ARTICLEワイン記事和訳

ワイン詐欺摘発のプロ、ダウニー 5 Jul 2014

この記事の少し短いバージョンはフィナンシャル・タイムズに掲載されている。

022-1.jpg実践的なワイン作りを経験したいと考えたとき、モーリーン・ダウニーが選んだのは南アフリカだった。「サメと一緒に泳ぎたくて、南アフリカに行ったの。」最近ロンドンを訪れた彼女は楽しそうにそう話したが、ある意味彼女はこの数年間、希少な名ワインの世界に住み着いたサメたちの中を泳いできたと言ってもいいだろう。ただし、海ではサメから守ってくれるカゴがあったが、彼女の仕事、すなわち偽ワインの摘発において、彼女は常に身体的な危険や脅迫的な訴訟にさらされている。

それは2013年4月に開催されたラ・パウリー(La Paulée)での出来事だった。ラ・パウリーは毎年恒例の高価なワインが提供される催しだが、そこで彼女は化粧室から戻る途中にワイン商から暴力を受けたのだ。二次会会場に着くまでに、彼女は同僚でワインと同じぐらい柔術に長けているディラン・ピータース(Dylan Peters)に彼女のそばを離れないよう頼み、同席していた彼女を脅迫した人物たちとの間に入ってもらった。

私なら彼女に喧嘩を売るようなまねはしないだろう。「何が頭に来たって、奴らは私が女だから向かってきたのが明白だったからよ。」彼女は声を荒げた。「奴らの態度は『この男じゃない生き物が俺たちに指図するわけか?』とか、完全に見下した態度で『お嬢ちゃん、男社会のことなんてわかっちゃいないだろ、いいかい、さっさとキッチンに戻って灰皿交換でもしてな』っていう態度なのよ。」

事実、その業界で彼女は一匹狼であり、波風を立ててきた。高級ワインビジネスには常にいくつかの腐ったリンゴが紛れ込んでいるのが定石だが、普通の人は彼らとただ距離を置くにとどめている。しかし初期のシリコンバレーのエンジニアの娘であるモーリーンは人一倍強い信念と正義感の持ち主だ。また、彼女はワインについての才能もある。彼女はボストン大学でホスピタリティを学んでいた頃、女性だけのテイスティングチームをテイスティング・コンクールでの大勝利に導いているのだ。このことがきっかけで彼女はこの世界に入り、タヴァーン・オン・ザ・グリーン(Tavern on the Green)のマネージャーを手始めとしてニューヨークのレスピナッセ(Lespinasse)やフェリディア(Felidia)などに勤務、その後オークション専門家としてニューヨークのワイン商であるモレル・アンド・カンパニーやザッキーズでキャリアを積んだ。

彼女がワインの出所に疑問を持ち始めたのはこの頃だ。その代表的なものが当時20代前半だったインドネシア人ルディ・クルニアワンが希少なワインを売りたいと電話をしてきたときのことだった。彼女はニューヨークやカリフォルニア南部のワインの現場で彼の名前を聞いていたが、彼が突然1940年代から1950年代のネゴシアン詰ポムロールを売りたいと言ってきたと聞いて驚いた。なぜならほんの数年前まで、彼はカリフォルニアのメルローを褒めちぎっていたからだ。「この短期間におかしいなと思ったわ。ルディは自分のことをワイン収集家ではないと言い、ワインが彼の家族の所有物でもないと言ったわ(たしかにその通りよね)。私は彼に領収書の提示を求めたの。そしたら何週間も経ってから中国語で書かれた「ファックスのファックス」を送ってきたわ。私は二度と彼とは取引しないけど、そうじゃない人もいるのよ。」

022-2.jpgルディ・クルニアワンは現在ニューヨーク刑務所で(まもなく出るであろう)判決を待っている。彼の南カリフォルニアにある自宅がFBIにより家宅捜索され、19000枚に及ぶ世界中の希少なワインラベルとコーヒーテーブルほどもある巨大なプリンター、膨大な数の古い空ボトルと下に示すような偽ワインのレシピが発見された。ダウニーは彼の銀行明細を含むFBIの押収物すべてを精査し、彼が2002年から2013年の間に少なくとも1億ドル相当のワインを売りさばいたと考えている。彼女の手元にある600行に及ぶ帳票には彼が作ったワインとラベルの組み合わせが書かれおり、そこには伝説の1945年のロマネコンティのものも5種類含まれていた。彼女の写真担当がルディの全作品を撮影するには数日かかったが、この写真は裁判で使われた5種類のうちの1つであり明らかな偽物である。ダウニーは二種類のどちらも業務用のワックスが使われていること、ラベルのコンピュータによる印刷、および緑の文字の縁が滑らかでないこと(他にも明白な事実が確認されている)を指摘している。

