ARTICLEワイン記事和訳 本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

007.jpg最近赤ちゃんのためのワインを推薦してほしいと言われることが増えている。つまり、赤ちゃんの生まれ年のワインのことだ。これはワインというものが世界中で娯楽の対象として人気が高まった結果、そして多くのセールス・パーソンたちがワインを魅力的な投資の対象として確立させた結果とも言えよう。

私はある年のワインをブドウの収穫より何か月も前に推薦してほしいと頼まれることが頻繁にある。多くの新米パパやママは子供のためのセラーを作ることにワクワクするあまり、確実な情報をもとに最善の選択をするためには赤ちゃんの1回目、できれば2回目の誕生日まで待たなくてはならないことをすっかり忘れてしまうのだろう。

ほとんどの親たちは赤ちゃんの18歳(アメリカでは21歳)の誕生日まで、できればその後何年もそのワインが十分に楽しめるものを理想としている。そうなると選択の幅は非常に狭くなる。流通しているほとんどのワインは2,3年後にはそのベストな時期を過ぎてしまうからである。古典的な教父(訳注1)の贈り物がパイプ(大樽)に入ったポートだったのは偶然ではないのだ。通常パイプは550L、ボトル733本分に相当するため、さすがにポートの熱烈な愛好家にとっても多すぎる量ではある。しかしシッパー名とヴィンテージだけが記載され2年でリリースされるヴィンテージ・ポートは、他のワインに比べてはるかに長く熟成するという長所がある。事実、20年未満のボトルを開けてしまうのは少し残念な気もするぐらいで、ヴィンテージ・ポートならゆうに50年、あるいは60年後にその全盛期を迎えるのである。まさにそれを贈られた赤ちゃんと同じと言えるかもしれない。

限られた予算内で、もう少し早く楽しみたい場合にはヴィンテージ・ポートの弟分とも言えるいわゆるシングル・キンタ・ポート(single quinta port)を検討してもいいだろう。これもヴィンテージ・ポート同様に単一収穫年から作られるポートだが、一つのブドウ園(すなわちキンタ)から作られるもので、ヴィンテージ・ポートのようにシッパーが複数のブドウ園の最高品質のものをブレンドしたものではない。シングル・キンタ・ポートは通常、ヴィンテージ・ポートの半額以下で購入でき、20-25年で最盛期を迎える。一般的にヴィンテージ・ポートよりも市場に出回るのはかなり遅い。現在市場で入手可能なのは1998や2001であるから、両親は購入までの決断に時間的余裕ができる。ただし、シミントン(Symingtons)やフラッドゲート(Fladgate)が最近シングル・キンタ・ポートのプリムール販売に参入することを決定した点にも注目したい。

もちろん、ボルドーの赤も外せない選択肢である。最高品質のそれらは何十年も熟成できるよう作られるが、残念ながら最近のヴィンテージは恵まれていない。最新の最も良い年は2010だが(5の倍数の年がよい年であるという私の説にかなっている)、価格は恐ろしく高い。2011、2012、2013から20年後に美味しく飲めるものを選ぼうとするならばよほど慎重にならなくてはならない。フランスの南西地方であれば、マディランが同様に長期熟成可能で、一般的にはかなり安価に入手が可能である。

個人的には赤ちゃんのために熟成させるのであれば白の甘口ボルドーの選択もよいと思う。赤ワインと違って割安に価格が設定されており、赤よりも長く熟成することもある。ただし、確実に熟成が可能なものを選ぶためには一流の生産者を選ぶ必要がある。

赤のブルゴーニュはさらにリスクを伴う上、特に20年以上熟成可能な高級品については近年価格が高騰している。また、プレマチュア・オキシデーション(訳注2)の問題が解決しない限り、白のブルゴーニュを長期熟成用に選択するのはお勧めできない。

それ以外にフランスではエルミタージュも赤白ともに長期保存に適している。最高品質のものなら20年はゆうに熟成する。事実私は最近1980代のものを何本か楽しんだばかりだ。

もしも確実に長期熟成する白ワインを探しているのなら、高品質のリースリング以外にないだろう。特にモーゼルの古典的なものはアルコールは低いがフレーバーの豊かさには事欠かない。時がたつにつれ果実味は複雑さをもたらし、甘みが減る。その一方で常にスッキリした酸は保たれる。そして、ワインの流行が巡り巡っていることを考慮するとアルコール度数の低い白はひょっとすると2034年には素晴らしく評価が高くなっているかもしれない。

