ARTICLEワイン記事和訳 本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

347-1.jpg世代間の調和が今、ナパやソノマで次々に見られている。この記事のショート・バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。関連するテイスティング・ノートも参照のこと。

20世紀が終焉に向かうころ、最も著名なナパ・ヴァレーのワイン一族であるロバート・モンダヴィが一連の混乱を迎えていた時代には、ナパ・ヴァレーの大きな問題は相続であると言われており、所有権の次世代への相続がスムーズに運んだワイナリーはほとんどなかった。

だが今年の2月にカリフォルニア北部を訪問した際、私には2世代、場合によっては3世代にわたるワイン事業の継承が円満に行われているように見えた。おそらくこれは現代のアメリカ社会においてワイン生産者たちが享受してきた社会的地位を反映したものであると言えるだろう。そして彼らは計画的だ。

現在のナパ・ヴァレーの大地主と言えば疑いなく、故ロバート・モンダヴィから広大な土地を受け継いだビル・ハーランだろう。彼はボルドーの1級シャトーの倍の価格で苦も無く売れていくハーラン・エステートを体系的に作り上げただけでなく、田園風景が楽しめるルレ・エ・シャトー・リゾートの一つでナパの社会的なハブとしても機能する豪華なリゾートを所有し、さらにこの先200年のビジネス・プランを持つことでも知られている。彼が最近公開したベンチャーはプロモントリーという、息子であるウィル・ハーランを代表としたワイナリーだが、第一線のワインのプロをこれ以上ないほど多く雇用している。

ウィル・ハーランに相続について尋ねると、彼はアメリカでの相続は「世代から世代にものを受け渡すために作られたシステムではないんです。税金のことを抜きにしても、世代交代には常に困難が伴います。そういう意味で父と私はどこへ向かうのか、そこにどのように至るのかという点も含めて意見が一致しています。さらに、創業世代からの支援にもこれ以上にないほど感謝しています。」と話した。

道路を下ったところにあるラザフォードではまた別の、父と息子の物語がある。ジョン・ウィリアムズは有機栽培のパイオニアであるワイナリー、フロッグス・リープをまさに息子のローリーに引き継ぐ過程にあるが、ローリーは幸せそうに「儲けるためにワインを造るつもりはない」と話し、父のブドウと、農業コミュニティとしてのナパ・ヴァレーの精神を守ることに注力している。2007年、彼らはもともと所有していたワイナリーのそばにあったロッシ・エステートを取得している。元の所有者は「ナパの人気デート・スポットだった21ヘクタールを所有するオールドミス」とローリーが形容するルイーズ・ロッシで、97歳の大往生の際には弁護士に自分の土地を売りたくない人の名を20人指定していた人物だ。

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ラザフォードにあるロッシ・エステートは無灌漑の畑に多くの珍しい品種が植えられ、ナパ・ヴァレーに特徴的な給水塔が目印だ。

ローリーはどれほどその品種が流行から外れていたとしても、古木を守ることに情熱を注いでいる。ロッシの畑はカベルネ・ソーヴィニヨンが主体だが、リースリング、ヴァルディギエ、シャルボノなども栽培されている。北カリフォルニアの多くのワイン生産者とは違い、ウィリアムズでは畑にかかわるスタッフを固定し、彼らに通年の仕事を与えている。ローリーは私が話を聞いた他の人たち同様、この10年で畑での労働力に支払う賃金はトランプによる移民制限もあいまって倍になったと話すが、「それでも全然安い」と付け加えた。彼はナパやソノマのワイン生産者たちがどれほど、メキシコ人労働者のブドウ栽培技術に支えられてきたのかをよくよく知っている。フロッグス・リープの栽培責任者であるマーティンは彼らの下で働いて25年になるが、彼の祖父がナパ・ヴァレーで働き始めたのは1930年代で、ウィリアムズがこの地に定住する40年も前のことだ。(それでも北カリフォルニアのブドウ栽培の歴史についてオンラインのセミナーを企画している人々はそういった労働者をだれ一人として出演するよう説得できていない。密入国の問題が非常に複雑であるためだ)。

もう一組の著名な父子、ジョエル・ピーターソンと息子でマスター・オブ・ワインのモーガン・トウェイン・ピーターソン(トップの写真)はソノマの緑豊かな地域から少し外れた場所にある歴史的な建造物、フッカー・ハウス(Hooker House)でそれぞれ別のワイン・ビジネスをしている。ジョエルはほぼ独学でジンファンデルを極め、1980年代から1990年代にかけてその名をほしいままにした。彼のレイヴェンズウッドの成功は、2001年に巨大企業であるコンステレーションが1億4800万ドルで買い取ったほどだ。

ジョエルは昨年レイヴェンズウッドを去り、これまた古木のジンファンデルにこだわった自身のブランド、その名もワンス&フューチャーを立ち上げた。カリフォルニアの豊かな古木の遺産を2007年以降に探し出し、中には(禁酒法と市場の欠如のおかげで生き永らえた)樹齢140年ものブドウも使う息子のベッドロックよりもはるかに小規模なそのワイナリーは、幅広いレンジの風変わりなワインを造っている。「30年ものあいだ、ジンファンデルはロゼ用じゃないって言い続けてきたから、変な品種を栽培していても何も言われないんです」ジョエルは今ではそう話す。

