ARTICLEワイン記事和訳 本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

ロンドンで行われたBBCマエストロの撮影

新たなワイン講座のご案内。この記事のショート・バージョンはフィナンシャル・タイムズに掲載されている。

人生で、自分はワインのことは何でも知っていると思ったことが一度だけある。1978年、ワインについて記事を書き始めて3年目、WSETのディプロマを取得した時のことだ。この資格は世界中でワイン教育を行うWSET和訳)の中で最高峰の資格である。「これで完璧だ」私はそう思っていた。

当時は珍しかった若い女性のワインライターだったこともあり、私に関する記事を読んだ出版社が私に本を書かないかと声をかけてきた。生意気にも私はそれを引き受け、出版されたのが1979年にペーパーバックとしてフォンタナ社から出版され、独創的なタイトルがつけられた「ザ・ワイン・ブック」だった。その後ハードカバーがA&Cブラック社から出版されている。副題は「良いワインを安く買い、飲むための明快なガイド」で、おそらく今でも多くのワイン愛好家が惹きつけられるタイトルだろう。この本はとっくに絶版だが、非常に好評だった。

当時、コミュニケーションの手段は印刷物だけだった。1977年に私は「Drinker’s Digest(ドリンカーズ・ダイジェスト)」という大胆なタイトルの月刊ニュースレターを開始し、それは1980年に消費者団体に買収されて「The Which? Wine Guide(どれを買う?ワイン・ガイド)」となり、毎年発行されるようになった。同年私は「ザ・サンデー・タイムズ」紙のワイン特派員に任命された。

ところが、ほどなくして新たなメディア、テレビがワイン教育に興味を持ち始めた。テレビで定期的にワイン番組が放映されるのはジャガイモに関するシリーズものの番組を企画するようなもので、アメリカやヨーロッパのほとんどの地域では当時受け入れられるには時間が必要だっただろう。だが、イギリスではワインと、それにまつわる知識に関する需要が高まっていた。

1982年7月6日、BBC2で「フード・アンド・ドリンク」という番組の初回が放映された。これは主演するレストラン・ライター、フェイ・マッシラー(Fay Maschler)と私が書いた原案に基づいて制作されたものだ。その後私は更に野心的なワインに関わるテレビのプロジェクト、「ザ・ワイン・プログラム」に引き寄せられることとなる。この番組はチャンネル4の初期の番組で、私が司会を務め、今では考えられないほどのスタッフ(音響スタッフ2名、ヘアメイク、アシスタントなど)と共に世界中で撮影されたものだ。ワインの美しさを伝えることがその主たる目的だったが、それはそのまま、ワイン生産国の美しさを映し出すものでもあった。ただ、ワインをテレビで放映すると、その欠点がすぐに明らかになった。ワインは動かないのだ。カメラマンたちは瓶詰ラインや樽職人には安心するのか、飛びつくように撮影していた。

料理番組と違い、ワイン番組はほとんど変化が起こらない。本当に変化を撮影したいと思うならクルーは数分ではなく数か月撮影を行う必要があるだろう。結果として、ワインで取り上げられるのは対話とテイスティングとなった。しかもワインのテイスティングは視聴者が画面に映されているワインと同じものをテイスティングできない限り、見栄えのいいものではない。その結果、それに続くワイン番組がコンクールやセレブを取り上げたものとなっっていったのは必定だろう。ブラインド・テイスティングに注目したアメリカのソム(Somm)シリーズや、有名な俳優二人がその知識を競うイギリスのザ・ワイン・ショーなどがその代表だ。

インターネット時代になてワイン教育は花開き、ロックダウンの間も生き残った。オンラインで指導を受けながら、小分けしたサンプル瓶のワインをテイスティングすることは2020年には当たり前の光景となった。自宅から出られない人々が互いに刺激を受けながらテイスティングの技術を磨き、知識を得る手段となりえたからだ。ワインをテーマにした会員制クラブ、67ポール・モール(Pall Mall)は、そのような企画を最も活発に行ってきた先がけの一つだ。ロンドンにある建物に会員が実際に集まれなくなったため、その需要に応えるべく、セラーにあるワインを放出した。そしてワインを小瓶に詰め替えて発送するためにソムリエ雇い、彼らの職を保護したのだ。

実は最近、私は新たな形態の教育、オンライン・コースに関わっている。BBCが立ち上げたシリーズで、犬のしつけ、作曲、ビジネスの成功、児童書の書き方、そして5本以上の料理教室など様々なテーマが取り上げられている。

最初に打診を受けたのは2020年6月、BBCマエストロのディレクター、マイケル・レヴィーンかだった。その年は北半球の収穫風景を9月に撮影することになっていた(ワイン生産に関わる映像の撮影に限界がある理由の一つが、年に一度しかこのような作業が行われない点だ)。だが、パンデミックのおかげでそれは叶わなかった。

我々は何とか2021年、ブルゴーニュでの収穫和訳)を撮影することに成功した。(1982年当時からは大幅に減少した)スタッフが揃う日がどんよりした曇りから雨という天気予報を気にかけながらだったが、結果として貴重な晴れ間に恵まれ、個人的にもブドウ収穫の高揚感を満喫することができた。ピクニックの昼食、歌、隆々とした筋肉、剪定ばさみ、バケツ、収穫箱、トラックなどの生み出すリズミカルな音、セラーで発酵し始めた果汁の香り。モレサンドニの畑の撮影では知り合いのヴィニュロン2人に出くわし、自分がまるでブルゴーニュの社会にすっかりなじんでしまっているかのような錯覚に陥ったほどだった。

