この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズに掲載されている。テイスティング・ノートも参照のこと。
40年間ワインの現場を見てきて、これほど流動的な状態を経験したことがない。数年前まで世界のワイン生産者は同じ方向を向いていた。大雑把に言うとフランスの伝統的な手法を地元で真似て、最も力のあるアメリカの批評家の好みとされるスタイルに多少なりとも近づけようとしていた。非常に大きく力強いワインが何年もの間幅を利かせていた。
ところが現在は新たなサブカルチャー、正確に言うとカウンター・カルチャーが台頭してきた。世界中で生産者の新しい世代が確立された典型に背を向け、古いアイコンとは全く異なるワインを生み出し始めているのだ。彼らの多くは自然派ワイン、すなわち化学物質の添加、特に硫黄に関連するものを最小限にする派閥の運動に触発されている(二酸化硫黄は発酵の自然な副産物だが、抗酸化剤あるいは保存剤として古くから用いられており、今でもジュースやドライ・フルーツにはかなりの量が含まれている)。
新鋭のワインの典型は、酵母の添加なしに発酵を行い、アルコールは低く、新樽を使用することは少なく、酸やタンニンを添加せず、熟成が早く、伝統的ではないワイルドで奇抜なラベルが付けられているものが多い。これに成功したものは心躍る別の惑星から吹き込まれた新しい活力の息吹のような味がするが、失敗したものはネズミの糞の入った5日目のサイダーのような味にもなる。
このようなワインはヨーロッパじゅう(多くは厳重に管理されたアペラシオンシステムの外)、そして多くの有名なワイン生産国で作られている。すなわち南アフリカ、チリ、カリフォルニアはもちろん、アルゼンチンやニュージーランドですらそのような動きがみられるようになった。このような中で典型的な口ひげと挑戦的なTシャツが最も不要と思われていたのがオーストラリアだった。だがなんと、ここでもそのような動きがあるというのだ。
イギリスに拠点を置く型破りのワインを扱うインポータ、例えばル・カーヴ・ド・ピレーヌ(Les Caves de Pyrène)、インディゴ・ワイン(Indigo Wine)、スウィグ(Swig)などで様々なワインをテイスティングして以来、私はシドニーでの短い滞在の間にできるだけ多くのワインを試したいと強く思っていた。そこで(まさに豊かな口ひげを蓄えている)同僚のマックス・アレンにお勧めを挙げてもらうよう頼むと、彼は友人のワイン・ライター、マイク・ベニー(Mike Bennie)に相談することを勧めてくれた。彼は最近そのようなワインをデンマークのレストラン、ノマが一時的にシドニーに移転している間のワイン・リストのために集約していたからだ。
その結果はシドニーのワイン・オーストラリアのオフィスでアルティザン・テイスティングと銘打った83もの新鋭オーストラリア・ワインをテイスティングするという素晴らしい一日となった。この公的機関の長であるブライアン・ウォルシュ(Brian Walsh)は最近この国で最も尊敬を集める家族経営のワイン生産者の一つ、ヤルンバ(Yalumba)のチーフ・ワインメーカーを引退したばかりで、このテイスティングのためにアデレードから飛行機でやってきた。「この部屋にこんなにコルクがあるのを初めて見ましたよ」現在オーストラリアのワイン業界で優勢なスクリューキャップに慣れているワイン・オーストラリアのスタッフが抜栓に苦戦する様子を見ながら彼はそう言った。
マイク・ベニーはこの修行のガイドとなってくれた。私はそこにシドニー・モーニング・ヘラルドのワイン・コラムニストで、かつてこれら新鋭ワインに疑問を投げかけていた友人のヒュオン・フック(Huon Hooke)と、シドニーを拠点とし、熱烈なファンに「改宗」した才能あふれるカヴィタ・ファイエラ(Kavita Faiella)も呼ぶことを提案した。マイクは間違いなくその改宗者なのだが、彼が説明するにはオーストラリアのワイン職人はスクリューキャップよりコルクを選ぶ傾向にあるそうだ。これは彼らの作るワインのロットが小さく、手でコルクを打栓するほうが自動化したスクリューキャップ機を使うより安く済むからだそうだ。それには納得したものの、分厚いワックスをコルクの上からかけられたボトルを開けるのに要する時間には不満を感じずにはいられなかった。もっとも、一度に何本も抜栓する機会がある人というのはそれほど多くないとはわかっているのだが。
