デザートワインの島を称えて。この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。現在入手可能なマデイラのテイスティング・ノートはMadeiras of the momentも参照のこと。
今年は歴史的な年になるはずだった。国を超えた友人や家族と節目となる誕生日を祝う予定だったし、娘の結婚式も予定されていた。いくつかの街で書籍とグラスも発売予定だった。
ただ、コロナウィルスの影響でキャンセルを余儀なくされたワイン・イベントのうち、最も残念に思っているのは今年6月にトスカーナで開催される予定だった、1870年に作られた何ダースものワインのテイスティングで、それらのコレクターだった人物が招待してくれたものだ。上質なワインは我々が消費するものの中でも長期間熟成が可能なものだが、一世紀半という長さはやりすぎと言えるのではないだろうか。
その1870年のワインは全てマデイラだ(このテイスティングがリスケジューリングされることを願いながら、過去形ではなく現在形で記述する)。マデイラは様々な側面において傑出したワインだ。最高のマデイラは私が思いつく限りのあらゆるワインよりも長く、保存容器が木製の樽、ガラス製のデミジョン(demijohn)かボトルかにかかわらず、さらに非常に便利なことに、抜栓の有無にすらかかわらず品質を損なわずに保存をすることが可能だ。私は島で作られたデザートワインを選ぶとすれば常にマデイラを選ぶ。なぜなら自制心さえ保てれば、1本を何か月も置いておくことができるからだ。
私がマデイラを選ぶもう一つの理由は、お決まりのヤシの木のイメージにもかかわらず、この神話的なデザートワインが作られる島が果たして暑いのか寒いのか、よくわからないからだ。マデイラはその両方の環境で役に立つ。通常19-20%にもなる高いアルコールは寒い時に体を温めてくれるし、その特徴的に高い酸は暑い気候の下でも爽やかさをもたらしてくれる。さらにマデイラの便利な特徴はヴィンテージ・ポートと違いボトルではなく樽で熟成されているため目立った澱がなく、これまでの経験からすると二日酔いになるリスクも低い点だ。マデイラは典型的に重くはなく、軽やかなワインだ。
マデイラを作るブドウは、主に使われる色のついたティンタ・ネグラと、それに追随するはるかに希少でクラシックな白ブドウ、セルシアル、ヴェルデホ、ブアル、マルヴァジアだが、そのどれも、この非常に収量の高い島だからこそ強調される、酸の高さが自然の贈り物と言える。広くうねるような畑はどこにもなく、小さな段々畑状の緑のストライプが島を飾り、その多くが複数の所有者のもので、ブドウはバナナやその他の果物、野菜などと、しばしば乱雑に入り組んで栽培されている。
収穫時、ブドウの糖度は低めだ。マデイラのアルコールのうち、かなりのものは添加されたスピリッツで、そうして作られた酒精強化ワインは様々な期間熟成を経るが、他のどのワインにも見られないのが常に加熱されると言う点だ。この加熱処理は人工的に作られた熱であっても、温かい屋根裏でゆっくりと加熱されても、かつてフンシャルの港が重要な中継地点であり、ワインが船の底荷としてこの島で積み込まれ、 加熱されつつも切れのいいマデイラ独自のスタイルを生み出した、赤道を超える航海を模している。
そのスタイルは色が淡く本質的に軽やかな、セルシアルとラベル表示されるものや、それよりも格の下がるブドウで作られる、辛口でその切れ味が食欲をそそるもの、さらにはナッツのニュアンスを感じ、やや甘口だが切れ味の鋭さは保っているヴェルデホ、中甘口で液体のクリスマス・プディングのようなブアル、そしてマルヴァジアという品種で作られた伝統的に最も甘いマデイラに付けられる名前のマルムジー、そのスタイルを模した廉価版でラベルにはリッチ、あるいはスイートと表記されるものまで多岐にわたる。テランテスは更に別の伝統的なマデイラ品種で、この島の畑からほとんど姿を消してしまっているが、ゆっくりと復活の道を歩み始めている。
しかし、世界で最も人気の高い旅先としてのこの島(現在フンチャルの港を多く占めるのはクルーズ船だ)を刺しゅうやクリスティアーノ・ロナウドと同じぐらい特徴づけるこのワインは今、深刻な問題に直面している。現在操業している一握りのマデイラ生産者の抱える大きな問題は、ブドウ栽培が放棄され始めていることだ。特に若者たちは、今年島への旅行者が激減したことで低下したワインの売り上げに背中を押され、不動産開発を好むようになっている。シャンパーニュ同様、ブドウ栽培者とブランド・オーナーの間には、前者が今年、後者が必要としている以上のブドウを買うよう要求することで大きな軋轢が生じている。
ブランディー一族はこの島の商業的な活動に、ホテル産業も含めてほとんど関わっている。ワイン愛好家にとって幸運なことは、この企業が2011年から、7代目のクリス・ブランディーによって経営されていることで、彼はそのウェブサイトにも繰り返し宣言しているように、「マデイラに世界で最も偉大なワインとしての地位を取り戻す」ことを目指している。彼はマデイラがこれまで長きにわたり恩恵を受けてきた以上に綿密にワインの研究を監督しており、初めての試みとして、地理的特異性を有するワインを作ろうとしている。ブレンドではなく、シングル・キンタ(農園)のワインだ。
