ARTICLEワイン記事和訳本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

主張するシスト29 Aug 2020

346.jpgこの記事のショート・バージョンはフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。4週間、友人であるアンドリュー・ジェフォードに代理を務めてもらって取得した休暇明け、1本目の原稿だ。100以上のテイスティング・ノートを含む今週のMore Languedoc and Roussillon 2020 も参照のこと。

それにしても、ドメーヌ・ド・セベーヌのブリジット・シュヴァリエ(Brigitte Chevalier)はとにかく最高のワインを造る。手作りで、テロワールを緻密に反映したそのワインは、近隣の村で借りていた作業所で窮屈に造らなければならなかった時代から丘の上に洞窟を掘り特注で造った自身のセラーで造るようになり、ますます良くなってきた。

ソーシャル・ディスタンスを保ったうえで先月訪問した際に、渡井は彼女に価格を上げる気はないのかと尋ねてみた。彼女は夫で地元のワインコンサルタントでもあるピエール・ロック(Pierre Roque)と顔を見合わせ、私のほうに向きなおると顔をしかめ、首を振った。「いいえ、これはラングドックですから」。これこそがワイン愛好家に数多くの掘り出し物を提供するフランス最大のワイン産地の問題点と言えよう。

シュヴァリエのアメリカへのインポータ、ヨーロピアン・セラーズのエリック・ソロモンに、なぜ信頼のおけるWine-Searcher.com にすら、彼女のワインは古いヴィンテージを除いてほとんど掲載されていないのか尋ねてみた。彼はヨーロッパからの輸入ワインに25%の関税をかけ、ホスピタリティ業界に大きな打撃をもたらしている国から不満に満ちたメールを送ってきた。「ワインは素晴らしいのですが、価格帯が中途半端なんです。近年、アメリカの市場ではラングドックのワインは安くて飲みやすいもの以外はほとんど受け入れられませんから」。もしかしたら、もう少し価格が高ければ売れるのではないだろうか?現在の価格はアメリカでは2013と2015のヴィンテージが12ドルから35ドル、イギリスでは2014から2019のヴィンテージが11ポンドから34ポンド程度だ。

ソロモンはよく知っていることだが、ラングドック一帯、とくにセヴェンヌの麓には小規模のドメーヌが点在し、個性豊かな畑から彼らにできうる最上のワインを造り出している。彼らは20世紀後半に大衆向けワインを生み出し、現在もIGPペイドックとしてラベル表示される安価なワインを大量に生み出している平野の地域よりも標高の高い地域にある。だが、このように勤勉なヴィニュロンのワインが売れるかというと別問題だ。価格が安かったとしても、比較的幅広いものを受け入れるイギリスの市場ですら、ラングドックは販売が難しい。最上のワインは知名度の高い品種名ではなく、その地域に数多く存在し、ほとんどが無名のアペラシオンをラベル表記する傾向にある。このことが販売側にも、購買側にも混乱をもたらしているとも言える。

ブリジット・シュヴァリエはベジエを見下ろす丘にある、ラングドックで最も名高いアペラシオン、フォジェールのスターの一人だ。その特徴はそこかしこに見られるシストで、ポート・ワインに使うブドウを栽培するポルトガルのドウロ地区や、粉末状にした岩のような味わいを感じるカタルーニャのプリオラトを彷彿とさせる。だがシストの主要な特徴は劇的に降雨量の低い地域でブドウに十分な水分を維持することができる点だ。ロックとシュヴァリエは3月から事実上雨が降ったのを見ていないと話しながら、畑や道路沿いにあるシストの壁を嬉しそうに見せてくれた。植物はその根を層状の岩の隙間に伸ばし、何メートルも下の水源に向かう。西部にあるサン・シニャンの大きなアペラシオンもシスト土壌だが、そのごく一部にしか存在してない。フォジェールでは、「グラン・テロワール・ド・シスト」というスローガンを掲げ、50ほどの生産者たちがこの均質なアペラシオンを大いにたたえている。

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シュヴァリエはボルドー出身で、著名なサンテミリオンのワイン生産者であり指揮監督者でもあるジャン・リュック・テュヌヴァン(彼をして彼女は最高の従業員の一人だったと言わしめている)のために10年間ワインの輸出に携わり、ある意味ヨーロッパで最も偉大なワインに触れてきた人物だ。会話の中で彼女は自身の出身地に触れることがままあるが、彼女に言わせればこのはるか南部の地域に比べてそのワインは多様性と面白みに欠けるのだそうだ。長年ワインを造りたいと願ってきたものの、ボルドーのレシピをなぞるのではなく先駆者になりたいとの想いが強く、とりわけシストに強く魅了された。スペインとの国境に近いルーションにもそのような場所は存在するが、彼女が惹かれたのはより冷涼なオー・ラングドックの気候だった(推測だが、彼女はまた、フォジェールの比較的安い地代にも背中を押されたのではないだろうか)。彼女がこの地に到着したのは2008のヴィンテージに十分間に合うタイミングで、彼女はあえて北向きで収量が低く、利益が出ないからと地元の人に見捨てられた畑に目を付けた。この冷涼な、彼女の場合は標高が300m以上ある畑で作られるブドウは伝統的に成熟しづらかったが、夏の気温が年々高くなるこの時代に、その成熟の遅さは恵みとなった。

