先週、年に一度のマスター・オブ・ワインの実技と論述の試験がロンドン、シドニー、ナパの3か所で、時差を考慮した可能な範囲で同時刻に実施された。今回は記録的な受験生の数で、106名が論述問題4問と12種ずつのワインで構成される3問のブラインド・テイスティングに挑んだ。
ここにいつものように試験問題を公開する。そしていつものように多くのワイン愛好家たちはこれを読んでこう思うだろう「こんなの簡単だよ」。しかしこれだけは言っておきたい。問題は見た目ほど単純ではない。試験官は問題文からは想像もつかないような究極に細部に至る論述を求めているからだ。
私から見ると、テイスティングに出題されたワインは昨年のものに比べて比較的わかりやすいように思えた。また、今回は時事問題が非常に興味深く今の時流をつかんでいると感じた。主査であるジョン・ホスキンス(John Hoskins)MWは 実技について「フィル・タック(Phil Tuck )MWのチームが今年は面白い試みをしたんだよ。間違いなく実技3のグルジアのオレンジワインの話題で持ちきりになるだろう?これを「セレブワイン」であるブランジェリーナのミラヴァル・ロゼ(訳注1)と同じ組に入れたんだから。」とコメントしていた。しかし、試験官たちは受験者がここで頭を悩ませるとは思っていない。設問は生産方法や品質、商業的なポテンシャルについてものであり、産地や品種の特定を求めていないからだ。おそらく最終問題の組み合わせが究極の対比だろう。2種類の「ビッグ」な赤ワイン、一つはパワフルで生き生きとしたアレグリーニ(Allegrini)のアマローネ、もう一つは中辛口のカリフォルニアである。
「実技2はおそらく一番単純、あるいは古典的な赤ワインの問題だったと思うよ。たぶん実技1が一番難しかったんじゃないかな。一瞬これはいけそうだと思わせて、実はあの4種類の辛口「っぽい」リースリングは相当難しいと思うよ。それに「最初の問題」という緊張感もあるしね。」
「論述に関してはできるだけ多くの時事問題を盛り込んだのがわかってもらえると思う。ネイル・タリー(Neil Tully)MW(論述2の責任者で、来年は論述の総責任者となる)は特に問題6に自信を持っているけど、対象があまりに広範囲だから受験生はこの設問を選択しなかったんじゃないかな。トレーサビリティとかマイクロ・オキシジェネーションとかの問題の方が選択しやすいよね。」
匿名の試験官たちはこれから答案を受け取り、すべての結果は9月に発表される。実技と論述両方に合格した生徒がMWを取得するため次に行うのは事前に提出して承認されたトピックについての研究論文の提出である。これもリチャード・ヘミング(Richard Hemming)が身をもって証明したように(訳注2)簡単なことではない。
世界にはたった300名しかマスター・オブ・ワインはいない。明日、明後日にかけて先日フィレンツェで開催されたMWシンポジウムで最も科学的だったセッションについて2部にわたる報告を掲載する予定である(訳注3)。情報満載の報告となるので来年の論述試験の準備には非常に有用だろう。
訳注1:ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーがオーナーのワイナリー
訳注2:Jancisrobinson.comにMW受験記を投稿しているMW受講生(2014年4月19日現在55本目の投稿をしている)
訳注3:有料記事なので残念ながら翻訳はしません
論述 1 – ワインの生産 パート1
(セクションAから1問、セクションBから2問選択して回答)
セクションA
1) 栽培および醸造技術がワインに含まれる芳香性化合物にもたらす影響をリースリング、ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・ノワールについて述べなさい。
2)スキン・コンタクトの長さは数分の場合から数か月の場合まであるが、この違いがワインのスタイルと品質に発酵前、発酵中、発酵後にどのような影響を及ぼすか評価しなさい。
セクションB
3) 最も高いポテンシャルをもつワインは傾斜地にある畑に由来すると言えるか
4) ワインメーカーはなぜ異なる発酵温度を用いるのか。白と赤のテーブルワインについて述べなさい。
5) 若木と古木がもたらす量的および質的な変化は何か。
6) ブドウの列間のマネージメントはどう重要か温暖な畑と冷涼な畑について検討しなさい。
論述2 – ワインの生産 パート2
(セクションAから1問、セクションBから2問選択して回答)
セクションA
1) 酒精強化酒の熟成における酸素の役割を評価しなさい。
2) 瓶内発酵によるスパークリングワインの品質に及ぼす決定的な要素(一次発酵、および(実施している場合は)マロラクティック発酵の後)とは。
セクションB
3) ワインのトレーサビリティを可能にする品質管理法について述べなさい。
4) ワイン醸造の過程で必要とされる清澄化剤はなぜ必要で、その選択に影響する要素は何か述べなさい。
5) 樽熟成の代替としてのマイクロ・オキシジェネーションの可能性を検討しなさい。
