ARTICLEワイン記事和訳 本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

231-1.jpgこの記事のショート・バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。2017年夏にテイスティングした100本以上のラングドック・ルーションのワインのテイスティング・ノート、それらのワインがいかによく熟成するかについてはMature Minervois を参照のこと。

1989年、フランスのフラン(存在をご記憶だろうか)が安かった頃、ライアン・エアー(訳注:LCC)ができる前、イギリスのロマンチストたちがフランスの暮らしに憧れ、それを少しでも感じたいと考えていた時代に、私たちはラングドックの小さな家を半分購入した。フランスのごくごく田舎の街がイギリスのそれよりもはるかに田舎であると教えてくれたのはブルゴーニュの小さな村だったのだが、そのような重要なワイン産地に自分の休暇用の家を持つのは矛盾しそうだと考えたためだ。

その当時、ラングドックと、その南西にある元カタルーニャ領のルーションで生産されていたワインはフランスの偉大なワインと比較して数世紀もその進化が遅れているように思われた。同じ地域であらゆるスタイルや色のワインが入手できる点では良いと思ったが、正直なところ休養と娯楽のための貴重な夏の休暇にドメーヌを訪問するべきだと考えなくて済むという点で安心感を覚えたものだ。

私たちが初めてそこを訪れた頃、ラングドックではブドウが事実上唯一の農作物であり、悪名高きEUのワイン・レイク(訳注:ワイン過剰)の多くを薄くて特徴のない、誰も飲みたがらない赤ワインで満たしていたのはその産物だった。だが継続的な政策と賄賂のお蔭でこのワイン・レイクは消失し、この地の眺めも大きく変わっていった。(平坦で肥沃な)最も栽培に向かない畑では大量のブドウが引き抜かれた。そのおかげでより可能性の高い高地で痩せた斜面にある畑が残ることとなり、その比率は大きく増えた。そこでは収量は自然と低くなり、生み出されるワインはより面白味があり凝縮したものとなる。私たちの家を囲んでいたブドウもほとんど姿を消した。

心苦しいが、私がラングドックを訪問する際にワイン生産者を訪れることはまれであることを告白せねばならない。これはこの家で家族や友人と過ごす数週間と、残りの1年間、忙しく飛び回りテイスティングを繰り返す日常とのコントラストを大切にしたいと考えているためだ。

だが今年は特に、このラングドックでいかに素晴らしいワイン(白、ロゼ、さら今では赤も)が生産されているか、そしてそれらのコストパフォーマンスがどれほど良いのかについて否が応でも感銘を受けざるを得ない事態に陥った。さらにルーションの高地でユニークかつワクワクするほど緊張感のある白ワインが作り続けられているという事実もまた、とても心躍る発見だった。これらのワインは個性がたっぷり詰まったワインで、多様な地形、品種、醸造技術の集大成だ。私はこれらよりはるかに狭いバリエーションしか持たず、通常ははるかに高価なワイン、例えばボルドーやブルゴーニュのようなワインと比較せずにはいられなかった(もちろんラングドックの一部のワイン、例えばグランジュ・デ・ペール(Grange des Pères)やペイル・ローズ(Peyre Rose)などの例外もあるが)。

私がここで述べているのは国際品種のことではない。それらは多くの場合大手かつ工業的な生産者がつくるもので、IGPペイ・ドックを掲げる者が多い。中には非常に良いもの(さらに価格も安価なもの)もあるが、多くはとても退屈なワインばかりだ。

先に述べた点は今年のペイ・ドックの(30周年記念の)アンバサダー・ワインとしてプロの審査員によって選ばれた28本のワインのうち半分が白であり、シャルドネとヴィオニエが最も多かったことからも明らかだろう。赤は12本、ロゼは2本だったのに対し白は14本だった。