一つ指摘しておきたいのは、このコースの主役は私ではなく、ジェレミー・セイスとダイアナ・スノーデン・セイスである点だ。彼らは親切にも、収穫直前にドメーヌ・デュジャックのセラー内での撮影を許可してくれた。彼らはヴィンテージの違い、ビオデナミの実用性、気候変動の影響などを始め様々な視点を披露してくれた。またドメーヌ・トプノ・メルムでは2021年の収穫用に作ったTシャツを着て騎兵隊よろしく彼を取り囲む収穫スタッフのいるラ・リオットでロマン・トプノを待ち伏せ、インタビューを試みた。

ただし、この講座の大部分の撮影はロンドン北西部に借りた一軒家で行われた。壁の大部分がガラスだったため、照明を一定にするため黒く塗らなければならなかったし、あらゆる道具をその場で揃えなければならなかったので、近くのジョン・ルイス・デパートまでワインの色調を確認するために最適な白いテーブルクロスを買いに走らされたスタッフもいた。十分なグラスやワイン関連用具だけでなく、多数のボトルをサイドボードに並べる必要があったので、購入したり、私のセラーからボトルを持参したりもした。

ワインの分野という意味では、1979年に私が初めてワインを人に教えようとした時代に比べると裾野がはるかに広がっている。ザ・ワイン・ブック同様、私の講座もグラスに入ったワインをどのようにテイスティングするかということから始めるのは同じだ。だがザ・ワイン・ブックのワインの紹介の項に目をやると「フランスのライト・ボディの辛口ワイン」に47ページを割いているのに対し、「他の国のライト・ボディの辛口ワイン」には合計でたった39ページしか割いていなかったのである。なんとショックなことか!ニュージーランドはたった5行で、ハイブリッドのブドウには触れているのにソーヴィニヨン・ブランについては一言も書いていないのだから。

プロセッコはそもそも目次として成立しておらず、ただ「プロセッコはフルーティなスパークリング・ワインだがややこもった香りがする」と書いてあるだけだ。面白かったのは、同じページで「イギリスでは、サマセットにあるピルトン・マナーとエセックスのフェルスターでシャンパーニュ方式のワイン造りを試している」と書いていたことだ。これはシャンパーニュ風のワイン造りをイギリスで初めて成功させたナイティンバーにブドウが植えられる約10年前のことだ。

今回新しい講座で取り上げるのは(当然のことながら)ナチュラル・ワインやオレンジ・ワイン、ペット・ナット(王冠で栓をした微発泡のワイン)、スペインの新しいコルピナットのスパークリング、ニュージーランドのソーヴィニヨン・ブラン(世界で最も成功した輸出ワイン)、ガイザーヴィルとラベルに書かれた、リッジが出したソノマのフィールド・ブレンド、缶、紙やリサイクルしたプラスチック容器に入ったワインなどだ。エコに配慮した私自身の取り組みとしては、ワイン愛好家たちに最高のワインは決して重いボトルに入っているわけではないということを知らしめるため、一つ嬉しかった発見の一つとしてシャトー・ラトゥール1982の空き瓶をサイドボードに飾ったことだ。その重さはたったの565gしかない(それと対照的に、プロヴァンスのロゼ、レ・クラン2020のボトルの重さは1kg近くある。ただし、生産者であるサシャ・リシーヌはこれを改善すると誓っている)

この講座は25のレッスンに分かれ、全5時間の構成だ。私の友人でマスター・オブ・ワインでもあるジェーン・スケルトンの助けを借りて作成した講座のレジュメは4万語を超える。これはザ・ワイン・ブックとほぼ同じ量だ。

ジャンシス・ロビンソン~ワインを理解する(レジュメと動画へ無制限アクセス付きで80ポンド)はBBCマエストロから2月10日に公開だ。

その他のワイン講座
世界中で数多くのワインスクールが講座を展開している。また、こちらでも世界の講座を多数紹介している。イギリスのAssociation of Wine Educatorsや、アメリカのSociety of Wine Educatorsも参照のこと。

対面講座
一部オンライン講座を提供している場合もある。

WSET:様々なレベルかつ様々な形態で、世界中で講座を提供している。昨年度には70か国10万8千人の受講者が9つのWSET資格に挑んだ。

Local Wine School:国際的なフランチャイズ事業

Académie du Vin at 67 Pall Mall, London

Berry Bros & Rudd Wine School 3 St James’s Street, London

The Culinary Institute of America at Greystone St Helena, California

Grape Experience Bay Area and Boston

International Wine Center New York

Napa Valley Wine Academy Napa, California

San Francisco Wine School San Francisco

オンライン・コース
Wine Scholar Guildは、フランス、イタリア、スペインに特化した上級講座(認定付き)と、ワインツアーを提供。

James Suckling Teaches Wine Appreciation:年更新、1か月14ポンドのマスター・クラスから~11講座、2時間22分

The Everyday Guide to Wine by Jennifer Simonetti-Bryan:The Great Courses £39.99から~ 24講座, 12時間; デジタル文書版は£9.

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