ARTICLEワイン記事和訳 本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

260-1.jpgこの記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。

我々は数か月ごとに、日曜の夜にロンドンでこのサイト(訳注:jancisirobinson.com)の読者のためのワイン・テイスティングのイベントを開催している。テイスティングのテーマは常に、イギリスで過小評価されている、あるいはあまり多く扱われていないワインだ。数年前バローロで始まったこの企画だが、バローロは今やイギリスのワイン文化の主流として十分に通用するようになった。遅いぐらいではあるが。それ以来このイベントではシェリー、最近洗練されてきたブルネッロ・ディ・モンタルチーノ、バローロの隣でありながらバローロよりも無名なバルバレスコなどを取り上げてきた。

圧倒的に最も人気が高くほとんどのワインがあっという間に売り切れたテイスティングは最近開催した、常に売るのが難しいとされるカテゴリー、辛口のドイツ・リースリングだった(リースリング・ナイトの写真と動画、およびテイスティング・ノートを参照のこと)。このサイトには特に奇妙な人達が集まるのかもしれない。「今週どのドイツ・ワインを飲んだ?」というメンバーズ・フォーラムのトピックは結局のところ最も人気のあるスレッドで、書き込みは2500を超える。

一方、最近ロンドンで行ったもう一つの辛口リースリングをテーマにしたイベントもまた、記録的な集客を見せた。おそらく世の中の波は偉大な白ワイン品種であり、ワインの世界で偉大な負け組とされる品種に向いてきたのかもしれない。

アルザス・クリュ&テロワールは19のトップ生産者によって数年前に立ち上げられた団体で、アルザスのテロワールの信頼性を強調するため、そしてアルザスのワインが世界で最も料理との相性がよいワインだと証明するために作られた。多くのワインメーカーによるマスタークラスは花崗岩、砂岩、シスト、石灰岩、マールや火山性土壌を強調するもので、料理との相性がいいという点は(訳注:料理が提供されなかったため)彼らの言うことを信用するしかないものの、テロワールの核心は異なる土壌を元に注意深く定義された一連の様々なグラン・クリュのリースリングによって明確に突かれていた(Alsace’s new group makes a pointと上の67ポール・モールで開催されたマスタークラスの写真(多くのソムリエとともにいる私の左がスティーヴン・シュパリエ)を参照のこと)。

その名を冠したワインの生産者、ジャン・トリンバック(Trimbach embrace grands crus参照のこと)は最も明快だった。「あなたたちは今日アルザスの1級格付けに出会うためにここに来たのです。そしてそれはアルザスが非常に興味深い産地だからです。ブルゴーニュにはおそらく60程度のテロワールしかありませんが私たちのアルザスには800以上あります。」最も一般的な土壌の特徴を示すためにリースリングが選ばれたが、その理由はゲヴュルツトラミネールやピノ・グリと違いアルザスではリースリングがほぼ辛口で作られるためで、非常に明確に認められるテロワールを残糖によってブレることなく明確に示すことができるからだ。そして2010のヴィンテージは非常に力強く今ちょうど開いてきたところだという理由で選ばれた。

アルザス・クリュ&テロワールのマスタークラス、およびそれに続く全体的なテイスティングでは花崗岩で育つリースリングの繊細な高い酸、砂質土壌に育った場合の味わいの広がり、シストに育った場合の繊細な柑橘の皮の香り、火山性土壌に育つアルザスとしては珍しいリースリングのある意味理解が難しい温かみと厳粛な酸との組み合わせ、様々な石灰岩が組み合わさった土壌から生まれる豊かさ、マールで育った場合最初に感じる厳粛さと後に続く重厚感などを体感するために全力を尽くした。

そして現実はもちろん、いまだ解明されていない土壌の種類とワインの性質の間の相関はさておき、これらほとんどのグラン・クリュの畑はそれぞれが異なる土壌のモザイクから成り立っているということであり、それは15世紀からその名声を確立してきた花崗岩主体のシュロスベルグですら、80ヘクタールもの大きさを誇るためである。

このアルザスとドイツのテイスティングから私が学んだのは、最高品質のリースリングはどこで作られようと本当に心躍る飲み物であり(あまり一般化しすぎるのはよくないが)白のブルゴーニュよりもリズムと変化があるということだ。柑橘系のジューシーさを持ち合わせる辛口のリースリングは美しく食材と合い、その価格も非常に魅力的である。

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価格面で明らかに例外なのはトリンバックのクロ・サンテューヌで、グラン・クリュであるロザケーヌにある畑から生み出され、世界最高峰の辛口リースリングとして広く認められている。1990は私がテイスティングしたワインの中でも間違いなく最高のものだった。この4年間はテイスティングしていないが、間違いなくまだまだ十分に力強いはずだ。2010は非常に熟成が遅いためまだリリースされていないが、クロ・サンテューヌの評価があまりに高いため、最も若いリリース済みのヴィンテージである2012ですら1本150ポンド以上の値がついている。

