ARTICLEワイン記事和訳 本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

140.jpgこれはフィナンシャル・タイムズに掲載された記事のロング・バージョンである。

もし私が白ワインだったら、色による偏見に抗議しているだろう。ワインの世界最大の市場であるアメリカでは赤ワインよりはるかに多く白ワインが飲まれているが、イギリスではまだ赤ワインへの注目度の方が高いようだ。

各種の記事やプロ向けのテイスティングで私が目にするワインや、頼んでいないのに送り付けられてくる多くのサンプルは赤ワインがはるかに白ワインを上回り、その比率はおよそ4対1である。また、私のウェブサイトのデータベースに入っているテイスティング・ノートも70%以上が赤だった。

ただ、歴史が常に赤優勢だったわけではない。1970年代から1980年代初頭にかけて世界のワイン業界は目新しく流行の先端だったシャルドネという名のワインに夢中だった。当時シャルドネはそれほど多く栽培されていなかったため、この魔法のCで始まる単語がラベルに書かれたワインの多くは安価な他の白ワイン用ブドウで薄められていたのである。その後流行の振り子は赤ワイン寄りに振れたが、ニュートンの第三法則に書かれているようにあらゆる作用には反作用があるものだ。

つまりこれからは白ワインの復活を目にすることになるのではないかと考えている。とりわけ白が一般的に重い赤よりはるかに食事と合わせやすい。コース料理のマリアージュにどれほど多くの白ワインが勧められているかという点は注目に値するだろう。そして地球の温暖化に伴い、我々は力強さよりもフレッシュさをワインに求めていることに気付くだろう(最近のロゼの成功を見れば明らかだ)。

だから世界最大の高級ワイン産地であるボルドーの注目を集めるワイン生産者が伝統的に彼らの強みであった赤ワイン同様、次第に辛口の白ワイン作りに注力するようになってきたことは驚きに値しない。

ボルドー市の南に位置するグラーヴの森の中に点在する畑はボルドーの伝統的な品種であるソーヴィニヨン・ブラン、セミヨン、そして時に少量のミュスカデルを用いた辛口白ワイン作りの歴史が長く、シャトー・オーブリオン、ラミッション・オーブリオンなどはこれら品種から作られる世界で最も芳醇なワインだが、しばしば「中年の危機」を乗り越えてきたワインでもある。ドメーヌ・ド・シュヴァリエとシャトー・スミス・オー・ラフィットは常に私のお気に入りの辛口のボルドー白を作っているし、シャトー・パプ・クレマン・ブランも若い数年間は究極なまでに魅惑的である。

そのすぐ南にあるソーテルヌでは甘口白が基本だが、ワイン作りも利益を上げるのも難しい。だが、最高のブドウのみを使って甘口の白ワインを作るという努力を続ける一方、ソーテルヌの生産者たちの中にも残りのブドウから辛口のワインを作る者が増えてきた。それらはかつてソーテルヌの旗艦シャトーであるイケムがかつて作っていた辛口白ワイン、イグレックほど重くはない。

それ以外のボルドーの高級ワイン産地であるジロンド川右岸のサンテミリオン、ポムロールや左岸のメドックではこれまで赤ワインに注力する傾向にあったが、これらの産地からすら、近年では上質な白ワインの生産が増えてきているのだ。

サンテミリオンのプルミエ・グランクリュ・クラッセでLVMHと密接な関係のあるシュヴァル・ブランのチームが辛口の白を計画しているとすれば、何かあると思うだろう。シュヴァルは9年前に近隣のラ・トゥール・デュ・パンを買収し、その畑の一部は最高級の赤ワインを作るのに不向きだと判断した。そこで彼らはサンセールをイメージしたワインを作るためそこにソーヴィニヨン・ブランを植えたのである。

シュヴァル・ブランのフィナンシャル・ディレクターが語ったところによると、彼らは隣のポムロールで有名なシャトー・ラフルールが2013年に発売したシャン・リーブルに触発されたのもあるそうだ。ギノドー氏らは0.8ヘクタールの石灰質の畑にサンセールから持ち込んだ様々なソーヴィニヨン・ブランを植えた。そこから生まれたワインは若い間はほんの少し樽が強いものの薄気味悪いほどロワール上流で作られたかのような味わいがするのだ。

サンテミリオンにあるシャトー・パヴィのジェラール・ペルス(Gérard Perse)は様々なフルボディの辛口白をゆうに10年は試し続けており、ピンク色の果皮を持つソーヴィニヨン・グリから作る彼のシャトー・モンブスケ・ブランはその先駆けと言える。この品種があまりに人気が出たため、規制が見直された後、ソーヴィニヨン・ブランが認められているフランスの事実上全てのアペラシオンでソーヴィニヨン・グリの使用が認められるようになったほどだ。

