ARTICLEワイン記事和訳 本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

発酵だけでなくワインの熟成にも使うことのできる新しくて古い素材を検証してみた。この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。上の写真はリオハにあるテルモ・ロドリゲスのボデガ・ランザガ。

ナパ・ヴァレーのなかでもフロッグス・リープは常に例外的な存在であり続けた。創業一族であるウィリアムズ家は近隣のほとんどのワイナリーよりも早くから有機栽培の重要性を説き、春になると美しい風景をもたらしてくれるカバー・クロップも早くから導入していた。流行ではない品種の古木や、カベルネ・ソーヴィニヨンのような、はるかに利益の高い品種ではなく無名の品種を大切にしてきた。加えて世代交代も円満に行ってきたようだ。現在ジョンと息子のローリー・ウィリアムズは世界中に飛び火しているワイン造りの手法をナパで最初に導入した先駆者でもある。

ワインの熟成、そしてしばしば発酵に長く使われてきた選択肢は木製の、特にオークを用いた容器だ。味わいの上でワインとの相性がよく、もっとも重要なのはワインの安定化と清澄化に寄与するちょうどよい量の酸素の供給に適切な役割を果たす点だ。古代文明においては陶器が使われていたが、紀元3世紀ごろになるとワインの貯蔵にも輸送にも、アンフォラに代わって木製の樽が使われるようになっていった。

20世紀の後半に近づくにつれ、世界のワイン生産者たちの名誉の証は毎年どれほど多くのフレンチオークの新樽を購入しているかという点になっていった。実際、世界中の多くのワイン生産者たちにとって、毎年最も大きなコストはガラス瓶およそ300本分のワインを入れることができる新樽への投資だ。せいぜい3年ほどしか使わないその樽は1本1000ドルすることも珍しくない。

ヨーロッパで、恵まれているとは言えない地域のワイン生産者たちにとってはオークの樽も、実際にはワインを熟成させるということそのものも贅沢だと考えられてきた。20世紀終盤になると、その多くがまるで部屋のような形と大きさをしているコンクリートの容器を、清浄のはるかに容易な、きらきらと輝くステンレス・タンクに変えたいと考えるようになった。例えばラングドックのあちこちに点在する打ち捨てられたワインの生産組合には、そんな亡霊のような発酵槽が数多く存在し、今でも赤ワインの醸造に由来する紫色をした酒石の結晶がこびりついている。生産者の中にはダイナマイトでこれらコンクリート製の「恐竜(訳注:のような遺物)」を吹き飛ばしてしまうものもいる。

ところが、最近はコンクリートがワイン生産の現場で流行になりつつある。今世紀に入った頃、各地のワイナリーは巨大な卵型をしたコンクリート製の容器を使って、ワインの循環と、有益な澱との接触を試すようになった。さらに、サンテミリオンのシュヴァル・ブランやボルゲリのマセットなど、潤沢に資金を投入した豪華なワイナリー建築は、あらゆる形と大きさのコンクリート製の発酵槽を誇るようになった。世界のあちこちで盛り上がりつつあるこの流行は、ボルドーの最も高価なワインであるペトリュスが常にコンクリートで発酵を行っているという事実によっても後押しされているのかもしれない。

だが、これは発酵のみに限られたことだ。世界中の生産者や消費者が「オーキー(訳注:樽が強く効いた)」という、小さな新樽と結び付ける言葉を嫌い、オーク樽の平均使用年数が増え、サイズも大きくなっている流れにも関わらず、現在でもほとんどの上質ワインは樽で熟成を行う(「オークの衰退」(和訳)を参照のこと)。

そのため、フロッグス・リープでウィリアムズ家が行っていることはフレンチオークの新樽への需要があまりにも高いためフランスの樽業者が何年も前から支店を出店しているカリフォルニア北部の一般的な慣習に真っ向から反するものだ。

ジョン・ウィリアムズが「場所ばかりとる厄介者」と呼ぶ一連のコンクリート・エッグに加え、彼らは13000ガロン(約500ヘクトリットル)もの巨大なコンクリートの「部屋」を導入し、そこでシャルドネと、トレードマークのソーヴィニヨン・ブランを熟成させている。彼らはその結果与えられた質感に心を躍らせているという。このレトロな素材のもたらした結果にあまりに感激したため、彼らはさらに240ガロン(910リットル)のやや小さく四角いコンクリート容器をジンファンデル用に準備し、ジョン・ウィリアムズはその結果を「とてつもなく刺激的だ」と評している。(カベルネ・ソーヴィニヨンの結果はそれほど決定的ではなかったようだが、これはこのボルドーの赤ワイン用品種が、コンクリートよりも酸素透過性の高いオークとの親和性が非常に高いせいかもしれない)

ウィリアムズ家にとってコンクリートの魅力は、経済的な面とエコロジーな面の両方だ。ジョン・ウィリアムズによれば、「ワイン用の樽を2つ作るためには樹齢75年のオークの木が1本必要です。しかもその樽はせいぜい3〜5年しか使われません。もし、生産に関わる二酸化炭素排出量が少なく、耐用年数に制限のないコンクリートを使って良いワインを作ることができるのなら、二酸化炭素排出量削減という意味で大いなる価値をもたらす可能性があると言えます」。

