2014年10月30日
今週は昨日の「American assortment」の記事といい、今日の「Hand-picked American Cabernets 」といい、まるでアメリカ・スペシャル・ウィークのようである。というわけで今週の木曜特別シリーズは昨年の「アメリカのワイン地図を隅々まで見る」を再掲する。アメリカの注目すべきワインはカリフォルニア、オレゴン、ワシントンだけで作られているわけではないことを今一度思い出してほしい。文末には比較的無名の地域に関するテイスティングコメントへのリンクも記載したのでぜひ参照してほしい。
2013年4月6日
33歳のダスティン・ウィルソン(Dustin Wilson)の仕事は彼の世代の憧れの的だろう。メリーランド出身の一人の男の子は、今やマスター・ソムリエ(MS)であり、ニューヨークで最も尊敬を集めるレストランの一つ、イレブン・マディソン・パークのワイン責任者であり、ワイン界の名だたる大物、サンフランシスコにあるRN74のラジャ・パー(Rajat Parr)とコロラド州ボールダーにあるフラスカのボビー・スタッキー(Bobby Stuckey)MSに師事した経験を持つ人物へと成長した。そして彼は自分自身の幸運をよくわかっている。「今僕がこの国のワイン界にいられることは本当に幸せなことだと思っています。」最近彼は私にこう言っていた。彼の最大の喜びは、アメリカの非常に多くの若者たちが彼の選んだテーマに強い関心を寄せてくれることである。彼はまた、これまでアメリカで作られたことのない新しいワインを作る若い世代の生産者全体に満ちている革新的な情熱から刺激を受けている。
私は1976年にフランスの新しい動きとしてモエ・エ・シャンドンがナパ・ヴァレーに投資を行った際に取材して以来、アメリカのワイン界に起こる出来事を見守ってきた。1990年代までナパ・ヴァレーは一つの大きなブドウ畑だったが、ワイン業界はいわゆる新禁酒法支持者たちによる圧力にさらされていた。ラベルへの警告表示が義務化され、生産者および小売業者たちはこれまでになく抑圧されているように見えた。
だが、現在の状況は全く異なる。アメリカは長いことヨーロッパを除く世界最大の生産者(世界で4番目)だったが、最近になって今度はワイン市場として唯一最大の市場となり、その消費量はフランスやイタリアといった旧世界のそれを超えた。そればかりか、ワインというテーマをアメリカの富裕層はこれまで以上に楽しんでいる。ヨーロッパ人と違い、アメリカ人はワインをある意味新しく刺激的なものととらえているため、積極的にその興味の対象に向かって行くのである。ワイン教室やテイスティング会はどんどん増えているし、ワイン・ツーリズムはこれまでになく人気が高まり、多くの街ではワイン・ツーリスト達は遠くの郊外まで出かける必要すらなくなってきた。多くのアーバン・ワイナリー(訳注:近年増えている都心部に作られるワイナリー)が設立され、都会の人たちに実践的なテイスティング、ブレンド、さらにはワイン作りまで体験してもらえるようになっているのだ。ワインへの興味はとりわけ20代、30代に顕著にみられるようだ。先日ニューヨークで開催した一般公演で、私は聴衆に35歳以上の人をほとんど見つけることができなかったし、質問者は全て若い女性だった。
当然のことながら、この消費の活性化は生産の活性化にもつながった。ワインを飲むことへの強い好奇心がワインを作りたいという情熱に変わるのは容易なことである。そしてその情熱は広大な土地と十分な資本のあるアメリカでは比較的容易に実現することができる。私は事業で築き上げた富の一部をブドウ畑の所有という夢に捧げると決めたアメリカ人の数を数えるのをとうの昔にあきらめたが、アメリカの承認ワイナリー(bonded wineries)の数は世紀の変わり目には3000以下だったのが現在では8000にも到達する勢いだ。
そしてこれらの事象はワイン生産でよく知られた太平洋側の3州、カリフォルニア、オレゴン、ワシントンだけではない。現在はアメリカの50州全てでワインが作られており、ハワイ(ハイブリッドのブドウからトロピカルフルーツを使ったものまで)やアラスカ(地元の果物や輸入したブドウ果汁から)までもがそれに含まれる。アメリカ中西部、カナダとの国境にあるノース・ダコタはワイン生産の魅力に最後まで抵抗していたが、他の極寒の冬が訪れる州同様、耐寒性のあるハイブリッドのブドウを用いる手段に出ることになった。
これまで私がアメリカにワイン旅行に行くのは西海岸、ニュー・メキシコ、ニューヨーク、バーモント(そう、バーモントでもブドウは栽培されているのだ)、バージニアなどに限られていた。しかし私は機会があればいつでも、すこし寄り道をしてより広範囲のアメリカのワインをテイスティングするようにしている。マサチューセッツのメルロ?テネシーのトラミネット?もちろんテイスティング済みである!!