ジャンシスロビンソンドットコムのテイスティングで提供された中で最高のドイツ辛口リースリングは最高級のブルゴーニュ白が1本数百ポンドもするのに対し、どれも1本30から40ポンドの価格帯だった。クロ・サンテューヌを別とすればアルザスのグラン・クリュのリースリングもまたこれより安いことが多く、20ポンド以下のことすらある。しかも美しく熟成するワインなのだ。実際我々の行ったドイツのテイスティングの焦点は2008と2016ヴィンテージを用い、同一生産者の最高級の畑がいかに素晴らしく熟成するのかを比較することだった。

幸運にも、最近私は三度目の辛口リースリングのテイスティングとして、ロンドンのハンドフォード・ワインズを会場としてスタンフォードの中国研究科、ジョン・ウィンスロップ・ヘーガー(John Winthrop Haeger)が取り仕切るテイスティングに参加した。彼は「Riesling Rediscovered(意訳:リースリング再発見)」という本を書いており、その副題は完ぺきなほどにふさわしい、「大胆かつ輝かしい辛口」である。

彼は自身の意図することを明確にするため、辛口のリースリングをドイツやアルザスだけではなく、しばしば悪評を得ることのあるこの品種に真剣に向き合っている二か国、オーストラリアとオーストリア、さらには南アフリカ、カリフォルニア、ニューヨーク州のものまで用意していた。

アメリカのリースリングはまさに発見だった。特にニューヨーク州フィンガー・レイクスにあるレッド・ニュート(Red Newt)のタンゴ・オークス・ヴィンヤードで作られた2013の純粋さは特筆すべきだ。この地域はかつてハイブリッドから作られた甘口のワインと関連付けられてきたが、今や上質なリースリングを作る本格的な生産地域である。セネカ湖にあるレッド・ニュートはこれまでも好ましい実績を上げてきていたが、最近になって辛口で単一畑のリースリングに注力することを決めた。そしてハーバードで政治経済を専攻したものの今ではリースリングに取りつかれてしまったワインメーカーのケルビー・ラッセル(Kelby Russell)を雇い入れた。2013のアルコールはたった10.6%だが、味わいと抽出は非常に豊かなものだ。

アメリカの他の地域としてはワシントン州がリースリングに傾倒していて、大量消費市場向けの手ごろな価格で中辛口の白で利益を上げようとしていた。カリフォルニアではヘーガーが熱心に指摘したように19世紀終盤はドイツの偉大な品種がワイン用白ブドウの栽培面積の多くを占めており、1960年代になってもまだシャルドネよりもはるかに広く栽培されていた品種だった。

だがシャルドネ好きが幅を利かせるようになって以来リースリングはカリフォルニアから追放されてしまい、ストーニー・ヒルやナヴァロのようにノース・コーストでその火を絶やさず燃やし続けた熱心な生産者はごく一握りだった。だがグラハム・タトマー(Graham Tatomer)はかなり最近になって自身のタトマーのラベルで販売するためにセントラル・コーストの南部にある冷涼な一角で有望なリースリングの畑を探し出した。それらは非常に希少なので彼はそのブドウの由来には口をつぐんでいるが、ヘーガーによるととりわけ新星のカリフォルニアの生産者、例えばスターム(Stirm)やメイデンストーン(Maidenstoen)などにも影響を与え彼らが同じように上質な辛口のリースリングのユニークな特性に触発されて同じ道をたどるようになったためだという。

偉大な辛口リースリングの生産者

アルザス

Boxler
Albert Mann
Josmeyer
Kientzler
Kuentz-Bas
Meyer-Fonné
Muré
André Ostertag
Schoffit
Trimbach
Domaine Weinbach (Faller)
Zind-Humbrecht

オーストラリア

Crawford River
Frankland River
Grosset
Mitchell, Watervale
Pewsey Vale

オーストリア

Bründlmayer
Hirtzberger
Jamek
Jurtschitsch
Emmerich Knoll
Loimer
Malat
Neumayer
F X Pichler
Pichler-Krutzler
Prager
Salomon Undhof
Schloss Gobelsburg
Stift Gottweig
Domäne Wachau

ドイツ

Dr Bürklin-Wolf
Clemens Busch
A Christmann
Diel
Dönnhoff
Dreissigacker
Emrich-Schönleber
K F Groebe
Heymann-Löwenstein
Keller (Rheinhessen)
Kühling-Gillot
Peter-Jakob Kühn
Philipp Kuhn
Franz Künstler
Sybille Kuntz
Peter Lauer
Leitz
Schäfer-Fröhlich
Van Volxem
Wagner-Stempel
Winter
Wirsching
Wittmann

テイスティング・ノートはこちら、取扱業者はwine-searcher.com を参照のこと。

(原文)