ARTICLEワイン記事和訳 本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

012.jpg先月私たちはスコットランドの友人を15年ぶりに尋ねた。その家の明るく広いキッチンには大きな天窓、フランス窓、その他にも窓がある。当然、キッチンは家の中心であるし、そこが最も暖かい場所でもある。

友人であるスコットランド人は熱心なワイン愛好家であり、他の愛好家同様非常に多くのワインを集めている。ただ、前回訪問した時には用意されたワインを飲む順番に納得がいかず変えてもらったのだが、今回は彼にワインの置く場所を変更するよう説得した・・・つもりである。というのも、彼は多くの人と同様、そしてキッチン・デザイナーに言われるがまま、ワインラックをキッチンに、しかも最も明るい場所に設置していたからである。

まず目についたのは私が何年も前に彼にあげたルソーのシャンベルタン1989が埃をかぶって、最大限の光と熱にさらされるラックの一番上に鎮座していたことだ。特にこのワインのようにデリケートな性格のものには最悪の場所である。いつものように私はパソコンを手元に置いていたので、このボトルの価格をすぐに調べた。適切なコンディションで保存されていれば、およそ1500ポンド(訳注:約26万円)である。当然みな黙りこんでしまった。

そして今度は彼がスパークリングワインをフランス窓のすぐそばのラックに置いているのを見つけてしまった。だめだめ!どんなワインも長期間光にさらされるのは好ましくないが、スパークリングは最も光に弱いのだ。長時間紫外線にさらされることで不快な「濡れたダンボール臭」が発生してしまう。

ゲストルームを見回すとそこは半地下になっていて、ワインの貯蔵に最適な大きなウォークイン・クローゼットがあることがわかった。ここは常に涼しく、暗く、温度が上がることはまずない。ワインは18℃以下で25℃にはならない温度変化の少ない場所、理想的には10℃から15℃で保管するべきである。ただし、冬に温度が-4℃以下になる可能性のある屋外倉庫は適していない。なぜならワインのアルコール度数にもよるがワインが凍結して膨張し、コルクが飛び出してしまう危険があるからである。

地下の貯蔵庫があれば最適である。自然に温度が低く十分な湿度(約75%)があるため、コルクの乾燥を防ぎ、ワインの敵である酸素がボトルに入り込まない。コルク栓のボトルは横にして保存しコルクが液面に触れるようにしておく必要があるが、スクリューキャップのボトルは特に制限はない。気難しいフランスのワイン生産者の中には、インポータの倉庫がどんなに温度管理をされていても湿度が低すぎるというだけで取引先を変える人もいるぐらいである。

常にワインを適切な温度で保管するためには大きなエネルギーを必要とする。これはすなわち今や広く普及しているワインセラーの欠点である。しかし、少なくともセラーを使うことでワインが適切な温度で管理されているという保証がされるわけである。ただ、確かに場所をとるし、せいぜい数ダースのワインしか保管できないため、多くのワイン愛好家は若いワインを大量に購入した場合にはプロ用のワイン倉庫を利用する。普通の家、ましてやマンションには涼しくて暗くて湿気のある場所など普通は存在しないのだ。スコットランドの友人はそれを持っているだけ幸運である。

しかし、である。親分風を吹かせて彼にキッチンのレイアウトを変更させたところで、今度は前回私が教えたワインを飲む順番を彼が学習しているのか心配になった。不安は的中し、彼は一つも進歩していなかった。確かに彼の妻は数年前にワインへの興味を失ったようだが、今でも彼らはワインをしょっちゅう楽しんでいるし、なにより彼らには20代後半の「飲み盛り」の息子がいる。彼はほんの少し前に独立したばかりでそれまでは家にいたのに。まったく困ったものだ。

このように埃をかぶったワインラックは私が「積み上げ症候群」と呼ぶ典型的な症状である。すなわち、ワインを大切にするあまりそれを永遠に開けられない人のことである。このスコットランド人はかつてラングドックまで車で行き、ミネルヴォワのお気に入りの生産者、シャトー・ド・グールガゾー(Château de Gourgazaud)を1ケース購入して帰ってくることが大好きだった。そして今や彼のラックにはそのグールガゾーの1997,1995,1992が1ダースずつ積んである。ミネルヴォアはラングドックのアペラシオンの一つで、一般的にシラー、グルナッシュ、カリニャン主体のブレンドである。私ならどれほど良い年のワインでも10年以内で飲むし、1997、とくに1992はけして良い年というべきものではない。我々はその夜、それぞれをテイスティングしてみた。1992はもうピークを過ぎていた。若々しい果実味は失われ、硬くて金属的なアルコール飲料と化していた。1997はそれがさらに埃っぽくなっただけだった。1995はフランス全土で(私の提唱する「5のつく年はいいヴィンテージ」論が当てはまる)非常によい年だったが、ピークを過ぎてはいたものの飲むに堪えるレベルという程度だった。

翌朝、今度はこれも私が以前彼に贈ったサンテステフのシャトー・ボー・シット(Château Beau-Site)1989が12本そのままラックの一番涼しい最下段にあることに気付いた。このボルドーの赤はまだ希望が持てた。なぜなら「赤ちゃんのためのワイン」でも書いたように最も長寿命なワインの一つだからである。ただ、ボー・シットは格付けシャトーではなくクル・ブルジョワであり、より早く熟成する。そして1989は暑く、ワインの保存力を高める酸が通常より低い。私はその晩彼を説得してそれを開けさせた。ミネルヴォワよりはましだったが、明らかにそのピークを過ぎた下り坂におり、果実味は失われ、複雑であるはずのブーケも控えめでしかなかった。

後日私は彼の妻と電話で話したのだが、彼女が今度夕食にあまり味にうるさくない大酒飲みを招待することになっていると言ったので、あのミネルヴォアを消費するチャンスだと提案してみた。すると「とんでもない。彼があれに手を出すわけないわ。」と言うではないか。まったく、「積み上げ症候群」は明らかに不治の病である。

以下におおよそではあるが私が推奨するワインの保存期間を示す。もちろんワインの質やヴィンテージによって大きく変動するが、一般的に品質のいいワインになればなるほど長期熟成が可能である。


ほとんどの10ポンド(20ドル)以下のワイン:1-2年
シャブリ: 3-15年
コート・ドールの白: 3-10年
その他のシャルドネ: 2-6年
リースリング主体のワイン: 3-20年
ソーヴィニヨン・ブラン主体のワイン: 1-5年
ヴィオニエ主体のワイン: 1-3年
シュナン・ブラン主体のワイン: 3-15年
貴腐ワイン: 5-35年


ほとんどの10ポンド(20ドル)以下のワイン: 1-3年
(非常にいい年のコート・デュ・ローヌや古樹のスペインワインは例外となることもある)
ボルドー、マディラン: 5-25年
ブルゴーニュ: 4-20年
北部ローヌ: 4-15年 (エルミタージュはさらに長い)
南部ローヌ: 3-10年
ラングドック・ルーション: 3-8年
バローロ、バルバレスコ: 6-25年
ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ: 5-13年
キャンティ: 4-10年
リオハ: 5-20年
リベラ・デル・デュエロ: 3-15年
ドウロのテーブルワイン: 4-12 年
ヴィンテージ・ポート: 12-50年
カベルネ・ソーヴィニヨン主体のワイン: 7-17年
ピノ・ノワール主体のワイン: 4-10年
シラー/シラーズ主体のワイン: 4-12年
グルナッシュ主体のワイン: 3-8年

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