ARTICLEワイン記事和訳

インドの活力、EUの補助金 29 May 2014

009-1.jpg先週末の選挙結果は私たちの多くにEUの現状を顧みるきっかけを与えてくれたように思う。そしてアジアからのあらゆるレポートは中国のワインマーケットの劇的な後退を示し、次にどのマーケットが台頭するのか考えさせられずにはいられない。どちらの発展も見逃せないため、この記事を木曜特別シリーズとして公開することにした。もともとは有料記事として5月21日に掲載していたものである。

先週末フィレンツェで開催されたマスター・オブ・ワインシンポジウムには450名が参加した。そのうちおよそ120名が名前の後ろに二つのアルファベット(訳注:MW)を獲得した人々であり、60名以上はその試験を間近に控えているにも関わらず参加したMW受験生たちだった。彼らのために用意されたのは世界中の最先端のワイン科学者による専門的な情報からデブラ・メイバーグMWによる世界最優秀ソムリエ、ジェラール・バッセのインタビューのようなやややソフトなトピックまで多岐にわたった。

4年前のボルドー大会同様、会場を盛り上げる立役者となったのはインド人だった。ボルドー大会ではソムリエからワインコンサルタントに転身(全ての人が通る道だが)したマーガンディープ・シンがインドにおけるワインについて非常に楽しく快活なプレゼンテーションを行った。今大会はインドで最も成功しているワイン生産者、スラ(Sula)の創立者でありCEOであるラジーブ・サマント(Rajeev Samant;写真)が参加者の視点から素晴らしい観察眼を見せてくれた。それはワイン環境科学者であるグレッグ・ジョーンズ(Greg Jones)教授とワイン・グレープスで私の共著者でもあるホセ・ヴィーアモス(José Vouillamoz) が現在世界のワイン地図がいかに変わってきているか、そしてその変化にブドウ品種をどう選択して適合させていくかについて講演した後のことだった。サマントは「インドではルールも伝統もありません」と認めたうえで「そして私は今、このようなセッションを10年前に聞いていなかったことを後悔しています。我々はメルローとカベルネ・ソーヴィニヨンを試しましたが悲惨な結果でしたし、テンプラニーリョはややまともでしたが、私は今、科学者と共に原点に立ち返る必要があることがわかりました」

その後フィレンツェの国際会議場の半地下になっているホールの演壇から、サマントが再び現場の空気を注入してくれたのは「成功の向こうに― 持続的な成長のための戦略」というタイトルのセッションだった(某年配のMWはフィレンツェの文化を楽しみにしていたため「成長?そんなものに興味はないよ」と出て行ってしまったのだが)。インドの人口が中国を追い抜くと言われているということは、インドでのワインの現状を私たちは知っておくべきだと考える。サマントは楽天的で、EUの自由貿易協定が2年以内に結ばれれば中級から高級市場の輸入ワインにかかる税が減り、インドへのワイン輸出者を後押しし、ワイン市場の拡大が加速するだろうと話した。

彼はさらにモディがインドの首相としてまさにその日に選出されたことに言及し、インドのビジネスマンたちはみな、汚職も機嫌取りもない、そしてさらなる成長が見込める環境で活動できることに希望を抱いていると述べた。彼はインドの主要な3つのワイン生産地域(一般的に二期作をしている)を取り巻く恐ろしく複雑な環境について説明した。彼らが32の州でワインを販売するためには、各州で異なる古風な規則に従わなくてはならないのだ。各州では少しずつ異なったラベル表記が求められ、もしもインポーターの担当責任者が間違ったラベルのワインを1本でも販売したなら刑務所行きとなりえる。税金も州ごとに大きく異なりるため、スラは同じ国内でも7ユーロから20ユーロという大きな価格幅で販売されている。さらに流通業者は地域(province)ごとどころか、市ごとに必要で、彼らはすべて専売権を主張するのである。