実際には、このコンクリートを造っているセメントは比較的重い砂で作られており、温室ガス排出にも少なからず影響を与える。だが少なくともウィリアムズでは、本拠地からすぐの丘を一つ越えたペタルマにあり、主要な事業はシンク製作であるソノマ・カスト・ストーンのコンクリートを使っている。フロッグス・リープのコンクリート容器は毎年酒石酸(ワイン中に含まれる酸の中でも最も一般的なもの)の濃い溶液で洗浄する必要があるものの、樽のメンテナンスよりははるかに容易だという。さらにコンクリートの長所は温度が安定である点だ。

コンクリートを用いてワインを熟成させることにかける情熱はナパ・ヴァレーでは珍しいことかもしれないが、スペインではかなり一般的になってきている。この国ではコンクリート(そして地域によっては素焼きのティニャハス)が地元の伝統と大きく競合するようになってきた。高く評価される作り手、テルモ・ロドリゲスはリオハのランシエゴにある新しいランザガ・ワイナリーですべてをコンクリート製とし、1930年代に作られていたワインを再現しようと決めた。彼はボルドーのペトリュスでワインをコンクリートで醸造した経験を持つパートナー、パブロ・エグズキサ(Pablo Eguzkiza)に背中を押されたという。エグズキサは「木製のタンクは大好きです」と話し、こう続けた。「でも(つねに満量を入れなくてはならないから)よい状態を保つのはとても難しい。ランザガのコンクリートを用いた円筒タンクは100ヘクトリットル入るものだ。

ミシェル・シャプティエを含む、フランスやオーストラリアのコンクリート・タンク推奨派は、グルナッシュなど酸化しやすい品種にコンクリートを好んで使用している。またアルゼンチンのセバスチャン・ズッカルディもコンクリートのファンとして有名だ。ズッカルディは、アルゼンチンのワイン産地でも標高の高いヴァレ・デ・ウコに新たなワイナリーを建設した際、強くコンクリートの容器にこだわった。オークの風味に邪魔されることなくその地の個性を表現したいと考えているためだ。彼もまた、1930年代に地元で一般的だった素材を復活させたに過ぎないと指摘している。

ただし、皆がみな納得しているわけではない。アンデスを超えたチリでは、ブルゴーニュで経験を積んだワインメーカー、フランソワ・マソックが「世界中で雨後の筍のように増え続けるあらゆる形のコンクリート・タンク」について強い疑念を抱いている。彼はコンクリート支持者たちがワインが「呼吸できる」としている点について「彼らは(コンクリート・タンクの)内側の孔が外側の孔とつながっていないことを忘れていないでしょうか。呼吸なんて不可能ですよ」と指摘する。

ウィリアムズもシャプティエも、コンクリートの内部がライニングされていない限り、ワイン容器の外側にある酸素が魔法をかけるのではなく、容器の内側の薄い層の中にとどまっていた微量の酸素が影響しているのだと指摘している。コンクリートで熟成されたワインは確かに酸素に飢えているような味わいはせず、私から見ればフレッシュさにテクスチャが加わっているように感じるが、おそらくコンクリートの粒感を想像しているからかもしれない。

マソックはさらに、コンクリートを生産する際に使われている化学物質の影響を懸念している。「例えばシュヴァル・ブランではコンクリートを選定する際にかなり大規模な試験をしています。キース(この有名なシャトーのチーフ・アドバイザー)は地質学者で、自分のやっていることをよく知っている点も忘れてはなりません。だからこそ、彼らは美しくて技術的にも優れたワイナリーであり得るのです。他のワイナリー?それはどうでしょうね」。

コンクリートを用いた熟成は現在の、ピュアな果実味を求める風潮に合っているようだし、生き生きとした白ワインにも、比較的早飲み用のワインに向いている。ただ、複雑な赤ワインで長期熟成を求めるようなものに関してはおそらく樽製造業者が気をもむ必要はないだろう。

コンクリート的オススメ

白ワイン
M Chapoutier, Bila-Haut Occultum Lapidem 2017 Côtes du Roussillon 13%
£15 Frazier’s Wine Merchants, £16.99 Noble Grape

Frog’s Leap, Shale and Stone Chardonnay 2019 Napa Valley 13.3%
£25 VINVM, £27.17 Justerini & Brooks, £27.90 Hedonism and from $23.95 from many US retailers


Gerard & Pierre Morin, Ovide 2018 Sancerre 13%
£27 The Sourcing Table

赤ワイン
Bertrand-Bergé, Origines 2019 Fitou 14.5%
£9.50 The Wine Society

Alto Las Hormigas, Clásico Malbec 2018/19 Mendoza 13.5%
£12 approx Hay Wines, Vinified Wine, Eton Vintners and others


Dom des Espiers 2020 Côtes du Rhône 14.5%
£12.82 Stone, Vine & Sun

M Chapoutier, Bila-Haut Occultum Lapidem 2017 Côtes du Roussillon Villages, Latour-de-France 14.5%
£15.50 London End Wine

Frontonio, Microcosmico Garnacha 2018 IGP Valdejálon 13.5%
£17.95 Winedirect, £17.99 N Y Wines

Lanzaga, Corriente 2017 Rioja 14%
£18 Honest Grapes, £18.50 The Sourcing Table (2018)

Zuccardi, Concreto Malbec 2018 Mendoza 14%
£28.75 Frazier’s Wine Merchants, £29.95 Winedirect

テイスティング・ノートはこちら。世界の取扱業者はWine-Searcher.comを参照のこと。

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