イタリアの長期熟成ワインであるバローロとバルバレスコはもちろん長期保存に向いているし、都合のいいことに評判のいいヴィンテージはボルドーやポルトガルの北部とは異なっている。さらに偉大なる古典的なリオハもまたヴィンテージの評判は他の地域と異なる。しかし、ヨーロッパ全土が壊滅的なヴィンテージもある。私の息子は1984年に生まれてしまうという不運に見舞われたため、彼のための最高のカベルネを探して私たちはカリフォルニアに目を向けなくてはならなかった(それらは今でも申し分がない状態である)。

南半球のワインについては、素晴らしいワインが沢山あるとはいえ、そのうち数十年も堂々と熟成した明確な記録があるものが少ない。ペンフォールドの最高傑作であるグランジは最も明らかな例だが、ヘンチキ(Henschke)のヒル・オブ・グレースやマウント・エーデルストーンはここの所一気に人気が高まり、世界中のコレクターたちの垂涎の的である。

以下に最近の生まれ年に関する私の提案を記すが、入手困難なものもあるかもしれない。それから、もしより個人的なワインの選択をしたいなら、赤ちゃんの名前をワイン・サーチャー(wine-searcher.com)の検索ボックスに入力してどんなワインが出てくるか試してみるのもお勧めだ。

2014
北半球ではこの年のワインの品質を推測するのは早すぎる。ブドウはまだ開花もしていないが、4で終わるヴィンテージはヨーロッパのものは長期熟成には向いていないことが多い(ただし2004のリオハ・リゼルバは例外)

2013
ほとんどのヨーロッパで難しい年だったが、白の甘口ボルドー(若干軽いヴィンテージではあるが)と、バローロとバルバレスコは良い年だったと言える。また、カリフォルニアもよいだろう。

2012
カリフォルニアは偉大な年だったがヨーロッパはいまひとつだった。カリフォルニアのカベルネは上手に選べば数十年の熟成が可能だ。最高品質のリオハやローヌもいいだろう。

2011
疑う余地もなくここで選ぶべきはヴィンテージ・ポートだろう。2011はこれまでで稀に見る素晴らしい年である。もしどうしても辛口ワインがいいということなら最高品質の北部ローヌをお勧めする。しかしオーストラリア、カリフォルニア、そしてほとんどのヨーロッパは難しい年だった。

2010
この年は赤のボルドーを選ぶべきだろう。ただし最高品質のものは馬鹿らしいほどに高価格である。二番手ぐらいの知名度で長熟の可能性のあるものがたくさんあるので、それを探したほうが賢い。最近2010がリリースされたばかりのバローロも選択肢に入るし、長期熟成の期待できる高品質のドイツの甘口もよいだろう。

他にも95,000件のテイスティング・ノートを参照し、wine-searcher.comで在庫を検索してほしい。

その他の推薦
以下は個人的にピックアップしたセレクションであるが、中にはお金に糸目をつけない場合にのみお勧めできるものもある。平均的な価格はwine-searcher.comによるものである。ほとんどが高価なもので申し訳ないが、安価なものを数十年熟成させることは難しい。

2013
適切なイタリアやカリフォルニアを買うのには早すぎるが、下記のソーテルヌはいいだろう:
Ch Suduiraut £40
Ch Climens £36
Ch Coutet £30

2012
カリフォルニアのトップワインはほとんどまだリリースされていないが、リッジやモンテ・ベッロ(87ポンド)は申し分ない選択と言えよう。偉大で古典的なリオハ、たとえばCVNEのリゼルバ、ロペス・デ・エレディア、ラ・リオハ・アルタは10年ぐらいは入手できないかもしれない。
Clos des Papes Châteauneuf-du-Pape £52

2011
ヴィンテージ・ポートなら・・・
Taylor, Fonseca, Graham, Quinta do Noval, Niepoort £50-60
Cockburn £44

Chapoutier, Ermitage Le Méal £106

2010
ボルドーの赤なら・・・
Vieux Château Certan £225
Chx Haut-Bailly, Léoville Poyferré, £103
Ch Smith Haut Lafitte £91
Ch St-Pierre £65
Ch Phélan Ségur £33
Ch Sociando-Mallet £28

あるいは現時点でテイスティングしたバローロの中では・・・
Vietti, Lazzarito £97
Aldo Conterno, Bussia £37
Giacomo Fenocchio, Villero £30

(訳注1)教父とは、キリスト教の洗礼で名を授け、その子の宗教教育を保障する人のこと。イギリスの古い習慣では教父がヴィンテージ・ポートを洗礼の贈り物とすることがある。

(訳注2)プレマチュア・オキシデーションとは、本来は十分長期熟成が可能であると考えられているワインにおいて、その熟成よりも酸化が早く進行してしまう劣化現象のこと。ブルゴーニュの白を代表として多くのワインに認められている。
コルクの質、不十分なSO2の添加、過剰なバトナージュ、ブドウへの過度なストレスなど、様々な原因が示唆されているが、現時点ではっきりした結論も明確な対策もない。

原文