ARTICLEワイン記事和訳 本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

328.jpg劇的な転換期を迎えたアルゼンチンワインには素晴らしい点も、時にはよくない点もある。この記事のショート・バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。

私は世界で5番目のワイン生産国、アルゼンチンへの5年ぶりの訪問から帰ってきたばかりだ。この旅を通じて現在のアルゼンチンではワイン生産の多くの点について素晴らしい改善が見られ、一点だけ非常に残念な点があることを知った。

テロワールの概念
現在大流行しているのがテロワールの概念だ。アルゼンチンのワイン生産者たちはかつて、標高にばかりこだわっていた。かつてラベルには自分の畑がアンデスの山麓、標高何メートルにあるのかを自慢げに記載していたものだ。だが最近の彼らの注目点は土壌の種類とその構造だ。特に比較的新しい畑が増えている標高の高いウコ・ヴァレーではその動きが顕著で、土壌調査用の穴がそこかしこに開けられ、大きな開口部からはブドウの根がどれほど深くまで伸びているか、その過程でどんな土壌を貫いているのかがわかるようになっている。

その次の段階は今まさに進行中だが、ウコ・ヴァレーを土壌と地質に基づいて公的なGIのサブリージョンに加えることだ。例によってその過程はどんな場合にも緊張をはらむが、特に目立った2つの候補、アルタミラとグアルタラリーが擁立されているからなおさらだ。なんとか標高900-1200m(ヨーロッパでは伝統的に、ブドウ畑として可能な標高は500mが最高とされている)にある扇状地の境界が決められ、現在それはGIパラヘ・アルタミラと呼ばれている。

だがその過程が困難を極めたため、さらに標高が高く範囲の広いグアルタラリーではまだGIの制定は実現していない。グアルタラリーは繊細で細やかな彫刻のようなワインがその名声を確立しており、公的な定義がないにもかかわらず多くの生産者がその名をラベルに表記しているほどだ。グアルタラリー内では5つものサブリージョンを作る議論がされており、3代目世代のセバスチャン・ズッカルディはこのアペラシオン制定に情熱を燃やす提案者の一人だ。

彼は自分たちが目指しているものは現在消費者が望むものの遥か先を行っている点は自覚しており「実現までには一世代以上先のことになるでしょう。結果としてアルゼンチンの外で知られることになるGIは3つか4つかもしれません。それでも、そこでワインを作る生産者達がきっと、アルゼンチン全体のイメージを引き上げてくれると信じています」。

アルゼンチン、とくにウコ・ヴァレーでは他の新世界のワイン生産地と比較して、テロワールを精密な事実に即して定義することに力を入れている。アルゼンチンで土壌調査用の穴を多く掘っている土壌科学者ペドロ・パッラの故郷であるチリですら、その点ではかなり遅れている。

マルベックの新しい潮流
この流れはアルゼンチンのブドウ栽培地がどんどん標高の高い場所に作られるようになっていることと緊密な関係がある。多くのワイン愛好家にとって、アルゼンチンのマルベックと言えば大味で大柄かつ甘みがあってしばしば樽の強すぎる、典型的なナパのカベルネの安価な代替品という位置づけだった。逆にそれが多くの消費者がマルベックに期待しているスタイルと言えるかもしれない。だがこの国の生産者の新たな潮流は別の方向へ向かっている。

現在、彼らにとって完璧なマルベックとは(早摘みをして)フレッシュで、樽を感じるよりもテクスチャを感じさせる(樽ではなくコンクリートで醸造される)ことが多く、(上述のように)テロワールを表現するものだ。アルゼンチンのワイン業界がいかにマルベックに重きを置いているのかを知って私自身驚いたのが正直なところだ。マルベックはこの国の215,000ヘクタールのブドウ畑のうちたった22%しか占めていないにもかかわらず、市場に出回っているボトルの多くをこの品種が占めているように感じられる。アルゼンチンの消費者はマルベックにならいくらでも出すという風潮で、私が今回の旅でテイスティングした中でも最高だと感じたマルベック65%にカベルネ・ソーヴィニヨンとプティ・ヴェルドがブレンドされたメンデルの2017ウナス(Unus)も例外ではない。一方で赤ワイン白ワイン共にブレンドで作るのがアルゼンチンワイン生産者の間で人気だ。輸出業者はアルゼンチンのマルベック人気(特にアメリカでの)を存分に享受しているが、そろそろその人気に陰りが見え始めている。南アメリカ専門のインポーター、カリフォルニアのブラゾス・ワインは今では「マルベック以外のなんでも」とアルゼンチンの供給者に依頼しているそうだ。

その他の品種
最も有力な候補の一つはカベルネ・フランだ。マルベックがアンデスの麓で熟すと、その故郷であるカオールよりもはるかに美味しく変化に富み、豪奢になるのと同様、ロワールが故郷であるカベルネ・フランも違った顔を見せるらしい(アルゼンチン人は彼らのブドウがはるかに古く品質が良いのだと主張している)。

カベルネ・ソーヴィニヨンにも良いものはあるが、最高のカベルネ・フランはアルゼンチンの熟度と私が常に追い求める美しい余韻を持つ香りを兼ね備えており、これはロワールでは叶わないことだろう。