6)「私たちは保存剤を一切添加せずにワインを熟成することが最善の策だと考えている。自然の味わいを覆い隠してしまうような添加物は一切加えるべきではない」(コルメラ、Columella, 4-70AD)化学的・物理的干渉がマロラクティック発酵後のワインに対する作業に与える影響を評価しなさい。
論述 3 – ワインビジネス
(セクションAから1問、セクションBから2問選択して回答)
セクションA
1) ボトルの中身とボトルの外見、どちらが重要か。ワイン業界はパッケージングについて真剣に考えているだろうか。
2) ワインブランドの長期的な成功に最も必要な要素とは。
セクション B
3) 生産者は消費者との距離をどうとる液化。その関係構築のために現実的な方法は。
4) オーストラリアは輸出市場を取り戻すことができるか。
5) 2014年ヨーロッパでブドウ不作の可能性はあるか
6) ワイン産業にとって価格競争は悪か
論述4 – 時事問題
(セクションAから1問、セクションBから1問選択して回答)
セクションA
1) ワインは工業的になりすぎたのか
2) ワインは革新に欠けているか
セクションB
3) ブドウ栽培に関する法律が百害あって一利なしという主張にどこまで同意するか
4) ワイン産業に社会的責任はあるか
5) 現代のワイン市場に偽ワインはどの程度影響を及ぼすか
実技1
問題1.
1-4番のワインの生産国は同じである。
4つのワインの
a) 生産国 (16 点)を特定しなさい
それぞれのワインの
b) 産地をできるだけ細かく特定しなさい (4 x 5 点)
c) そのスタイルを作るためにキーとなる醸造技術を考察しなさい(4 x 8 点)
d) その産地の品質を考察しなさい(4 x 8 点)
問題2.
5-8番のワインは生産国は異なるが同じ単一品種から作られている。
4つのワインの
a) 品種(24 点) を特定しなさい
それぞれのワインの
b) 産地をできるだけ細かく特定しなさい (4 x 10 点)
c) 品質とスタイルを考察しなさい(4 x 9 点)
問題3.
9-12番のワインは異なる単一品種から作られた二組のワインで構成されている。
a) 2つの品種を特定し、これらのワインを品種ごとにペアにしなさい(2 x 20 点)
また、品種に加え、生産国も二組からなっている。
b)生産国によるペアを作り、それぞれのワインについて産地をできるだけ細かく考察しなさい (2 x 20 点)
c) 上で作った産地によるペアのうち一つについて、それらの製法について比較検討しなさい(10 点)
d) もう片方の産地のペアについて潜在顧客にむけてのアピールポイントを記述しなさい(10 点)
1. Viognier, Organic, Yalumba. 2012. South Australia, Australia (14.5%)
2. Semillon, Bin 9000, McGuigan. 2007. Hunter Valley, Australia (11%)
3. Chardonnay, Shadowfax Wines. 2009. Victoria, Australia (13%)
4. Sauvignon Blanc – Semillon, Suckfizzle, Stella Bella Wines. 2009. Margaret River, Australia (13%)
5. Watervale Riesling, Mount Horrocks. 2013. Clare Valley, South Australia, Australia (12.5%)
6. Riesling, Grand Cru Muenchberg, Domaine Ostertag. 2011. Alsace, France (13.5%)
7. Riesling, Domaine Rewa. 2011. Central Otago, New Zealand (11.5%)
8. Deidesheimer Kieselberg Riesling, Kabinett Trocken, Dr. von Bassermann-Jordan. 2011. Pfalz, Germany (11.5%)
9. Chablis, Grand Cru Les Clos, Duplessis. 2010. Burgundy, France (13%)
10. Chardonnay, Coddington, Kumeu River. 2011. Auckland, New Zealand (13.5%)
11. Sancerre, Domaine Vacheron. 2012. Loire, France (12.5%)
12. Sauvignon Blanc, Tinpot Hut. 2013. Marlborough, New Zealand (13%)
実技2
問題1.
1-4番のワインは全て同じ単一品種から作られるがすべて異なる生産国である。
4つのワインの
a)品種を特定しなさい(28 点)
それぞれのワインの
b) 産地をできるだけ細かく特定しなさい (4 x 8 点)
c) 品質と商業的訴求力 について記述しなさい(4 x 10 点)
問題2.
