ARTICLEワイン記事和訳 本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

342.jpgワインはお値打ち品から贅沢品へ、あっという間に姿を変える。今日は未来のカルト・ワインを提案することとしよう。この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。

1990年代以降、ル・パンとして知られるポムロールのワインはボルドーで最も高価な赤ワイン、ペトリュスと互角の価格をで販売されてきた。ポムロールにあるほんの小さな畑から生み出される若いワインですら、現在では1本3000ポンドは下らない。

1984年の12月、私は半ば強引に、やや自分の意に反する形で1ダースのル・パン1984に150ポンドをはたいた。1980年代初頭、ル・パンはほとんど無名だった。彼らのファースト・ヴィンテージは1979で、ベルギー人であるジャック・ティエンポンが水はけのよい砂利質のたった1ヘクタールほどの畑を改良し作り出したものだ。私はテイスティングの帰路、当時ビベンダム・ワインのサイモン・ファーとタクシーを乗り合わせたことを覚えている。彼は明らかに売るべきル・パンを大量に抱えており、私にこのボルドー界の新参者に賭けるよう強く促したのだ。後悔は全くしていないが、私はそれらをあまりに早く、あまりに無頓着に全て飲んでしまった。

私は最近、古典的なボルゲリのカベルネであるサッシカイアのイギリスでの台頭について調べている時にこの時のことを思い出した。私は1970年代後半、当時新しかったトスカーナの赤ワインをニールとスザンナのブレイスウェイト夫妻のアパートで私が編集を務めていた業界紙、ワイン&スピリッツの記事にするためにテイスティングしたのだった。ブレイスウェト夫妻はイギリスの小さなインポータ、ハント&ブレイスウェイトの代表でもあったため、私はもう一人の代表で、その後ワイン・インポータであるソーマン・ハントを立ち上げたジェレミー・ハントに、当時の背景についてメールで尋ねてみた。

「ニール・ブレイスウェイトはピエロ・アンティノリ(635年続くフィレンツェのワイン商一族の長)の紹介で、たしか1973年にワイナリーと出会ったと思います。」と彼は返信してきた。「ハント&ブレイスウェイトではそのワインがとても気に入ったので1973年の終わりか1974年の初めに200ダースのサッシカイアを購入しました。ワインは素晴らしかったのですが、それが売れたと思いますか?我々は(マスターオブワインであり当時ウェイトローズのヘッド・ワインバイヤーだった)ジュリア・ブラインドらをピクニックランチに誘ってサッシカイアを飲んでもらいましたが、もうほんとに少しずつしか売れませんでしたよ!たぶんニールはまだいくらか持っているんじゃないでしょうか。きっとまだまだ素晴らしい状態だと思いますよ」。

「1978年に私がハント&ブレイスウェイトから独立した際、ニールとスザンナははるかに人気の出ていたサッシカイアをまだ持っていました。彼らが事業を継続せず、数年後にハント&ブレイスウェイトが取引をやめてしまったのはとても残念です」。

まさに人気がじわじわと高まり、名声と価格が一気に加速したワインの例だろう。現在では若いワインですら1本数百ポンドするが、中でもサッシカイア1985は伝説のワインだ。まだ飲まれずに残っているわずかなボトルをもし見つけたとしたら、2000ポンド、レストランではそれ以上を支払う必要がある。

私はワインの品質と価格を同一視しようとしない人間の一人だ。多くのワインはばかばかしいほどに高すぎる価格がつけられている一方、幸運なことにその逆もある。だが現在市場に出回っているワインの中でどれが今後その名声を確立するのか、さらにはカルト・ワインになる可能性を秘めているのか考えるのはとても楽しい。

最初の候補としてムチャーダ・レクラパール(Muchada-Léclapart)が作るアンダルシアのワインを挙げておこう。彼らのワインは酒精強化されていない白ワインで、シェリーを作る畑の優れた区画から造られ、食前酒として素晴らしい一方、(たった12.5%という)適切なアルコール度数のおかげで食事と共に楽しむワインとしてもふさわしい。

これはアレハンドロ・ムチャーダと究極のビオデナミ信仰者ダヴィッド・レクラパールのジョイントベンチャーだ。2011年、バックパッカーとしてフランス各地を巡っていたムチャーダはダヴィットがシャンパーニュのトレパイユに所有するセラーでインターンシップを経験している。5年後、シェリーとシャンパーニュの間にある多くの類似点(石灰土壌から単なる発酵以上に手をかけた白ワインという意味だ。両社とも卓越した素晴らしい食前酒だが、そのためには前者はアルコールを、後者は糖を加えている)に引き寄せられるように、スペインの遥か南で前代未聞のプロジェクトを立ち上げることにした。

彼らはシェリーの街、サンルカール・デ・バラメーダで、有名な石灰質土壌アルバリサに主にパロミノ・フィノの古木が植えてあり、ビオデナミ栽培を行っている(上の写真でもわかるだろう)上質な畑を合計3ヘクタール取得した。そこから無濾過で作るワインはやや濁りがあるが、テロワールを精密に表現したこのワインは冷蔵庫でも十分よく保存が可能だろう。

