この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。
この40年から50年でワインのスタイルはこれまでのどの時代よりも大きく変貌を遂げている。それが同じ生産者、もっと言えば偉大な生産者の生み出すワインであっても、だ。
もしボルドーの1級シャトーを1970年代から今に至るまで垂直(同一ワインの異なるヴィンテージの)テイスティングする金銭的余裕があるならば、20世紀の終盤に至るまでの凝縮感とアルコールの高まり、そして最近になってからの洗練度と透明感の向上を明らかに感じることができるだろう。そこまで高級なものでなくとも同じ進化は明らかであるが、繊細さには欠けるかもしれない。セラーでどんな作業を行ったかよりもテロワールとの会話を重要視するフレッシュなワインがほぼ世界中のワイン業界で常識となりつつある。
この大いなる意志の転換はいわゆる新世界と呼ばれる産地の多くで非常に明白だ。南アメリカのワインメーカーたちは今、わずか10年前とすら全く異なる目的と理想を掲げている。オーストラリアの白ワインはかつてのものと比べてそれとわからないほど切れ味が鋭い(昔の樽が効いて豊満なシャルドネは若くして死んだ)。オーストラリアのワインバーやレストランで今最も流行しているのはあらゆる意味で軽やかなスタイルだ。豊満で力強い、かつて典型的だったオーストラリアのシラーズと対照的であることを示す名誉の印としてフランス名であるシラーが掲げられることも多い。
スペインの至る所で先見の明のある生産者たちは標高が高い、あるいは海からの影響を受けやすい場所を探し求め、かつてよりも爽やかなワインを生み出そうとしている。カリフォルニアでも新進気鋭の生産者たちは同じことをしている。20世紀終盤に西海岸で好まれたこの上なく熟したシャルドネやカベルネとは全く異質のワインを作っているのだ。
そこで私はこの数十年大きく変わっていないワインをひねり出すべく考えを巡らせてみた。ヨーロッパの僻地には驚くことにまだ、かつてと変わらず残念なワインが存在する。改善されたワイン作りの技術や栽培の専門知識に全く追いついていないものだ。そのようなワインはめったに輸出されることもなく、地元の需要と古くからの忠誠心だけにその市場を依存している。
だが、私が追い求めたいのはけして多くの変化を加える必要がないと感じている生産者が作る良質なワインだ。おそらくブルゴーニュの生産者、特に最高級のワインを作る人々はそれに該当するだろう。例えばアルマン・ルソーやミシェル・ラファルジュなどは長年にわたりそのスタイルを変えていないように感じられる。勝利の方程式があり、いくらでもワインが売れるなら、それを変更する必要があろうか。
一方で1970年代以降、多くのブルゴーニュ赤の生産者たちはそのスタイルを変えてきたことも付け加えねばならないだろう。けして十分満足とは言えないピノ・ノワールのクローンが多く栽培され、ワイン作りの専門知識もそれほど蓄積されていなかった1960年代や1970年代、多くの古い世代が科学的な知識ではなく経験から学んでいた時代と比較して、成熟度の高いブドウからよりクリーンで凝縮したワインが作られるようになった。
そしてブルゴーニュ白に至ってはごく最近も大きな変貌を遂げており、オーストラリアのシャルドネが遂げたのと同じようにスリム化の方向に向かっている。
重要なワイン生産国の中で、上記で触れなかったのはイタリアだ。なぜなら私にとって、まったく変化を見せない最高の例は、1982年に最初のヴィンテージをリリースして以降全く変わらない、トレントのアルプス山麓から生み出されるサン・レオナルドのカベルネ・ブレンドだからだ。
サン・レオナルドは非常に多くの意味で例外的だ。まず、彼らはほとんど陸の孤島であるヴェローナ北西部のガルダ湖方面、ヴァルポリチェッラの区域から外れ、トレントのスパークリングワインを生み出す畑のあるアディジェ渓谷からも遥か下流でワインを作っている。
10世紀からある教会を基礎として古くからある家だが、20世紀後半までワインは作っていなかった。マルケーゼ・カルロ・グエリエリ・ゴンザーガ(Marchese Carlo Guerreri Gonzaga)はワイン学をローザンヌで1950年代後半に学び、イタリアのスーパータスカン・カベルネの先駆けであるサッシカイアを生産するトスカーナのワイナリーで働いた。サッシカイアの生みの親、マルケーゼ・マリオ・インチーザ・デラ・ロケッタ(Marchese Mario Incisa della Rocchetta)の影響を受け、カルロは同じようなボルドーの繊細さを彼の妻の故郷であるトレンティーノにある痩せた粘度石灰岩の段丘から引き出すことに情熱を注いだ。
イタリアの社交界の一部には非常に密なつながりがある。80歳になるカルロとその息子アンセルモ(Anselmo)は手にキスをするような優雅な人物で(ただし私はけして古風な優雅さではなくワインに惹かれたことを付け加えておく)、その名を冠したトスカーナのワイン帝国、マルケーゼ・ピエロ・アンティノリの長でありカルロ同様今年80になるピエロと同じ(おそらくスコットランドの)ツイードを身に着け、一点の曇りもないローマの仕立屋を使っていた。マリオ・インチーザ・デラ・ロケッタが彼らのワイン作りの情熱に火をつけ、ピエロは彼の才能あふれるワインメーカー、ジャコモ・タキスを貸し出して応援した。