今月初頭に行われた偉大な新リリース(ブランディーズの保有していたブアル1920までさかのぼる1199本が1本1820ポンド)のプレゼンテーションでクリス・ブランディーは、マデイラはあらゆる食事に寄り添う万能の飲み物だと論じた。彼の目標は食事の最初から最後まで、様々な種類のマデイラを提供するようソムリエを納得させることだが、現在のパンデミックによる制限でそのキャンペーンは少々時間を要することになりそうだ。
マデイラは他のワインよりもどうしても長期的なプロジェクトになる。ブランディーも認めているように、最上級の、ヴィンテージ表記を伴うマデイラは、その熟成に至るまで理想的には30年ほど樽での熟成が必要となる。そして法的には20年熟成後に瓶詰めが可能だとは言え、それでも決して安価なものではない。比較的新しいコルヘイタというカテゴリーでは、ワインはわずか5年の樽熟成ののち瓶詰が可能で、効率よく早めに瓶詰が行われるワインは長期熟成が可能なボトルですら1本20ポンドほどで入手可能だ。マデイラのスタイルを把握するためという意味でなら(そしてうまみのあるソースの材料としても)1本12ポンドほどで入手可能なものもある。ただしフランスのスーパーマーケットで料理用マデイラとして販売されているものは避けるべきだ。それらはバルクで運ばれ、良質のものと混同しないよう塩が添加されている。それから、ヴィンテージが記載された古いボトルと、ラベルにソレラと記載されたものを区別する注意も必要だ。後者は全く異なるヴィンテージのワインを混ぜたもので、誤解を与える表記だったため、しばらくの間新たに瓶詰めされるものにソレラという表記が禁じられたほどだ。
最高品質のマデイラの現代の旗手と言えば長きにわたり、リカルド・ディオゴ・ヴァスコンセロス・デ・フレイタス(Ricardo Diogo Vasconcelos de Freitas)の経営するバーベイトだ。そのハウス・スタイルは軽やかで優美なマデイラで、リカルドは常に広い視野で様々な実験を行ってきた。たとえば彼は酷評されてきたティンタ・ネグラを使ったコルヘイタの先駆者であるし、1972年のセルシアルがあまりに未熟だったためアルコール度数がたった7.2%の非酒精強化ワインを造り、非常に注意深く熟成させた結果、彼のベスト・ワインの一つとなった経験も持つ。
クリス・ブランディーが指摘するように、マデイラは瓶詰までは常に変化し続けている。1920のブアルは彼の家族セラーに1世紀の間眠っていたが、数々の異なるステージを経て、数年に分けて瓶詰した3つの異なるロットがリリースされた(近年のマデイラのバックラベルには瓶詰日を記載する必要があるため、我々消費者にはありがたいことだ)。残りの840リットルは先の3月にそのフレッシュさを保つためアメリカン・オークの樽からガラスのデミジョンに移されたが、彼の熱烈な希望は、そのマデイラが2070年に150歳を迎えたときに、今日の1870ヴィンテージのように、彼の子供たちがそれをリリースすることだ。
お薦めの現行マデイラ
価格は全ておおよそのもので、特に記載のない限り750ml瓶のものだ。
Barbeito, Boal Reserva
500mlで£15 Weavers of Nottingham, The Dorset Wine Company, Theatre of Wine, Caviste, The Oxford Wine Company, Selfridges
Barbeito, The Atlantic Rainwater 5 Year Old Medium Dry
500mlで£20 Vino Vero of Leigh on Sea, Fortnum & Mason
Barbeito, Sercial 10 Year Old Reserva Velha
£31.95 Lea & Sandemanほか
Blandy’s 5 Year Old Reserva Rich
500mlで£14.99 Waitrose, The Whisky Exchange
Blandy’s, Verdelho 1976
保税価格£220 BI Wines
H M Borges, Sercial 10 Year Old
£33 Wine & Green, Delicias
Cossart Gordon, Terrantez 1975
販売推奨価格 £280
D’Oliveiras, Malvasia 2000
£68 L’Assemblage, Turville Valley Wines, Theatre of Wine
Henriques & Henriques Medium Dry
£12 The Drink Shop
Henriques & Henriques Full Rich
500mlで£11 Majestic, Waitrose, £12.69 Cambridge Wine Merchants, £14 Ellis Wharton Wines
Henriques & Henriques 5 Year Old Medium Dry
500mlで£11.45 The Whisky Exchange
Henriques & Henriques, Sercial 10 Year Old
500mlで£20 Waitroseほか
Justino’s, Sercial 10 Year Old
£35 Butler’s Wine Cellar, Seven Cellars, Noble Grape
国際的な取扱業者はWine-Searcher.comを参照のこと。
(原文)