これはフィナンシャル・タイムズにも寄稿した記事である。
流行の最先端のワインを探しているならよく聞いて欲しい。私のお勧めはティモラッソ(Timorasso)だ。これは歴史遺産とも言うべき白ブドウで、あらゆる条件を満たしている。 名前は特徴的で発音しやすく書きやすい。そして希少である―2010年のイタリアワイン調査によると栽培面積はイタリア全土を合わせて100ヘクタール(250エイカー)しかなく、全て北部イタリアに位置しているそうだ。さらになんといってもその味わいが素晴らしい。イタリア南部の黒ブドウ、アリアニコに似た古代ギリシャの気高さ―おかしな例えだが甲冑の胸当てを思い出させ、全く関係はないのに古代ギリシャへのゆかりを感じずにはいられないのだ。賢い識者の方々からは古代ギリシャで甲冑の胸当ては使っていなかったと指摘されそうだが、このイメージが皆さんに伝わるだろうか。よいティモラッソは花のような香りとグレープフルーツのような果物を感じる一方、強い凛としたミネラルもある。そして熟成に値する白ワインであることは明らかである。
私は最近この品種の2011の2種と2008を併せてテイスティングし、熟成のポテンシャルを試す機会を得た。ピエモンテ南東部のコッリ・トルットネージ(Colli Tortonesi)で絶滅寸前のこの品種を救ったウォルター・マッサ(Walter Massa)のおかげである。彼の家族はトルトーナ東部の急峻な丘で5世代にわたって栽培に携わり、ごく最近までは長いこと唯一のティモラッソ栽培者だった。前回2000年の調査ではイタリアでたった6ヘクタールしか栽培されていなかったのだ。ワインの王道からは外れていたため楽ではないにもかかわらず、彼はその際立った粘り強さで少しずつ多くのワイン愛好家にその魅力を伝え、10年あるいは20年もの熟成が可能だと証明して見せたのだ。(イギリスのインポーターであるワイントレーダーのマイケル・ペイリ(Michael Palij)MWがこの品種と出会ったのは地方のレストランでマッサが近づいてきて彼に無理やりこのワインを飲ませたのがきっかけだった。アメリカのインポーターであるポルト・ヴィーノも似たような話をするに違いない)
この品種は昔はピエモンテで広く栽培されていたが、19世紀末のフィロキセラ禍のあと、生産者はより生産性の高いコルテーゼに植え替えてしまったのだ(ヨーロッパ全土で繰り返されたその場しのぎの典型的なパターンである)。
先日フィレンツェで行われたマスター・オブ・ワイン・シンポジウムでのイタリアワインに特化したテイスティングでは、マッサのテーブルに文字通りの人だかりができていた。その隣のマルティネッティもまたティモラッソを出展しており、ティモラッソの素晴らしさについて皆が口々にささやき合っていた。しかし、その話題だけではなかったはずだ。当初の予定ではイタリアのワインベスト50を提供する予定だったのだが、選考委員会が多くの人で構成されている場合うまくいくわけがない。そこで委員会は絶滅寸前の地方品種に特化した、あるいは復活した地域や大変な困難に取り組んでいる地域の生産者25社を招くことにした。これこそ生きたイタリアであり、少なくともありがちな「ベストなんとか」よりもはるかに興味深く、少なくともより刺激的だったからだろう。(写真はアリアンナ・オッキピンティ(Arianna Occhipinti)がシチリアの素敵な赤ワインを私についでいる場面である。)
それでも招待する25社を絞りこむのは非常に難しかっただろう。全てのワイン生産国の中でイタリアはワインスタイルでないとしても少なくともその地域については最も複雑な国である。 フランスの平均よりも緯度が低いためブドウはやや高地で栽培され、ブドウ栽培の「海岸線」は非常に長く複雑である。今回相当に絞り込んだテイスティングの中でさえ、ヴァッレ・ダオスタの海抜900mで生まれるロ・トリオレットの2012ピノ・グリの繊細な高山性の特徴と、イタリアの「かかと」にある乾燥地帯で生まれるジャンフランコ・フィノのプリミティーボの超高アルコール16.5%の違いに驚かされた。