彼女はデリケートで上質なワインを造りたいという情熱に導かれ、現在は有機認証も得ている自身のドメーヌをゼロから立ち上げ、現在生産中のブドウ栽培面積は注意深く選ばれたひどく収量の低い4か所の畑を合わせて10.5ヘクタールだ。その収量は15hl/haと、ボルドーよりもはるかに低い。

上述のうち6ヘクタールは、今では地表部分に自宅とテイスティング・ルームがある地下セラーを囲むように位置しており、非常に便利だ。私が訪問した際、洗練された近代的な別荘に車を止めると、強い風が吹いた。それでも海沿いでブドウを病気から守るいつもの風の強さから比べればかなり穏やかな日だという。その日はややかすみがちだったが、普段なら地中海遠くに浮かぶ大型船の横に書いてある船会社のロゴが見えることもあるぐらいだと聞かされた。

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もう一つ、それほど遠くない場所にある畑は、ブドウが円い丘をめぐるように配置された特殊な狭い段々畑に植えられていることから地元ではエスカルゴと呼ばれている。ここにブドウを植えた人物はその収量の低さにさじを投げてしまったが、その岩の隙間に根を張ったシラーはシュヴァリエが地元でブドウの段々畑を意味するレ・バンセルと名付けたワインに求める、ある種の繊細さをもたらす。

フォジェールの法律では認可品種、赤やロゼ用であれば主にシラー、グルナッシュ、ムールヴェードル、カリニャン、各種ローヌ品種、この上なく生き生きとした白を生み出すヴェルメンティーのなどが挙げられるが、それらの単一品種ワインは認めていない。シュヴァリエは、地下にあるため自然に涼しいく、彼女が「ゼン」と呼ぶセラーを見せながら、一連の光り輝く5000リットルのタンクの中身をブレンドする芸術に感じる喜びと、そのブレンドは畑にあるうちから構想しておくようピエールに教えられたことを話してくれた。彼女はほとんど樽を使わない。シストとムールヴェードルという珍しい組み合わせを用いたフェガリアという銘柄に使う数本の500リットルの樽だけだ。ベル・リュレットは樹齢の高いカリニャン主体、壮麗なグルナッシュ主体のエクス・アルナIGPペイドックとしてしか売ることができない。そのブドウが植えられている比較的砂の多い土壌がアペラシオンを名乗るに足るシストを含んでいないというのがその理由だ。

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フォジェールは上の写真の廃駅からもわかるように、かつては気だるい雰囲気の地域だったが、シュヴァリエは地元の人々が少しずつ「自分たちの足元にある宝」に気づき始め、ドメーヌ・レ・セラルやドメーヌ・ド・モンテリスなど、彼女に助言を求めてきた新参者の出現に力づけられているのだと信じている。もちろん、逆もまたしかりだ。


ラングドックのおすすめ


以下は全て、最近のラングドック・ルーションのテイスティングで20点満点中17点以上のワインを2つ以上生産する生産者だ。
以下のリンクも参照のこと。

Fizz and whites
Rosés (including rosés from elsewhere)
Reds from producers A-L
Reds from producers M-Z and sweet wines
More Languedoc and Roussillon 2020

Ch des Adouzes, Faugères

Ch d'Anglès, La Clape

Gérard Bertrand, top single-vineyard bottlings

Ch Les Bugadelles, La Clape

Ch Castigno, St-Chinian

Dom de Cébène, Faugères

Dom de la Cendrillon, Corbières

Les Clos Perdus, Corbières

Dom Gayda, IGP Pays d'Oc

La Jasse Castel, Languedoc

Ch La Liquière, Faugères

La Madura, St-Chinian

Mas de Daumas Gassac, IGP St-Guilhem-le-Désert, Cité d'Aniane

Mas Lasta, Terrasses du Larzac

Dom Montrose, IGP Côtes de Thongue

Ch Puech-Haut, Languedoc

La Réserve d'O, Terrasses du Larzac

Ch and Dom Rives-Blanques, Limoux

Dom Ste-Croix, Corbières

Terre des Dames, Languedoc

テイスティング・ノートはこちら、国際的な取扱業者はWine-Searcher.comを参照のこと。

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