更にアルゼンチンのプティ・ヴェルドはカベルネ・フランに比べて無名ではあるものの、メドックのシャトーのオーナーがうらやむほど安定した品質を誇っている。

古木
アルゼンチンに特徴的なもう一つの点は古木の多さだ。30%近いブドウの樹齢が40年を超える。野心的で若いワイン生産者が、樹齢が高く需要のない(その多くが無名の)ブドウを見出し自分の名を上げるというのはアルゼンチンだけの動きではない。同様なことはカリフォルニア、オーストラリア、チリ、南アフリカなどでも起こっている。だがアルゼンチンはその公式記録という点で他にはない特徴がある。INTA (国立農牧技術院)は全ての畑の品種と植樹日を記録しているだけでなく、700もの品種を抱える育苗商まで管理している。それらの品種の多くは貴重な19世紀のフィロキセラ以前のもので世界のブドウ栽培の多様性を維持、あるいはさらに拡充することすら可能であると考えられる。

ラベリング
私が1990年第初頭に初めてアルゼンチンを訪れた際には、ワインの質は非常に低く、酸化したシロップのようなものが多かったのだが、ラベルはもっとひどかった。だが現在では巧妙に目立つ、ウィットにとんだ名前のものが数多く見られる。

ツーリズム
ニックが先週の土曜にWinery restaurants consideredで書いたように、アルゼンチンではこれまでにないほど大掛かりな投資がワイン・ツーリズムに対し行われており、非常にスタイリッシュで息をのむようなアンデスの眺望を楽しめる宿泊施設なども多く見られる。また、ワイナリーにはほぼ必ずと言っていいほどレストランが併設されている。この国で最も広大な、およそ1,000ヘクタールにも及ぶ一枚畑、クロス・デ・ロス・シエテは7人(訳注:シエテは7の意)ではなく実際には5人のフランス人所有者のものだが、2軒の上質なレストランを構えている。ただし、これらのレストランに行くには未舗装のガタガタした道を何マイルもドライブし、アルゼンチンの全てのワイナリーにいると思われる威圧感のある門番に通してもらう必要があるのも事実だ。

ボトル
これまでに書いてきたのはアルゼンチンのワイン生産者が非常に優れている点だ。だが彼らは分厚くて重いボトルが環境に以下に悪影響であるかという情報はまだ耳にしていないようだ。

この理由はもしかしたら彼らの主要な輸出市場がアメリカで、アメリカのインポーターが重いボトルを重要視しているからなのかもしれない(アメリカでは消費者ではなくインポーターや仲介業者の方が重いボトルを求めていると耳にしたことは1度や2度ではない)。だがこのことはアルゼンチンの多くのワイン生産者が魅力的なボトルをわざわざヨーロッパから輸入している点も考慮すると非常に残念だ。今やラベルは非常に良くなり、差別化ができている。彼らがアルゼンチンで生産された、標準的な軽いボトルを使うことになれば素晴らしいと思う。だが恐らく、必要に迫られてとはいえ私のように長時間飛行機で移動してきた人間がこんなことを言っても説得力はないだろう。

お薦めの新たな流れを汲むアルゼンチンのマルベック


公式か否かに関わらずサブリージョンと、アルコール度数を併記した。Mendoza – increasingly diverse and refined でジュリアが書いているメンドーサのサブリージョンに関する記事も参照のこと

Cadus, Finca Viña Vida 2014 Los Chacayes 14.5%

Catena Zapata, Adrianna Vineyard, Fortuna Terrae 2016 Gualtallary 14.3%

Cheval des Andes 2016 Las Compuertas/Paraje Altamira 14%

Colomé, Estate 2018 Upper Calchaquí Valley 14.5%

Cuvelier Los Andes 2017 Vista Flores 14.5%

DiamAndes 2015 Vista Flores 14.5% (with 25% Cabernet Sauvignon)

Dominio del Plata, Nosotros Sofita 2015 Los Chacayes 14.5% (with 20% Petit Verdot)

Estancia Los Cardones 2018 Tolombon 14% (with 10% other varieties)

Fabre Montmayou Gran Reserva 2017 Vistalba 14.5%

LUI, Gran Reserva 2017 Gualtallary 14.2%

Manos Negras, Stone Soil 2018 Paraje Altamira 13.5%

Mendel, Finca Remota 2017 Paraje Altamira 14.5%

Michelini i Muffato, La Cautiva 2017 Gualtallary 13.8%

Nieto Senetiner, Don Nicanor Single Vineyard Villa Blanca 2015 Vistalba 15%

PerSe, Jubileus 2017 Gualtallary 14%

Piedra Negra, Gran Malbec 2014 Las Chacayes 14.5%

Trapiche, Terroir Series Finca Coletto 2015 El Peral 14.1%

Tres 14, Imperfecto 2016 Gualtallary 14% (with 3% Cabernet Franc)

Trivento, Eolo 2016 Lujan de Cuyo 14.5%

Zuccardi, Concreto 2018 Paraje Altamira 14%

テイスティング・ノートはNew-wave Argentine Malbecs で、国際的な取扱業者はWine-Searcher.comを参照のこと。

原文