カリフォルニア・ヒストリック・ヴィンヤード・ソサイエティの創立メンバーでもあるモーガンは父よりもさらに、カリフォルニアでは「まぜこぜの黒ブドウ」と呼ばれる混植の品種に注目している。「品種じゃなくて畑が大事なんだ、というメッセージにつながるから好きなんです。カリフォルニアでは今、かつてないほどに「場所」に注目が置かれていますから」。彼は自信の25のワインのために8つの郡から葡萄を購入している一方、ベッドロックの畑がその面積の60%程度しか栽培に使っていない。彼はまた、そのワイン造りをブルゴーニュ風だ、と表現する父よりも大型の樽を使う傾向にある。

ワインに関わる前、ジョエル・ピーターソンはクリス・ビルブロと共に病院で働いていた。クリスもまた病院を辞めてソノマでワイナリーを立ち上げた。ビルブロが立ち上げたのは1978年、ドライクリーク・ヴァレーのマリエッタ・セラーズだ。彼は昨年亡くなったが、ジェイク、スコット、サムという3人の醸造家である息子を残した。この次世代に話を聞くと、彼ら個々のワイナリーは父の口出しがなかったこともあり、カリフォルニアの過ぎ去ったかつての時代を覗き見ているような錯覚に陥る。ドライクリーク・ヴァレーはイタリア移民によって形成されたことやよく知られており、その子孫たちが密接な関係のコミュニティを作り上げている。男たちは誘い合ってキノコを採りに行き、トラックの荷台で粗末なパン、サラミと赤ワインを分け合ったと聞く。クリスはこの上ないイタリアびいきで、自身のワイナリーもイタリア人の大叔母にちなんでマリエッタと名付けた。彼女は彼がレシピを記録しようとすると彼を叩いて、「書くんじゃない、舌で覚えなさい」というような人物だった。

現在マリエッタ・セラーズを経営するのはスコットで、ワイナリーの鮮やかな赤のブレンド、オールド・ヴァイン・レッドを今でも作っている。このワインは色にかかわらず、どのワインよりも値ごろ感の高いものだが、このコンセプトは1990年代、ブレンドが流行ではなかった時代にスコットが作り上げたものだ。サムは、自分はほとんどイタリアにいったことがないにも関わらず、イタリアの品種に特化したアイドルワイルドという自身のワイナリーを所有している。そしてジェイク・ビルブロはロシアン・リヴァー・ヴァレーにリムリック・レーンという、主にジンファンデル(なかには1910年に植えられたものもある)を栽培するワイナリーを所有している。そしてその次世代、クリスの孫もまた、すでにワイン造りを始めているのだ。

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ただし、すべての次世代が男性というわけではない。ジェイミ・アローホの両親は広く尊敬を集めるビオデナミを採用するアローホ・エステートを成功させ、フランソワ・ピノーのワイン・グループの提案を退けることができずにそれをアイズリー・ヴィンヤードと改名し、現在はポヤックのシャトー・ラトゥールと姉妹事業としている。アローホの両親はその後ゼロからもう一度新たなラベル、アセンドを立ち上げ、高級品向けカスタム・クラッシュであるホイーラー・ファームでそのワインを作るが、彼らの娘ジェイミはパリからナパ・ヴァレーに移り住み、自身のトロワ・ノワ・ワインというブランドを立ち上げている。

この、カリフォルニアでは非常に発音に苦労するであろう名称もまた、相続を想像させるものだ。「トロワ・ノワ=三つのナッツ」とは彼女と彼女の弟の子供たちを指している。今年延期せざるを得なくなったナパ・ヴァレー・ワイン・オークションの運営は本来ならアローホの担当だった。オークションの目玉の筆頭はジェイミの企画した次世代シリーズだったホイーラー・ファームで開催するはずだったディナーでは、ダラ・ヴァレ、ハーラン、モンダヴィ、フェルプス、ラッド、トレフェッセン、トルシャード、ヴィアディアなどの苗字を有する、今最も熱い若手の醸造家が自ら大型のボトルをサーブする予定だった。

もちろん、次世代の力に恵まれているのは彼らのように名のあるワイナリーばかりではない。もっとも尊敬を集めるいわゆるニューウェーブ・カリフォルニア・ワインの生産者、スティーヴとジルのマサイアソン夫妻は息子である19歳にカイがすでに、注意深く環境に配慮した栽培に加わっている。彼はスペイン語も話し、スティーヴによればだからこそ「うまくいくのだ」という。

お気に入りのワイン


どれもイギリスよりはアメリカ国内の方が見つけやすい。

Accendo Cellars Sauvignon Blanc 2018 Napa Valley

Accendo Cellars Cabernet Sauvignon 2016 Napa Valley

Bedrock, Evangelho Vineyard Heritage 2018 Contra Costa County

Bedrock, Monte Rosso Vineyard Zinfandel 2018 Moon Mountain District

Bedrock, Bedrock Heritage 2018 Sonoma Valley

Bedrock, Old Hill Ranch Heritage 2018 Sonoma Valley

Bedrock, Pagani Ranch Heritage 2018 Sonoma Valley

Frog’s Leap Zinfandel 2018 Napa Valley
£26 The Wine Society

Limerick Lane, 1910 Block Zinfandel 2018 Russian River Valley

Marietta Cellars, Old Vine Red (Lot 69) NV California
Lot 68 is £21 Roberson

Marietta Cellars, Angeli Zinfandel 2017 Alexander Valley
£37 Roberson

Once & Future, Bedrock Vineyard Zinfandel 2018 Sonoma Valley

Once & Future, Old Hill Ranch Zinfandel 2018 Sonoma Valley

Once & Future, Oakley Road Vineyard Zinfandel 2017 Contra Costa Country

Tres Sabores, Perspective Zinfandel 2017 Rutherford

テイスティング・ノートはCalifornia – inter-generational tasting notesで、国際的な取扱業者はWine-Searcher.comを参照のこと。

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