ARTICLEワイン記事和訳 本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

美味しい缶入りワインとその美徳。この記事の別バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。Cans continuedも参照のこと。上の写真はディジュース(Djuce)のテイスティング・パック。

先日、私は南アフリカで最も尊敬を集める生産者たちによる120ものワインのテイスティングに参加した。全てをテイスティングすることはできなかったが、大部分は押さえることができた。中でも際立っていたのは250mlの缶に入った5ポンドのワインだった。

そもそも、その名前が印象的だ。「ウスター・ソース」(訳注:ワインの名称)は「ザ・リベレーター」ブランドのオーナーで、缶入りワインの伝道師でもある独創性に溢れたマスター・オブ・ワイン、リチャード・ケリーらしいネーミングだ。このワインは南アフリカのワイン産地、ケープのウスター地域由来のもので、強く、甘く、淡い色をした赤ワインでレッド・ミュスカデル、すなわちマスカットの中でも高級な類の、果皮に色がついたブドウを使って造られている。フレッシュでブドウらしさを感じるワインだが、決して退屈なものではなく、口中で長く余韻が続き、存在感とグリップがしっかりと感じられる。価格に対してかなりのお得感があったので、同様に甘口のワインで、高名なワイン生産者、クリス・アルヘイトが作る、ハーフボトルで75ポンドのストロー・ワイン「ロスト・アンド・ファウンド」をうっかり忘れてしまうほどだった(このワインもマスカットから造られているが、こちらのブドウはボーア戦争以前に植えられたものだそうだ)。

ただし、私が最近プルタブを使って開栓したワインの中でウスター・ソースが傑出した唯一のワインだったわけではない。缶入りワインは単に便利で目新しいものというカテゴリから、本格的なワイン生産者、さらには消費者の注目を真に惹きつけるカテゴリへと急速に移行しつつあるように思われる。

ディジュースはベルリンに拠点を置き、ワインを驚くほど洗練された産地から集めて缶に入れ、送料も返品も無料だ。ただし発送はドイツ、デンマーク、スウェーデン、オランダに限られる。フランスからはヴェルジェやギュファン・エナン、ドミニク・ピロン、オーストリアからはマインクラングなどがワインをディジュースに提供している。アルコール度数が11.5%のマインクラング2021スキン・コンタクト・オレンジ・ワインがすでに完売なのも不思議ではない。

ディジュースのセールス・トークはもちろん、缶がガラス瓶に比べ環境面で大きなメリットがある点を前面に押し出している。ディジュースのウェブサイトでは、ガラス瓶ではなく缶入りワインを選ぶ消費者は自分自身を褒めるべきだと語り掛ける。その根拠として環境保護に注力するスウェーデンのアルコール専売公社、システムボラゲによる詳細な調査を引用し、「缶は瓶に比べて28倍もリサイクル効率が高い」「これまでに採掘されたアルミニウムの4分の3は現在でも使われている」点を紹介している。また、同調査によれば250mlのアルミ缶の製造は750mlのガラス瓶に比べて炭酸ガス排出が79%低いそうだ。

何年もの間セラーで熟成させるワインにとって、ガラスは他にはない不活性な特性を持っている。だがワインの95%は購入から数か月、多くの場合は数時間のうちに消費される。その中でガラス瓶は高価で割れやすく、重く、不便な形をした容器と考えられるようになってきた。私が会話をしたワイン生産者全員が今、原材料不足と高騰する原油価格が原因となったガラス瓶不足と価格の上昇について口にする。場合によっては価格が倍近くにもなっているという。

ガラス炉は非常に大きなエネルギーを使う。現在低炭素燃料への転換が進んでいるものの、すぐに対応可能なわけではない。缶につかうアルミニウムの生産も温室ガス排出につながるものの、そのリサイクルに使われる温室ガス排出はガラス瓶のそれと比較すると、たった5%程度だ。これも効果的なガラスリサイクル設備がある前提で、である(例えばアメリカの多くがそうではない)。

私はこれまで、新たなワイン消費者にとって750mlのフルボトルを前提に、(ソムリエナイフのような)特別な道具を使わないと開けられない設定は非常にハードルが高いことを繰り返し指摘してきた。缶入りのワインははるかに小さく、一般的に250ml(すなわちフルボトルの3分の1だ)程度で、開けるのに苦労することもまずない。だから、クラフトビールやスピリッツ、カクテル、ノン(低)アルコール飲料などとの競合に直面した世界中のワイン業界が今、あの手この手で引き付けようとしている若年層の飲み手にとってはるかに魅力的なはずだ。

上述の要素は利便性を抜きにした話だ。缶は軽く、割れないし、冷却も早く、保管もリサイクルも容易だ。缶のリサイクルシステムは多くの他の飲料が缶で販売されるようになった1960年代には確立されている。

缶入りワインは既にアメリカでは巨大市場となっており、観測筋によればその売り上げは昨年倍増し2万5千300万ドルに達しているし、他の地域でもすでに伸びが観測されている。グランド・ビュー・リサーチ社の予測では世界の缶入りワイン市場は2028年までに5万7千180万ドル相当に達し、年成長率は13%とされている。

