ARTICLEワイン記事和訳 本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

クロ・ルジャールの木箱たち


流行の生産者やソーシャル・メディアがワインの価格を吊り上げる一方で、トップレベルの掘り出し物はその身を潜めている。この記事のやや短いバージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。画像はロワールのカルト・ワインに関する新たなプロジェクトに関する記事を書いたジェームズ・ローサーMWの提供(Image courtesy of James Lawther MW)。

ワインの価格とその品質の不一致に驚かない日はない。この点はどんな商品でも言えることだが、おそらくワインに関しては、自分の好みと購買選択に完全な自信を持っている消費者がほとんどいないことで、その現象に拍車がかかっているのではないだろうか。

私が最近公開したクリスマス向けのオススメにある、注意深く作られた非常に美味しいポルトガルの赤や白のブレンド・ワインは、一体全体なぜ1本10ポンドもしないのだろうか?この先長い時間熟成が可能な15ポンドを切る南ローヌのワインを見つけるのはなぜこんなにたやすいのだろう?そしてなぜシェリーはなぜいまだに虐げられているのか。

ワイン・リストは明らかに異常な価格のオンパレードだ。著名な銘柄は特に。

これまで私は長きにわたり価格と品質に直接な関連性はないと提唱する立場を貫いてきたが、最近の2つのイタリア・ワインのテイスティングで、その点を再認識させられた。1つ目のテイスティングはイギリスのインポータ、バークマン・ワイン・セラーズ(Berkmann Wine Cellars)主催のもので、3種のカベルネ・ブレンドの比較試飲だった。その3種とはトスカーナの原点とも言えるサッシカイアと、アンティノリがその近隣で造るグアド・アル・タッソ、そしてサッシカイアにインスピレーションを受けたものの北部ドロミテ渓谷へと通じる道の途中、トレンティーノで造られたサン・レオナルドだ。

これらのワインについて2016、2013、2011、2010、2007のヴィンテージをテイスティングした。時期的な偏りを超えるに十分な幅と言えるだろう。

私自身はワインに点数をつけるのは嫌いなのだが、比較のために示すと、3本のワインに100点満点で以下のような点数を付けた。サッシカイア88.5、サン・レオナルド88、グアド・アル・タッソ84.5だ。一方、バークマンがそれらに付けている価格はサッシカイアが275~325ポンド、サン・レオナルドが50~50ポンド、グアド・アル・タッソが75~98ポンドだ。

商業的に最初となるサッシカイアのヴィンテージは、イタリア・ワインの歴史をさかのぼる1968年のことだ。そして周知のとおり、彼らは1985年に高級ワインの世界でその地位を確固たるものとした。(私はこれまで幸運なことに5回それを味わう機会に恵まれたが、人生で最大の後悔の1つは、1990年代初頭にレストラン・リースのワイン・リストに1本30ポンドとあったものを高すぎるとして注文しなかったことだ)。この分野の先がけとしてサッシカイアはトロフィー・ワインとなり、それに伴って価格も上昇することとなった。

一方、グエリエリ・ゴンザーガ父子は精巧に作られたボルドー・ブレンドであるサン・レオナルドを1982ヴィンテージから造り続けている。ボルゲリにあるサン・グイドでサッシカイアを生み出した男で、「醸造学のゴッドファザー」と呼ばれるマルケーゼ・マリオ・インチーザ・デラ・ロケッタ(Marchese Mario Incisa della Rocchetta)から細かな指導を受けて造られたワインだ。ではなぜ、サン・レオナルドは価格が低いのだろう?私がこの10年ほど書き続けてきたサン・レオナルドを称賛する記事がいかに無力であるかという証であるとも言える。

グアド・アル・タッソが登場したのは1990年になってからのことで、アンティノリが長いこと安価なロゼ用にボルゲリに所有していたワイナリーをカベルネの生産に転換した際のことだ。おそらくアンティノリの名前と営業手腕のおかげでその価格はサン・レオナルドよりは高くなったのだろう。私は2015年、グアド・アル・タッソのワインメーカー、レンツォ・コタレッラが複数ヴィンテージを飲ませてくれた時の記事を読み返してみた。彼はその時、早い時期のヴィンテージはあまりに強すぎると告白しており、彼の目標はサン・レオナルドが確実に持っている繊細さなのだと話していた。

2つ目のイタリア・ワインのテイスティングは、いかに過剰な価格がつけられたワインがあるかということを明確にしてくれたもので、偶然にもボルゲリの、あのオルネライアが造った白ワインの垂直テイスティングだった。オルネライアの赤ワインはカベルネのブレンドで、その歴史は1980年代にまで遡る。この上なく印象的で何十年も熟成が可能な、1本あたり3桁ポンドの価格がつく。一方オルネライアのチームはロンドンに来て、2013年製造開始当初からの全ヴィンテージの白ワインのお披露目をした。この白ワインはソーヴィニヨン・ブラン主体で造られており、生産量は非常に少ない。私自身それらをテイスティングしたのは初めてだったのだが、残念ながらほとんどのヴィンテージは5年以上持たないだろうと感じられ、ひどくがっかりさせられたと言わざるを得ない。だからそれらが市場で赤ワインと同等の価格で売り出され、その後赤の価格を上回ったと知って非常に驚いた。これはおそらく、ボルドーで最も有名で生産量の少ないペトリュスル・パンなどの価格を吊り上げたのと同様の「希少性効果」なのだろう。

