EPI、決して魅力的な響きではないが、注目に値する名前だ。この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。
ワイン業界の新勢力はいつでも興味深い。特にそれが品質と信頼性に注力して長期的な視点で活動しているならなおさらだ。私はずっと45歳のクリストファー・デスクール(Christopher Descours)に会ってみたいと思っていた。彼は個人所有のEPIグループを経営し、ワイン業界という意味では比較的新参者の部類だ。
彼は常にワイン業界にどっぷり浸っているというわけでもなく、パリとニューヨークを行ったり来たりしている。そのため彼との約束を取り付けるのは非常に困難だったのだが、先日ようやく、エッフェル塔も含むパリの景色を楽しむことのできる、新しいシャングリラ・ホテルの隣にある歴史的なホテルの最上階にある日当たりのよい彼のオフィスで会うことができた。EPIの本部の場所は「我々がどんな企業なのか見せるため」に選んだのだと彼は言っていた。下の写真はその美しい庭から見た建物と、デスクールのオフィスからの眺めだ。
ここ数年熱心に買収を進めてきたおかげで、EPIが現在所有するのはシャルル・エドシック、パイパー・エドシック、レア・シャンパーニュ、リュベロンにあるシャトー・ラヴェリエール、尊敬を集めるローヌのネゴシアン、タルデュー・ローランの株49%、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノで最も歴史的かつ名声の高いビオンディ・サンティ、そして最近ではイギリスのワイン・インポータ、リバティ・ワインズの一部の株、さらにはポルトガルのソグラペまで手中に収めている。デスクールは現在でも更なる買収の対象を積極的に検討している。例えば2012年にはボルドーの格付けであるシャトー・カロン・セギュールの買収にも乗り出した。「でもやり方に失敗しました」保険企業に大敗したことを彼はこう表現した。
彼の背景にあるのは祖父のジャン・ルイ・デスクールが立ち上げた、フランスで低価格から中価格帯のクーカイなどを展開している一大グループ会社で、1974年には高級靴のJMウェストンを獲得したものだ。小売店のチェーンは最終的に売却されたが、デスクール翁は職人的な商品に注力することを決め、現在では富裕層の幼児御用達となっているボンポワン150店舗を展開している。これら高級子供服はEPI本部から200mほどにあるパリのアトリエで手作りされている。
金融業界で数年を過ごした後、クリストファーはこのそっけない名称のEPIグループに1999年に加わり、2005年には祖父からそれを継承した。彼は今「私の役割は店舗を売却して得たキャッシュをどうするのか決めることなんです」と話す。彼らは不動産を倍に増やしたが、「それでも現状は買収より売却が多い」と話し、1981年に買収したラヴェリエールに始まり、ワイン業界にその興味をシフトしてきた。「今はまだ種の状態で、花は咲いていませんがね」。
祖父母は乾燥したプロヴァンスの気候の下で当時様々な果実を栽培していた農園を1981年、引退したあとの暮らしを視野に入れて購入した。そこには少しのブドウも植えられており、獲れたものは地元の農協に販売していたのだが、ジャン・ルイはその物件を完全なワイン生産者として生まれ変わらせた。クリストファーはワイナリーが建築されていく過程を目にしており、「ワインには常に縁を感じている」と話す。
彼は手作りの靴や服(女性向け高級靴F Pinetやシャツメーカー、フィガレはそれぞれ1990年と2006年にEPIグループの傘下に入った)に共通するのは匠の技だと話すが、2011年にシャルル・エドシックやパイパー・エドシックを獲得したことでワイン寄りに舵を大きく切ることとなった。現在ではシャンパーニュとワインがEPIでの大きなウェイトを占めている。
デスクールは購入時、「シャルルは商業的にはほとんど終わっていました。年間たったの10万本しか売っていなかったんですから、何もしていないのと同然だったんです」と話した。シャンパーニュ・ハウスは多くの施設をランスの外にも持っており、当時クリュッグとスピリッツに注力していたレミー・コアントローの傘下にあった。「あの会社はもはやシャンパーニュ・メゾンではなくてただの生産設備だったんです。でも私たちはそれにブランド力を取り戻し、成長させ、消費者との直接的なつながりを再構築したかったんです」。
デスクールと彼のチームには脱帽せざるを得ない。これほどまでの短期間で彼らはシャルルを今知られているようにシャンパーニュの主流に返り咲かせたのだから。シャルルにその価値はあったし、実際売り上げは10倍に伸びている。最高のワインメーカーの腕のおかげでワインの質は常によかったのだが、今はその点がはるかに広く認知されるようになった。