その結果、幸運にも私がテイスティングする機会を得た連続したヴィンテージのワインは気味が悪いほどよく似ていて、驚くほど安定した品質を保っていた(ただし典型的なイタリア風ではなく間違いなくフランスの影響を強く受けたスタイルだ)。天候が好ましくなかった場合、例えば1984、1989、1992、1998、2002のサン・レオナルドは生産されていない。2017年には霜のために収穫が半減した。どのヴィンテージにおいても主要なワインは基本的にカベルネ・ソーヴィニヨン60%、カルメネール30%、メルロー10%の比率で構成され、美しくも控え目で、洗練された赤のボルドーを想起させるものだ。
カルメネールは現在ではチリで一般的だがその故郷であるボルドーではほとんど絶滅しつつある品種で、カルロが畑を構築する際、フランスの育苗商がカベルネと間違えて販売したものだった。カルメネールという品種は収量を高くしすぎると完熟しない青臭さが出る一方、あまり剪定を強く行いすぎると凝縮感が強くなりすぎる。だがカルロはそれを手なずけることを学んだ。
300ヘクタールの畑のうちブドウはたった26ヘクタールにしか植えられていない。一時期彼らは牛を育てており、カルロの息子アンセルモは「ガウチョになりたかったんです」と話した。その代わり22歳にして彼は家族の作ったワインを販売する責任者となった。その当時、ちょうど20世紀の終わるころ彼らのボルドー・ブレンドは多くの場合軽すぎると片付けられてしまっていた。アンセルモは父に色の濃い地元の品種であるトロルデゴをブレンドすることを提案したが、父は彼を大馬鹿者と一蹴した。結局それは正しい判断で、サン・レオナルドのスタイルは現在の軽やかさ、繊細さ、そして比較的低いアルコールを求める現在の流行にぴったりと合っている(サン・レオナルドのラベル記載のアルコール度数は2010になってようやく13.5%に至った)。
サン・レオナルドのパンフレットやウェブサイトはまるで封建時代の趣だ。家長であるルイジーニ・ティネッリ(Luigini Tinelli)はこの地で生を受けたが、苦難の時代も経験した。同様にこの地に暮らすアンセルモがその事業に加わった時には多くの借金を抱えており、そのためにカルメネールをより一般的なカベルネ・フランに植え替えざるを得なかった。彼は「どの部屋も(訳注;売れていない)樽でいっぱいでした。」と話した。銀行に差し押さえされるのではないかと本気で心配していた。
今ではそのワインは少しずつ世界の尊敬を集めるようになり、ボトル1本の平均価格は50ポンドだ。昨年の12月、ロンドンを「古典的なワインが理解され、歓迎される地」と考え、父子は彼ら自慢の15のヴィンテージをメディアと業界関係者に提供するため訪れたが、カルロはそれが人生で最も感動した経験だったと語っていた。
サン・レオナルドはどこで買えるのか
最も見つけやすいのはイタリア、スイス、ドイツ、イギリス、アメリカだが韓国、中国、カナダ、チェコ、ベルギー、フランスにも入っている。こちらでインポータのリストを見ることができる。
アメリカのインポータとしてはニューヨークのVias Importsがあり、winesearcher.comによると幅広いヴィンテージが入手可能でその平均小売価格は70ドル前後だが、現在様々な割引の広告もされているようだ。
アイルランドにはコーク州リトル・アイランドのClassic Drinks が輸入している。
イギリスのインポータはロンドンSW18にあるFortyFive10 of Londonとグラスゴーの Inverarity Mortonだ。ワインは高級ワイン商ではケース単位だが1本から購入することもできる。
2011
£43.95 Master of Malt, East Sussex; £59.99 Huntsworth Wine, London W8; £61.80 Hedonism, London W1
2010
£54 Huntsworth Wine, London W8
2007
£67.20 LadyWine at Satyrio, London EC3
2006
£79.20 LadyWine at Satyrio, London EC3
2005
£87.60 LadyWine at Satyrio, London EC3
2003
£54.95 South Downs Cellars, West Sussex
1999
£74.80 Hedonism, London W1
1988年以降のヴィンテージはまだまだ強い。若いヴィンテージでようやく飲み頃になってきたのは2011だろう。飲み頃でお気にいりとしては1996と1999を挙げておこう。
世界の取扱業者はwinesearcher.comを参照のこと。また垂直テイスティングの記事として1982-2006 と 1986-2013も参照のこと。
(原文)