言うまでもないことは、イタリアのブドウ品種の比類ない多様性だろう。2012年に出版したワイン・グレープスのために4年以上かけて商業的に流通しているあらゆるブドウ品種を収集した際、共著者であるジュリア・ハーディング(Julia Harding)MWとホセ・ヴィーアモス(José Vouillamoz)博士と私はイタリアの品種が最も多いことに気付いた。掲載した1368品種のうち377品種がイタリアのものだったのだ。その後もさらに多くのイタリア品種が発掘されているだろうし、実際イアン・ダガタ(Ian D’Agata)の著した「イタリアの固有ワインブドウ(Native Wine Grapes of Italy)」には、その多くが棚やワインリストに並ぶにはマイナーすぎるとはいえ500品種が記載されている。
明白な事実は、イタリアにはまだまだたくさんの開拓すべき素晴らしい歴史遺産であるイタリア品種があるということだろう。例えばフィレンツェで私たちが見たものの中では、アドリア海沿岸のモリーゼ州で絶滅寸前のティンティリアという品種がある。これは私の「最も見事な品種」のリストには加わらなかったが、2010年時点でわずか34ヘクタールしか栽培されていない。優しく柔らかなイチゴの香りがするワインを生み出すが、たとえば少量のモンテプルチアーノを加えることで骨格が補えるかと思われる。2010年の調査では8ヘクタール以下しかなかったロマーニャの白ブドウ、センテシモ(Centesimo)は、生産者であるモリーニがラベンナの近くの自社から2種のサンプルを持参していた。この品種はやや個性が強く、香りと酸がはっきりと感じられた。この展示での最も輝くものとは言えなかったが・・・。
イタリア品種の発掘大賞を私があげたいと思うのはリブランディ(Librandi)、群を抜いてダイナミックなカラブリアの生産者である。彼らはすでに素晴らしいバラの香りのするガリオッポ を所有しており、想像を裏切る余韻の長さをもつチロ(Cirò)の赤の主要品種として確立させていて、その対照的な相手役として引き締まったグレコの白も所有している。しかし、彼らは単独で他の地方品種の可能性を何年にもわたって研究してきた。その結果が繊細で凝縮感のある赤、マーノ・メゴニオ(Magno Megonio)の赤で、地方品種であるマグリオッコ・ドルチェ(Magliocco Dolce)、別名アルヴィーノ(Arvino)から作っている。この品種は深い味わいと長い熟成ポテンシャルがあり、古代ギリシャの香りがする。しつこいようだが、これも現在ギリシャで栽培されている品種との関連はない。(多くのイタリア品種やそのシノニムがグレコ(Greco)やグレゲット(Grechetto)という(訳注:ギリシャは英語でGreeceあることから)単語を含むのにも関わらず、である)
リブランディの最近のお勧めはマントニコ・ビアンコ(Mantonico Bianco)で作るエフェソ(Efeso)で、この地方では1601年という昔から知られていた白ワインである。これは私の最近の一番のお気に入りであるティモラッソと似ていないとも言えない。
46の発見についてはテイスティングノートを参照してほしい。以下にお気に入りのいくつかを紹介する。カッコ内は品種名であり、ビンテージ順に並んでいる。
白ワイン
Vigneti Massa, Derthona Costa de Vento 2011 Vino d’Italia (Timorasso)
Petrussa, Richenza 2011 IGT Venezia Giulia (blend including Friulano)
Perla del Garda, Madonna della Scoperta Superiore 2010 Lugana (Trebbiano di Lugana = Verdicchio)
赤ワイン
Occhipinti, Il Frappato 2012 Sicilia (Frappato)
Salvo Foti, Vinupetra 2011 Etna (Nerello Mascalese)
Librandi, Magno Megonio 2011 IGT Val di Neto (Magliocco Dolce)
Dettori, Badde Nigolosu Tenores 2009 IGT Romangia (Cannonau = Grenache)
Franco M Martinetti, Georgette 2008 Colli Tortonesi (Croatina)
Nervi 2006 Gattinara (Nebbiolo)
Ronchi di Cialla Schioppettino 2004 Colli Orientali del Friuli (Schioppettino)
(原文)