このワインは偉大なシェリーの産地で作られる唯一の酒精強化されていないワインというわけではない。同様なプロジェクトはヴィーノ・デ・ラ・ティエラ・カディスのブランド、Cota 45を作るラミロ・イバネス(Ramiro Ibañez)やルイス・ペレス(Luis Peréz)、さらに忘れてはならないのがスペインで最も畏敬を集めるワインの一つ、リベラ・デル・デュエロのピングスを作るデンマーク人、ピーター・シサック(Peter Sisseck)などがいる。彼はパゴ・バルバイナにあるヴィーニャ・ロス・コラレスのブドウで作ったフィノ・デ・ロス・コラレス2020(2020は瓶詰め年)をフロールが最も分厚くなる4月にリリース予定だったが、コロナの影響で今年末まで延期した。

もう一つ未発掘のワイン・スタイルはシェリーの首都、ヘレスから北へ500㎞程の場所から生み出される。ラ・マンチャの砂漠のような平地は最近まで退屈で蒸留されるかフランスやドイツなどへバルクで輸送されるような大量生産の白ワイン産地というイメージがついていた。

しかし、この地には見事な古木が存在する。そのほとんどが白ワインに使われ、多くがアルビーリョだが、中には傑出したアイレンもある。この品種は伝統的だが、蔑まれてきたラ・マンチャのブドウだ。丁寧に栽培され、至高のブルゴーニュのように醸造することで、野心的な地元の醸造家、ヘスース・マリア・レクエロ(Jesus María Recuero)、マス・ケ・ビーノス(Más Que Vinos)、ヴェルム(Verum)や、ビノス・デ・ガラヘ(Vinos de Garaje)などが魅惑的で上質なワインを作り出す。


 

南アフリカは生産者の名声が世界的に高まりつつあるもう一つの産地だ。サディ・ファミリーとマリヌー・ワインズは南アフリカの国外で恐らく最もよく知られる新進の生産者だろうし、それ以外にも私はこのサイトで多くの生産者について触れている。だが、あえて個人的なことを書くとすれば、ロンドンのワイン商、ジャスティリーニ&ブルックスがすでにデイヴィッド&ナディア(彼らの苗字もサディであるため、ファースト・ネームを使用している)と、ヴァン・ロッゲレンベルグ・ワインズの才能あふれるルーカス・ヴァン・ロッゲレンベルグとすでに契約を結んでいるのを知って非常に嬉しく思った。

温暖化は本格的なワインをどこで作ることができるかという地図も塗り替えつつある。最近、ロワール上流のクレメン・エ・フロリアン・ベルティエ(Clément et Florian Berthier)の現行ワインが送られてきた。それらは有名なサンセールなどのアペラシオンのものもあったが、サンセールの北にある、はるかに無名のコトー・デュ・ジェノワ(World Atlas of Wineの地図で右の方にある)のテロワールを明確に表現したワインも含まれていた。長きに渡りコトー・デュ・ジェノワではブドウを完熟させることに苦心しており、AOCを取得したのも比較的最近の1998年のことだ。だがベルティエのワインに関しては、この地味なコトー・デュ・ジェノワが、それよりも南に位置し、ソーヴィニョン・ブランが熟しすぎて爽やかさを失う危険にさらされているサンセールよりも、気温が年々高くなってきたおかげでバランスよく、爽やかなワインを作り出す産地としてより良い環境であることが見て取れる。

この点についてはブルゴーニュも同様で、かつては冷涼すぎたオート・コートのあたりが力を発揮し始めている。そして最近自宅に持ち帰り飲んだワインはこの気候変動の影響を如実に物語るものだった。それは非常に美味しい白ワインで、ヨハニターから作ったワインだ。その生産者はカジュダ(Kojder)、ポーランドのワイナリーだ。

新進気鋭のワイン界のスター

Muchada-Léclapart, Lumière 2018 Vino de España
£39 GB Wine Shippers (stock on the way), £50.83 Winebuyers.com 

Muchada-Léclapart, Univers 2017 Vino de España (younger vines)
£24 GB Wine Shippers (stock on the way), £25 Woodwinters, $35.99 Henry’s Wine & Spirit of Brooklyn

Verum, Las Tinadas Airén 2018 Vino de la Tierra Castilla
From €9.75 from a range of Spanish retailers and one Belgian retailer

David & Nadia, Swartland – 白、赤、ほぼどんなワインでも
£110-£240 for six bottles in bond Justerini & Brooks
$19.99-$77.99 a bottle from a wide range of US retailers

Van Loggerenberg, Graft Syrah 2018 Polkadraai Hills
£30.35 Noble Grape of Wales, £35 Philglas & Swiggot, Handford, £150 for six bottles in bond Justerini & Brooks

Van Loggerenberg, Kameraderie Chenin Blanc 2018 Paarl
£32 VinoSA of Cornwall, £35-£36 Handford, The Wine Reserve, Vincognito

Clément et Florian Berthier, Terre de Silex 2018 Coteaux du Giennnois
€15.90 Weinbaer of Germany, €18.75 Les Grappes of France

テイスティング・ノートはデータベースを、世界の取扱い業者はWine-Searcher.com.を参照のこと。

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