この記事のやや短いバージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。低硫黄ワインも参照のこと。
今世紀初頭から事実上すべてのワインには「亜硫酸塩を含みます」とラベルに表記されることとなった。その意味は何だろうか?
亜硫酸塩とは硫黄成分の総称で、発酵の自然な産物であり、全く添加をしなくても全てのワインに微量ながら含まれるものだ。形容詞としての「亜硫酸の」という言葉はあまり食欲をそそるものではないかもしれないが、名詞としての硫黄はけして完全な悪と言うわけではない。二酸化硫黄は古代から抗酸化剤(昨今は道徳的な単語だ)として、保存料として、殺菌剤として用いられてきた。プリニウスやカトによっても言及されたものが現在でもドライフルーツの生産には広く大量に用いられており、包装にはヨーロッパではE220、その他の地域では220と表記されている。
ただし、ぜんそくや鼻炎に悩む人には過剰な二酸化硫黄の摂取が悪影響を及ぼすことがある。喉の奥に張り付き、固形コークス燃料のような刺激を与えるためだ。それによって咳や喘鳴、鼻水や顔面紅潮などが起こる。そのため10 mg/l 以上の亜硫酸塩を含むワインはすべてその旨を表記しなくてはならない。
20世紀初頭には含有量が500 mg/l を超えるものもあった。1960年代と1970年代は醸造およびワイナリーの衛生管理が現在より遥かに悪かったため、硫黄の匂いのするワインに出会うのは珍しいことではなかった。特に当時の多くのワインには多量の(再発酵可能な)残糖が含まれていたことも理由の一つだ。
だがその頃までにワインを飲む人の一部に対する二酸化硫黄の悪影響が知られるようなり、1980年代にはワイン生産者と専門家が協力してワイン生産に使う量を減らす動きへとつながった。1990年代までには亜硫酸塩のEUの最大許容量は250 mg/lと設定された。現在EUにおける最大許容量は辛口の赤ワインで150 mg/l、辛口の白及びロゼで200 mg/l、スパークリングワインで235 mg/l、甘口の白やロゼで250 mg/lとされている。ある種の非常に甘いワイン、例えばボルドーのソーテルヌやドイツのトロッケンベーレンアウスレーゼは400 mg/lまで許される。
2012年、EU当局は有機ワインに対してさらに低い上限を設定することに合意した。辛口の赤は100 mg/l、白とロゼは150 mg/l 、ほとんどの甘口ワインには220 mg/lである
ヨーロッパ以外での辛口ワインにおける最高容量は一般的にアメリカで350 mg/l、チリで300 mg/l、オーストラリアで250 mg/l、アルゼンチンで130-180 mg/l、南アフリカで150-160 mg/lだ。
私の長いワイン飲み人生の中で、明らかに硫黄のレベルが下がっていることは実感している。最近のワイン生産者の多くは二酸化硫黄の使用量を最小限にすることに努め、おそらくはブドウがワイナリーに到着してすぐ、鮮度を保つためにわずかな量を添加するにとどめている。そのため最近ではワインに喉を刺激するような、感知できる量の硫黄を感じることは衝撃的なことだと言えるが、甘口の若いドイツワインに最も多く見られる(瓶内で時間を経ることでこの影響は消えていく)。
だが、辛口ワインでさえ飲みづらさを覚えるほどのワインがあるという手紙やメールをもらうことがある。彼らは私に低硫黄ワインを推薦してほしいと言い、中には各ワインに含まれる亜硫酸塩の量をもっと正確に表示するべきだと言う人もいる。
添加物をできる限り減らすという生産者が作る、いわゆる自然派ワインには含まれる亜硫酸の量は特に低い。私の友人でマスター・オブ・ワインのイザベル・レジェロン(Isabelle Legeron)は中でもとりわけ自然派ワインを支持しており、彼女のウェブサイトwww.rawwine.com には毎年イースト・ロンドンで(および今年後半にはニューヨークおよびベルリンでも)開催するワインフェアー、ロウ・ワイン(Raw Wine)に出展されたすべてのワインの亜硫酸塩含有量が示されている。彼女はそこに出展するワインの上限を70 mg/lと決め、そのほとんどが10 から60 mg/lの間となっている。一般的な作り方のワインよりは遥かに少なく、中には「硫黄無添加」を誇るものすらある。
