ARTICLEワイン記事和訳 本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

385.jpegその多くが品質の割に価格が安いオーストリアの赤ワイン。この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。

パープル・ページャー(訳注:ジャンシス・ロビンソンドットコムの愛読者)ならよくわかっていると思うが、私はテイスティング・ノートを書く際、価格がわかっていれば(残念ながらいつもわかるわけではない)、お買い得(good value)と思ったものにはGV、超お買い得(very good value)思ったものにはVGVと書き添えるようにしている。

先日非常に幅広いオーストリアのワインをテイスティングしていたのだが、自分がその赤ワインの多くに、GVを紙吹雪のように書き散らしていることに気付いた。確かに、多くのワインは控えめな価格設定 (和訳)を行うとして知られるザ・ワイン・ソサイエティのものだった。だがオーストリアの赤ワインが全体的に品質に対して価格が低いと考えるのは私だけではないはずだ。

クレメンス・リードル(Clemens Riedl)はオーストリアでオンラインのワインショップ、トリンクリーフ(Trinkreif)を経営している。この店は世界中の上質な熟成ワインに特化した店だ。彼はいつも、オーストリアの赤ワインの多くがその品質に見合う価格ではないとこぼしている。

「最高のオーストリアの赤ワインは世界の同等なワインに比べて、いまだに非常に価格が低いんです。それは熟成が進むにしたがって価格が上がるはずの二次市場においても同様です。消費者にとっては良いことなのでしょうが、ワイン屋にとっては決してよいことではありません。それに、オーストリアの消費者たちがワインをすぐに飲んでしまって、熟成が進むことでワインの本質や複雑性が表れてくる前に消費してしまう点も本当に残念です」。

「だからこそ、私たちは数年前から最高のオーストリアの赤ワインに投資し、私たちのセラーで熟成させ、ワイナリーのリリースから最低でも5年経ってから販売する形式を始めたんです。この国には熟成のポテンシャルが高く時間と共に品質が高まる素晴らしい固有品種、ブラウフレンキッシュがあります。このことが広く認識され、さらには価格に反映されるようになるのは時間の問題だと私は確信しています」。

今のところオーストリア国内で1本100€を超える価格のついたオーストリアの赤ワインはほんの一握りだ。しかも、それらは凝縮感が高く樽の効いた、かつてオーストリア人たちに好まれたスタイルで、現在流行のフレッシュなスタイルではない。目立つ例としてはネレ・ポックル(René Pöckl)のミスティーク・ブレンドや、クラブ・バトナージュによる生産者も品種もブレンドされたザ・ワイルド・ボーイズ、クレメンス・シュトローブルのヘングストベルク(Hengstberg)・ピノ・ノワール、シュロス・ハルプトゥルンの各ワインなどがある。50ユーロを超えるオーストリアの赤ですらほとんど存在せず、多くがそれよりもはるかに低い価格だ。

おそらく赤ワインの価格が低い理由の一つはオーストリアが白ワイン、特に固有品種であるグリューナー・ヴェルトリーナー(これも別のGVだ)と強く結びつけて考えられることだろう。

リードルは来年、影響力のあるプロを招いてオーストリアでも最高品質のブラウフレンキッシュと世界で最も有名な赤ワインを比較するイベントを企画している(ポックルはその公式サイトでミステリー・ブレンド(100%ブラウフレンキッシュではない)のあるヴィンテージがボルドーの有名なシャトー・ランシュバージュに勝ったとを誇らしげに記載している)。他の多くのワイン生産国同様、オーストリアでも20世紀末にはフランスから輸入した品種を敬い、自国の固有品種をないがしろにしていた時代があった。同様に地元の固有品種と国際品種、例えばカベルネやメルロなどとのブレンドが固有の単一品種ワインよりも注目された時代もあった。

だがここ10年ほどはブラウフレンキッシュがオーストリアの特別な品種であると認識されるようになり、オーストリアで称賛を集める赤ワインのほとんどが今ではブラウフレンキッシュのみで造られている。この品種は国境を超えたハンガリーではケークフランコシュとして知られており、フランコフカやリンベルガーとも呼ばれている。このブドウは色が濃く、特徴的な(赤系果実とコショウのような)味わい、しっかりとしたタンニン(そのため熟成のポテンシャルも長い)を備え、さらにフレッシュさとテロワールを表現する能力にも長けている(これらは流行の21世紀的な品質だ)。そのワインは多様で、最高品質のボージョレ・クリュや上質なブルゴーニュ、あるいはもう少し骨太なものであれば北部ローヌのシラーを思い起こさせるものすらある。だが、おそらくそのどれもがブラウフレンキッシュの味わいといえるのだろう。