5-8番のワインのうち2つは地域A、もう二つは地域Bで生産され、4つすべては同一産地内にあり、ヴィンテージは全て異なる。
a) ワインを2つのペアに分け、その産地と地域をできるだけ細かく特定しなさい(2 x 16 点)
b) 上で分けたペアの中で相対的な品質を比較検討しなさい(2 x 18 点)
それぞれのワインについて
c) 理由と共にヴィンテージを特定しなさい(4 x 8 点)
問題3.
9-12番のワインは同一生産国のものである。
4つのワインの
a) 生産国を特定しなさい(28 点)
それぞれのワインについて
b) 使用されている品種を参考に産地を特定しなさい(4 x 9 点)
c) 品質と熟成について記述しなさい(4 x 9 点)
1. Saint Joseph, Silice, Pierre et Jerome Coursodon. 2010. Rhone, France (14%)
2. Syrah, La Cumbre, Errazuriz. 2008. Aconcagua Valley, Chile (14.5%)
3. Syrah, Qupe. 2011, Central Coast, California, USA (13.5%)
4. Shiraz, The Dead Arm, d’Arenberg. 2009. McLaren Vale, South Australia, Australia (14.5%)
5. Chateau Lynch Bages. 2006. Pauillac, Bordeaux, France (13%)
6. Chateau Nenin. 2008. Pomerol, Bordeaux, France (13.5%)
7. Chateau Lynch Bages. 2009. Pauillac, Bordeaux, France (13.5%)
8. Chateau Nenin. 2010. Pomerol, Bordeaux, France (14.5%)
9. Villacreces. 2009. Ribera del Duero, Spain (14%)
10. Petalos, J. Palacios. 2011. Bierzo, Spain (14.5%)
11. Simply Garnacha, Bodegas Borsao for Tesco. 2013. Campo de Borja, Spain (13.5%)
12. Vina Ardanza, Reserva, La Rioja Alta S.A. 2004. Rioja, Spain (13.5%)
実技3
問題1.
1-4番のワインは全て異なる生産国のものです。シャンパーニュではありません。
それぞれのワインについて
a) 使用されている品種を参考に産地をできるだけ細かく特定しなさい (4 x 10 点)
b) 生産方法について考察しなさい (4 x 7 点)
c) 品質と商業的な位置づけについて記述しなさい(4 x 8 点)
問題2.
5-8番のワインは全て異なる生産国のものです。
それぞれのワインについて
a) 生産国と産地を特定しなさい (4 x 7 点)
b) 使用されている品種を参考に生産方法について考察しなさい(4 x 7 点)
c) 品質と瓶内熟成の可能性について記述しなさい(4 x 7 点)
d) アルコールレベル(%)を書きなさい (4 x 2 点)
e) 残糖量(g/l)を書きなさい (4 x 2 点)
問題3.
9-10番のワインの生産国はヨーロッパの2つの国です。
それぞれのワインについて
a) 生産方法について考察しなさい (2 x 10 点)
b) 品質について記述しなさい (2 x 8 点)
それぞれの組み合わせについて
c) 商業的な可能性を比較検討しなさい(14 点)
問題4.
11-12番のワインは異なる国で生産されています。
それぞれのワインについて
a) 国と産地をできるだけ細かく特定しなさい(2 x 10 点)
b) 生産方法について考察しなさい (2 x 7 点)
c) 品質と熟成について記述しなさい (2 x 8 点)
1. Cava, L’Hereu, Raventos i Blanc. 2011. Penedes, Spain (12%)
2. Vouvray Brut, Francois Pinon. NV. Loire, France (12.5%)
3. Riesling, Sektmanufaktur Graf. 2010. Pfalz, Germany (12.5%)
4. Le Reve, Blanc de Blancs, Domaine Carneros. 2006. Carneros, California, USA (12%)
5. East India Solera Sherry, Lustau. NV. Jerez, Spain (20%)
6. 15-yr old Malmsey, Blandy’s. NV. Madeira, Portugal (19%)
7. Six Grapes, Reserve Port, Graham’s. NV. Port, Portugal (20%)
8. Banyuls, Rimage, Domaine La Tour Vieille. 2011. Roussillon, France (16%)
9. Miraval Rose. 2013. Cotes de Provence, France (13%)
10. Pheasant’s Tears, Rkatsiteli. 2011. Kakheti, Georgia (12.5%)
11. Menage a Trois, Folie a Deux Winery. 2012. California, USA (13.5%)
12. Amarone della Valpolicella, Allegrini. 2009. Veneto, Italy (15.5%)
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