私は今年のフェアで48のワインをテイスティングしたが(その報告はLow sulphur参照)、中にはとても楽しめるものもあった。ただし、230の出展者のうち私はこれまでに飲んで楽しいと感じたものを選んでテイスティングする傾向にあった点は否定できない。知らないものに手を出した場合、その成功率は遥かに低いからだ。最近の自然派ワインの「成功率」は上がっては来ているものの、間違いなく不快なワインがあったのは事実だ。(数年前自然派ワインが大ブームとなった頃、生産者は自然で良いものではなく、自然であれば何でもよいと考えているようにすら思われた。)私のお気に入りは以下に記す。
二酸化硫黄を添加しない場合の問題点は、悪影響を及ぼす菌への抵抗力をワインが持たず、酸化の可能性が高まり、フレッシュでフルーティな魅力を失い、おそらくは褐変してしまうということだ。モニカ・クリストマン(Monika Christmann)教授は国際的なワイン統制機関であり、近年上がり続けるイギリスワインの名声にも関わらず残念ながらDEFRAがイギリスの会員失効を容認したOIVの理事長だが、彼女は最近の低硫黄ワインをもてはやす流行に懸念を示した。そのような専門家は彼女だけではない。
問題の一つは夏がより熱くなったためにブドウの酸がかつてより早い時期にすぐ落ちてしまう傾向にあることで、それに伴ってワインのpH(酸の強さの尺度)が上がることである。有害な微生物を抑える遊離型の二酸化硫黄の量はpHによって大きく左右される。pHが高ければ高いほどワインが微生物汚染される可能性が高まるのである。
40年前には普通だった不快なほど高い硫黄の量が減ったことは彼女も喜んでいるものの、クリストマン教授は「このまま二酸化硫黄の量を減らし続ければ、ワインを安定化することができないレベルにまで到達してしまうのでは」と懸念する。
彼女の懸念はまた、有機ワインの最大許容量が一般的なワインのそれより低いことで硫黄が悪者のようにとらえられてしまう点だ。「二酸化硫黄を使わないこと、あるいは極端に低濃度まで使用量を下げることは間違いなくワインのスタイルを変え、自然派ワインに近づけることになります。果たして誰もがそれを好むのでしょうか。」彼女は言う。
ブドウに自然に含まれているトリペプチドの一つ、グルタチオン(GSH)の抗酸化作用がワイン中で二酸化硫黄の代替となる可能性がオーストラリアン・ワイン・リサーチ・インスティテュートの最近のニュースで議論されていた。
さらなる懸念は樽の消毒に二酸化硫黄の使用が認められなくなった点で、現在EUで許可されている代替法は一部でドライアイスが試されているものの水蒸気しかない。このことは古樽があらゆる種類の細菌に晒される危険があることを意味するのである。
低硫黄ワイン(亜硫酸量を併記した)
Le Grappin, En l’Ébaupin 2014 St-Aubin Blanc (白のブルゴーニュ 40 mg/l)
Dom de l’Écu, Gneiss 2014 Muscadet-Sèvre et Maine (白のロワール、 約40 mg/l) (£14.50 H2Vin)
Vine Revival, Terre de Gneiss 2015 Muscadet-Sèvre de Maine (白のロワール35 mg/l)
Domaine de l’Horizon – most of their 2014s and 2015s (ルーションのコート・ド・カタランの3色ともにおよそ30 mg/l)
Les Clos Perdus – most of their 2013s and 2014s (コルビエールとコート・ド・カタランの赤と白、 22-42 mg/l)
Low-sulphur winesのテイスティング・ノートも参照のこと。ほとんどのワインは珍しすぎてwine-searcher.comでは取り上げられていない。
(原文)