この品種は特にこの国のはるか東部にある地域(地図参照)、ブルゲンラントに向いているようだ。中でもライタベルクのシストと石灰岩土壌、アイゼンベルクの鉄分の高い土壌から興味深い多様な表現のワインが造られる。標高が少し高い方がハンガリーからくるパノニア気候の温暖さを和らげることができる。ローラント・フェリッヒ(Roland Velich)が2010年初頭に地理的な違いが明確に表現されたモリッツ(Moric)のシリーズをリリースし始めたのは北にライタベルク、南にアイゼンベルクに挟まれた、最高の環境といえる標高の高いミッテルブルゲンラントでのことだった。上の写真はネッケンマルクトの畑の中に立つ教会で、この畑からもモリッツのワインが造られている。ブドウは晩熟だが、収穫が毎年早まっているこの国では特に問題はない。

ブラウフレンキッシュが熱い地域としてはもう一つ、カルヌントゥムが挙げられる。ここはゲルハルト・マルコヴィッチ(Gerhard Markowitsch)が長きにわたりその名を響かせてきたが、そこにワイン宣伝のプロ、ドルリ・ミュア(Dorli Muhr)が加わった。彼女は徐々に、しかも狡猾に自身の祖母がスピッツァーベルク(Spitzerberg)に持つ畑を広げてきた。これは、カルヌントゥムでは良質な古木の畑の多くが年配の小規模経営者によるものだったためだ。彼女は高齢に達し、畑を維持するのに疲れた彼らの目につきやすいよう、地元の病院の待合室や教会の会報などに広告を出し、その畑を獲得してきたのである。彼女はブラウフレンキッシュの長期熟成のポテンシャルを確信しているため(会計士が納得してくれればいいのだが)、まだ2012のヴィンテージしか販売していない。

現行2019ヴィンテージから、ザ・ワイン・ソサイエティは「ザ・ソサイエティズ・ブラウフレンキッシュ」を販売している。これはミッテルブルゲンラントで、ハンガリーとの国境から1㎞ほど、ハンガリーの有名なワインの街で、まさにケークフランコシュの首都とされるソプロンのすぐ東にあるハンス・イグラー(Hans Igler)が作るクラシックと同一のものだ。2002年まで遡る4ヴィンテージについてこのワインのテイスティングをすると、ブラウフレンキッシュがいかに熟成に向いているのかがよくわかる。ただしザ・ワイン・ソサイエティで1本13ポンド以下で販売されていた2006、2013、2017はどれも完売だ。同様にライタベルクにある人気のビオデナミ生産者、ビルギット・ブラウンシュタインの成熟したヴィンテージは1本あたり20ポンド以下で入手できる。

もちろん、オーストリアの赤ワインの面白さはブラウフレンキッシュだけではない。特に価格に敏感な向きにとってはなおさらだ。ブラウフレンキッシュよりもはるかに多く栽培されており、この国で最も知られている品種、ツヴァイゲルトは、1920年代にブラウフレンキッシュと、オーストリアのもう一つの赤ワイン用品種、ザンクト・ラウレントを交配して造られた品種だ。その両親に比べると近年それほど高く評価されてきた品種ではないが、私はファンの一人だ。若いうちは果実味が溢れんばかりのチャーミングなワインになる。また、ザンクト・ラウレントはベルベットのように滑らかで饒舌な、ステロイドを使ったピノ・ノワールのようなワインを生み出す。

結論として、オーストリアは赤ワイン好きでアルコール度数があまり高くないものを探している向きには掘り出し物の宝庫だ。最近テイスティングした23本のオーストリアの赤のうち、アルコール度数が14%を超えたものは1本しかなかったし、7本はたったの12%または12.5%だった。そして2006のワインは過ぎ去りし日の思い出がよみがえるようなワインだった。

オーストリアのような大陸性気候、特にブルゲンラントのように夏が非常に蒸し暑くなる土地で彼らがどうやってそんなワインを造っているのかはわからない。だがオーストリアが誇るフレッシュなスタイルのワインは今まさに正当化され、舌に訴えかけてくる。

お勧めのオーストリアの赤

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Familie Mantler Zweigelt 2019 Niederösterreich 13.5%
£8.50 The Wine Society

Heidi Schröck, Wine Champion Blaufränkisch 2020 Burgenland 13.5%
£9.95 The Wine Society

Hans Igler, The Society’s Blaufränkisch 2019 Burgenland 13%
£9.95 The Wine Society

Pittnauer, Pittnauski 2015 Burgenland 13%
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Moric Blaufränkisch 2018 Burgenland 12.5%
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Gernot und Heike Heinrich Blaufränkisch 2017 Burgenland 13%
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Dorli Muhr, Spitzerberg Blaufränkisch 2017 Carnuntum 13%
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テイスティング・ノートはDon’t forget Austria!を、世界の取扱業者はWine-Searcher.comを参照のこと。

毎年8月の恒例で私は夏休みを取るため、フィナンシャル・タイムズのコラムはアンドリュー・ジェフォードが代わりを務めてくれる。

原文

Image © Austrian Wine/Robert Herbst