Manuel Raventós)であり、彼のラベントス・イ・ブランはカタルーニャでしかなしえないブレンドで、注目に値する。彼のスパークリング・ワインはカヴァとしてではなく新たなアペラシオンである、コンカ・デル・リウ・アノイア(Conca del Riu Anoia)として販売されている。

それ以外に昨年感銘を受けたシャンパーニュ以外のスパーリングは(私がその他の世界中のスパークリング・ワインの生産者の非難を避け、冒険心に欠けていたかを反映しているかもしれないが)珍しくアルゼンチン、メンドーサのものだ。パブロ・クネオ(Pablo Cuneo)の作るこのブレンドは75%ピノ・ノワール、25%シャルドネでトラディショナル・メソッドを用い、その十分な熟成と食欲をそそる辛口の後味は価格を考慮すると非常によい。一方、ワインズ・オブ・アルゼンチンで先の2月にテイスティングしたメンドーサのルカ・マレン・スパークリング・ブリュットNV(15.95ポンド、Corney & Barrow)が現在イギリスで販売されているものと同じブレンドであることを祈っている。

というのも、これはノン・ヴィンテージ(NV)・スパークリング・ワインの宿命というべき問題だからだ。一般的に我々はバック・ラベルから実際にどのようなブレンドのものが販売されているのか知る術がない。この点では良心的な多くの栽培者が巨大なシャンパーニュ・ブランドに勝っている。このブドウ栽培者の作るシャンパーニュ(グロワーズ・シャンパーニュ)は常にブレンドの個別情報をバック・ラベルに記載している可能性が高いのだ(もちろん巨大企業も最近は詳細のラベル表示を始めてはいるが)。つい最近まで、グロワーズ・シャンパーニュは一般的に、メジャー・ブランドとして知られている巨大なシャンパーニュ・ハウスのブレンドよりはるかにコストパフォーマンスがよい傾向にあった。

ただ残念なことに、価格を下げることで競合に対応している大手シャンパーニュ・ハウスと対照的に、多くの生産者たちは今その価格を上げている。そのためグロワーズ・シャンパーニュ(通常ラベルに記載されている小さなRM(レコルタン・マニピュラン)の文字でNM(ネゴシアン・マニピュラン)というブドウを買い入れるシャンパーニュ生産者と区別することができる)のコストパフォーマンスが良いとは一概に言えなくなってしまった。

今、結局大切なのは生産者および個人のブレンド、すなわちキュヴェによるのである。グロワーズ・シャンパーニュのノン・ヴィンテージのブレンドの中ではラエルト・フレール・ル・7NV(Laherte Frères, Les 7;45ポンド、The Wine Society)に心ひかれた。これはシャンパーニュにある7種全ての品種をブレンドしたもので2010年のブドウが主体だが一種のソレラ式のブレンド方式で熟成されている。エグリ・ウーリエは圧倒的に信頼のおけるグロワーズ・シャンパーニュだが、残念なことにトラディション・グラン・クリュNV(55ポンド、Roberson)は価格が上がる傾向にある。今年初めに心ひかれたそのブレンドは澱の上で46か月熟成し、2012年にデゴルジュしたものだった。

その他のシャンパーニュとしては以下が私の今のお気に入りだ。だが残念なことにほとんどが安売りはしていない。

価格相応以上のシャンパーニュ

私は幸運なことに今年多くの素晴らしいシャンパーニュをテイスティングする機会に恵まれた。そしてドン・ペリニヨン、ドン・リュイナール、クリュッグ、ポル・ロジェ・ウィンストン・チャーチル、ルイ・ロデレール・クリスタル、テタンジェ・コント・ド・シャンパーニュ、あるいは比較的新顔のアルマン・ブリニャックなどといった名を冠した真の意味で上質なワインを探すことは難しくない。これらの素晴らしいシャンパーニュの垂直テイスティングボトルとマグナムの比較シャンパーニュとスパークリングも参照してほしい。

以下は昨年私が感銘を受けた比較的安価なもののリストで、価格の安い順に並べてある。

Marc Chauvet, Brut Tradition NV £24 The Real Wine Company

Henriot Brut Souverain NV £25 Taylors Fine Wine and many others

Vazart-Cocquart NV £29.95 www.plus-de-bulles.co.uk

Larmandier Bernier, Longitude Blanc de Blancs Premier Cru £34.95 Lea & Sandeman and others

Aurelien Suenen NV £38 www.robersonwine.com

Charles Heidsieck 2005 from £40 Millesima and many others

Alfred Gratien 2000 £42 The Wine Society

Paul Dethune Grand Cru 2005 £55 Hedley Wright

Louis Roederer 2004 £55.95 Lea & Sandeman

Pol Roger Brut 2004 £56.99 www.waitrosecellar.com

René Geoffroy Extra Brut 2004 £60 Berry Bros & Rudd

原文