現在シャルル・エドシックは、同社所有のランス中心部にある美しく手入れされた庭園の地下に広がる壮大な石灰岩のカーヴを連想させる、伝統的な形をモデルにした特徴的なボトルに詰められている。そして通常のブリュット・ノン・ヴィンテージは基本的に7年ものである点も大変印象的だ。価格もそれに伴って上昇しているが、デスクールが言う通り「今ようやく正しい価格になった」のかもしれない。シャルルは2018年にさらなる投資を受けているが、これは当然、2018年が特に素晴らしいヴィンテージだったからに他ならない。ただし我々が実際にその結果を目にするのははるか先のことになりそうだ。何しろ現行ヴィンテージは2008なのだから。
パイパーは、市場によってはバーゲン・シャンパーニュとして販売されていたこともあってさらに困難を極めた。現在アメリカが上記両方のブランドのターゲット市場であるのだが、(シャンパーニュは最近導入されたフランスワインの25%の関税を逃れており、それはLVMHのベルナール・アルノーの個人的な介入によるものだと噂されている)、パイパーは特にオーストラリアで強く、中国でもその地位を確立し始めており、長きにわたり輸出市場向けブランドという位置づけだった。パイパーの60%以上がヨーロッパ以外で販売されているという事実は当初デスクールの注意を引いた点だが、名高いベテランのワインメーカー、レジス・カミュを見て、パイパーのポテンシャルを再認識したという。
パイパー・エドシックの品質は私からすると最近顕著に上がったが、そのプレステージ・キュヴェであるレアは賢明にも別の独立したブランド、かつハウスとなっており、カミュが監督している。デスクールはパイパーについて「基礎はできていました。問題はイメージだったんです。多くの批評家は長いことこれをテイスティングしていませんでしたから、我々の戦略は「飲んでもらうこと」でした。原料の供給源の一部を変更し、リザーブ・ワインを少し増やしました」。そして、熟成期間をさらに長くとり、流行のドサージュ少なめにしたブリュット、パイパー・エッセンシャルが2017年にランナップに加わった。
EPIグループはさらに拡大を続けている。2017年には象徴的なトスカーナの生産者、ビオンディ・サンティを買収した。ここは一族内の緊張と、そのワインの熟成ポテンシャルに関してモンタルチーノのゴシップの格好の的となっており、彼らのセラーで熟成したワインの多くが世界中に散らばってしまったとされている。デスクールは私に、それらのオールド・ヴォンテージを熱心に買い戻しているところだと話してくれた。
デスクールはこの買収を「生涯に一度のチャンス」と表現した。「もし今後10年に同じようなチャンスが巡ってくるとすればそれは非常にラッキーなことですから」どうやら買収の対象は世界中どこでも構わないようだ。カリフォルニア、スペイン、オーストラリア、ニュージーランドなどの名が挙がっていた。
そして彼らは明らかに長期的な視点に立って考えている。「ワインビジネスを加速してどうやってサステイナブルな畑につなげるか」デスクールは思慮深げに話した。「我々の所有する畑はサステイナブルに管理されていますが、シャンパーニュでは我々の必要とする10%しか満たしていませんし、それらの畑ですらあまり管理の行き届いていない畑のすぐ近くにあることが多いんです。」迫りくる農業労働者不足の問題を加味したプロジェクトの一つは、畑作業を行うロボットの開発だそうだ。
先ほど述べたように、例を見ない長期的な視点によるアプローチであり、まさにワイン業界外部の人間だからできることだ。
特におすすめのEPIのワイン
Tardieu-Laurent, Guy Louis 2016 Côtes du Rhône Blanc
£18.75 Hic!
Piper-Heidsieck Brut NV Champagne
£23 Asda, Tesco
Tardieu-Laurent, Cuvée Spéciale 2015 Châteauneuf-du-Pape
£49 Vincognito
Charles Heidsieck, Blanc de Blancs NV Champagne
£65 Sunday Times Wine Club, BBC Good Food Wine Club
Charles Heidsieck 2008 Champagne
£75 The Wine Society
Biondi Santi 2007 Brunello di Montalcino
£130 Harvey Nichols
Charles Heidsieck, Cuvée des Millénaires 2004 Champagne
£142 The Champagne Company, £154 per single bottle The Finest Bubble, and many more
完全なテイスティング・ノートはデータベースで確認することができる。国際的な取扱業者はWine-Searcher.comを参照のこと。 (ワイン・サーチャーへのリンクは個々のテイスティング・ノートからもたどることができる)
(原文)