それほど遠くない昔、ラングドックの畑は黒ブドウであるカリニャンがその多くを占めていた。その後ソーヴィニヨン・ブランやカベルネ・ソーヴィニヨンのような品種が流行したが、そのどちらもこの土地にはまったく合っていなかった。しかし今では世界の他の産地同様に伝統的な品種が最善だとの認識が高まっている。そのため赤ワインはグルナッシュ・ノワール、その「毛むくじゃら版」であるラドネール・プリュ(Lladoner Pelut)、シラー、ムールヴェードル、サンソー、カリニャンなどのブレンドが多くなり、白となるとさらにその選択肢は広く、グルナッシュ・ブラン、グルナッシュ・グリ、クレレット、ピクプール、マカブー(ヴィウラ)、ブールブーラン、ロール(ヴェルメンティーノ)、ルーサンヌ、マルサンヌ、ヴィオニエのブレンドから選ばれる。これら品種はそれぞれに非常に個性的な香りを生み出す。

今年特に私が心躍らされたワインはそれぞれ全く異なる土地で育った固有品種のブレンドが多かった。それらの多くは有機栽培であり、中にはビオデナミのものもあった。それぞれ小さく独立した生産者が作っており、そのサイドストーリーには事欠かない。

トム・ヒルズ(Tom Hills)がドメーヌ・ラ・ローゼタ(Domaine La Lauzeta)を設立したのは2015年とほんの最近のことだが、素晴らしい成功を収めている(木曜の記事にある2枚目の写真は彼のチームが熱心に選果をしているところで、その右側に立っているのが彼だ)。彼はロシアとアメリカで砂糖取引に何年も携わった後ニカラグアでコーヒーの栽培に携わり、その後サン・ナゼール・ド・ラダレのサン・シニャン村にある窮屈でものが溢れたガレージで少量のワインを作っている。彼はその多くが地元で多くみられるシスト土壌の、優れた畑の区画をいくつか見つけ、地元の優れたワイン・コンサルタントであるクロード・グロ(Claude Gros)とワイン・メーカーであるアメリ・スーワンカ(Amélie Czerwenka)の協力も得た。昨年は彼のジョージメン・ロゼ(Jauzimen rosé)に大きな感銘を受けたが、今年彼の赤を飲んで、彼が一発屋ではないことを確信した。

ジュリアンとデルフィーヌのゼルノット(Julien and Delphine Zernott)夫妻は2003年にロワールからこちらへ移住し、比較的冷涼で孤立した段々畑を苦労して復活させた。このドメーヌ・デュ・パ・ド・レスカレット(Domaine du Pas de l’Escalette)を生み出す畑は上や下の写真のようにプジョルの高台にあり、ラングドックの中でも岩がちで風の強いサブリージョンであるテラス・デュ・ラルザックよりもはるかに北に位置する。彼らが賢明だったのは地元の人たちがカリニャン・ブランやテレ・ブーレ(Terret Bourret)などのような固有品種を抜くようにと言ったアドバイスを無視したことで、今やその繊細な辛口の白のブレンドはソムリエ達が求めてやまない。

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ドメーヌ・サント・マリー・デ・クローズ(Domaine Ste Marie des Crozes)はクリステル・エイリアス(Christelle Alias)が熱心に運営しているが、彼女の父ベルナルドは20世紀末にこのドメーヌを引き継いで以来その再興に力を注いてきた人物だ。モンターニュ・ダラリックにあるコルビエールの北部に位置する丘沿いの畑から、彼女は覚えやすい名前とパッケージングで熟成ポテンシャルも様々な赤ワインを作る。

ブリジット・シュヴァリエ(Brigitte Chevalier)はボルドーの輸出業というキャリアを捨てラングドック北部にある独特なアペラシオン、フォージェールにドメーヌ・ド・セベーヌ(Domaine de Cébène)を設立した。前述の生産者たち同様、彼女もまた他とははっきりと差別化し、地域の表情豊かで土地の特徴の出たワインを細心の注意を払って作っている。

今年私がこの上なくラッキーだったのは家の玄関から数歩も離れることなく様々な心地よいワインをテイスティングできたことだろう。これはカンブリア以来の古い友人で元ワイン商のリチャード・ネヴィル(Richard Neville)の調査の賜物だ。彼は偶然にも妻と一緒に我々の村からほど近い場所に移り住んできたのだ。ここ数年、彼は私のために様々な前途有望かつ興味深い生産者のサンプルを集めることに努めてくれており、今年はさらにその腕を上げていた。