彼の足跡をたどり次第に多くの洗練された白ワインが生産されるようになり、多くの右岸の小規模ワイン生産者、中でも生産者組合であるグラン・セルクル・デ・ヴァン・ド・ボルドー(Grand Cercle des Vins de Bordeaux)の右岸メンバーが非常に多い点が目を引く。

右岸と左岸の間にあるアントル・ドゥ・メールは長いこと安い辛口の白の主要な供給源であったが、今では左岸で作られる上質な辛口の白が次第に増えている。しかもそれらはソーヴィニヨンとセミヨンの組み合わせとは限らないのである。

多少なりとも白の辛口は(全てが心躍るものとは限らないが)長い間左岸で作られており、特にサンジュリアンにあるシャトー・タルボとラグランジュ、マルゴーにあるプリュレ・リシーヌ、メドック中心部にあるシャス・スプリーンとフォンレオー、メドック北部にあるルーデンヌとヴュー・ロバンなどが有名だ。

1978年にパヴィヨン・ブラン・デュ・シャトー・マルゴーの新しい当主となったメンツェロプロス家による復活がメドックでの上質な辛口白ワイン作りの幕を切って落した。だがマルゴーのアペラシオンは赤のみに認められるため、その増え続けている仲間同様、パヴィヨン・ブランもただのボルドーを名乗ることしか認められていない。

メンツェロプロスの樽の香り豊かで完熟したソーヴィニヨン・ブランは現在では洗練されたものになったが、その最初の成功が(商業的であれなんであれ)、シャトー・ランシュ・バージュのジャン・ミッシェル・カーズを勇気づけたのは間違いない。1989年彼は白ワイン用品種を植え、1990年にはわずかではあるものの最初のワインを生産したのだから。彼のポヤックの隣人、フィリップ・ド・ロートシルト男爵夫人がそれに続いて白ワイン生産に踏み切り、翌年シャトー・ムートン・ロートシルトからエール・ダルジャンを発売した。

これらのワインの品質は、それぞれ5級と1級格付けから想像するものとは異なった価格が付き、急激な向上が続いている。ムートンのワインメーカーであるフィリップ・ダリュアン(Philippe Dhalluin)は「フランス最高の白ワインと勝負できるもの」を目標とすると述べる一方、ランシュ・バージュではジャン・ミッシェル・カーズの息子ジャン・シャルルがよりフレッシュなブラン・ド・ランシュ・バージュをメートル・ド・シェのニコラ・レベンヌ(Nicolas Labenne)と共に特別プロジェクトとして導入した。

ミュスカデルはブラン・ド・ランシュ・バージュの秘蔵のブレンド要素となり、ソーヴィニヨン・ブランの比率は初期の40%から今世紀2010年の67%まで大きく異なる。今ではブドウは早めに収穫し、発酵も全て樽で行うわけではない。

その他メドックで作られる特に魅惑的な白の辛口は二つ。一つはコス・デス・トゥルネルのチームが作るもので、彼らはサンテステフにある威風堂々たるシャトーのかなり北、ラ・グレを作る畑に近いバ・メドックで育つソーヴィニヨンとセミヨンのブレンドを軽視しないと決めている。もう一つはエキゾチックな品種を用いるシャトー・ルトーのもので、プティ・マンサン、ソーヴィニヨン・グリ、サヴァニャン・ブラン、モンデューズ・ブランシュを用いるためボルドーすら名乗ることができずヴァン・ド・フランスとしか表記できない。

ボルドーは変わってきている!

新たな白のボルドー

関連するワインはカッコ内に示す。

Aile d’Argent 2014, 2013
(Ch Mouton Rothschild, Pauillac)

Les Arums de Lagrange 2012
(Ch Lagrange, St-Julien)

Blanc de Lynch-Bages 2014, 2013
(Ch Lynch-Bages, Pauillac)

Les Champs Libres 2014, 2013
(Ch Lafleur, Pomerol)

Cos d’Estournel Blanc 2014, 2012
(Ch Cos d’Estournel, St-Estèphe)

Ch Doisy Daëne Sec 2014
(Ch Doisy Daëne, Sauternes)

Girolate Blanc 2014
(Ch Girolate, Bordeaux)

Pavillon Blanc (all vintages)
(Ch Margaux, Margaux)

Le Retout Blanc 2014, 2012
(Ch du Retout, Haut-Médoc)