とはいえ、私自身もディナーの席で缶入りワインが何本も並んだテーブルで友人をもてなすというシーンを想像することは難しい。しかしグライドボーンなどのアウトドアで保冷バッグから缶入りワインを取り出すことは容易に想像ができる。それに加え世界的な温暖化のおかげでイギリスの気候はそれほど寒くなくなった。わが国では屋外で飲むことはこれまでよりはるかに人気となっているのだ。

250mlの缶は、イギリスで一般的に見られる提供量の2杯分に相当する。(近年は125mlに変えて175mlを注ぐケースが頻繁に見られるようになったが、個人的には、特にワインが冷たいうちに飲みたい場合には多すぎると思う)。

もちろん、ワインを缶から飲むことを推奨するわけではない。上質なワイングラスはワインを飲むと言う体験を大きく変えてくれるし、その価値があると思うワインならばデカンタに缶を何本かまとめて注いでから楽しんでもいいだろう。

私が出合った多くのすぐれた缶入りワインはアンヌ・ヴィクトワール・モンロジエ(Anne-Victoire Monrozier)が作ったものだ。彼女はミス・ヴィッキーと名乗るフランスのワイン・ブロガーであり、AXAミレジムのマネージング・ディレクターであるクリスチャン・シーリーのパートナーでもある。AXAミレジムはボルドーのシャトー・ピション・バロンやスデュイロー、ドウロ渓谷のキンタ・ド・ノヴァル、ブルゴーニュのドメーヌ・ド・ラルロやナパ・ヴァレーのアウトポストなど、そうそうたるワイナリーを所有している。彼女がフルーリーの生産者の娘でもあることを考えれば、彼女の造る缶入りワインに何が入っているのか想像に難くない。だが、有機栽培かつ手摘みで造られたジューシーでフルーティだが魅惑的なライト・ボディの赤ワインを試す価値はあるし、まさにそのスタイルは缶入りワインに私が求めるものである。

他に私が楽しんだものにはカンド・ワイン(Canned Wine Co)やザ・カッパー・クルー(The Copper Crew)などのワインもある。どちらもイギリス市場で入手可能で、後者は南アフリカのワインに特化しており、ワインの缶詰技術にも長けている。ザ・カッパー・クルーのワインメーカーは才能あふれる若手、サム・ラムソン(Sam Lambson)だ。

一方リチャード・ケリーMWのザ・リベレーターのシリーズは最も革新的だ。ワインには他の人が見過ごしてきた南アフリカのワインを集め、それらにインスピレーションを受けてロットごとに覚えやすい名をつけている。

イギリスのスーパーマーケットは恐る恐る缶入りワインを導入しているところだが、現在のところあまり面白いワインはない。改善してくれると良いのだが。

なお、国際缶入りワインコンクールと言うものも存在する。今年はカリフォルニアのブーンヴィルで開催されたもので、4回目の開催だ。今回ベスト・オブ・ショーに選ばれたのはプロヴァンス、ニュージーランド、南オーストラリア、カリフォルニアのものだった。審査員は(おそらくかなり気前よく?)20か国300エントリーのうち97ワインに金賞を与えている。

ただし、缶入りワインはガラス瓶の代替となる多くの候補の一つであることを忘れてはならない。リサイクルしたプラスチックやコーティングされた紙、バッグインボックス、飲みきりサイズのパウチやカートンなども十分に検討の余地がある候補だ。そしてワインをフレッシュで健全に保つ技術の進歩は目覚ましい。

もちろんワイン愛好家の中にはガラス瓶以外は考えられない向きもあるだろう。その場合にはぜひ、ボトルの再利用の普及も視野に入れてほしい。

優れた缶ワインたち

Canned Wine Co, No 5 Old Vine Garnacha 2019 Vino de España 14.5%
£16.50 for three 25-cl cans Canned Wine Co

The Copper Crew Chenin Blanc 2021 Western Cape 13.5%
£24.99 for six 25-cl cans The Copper Crew

Maine & Jean-Marie Guffens, Djuce Marsanne 2020 France 13.5%
£8.50 per 25-cl can Newcomer Wines, €64 for 12 25-cl cans Djuce

The Liberator, This is the Sea Albariño 2021 Coastal Region 11%
£5 per 25-cl can

The Liberator, New Blood and Chocolate Cabernet Sauvignon/Shiraz 2020 Coastal Region 14.5%
£6 per 25-cl can

The Liberator, Worcester Sauce Red Muscadel 2021 Worcester 17.5%
£5 per 25-cl can

Orion, Terre di Faiano Organic Primitivo 2021 Puglia 13.5%
£3.49 per 25-cl can Waitrose

Verget, Djuce Grand Élevage 2019 Bourgogne Blanc 13.5%
£12 Newcomer Wines, €9.50 per 25-cl can Djuce

Les Vins de Vicky, Ô Joie 2020 Fleurie 13%
$7 per 25-cl can Frankly Wines, NY, and others in the US; imported into the UK by Propeller Wines

テイスティング・ノートはこちらから、世界の取扱業者はWine-Searcher.comを参照のこと。缶ワインに関する他の記事はこちらから。

原文