更に我が家のドアの前に自然と集まってきたワインもあった。それらは以前のヴィンテージをテイスティングした生産者のワインのこともあれば、喜ばしくも思いがけない初めての出会いのこともあった。

同様の変化はルーションのワイン、ドメーヌ・ポール・ムニエ・サンタルナック(Domaine Paul Meunier-Centernach) でも起こっている。彼らは古いサンタルナックの協同組合に拠点を置き(この地域には閉鎖された協同組合のカーヴがあちこちに散らばっている)、2013年に設立したばかりだ。ルシルとポールのムニエ夫妻(Lucile and Paul Meunier)はもともとブルゴーニュ出身でモーリー、レスケルド、サンタルナック、サン・ポール・ド・フェヌイエの協同組合を引退した人たちから畑の区画を購入した。ボトルはラ・リヴィニエールにあるドイツ人所有のドメーヌ・クルビサック(Domaine Courbissac)から到着したばかりのようで、この地はミネヴォワで初めて公式に認められたサブ・アペラシオンでもある。カゼル(Cazelles)やロール(Laure)は申請が認められればそれに続く予定だ。

南のスターたち
以下のワインにはすべて20点満点中16.5または17点を付けていることに注目してほしい。取扱業者についてはWSで、2017年の夏にテイスティングしたラングドックとルーションについてはテイスティング・ノートを参照のこと。

白ワイン

Les Clos Perdus L’Extrême 2016 IGP Côtes Catalanes
Gayda Figure Libre Freestyle 2015 IGP Pays d’Oc
Mas de Daumas Gassac 2016 IGP Haute Vallée du Gassac
Dom Paul Meunier-Centernach 2015 Côtes du Roussillon
Ch Mire l’Etang Aimée de Coigny 2016 La Clape
Dom du Pas de L’Escalette Les Clapas 2015 IGP Pays d’Hérault
Dom Ste-Marie des Crozes Milo 2016 Corbières

ロゼワイン

Ch d’Agel Les Bonnes 2016 Minervois
Gérard Bertrand Ballerine NV Crémant de Limoux and Ch La Sauvageonne Volcanic 2016 Coteaux du Languedoc
Dom La Lauzeta Jauzimen Rosé 2016 St-Chinian
Les Terrasses de Gabrielle Honi Soit Qui Mal y Pense 2016 Vin de France

赤ワイン

Ch d’Agel Les Bonnes 2016, Grenu 2015 and Caudios 2014 Minervois, and Venustas 2015 Vin de France
Dom de Cébène Felgaria, Belle Lurette and Les Bancèls 2015 and Les Bancèls 2014 Faugères plus Ex Arena 2015 IGP Pays d’Oc
Les Clos Perdus Prioundo, Cuvée 141 and Mire La Mer 2014 Corbières
Dom de Courbissac Les Farradjales 2016 Minervois and Roc du Pière and Roc Suzadou 2015 Minervois
Gayda Figure Libre Freestyle 2015 and Chemin de Moscou 2014 IGP Pays d’Oc
Hegarty Chamans No 3 La Piboule 2015 Minervois
Dom La Lauzeta La Lauzeta and Mezura 2015 St-Chinian Roquebrun
Mas de Daumas Gassac 2015 IGP Haute Vallée du Gassac
Dom Paul Meunier-Centernach 2014 Côtes du Roussillon-Villages
Dom de Nizas Le Carignan Vieilles Vignes 2015 IGP Pays de Caux
Dom du Pas de L’Escalette Les Clapas 2015 and Grand Pas 2015 Languedoc, Terrasses du Larzac
Ch St-Jacques d’Albas La Chapelle d’Albas 2012 Minervois
Dom Ste-Marie des Crozes Les Mains sur les Hanches 2016, Hector & Juliette and Les Fugitives 2015 and Timéo 2012 Corbières

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