なぜそれらの証拠品を見ることができたの?と訊くと「私以外に見せてくれと頼む人がいなかったからよ」と彼女は言った。「ルディ担当の検事は私の執念に感動していたわ。」裁判の間、ルディと目があったりしたのかしら?「ええ」それで?「彼は悲しそうだった。ただの子供ね。でも、私が彼のしたことに対するのと同じぐらい腹が立っているのは、彼は1人じゃないってことに気付いたからなの。彼はオークションのカタログでさも重要なコレクターであるかのように描かれていたわ。あるワイン評論家は彼のワインを褒め称える嘘を言うよう金を受け取っていたの。ルディは作られたもの、それ以外の何物でもないのよ。私は彼に腹を立てているけど、それ以上に彼に文字通り投資して彼に偽造をさせ、そして見捨てた奴らに腹を立てているの。」

彼女はルディが数百万ドル相当のワインを提供したニューヨークのワイン商でオークションハウスでもあるアッカー・メラル社が、最高で100万ドルもの融資をルディの口座に振り込んでいるのを確認している。当時彼はニューヨークの有名人で、数千ドルものワインディナーをニューヨークのトップレストランで開催し、謎に包まれたこの収集家の2件のセラー・オークションの宣伝を行っていた。アッカー・メラル社は特に香港での強みを生かしてそれを後押しし、中堅規模から世界最大のオークションハウスへと上り詰めた。

高級ワイン市場にダウニーの敵がいるのはさほど驚くべきことではない。しかし彼女は億万長者であるビル・コッホの支援を受けてなんとか名誉棄損訴訟に立ち向かうことができた。コッホは彼が信頼していた収集家が彼に偽物を売りつけたとして別の訴訟をしていたが、その証拠を2013年3月に見つけ出したのがダウニーだった。富裕層の人々を5桁の値札が付けられた偽ワインから守ることは彼女にノーベル賞をもたらすことはないだろうが、FBIが今や偽ワイン専門の部署を設置していることは注目に値する。

ダウニーの主な業務はセラーの管理である。彼女の会社、シェ・コンサルティング(Chai Consulting)はサンフランシスコを基盤としているが、ノースカロライナ在住のシェリ・ソーター・モラノ(Sheri Sauter Morano)MWやロンドン在住でMW協会の元理事であるシヴァウン・ターナー(Siobhan Turner)をスタッフとして抱えている。ワインの歴史が浅いアメリカ人だけではなくヨーロッパ人も高級ワインに関するアドバイスを必要としていることに初めて気づいたのは彼らだった。ワインはかつてのヨーロッパのように世代から世代へ引き継いでいくものではなくなったのだろう。そして多くのヨーロッパのワイン商や競売人でさえ、積極的に偽ワインを撲滅するためにアドバイスを必要としているのだ。ダウニーによると、その数はアメリカより多い。

022-3.jpg彼女はアジアには膨大な数の偽ワインがあると確信している。「私は喜んで彼らの手助けをするわ。だって地球上で最もこの被害にあっているのは彼らだもの。」彼女は言うが、実はルディの偽造ワインはヨーロッパでも見つかっているようだ。「こんなことが起こる理由の一つは、アメリカにワインを収集する文化がなかったからなの。もしこんなに大量の希少なワインがロンドンで出回ったら、多くの人が『おいおい、こんなワイン、何年も見てないよ』と声を上げるに違いないでしょ。つまり、1961年のラトゥール・ア・ポムロールを3ケース持っている人なんていないのよ。でもアメリカでは神様よりお金を持ってる人たちがいて、彼らはなんでも手に入れたがるの。インターネットのおかげで誰もがワインの専門家気分になれるしね。」

彼女はワインの専門知識を持ちフランス語も話すが、ルディの偽造したワインラベルの間違いを見つけるためにはそれほどのスキルは必要としない。たとえばラベルに印刷されたフランス語が「imprimé」の代わりに「mpriné」となっているのだから。まさに、買い手責任である。

ルディの偽ワインレシピ

偽ワインのブレンドは・・・

1945 Ch Mouton-Rothschild

   50% 1988 Ch Cos d'Estournel
   25% 1990 Ch Palmer
   25% 2000 California Cabernet

1940年代のDomaineaine de la Romanée-Conti 

   2006 Marcassin Blue Slide Ridge California Pinot Noir

1940年代から1960年代のPomerol

   Duckhorn California Merlot 2007

 最もよく偽造されているワイン

ボルドー

Petrus 1945, 1947, 1961, 1982
Ch Lafleur 1947, 1950, 1961, 1990
Ch Latour à Pomerol 1961
Ch Trotanoy 1945, 1947, 1961
Ch La Mission Haut-Brion 1945, 1947, 1959, 1961
Ch Latour 1928, 1929, 1959, 1961
Ch Lafite 1959, 1945, 1982
Ch Mouton-Rothschild 1945
Ch d'Yquem, ancient vintages especially 1811

ブルゴーニュ

Domaine de la Romanée-Conti、Romanée-Conti 1899から2011の間すべてのヴィンテージ
Domaine de la Romanée-Conti、La Tâche, 1899から2011 の間すべてのヴィンテージ
Domaine Henri Jayer, Richebourg、Cros Parantoux 1978, 1985
Domaine Comte Georges de Vogüé, Musigny 1945, 1947, 1959, 1962

それからニコラセレクションの古いものは全て

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