これらのワインに共通するもう一つの特徴は独創的な名前の多さだ。西オーストラリアのラ・ヴィオレッタ(La Violetta)の非常に珍しい樽熟成したリースリングには力強いチュートン調のフォントでダス・サクリレッグ(Das Sakrileg)というラベルが付けられていた。タスマニアの生産者、グレッツァー・ディクソン(Glaetzer-Dixon)はオーストラリアで最も権威のあるジミー・ワトソンを2011に獲得したが、そのリースリングはウーバーブランク(üBERBLANC)と名付けられている。一方でオコタ・バレル(Ochota Barrels)のピノ・ノワールはインペッカブル・ディスオーダー(Impeccable Disorder:訳注;完ぺきな無秩序の意)だし、BKワインズはスキン・ボーンズ(Skin’n’Bones:訳注;骨と皮の意)である(「アデレード・ヒルズの単一畑から作ったワインは品質と創造性に焦点を置いており、調和を求めてはいない」とある)。後者はその名を長いスキン・コンタクトに絡めている。これも最近流行の技術で発酵初期のワインをブドウの皮に通常の数時間ではなく数日間漬け込む手法だ。これにより白ワインはオレンジワインとなり、赤ワインにはさらに渋みが加わる。もう一つ人気の技術はある意味補酸に代わる手法で、彼らが「全房」と呼ぶものだ。これはブドウを発酵前に除梗しない手法である。
マイクはこれらワインメーカーの「意図」を説明したいのだと話した。今回のテイスティングでは特に素晴らしいワインばかりだったのだが、ほとんどの小売店でこれらを見つけることはできない点についてだ。彼が説明したこれらワインの興味深い背景はこれらワインがいかにレストランのワイン・リストからソムリエが直接販売することに重きを置いているかを明らかにしてくれた。そして彼らの多くが最近流行のワインメーカーに転身したソムリエであることも手伝い、中間業者を省いているということもわかった。
結果として我々全員がこれらのワインのほとんどを非常に楽しむことができた。ヒュオンはおそらく私よりも楽しかったのではないだろうか。オーストラリア・ワインに関わってきた古参の中には確立されたワイン学校の教えに従わないこれら新鋭の職人に否定的な意見もあろう。だがその多くを同時に経験する貴重な機会を得て、ブライアン・ウォルシュは彼らについて「オーストラリア・ワインの物語に加えるべき好例であり、海外からの訪問者には作り手をぜひ訪問してほしいと思います。私はただ、怪しげなワインが彼らの代表だと思われないことを願っています。」と述べた。
新たな多様性と創造性はいずれにしても私にとっては魅力的なものだった。ただ、地平線に一点の曇りがあるワイン均一化税(WET)に関する諮問文書だ。WETはワイン生産者にとって大きな税制優遇となっていたのだが一部の「仮想ワインメーカー」が不正に利益を得ていた問題を受け、2019年からワイナリーを持たない生産者にはこの制度が適用されなくなるというものだ。これら心躍る新鋭生産者の多くはほんのわずかな資本で比較的安価なブドウを使い誰かのワイナリーの片隅を借りてワインを作っていることを考えると、この件はオーストラリア・ワインというタペストリーから最も重要な糸の一つを引き抜くことになりはしないかと心配になる。官僚がこの点に気づくことを願いたい。
探すべきワイン
これらのワインのほとんどは生産量が非常に少ないため、皆さんが見つけられないかもしれない特定のワインではなく、少なくとも1本は素晴らしいワインを作っている生産者の名前を以下に挙げた。Wine-searcher.com で探すとよいかもしれない。
BK Wines, 南オーストラリア
Brash Higgins, 南オーストラリア
Circe, ヴィクトリア
Cobaw Ridge, ヴィクトリア
Collector Wines, キャンベラ
William Downie, ヴィクトリア
Eperosa, 南オーストラリア
Mac Forbes, ヴィクトリア
Glaetzer-Dixon, タスマニア
Jamsheed, ヴィクトリア
Luke Lambert, ヴィクトリア
Lark Hill, キャンベラ
Latta, ヴィクトリア
Lucy Margaux, 南オーストラリア
Murdoch Hill, 南オーストラリア
Ochota Barrels, 南オーストラリア
Punch, ヴィクトリア
Ravensworth, キャンベラ
Savaterre, ヴィクトリア
Schmölzer & Brown, ヴィクトリア
La Violetta, 西オーストラリア
Serrat, ヴィクトリア
Shobbrook, 南オーストラリア
Simão & Co, ヴィクトリア
Stoney Rise, タスマニア
(原文)