生産量が非常に少ないから、という口実はブルゴーニュのグラン・クリュの価格高騰の言い訳としても長く使われてきた。だが近年は流行というインフレ要因も加わり、トップレベルのものだけではなく、全てのブルゴーニュの価格上昇は天井知らずとなっている。事実、ワイン商たちに過剰な価格のついたワインを挙げてもらうと、そのほとんどは大して腕が良いわけでもない生産者が造る2流3流のブルゴーニュだ。格付け上も、熟成ポテンシャルと言う意味でもプルミエ・クリュやグラン・クリュの下にあるヴィラージュレベルのワインですら、ブルゴーニュのコート・ドールから差す輝かしい後光のおかげで非常な高値が付くこともある。そして白のブルゴーニュは特に、近年の生産量が少ないため異常な価格となっている。

実は、私がブルゴーニュを苦手とするようになったのは最近の価格高騰の前からだ。なぜコート・ド・ニュイの赤ワインはコート・ド・ボーヌの赤ワインより高いのか?凝縮感がもてはやされたころの名残なのか?近年、特に暖かいヴィンテージにはコート・ドールの南半分からも数多くの、間違いなくブルゴーニュを純粋に表現できるワインが生み出されているではないか。 (A journey through Beauneも参照のこと)

ブルゴーニュはまさに、現代のワインにおけるカルト主義のわかりやすい例だと言える。生産者が突如時代の寵児ともてはやされるようになると、そのワインには信じられないほどの価格がつく。2013年、私はパリを拠点とするワイン愛好家から、ヴォーヌ・ロマネにあるジャン・イヴ・ヴィゾのワインを是非飲むべきだと言われた。「常に従順で好奇心旺盛な」私は2014年11月、彼の2013を飲ませてもらうべく、なんとかアポイントを取った。そこで私が目の当たりにしたのは、確かに最高のものはとても良くできているとは認められるものの、その品質に大きなばらつきがあるという事実だった。残念ながら、毎年通い続けようと思うほどの素晴らしいワインとは感じられなかった。

だから、彼の2019ヴィンテージのヴォーヌ・ロマネの(プルミエ・クリュでもグラン・クリュでもない)ヴィラージュものが現在1本4000ポンドで売られているのを見て目眩がしている。他の同等のワインはほとんどが1本100ポンド以下で売られているのに(そしてブルゴーニュがワイン界の垂涎の的となる以前は更に安かった)。そして彼のグラン・クリュ、エシェゾー2019はその倍の価格だ。その他のブルゴーニュの最近のスーパースターとしてはレ・オレ、ラミ・カイヤ、アルヌー・ラショーのシャルル・ラショーなどが挙げられる。

無名だった生産者がある日突然、近隣の価格をはるかに超え、成層圏の彼方までその価格を高騰させるという現象のはしりは、ロワールのソーミュール・シャンピニーのクロ・ルジャールだろう。このワイナリーがあまりに魅力的なので、5年前にフランスの通信・建設会社であるブイグが買収したほどだ。

一夜にして名声と価格を高めた他の例としてはジュラのドメーヌ・ド・ミロワール、サンセールのエドモン・ヴァタン、シャンパーニュのユリス・コラン、そして南ローヌのタヴェルにあるラングロールなどがある。

言うまでもなく、ソーシャル・メディアは価格高騰に拍車をかけるとともに、世界中でワインにいくらでも金を払おうとする人々の数も劇的に増やした。おそらく私たちのような一般的なワイン愛好家は、そんな大金持ちが大枚をはたくよう仕向けられている対象が限られていることに安堵すべきなのだろう。

相対的に安価な掘り出し物がみつかるカテゴリ
ボディが軽く、アルコールが低いものから並べてある。もちろん、過剰な価格がついた例外はある。

白ワイン

ミュスカデ

ドイツのグローセス・ゲヴェクスのリースリング

南アフリカワイン

クレタ島の白

シェリー

赤ワイン

クリュ・ボージョレ(シルーブル、サン・タムール、フルーリー、レニエ、ブルイイ、コート・ド・ブルイイ、ジュリエナ、シェナ、モルゴン、ムーラン・ア・ヴァンの順にボディと熟成ポテンシャルが増す)

チリのピノ・ノワール

ドイツのグローセス・ゲヴェクスがついたシペュート・ブルグンダー

ボルドーのプティ・シャトー

キャンティ・クラシコ

イタリア中部および南部の多くの赤ワイン

スペインの古木から造られるガルナッチャ

コート・デュ・ローヌ

ジンファンデル

LBVポート

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