流通に関するこれだけのハンディにも関わらず、インドでのワイン消費は順調に増え、「良い年は約25%増」のこともあるそうだ。そして全体としてはこの15年間で10倍にも膨れ上がっているのだ。サマントは、彼の祖母の時代には女性のたった0.05%しかアルコール飲料を口にしたことがなかったが、現代のインドで実際の売り上げ増大に貢献しているのは都会で働く女性であると指摘した。(女性の割合といえば、先日「コミュニケーションと未来の消費者」というトピックで話すために統計を取ったところ、パープル・ページの読者のうち女性はたったの15%であるという非常にショッキングな結果だった。どうかあなたの知り合いの女性を誘っていただきたい。・・・おっと、閑話休題)

009-2.jpg同じセッションのあと、エネルギッシュなインドのMW受講生であるソーナル・ホランド(Sonal Holland;写真)がこのシンポジウムで最も印象に残る質問をした。アクサ(AXA)の気立てのいいワイン・チーフであるクリスチャン・シーリー(Christian Seely)は1986から2012の間にボルドーの赤の平均価格がどれほど上昇したのかを示していた(まるで私たちがそれを知らないかのように)。1級シャトーについては+703%、上質な2級シャトーは+340%、3級は+180% 、普通のACボルドーは+24% だそうだ。それは結構なことだけれども、と彼女は話し始めた。彼女はいかにして自分が2009のボルドーに投資することを決めたのかを説明し、実際に1級シャトーやその他のワインに相当な投資をしたと言った。「それ以来」彼女は咎めるように続けた。「私の財産は30%も目減りしています。確かにルピー安も影響していますが、私はそれらをまだ持っておくべきか売ってしまうべきか悩んでいます。最近は否定的なレポートばかりですよね。シーリーさん、どうかアドバイスをください。」この時、同情的なゆっくりとした拍手のうねりと悲しげなため息がホールを満たした。

シーリーは一瞬いつもの冷静さを失ったようだった。「えーと、じゃあイギリスのスパークリングについての話は聞かなくていいんだね?」と言葉を濁した後、100%あいまいとは言い切れないような答えをなんとか絞り出した(ボルドーのスポークスマンとも言うべき男には非常に珍しいことである)が、彼女の将来のための戦略として確固たるものを提案するには至らなかった。「僕も09には投資しているんだよ。価格は市場の需要によって上がるし、長期的な視点からは上がると思う。一つ僕が強く信じているのはボルドーの投資はシャトーごとに行うべきだということ。そのシャトーの価格設定の歴史をしっかり見る必要があるね。リスクを最小限にするためには彼らのリリース後の価格変化を知っておくことだよ。」

「こういう時代がきてボルドーが見極めなくてはならないことは、09の品質に対して価格の上限がどこなのかということだ。しかし実際には、2009のプリムールの価格は需要が大きかったから設定が少し高すぎたものもあったと言える。それは05も同じだよ。ただ、逆に低く価格設定されることもあって、たとえば08のプリムールなんかは最高の投資対象だったし、04もそうだね。」

ようやくシーリーに冷静さが戻ってきたところで、今度はニュー・サウス・ウェールズのロビン・テダー(Robin Tedder) MW が仕掛けた。「シーリー、君のグラフを見ていると、なんだか投資信託のセールスマンの話を聞いているみたいだよ」と述べた後、文字通り数百万ユーロに値する質問を続けた。「イタリアだけでも35000ものブドウ栽培者がいる。EU全体ではもっともっとだ。EUが補助金をやめたらどうなるんだ?」

それにヨーロッパの代表として答えたのはロワルド・ヘップ(Rowald Hepp)博士だった。「シュロス・フォルラーツ(Schloss Vollrads)では補助金は受け取っていませんが、全ての人が受け取らなくなったらヨーロッパ全体に新たなうねりが生まれるでしょうね。システムの浄化が起こると思いますよ。」

フィレンツェで発せられたこの一言は、考えるに値する。

原文