一方、ドリンク・ローカル・ワイン(Drink Local Wine (www.drinklocalwine.com))というキャンペーンが言うところの「その他47州」ではひどいワインに事欠かないのも事実である。しかし喜ばしいことは良質から上質なワインが太平洋沿岸地域以外から生産される割合が近年明らかに増えていることである。このことから私は数年前に、この事実を広く知らしめるための本を作るべき時が来たと考えるようになったのである。そこで生まれた書籍がアメリカン・ワイン(American Wine)であり、アメリカでは先月カリフォルニア大学出版局から、イギリスではミチェル・ビーズリーから出版された(写真はアメリカ版の表紙)。私のいるロンドンの拠点ではアメリカ産のワインは限られた銘柄しか入手できないため、このような本の調査には適していないが、幸運なことに私はリンダ・マーフィ(Linda Murphy)と長いこと共に働いていた。彼女はサンフランシスコ・クロニクルのワイン部門の元編集者でアメリカ中のワインショーで審査員を多く経験している人物である。そしてありがたいことにマーフィはこの本に関わる非常に多くの仕事をしてくれたため、彼女にとって無名な州はもはや一つもない。
私がテイスティングした中にはアリゾナ、コロラド、テキサス、ニュー・メキシコで作られたまずまずの品質のワインがあったし、アメリカ全域には素晴らしい生産者が点在する。しかし我々から見た最高品質のワインのホットスポットは、リースリングならニューヨーク州のフィンガー・レイクとミシガン湖の南岸、幅広いヨーロッパ新種ならロング・アイランド、最近品質が向上してきた赤のボルドー・ブレンド、ヴィオニエ、プチ・マンサン、プチ・ヴェルドならバージニアだろう。また、妥当な品質のシャルドネはそこかしこにみられる。
一方、オレゴン、ワシントン、そして特にカリフォルニアでも状況は変わってきている。ダスティン・ウィルソンや彼と結びつきの強いアメリカ沿岸部のソムリエたちを大いに喜ばせたのは、ターボのかかった一握りの国際品種からよりフレッシュで軽やかなワインへの大きなシフトが起こっていることだ。これらのワインは醸造技術ではなく、個々のブドウ畑の特性をより明確に表している。そしてそれらは明らかにこれまで比べ、より幅広いブドウ品種から作られている。この流れはそれまでもあったのだが、カリフォルニアで続いた冷夏―おそらく気候変動が原因―の影響で加速している。以下にこの流れに乗って出てきた新しい生産者のほんの一部のリストを記す。しかし私自身はもちろん、これらの新しい生産者たちはカリフォルニアの恵まれたブドウ畑のはざまに目を出したマスタードの明るい黄色の新芽のように、生まれ続けていることもよく理解しているつもりだ。
注目すべき新規(と思われる)生産者
Arnot-Roberts
A Tribute to Grace
Cep
Ceritas
Copain
Kutch
Lieu Dit
Matthiasson
Rhys
RPM
Sandhi
Sans Liege
Small Vines
Soliste
Tatomer
これら「アメリカワインのるつぼ」のテイスティングコメントは「Stars, stripes and vines」を参照してほしい。
American Wine: The Ultimate Companion to the Wines and Wineries of the United States
Jancis Robinson and Linda Murphy, University of California Press and Mitchell Beazley著
参照:”CBS This Morning 20 Mar with Charlie Rose and Gayle King CBS online “
(原文)