ARTICLEワイン記事和訳 本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

055.jpgこれはフィナンシャル・タイムズに掲載された記事のロング・バージョンである。

私は年に2、3度、バッキンガム宮殿の地下でイギリスで最も歴史のある二つのワイン商の責任者たちと共に女王陛下のセラーのワイン選定のため半日を過ごすことがある。その二人はジャスティリーニ&ブルックス(Justerini & Brooks)のヒュー・ブレア(Hew Blair)と、ベリー・ブラザーズ&ラッド(Berry Bros & Rudd)のサイモン・ベリー(Simon Berry)である。この由緒ある二つのワイン商はセント・ジェームズ通りを挟んで向かい合っており、裕福で酒に目がない人々から最大限の金を引き出すため、粛々と仕事に励んでいる。二世紀以上にもわたり、彼らはイギリスの市場でしのぎを削ってきたが、最近ではその一糸乱れぬ営業チームの戦場は香港とシンガポールにまで広がっているようだ。

創業者が家族経営を行うベリーズは東京にも支店があり、ダブリンとヒースローにもその前哨基地を置いている。また、イギリスで初めて様々な新しいことに取り組んだワイン商でもある。その実績は、1994年というインターネット黎明期に独自のウェブサイトを開設、独自の高級ワインのオンライン取引基盤を確立し、電子書籍も含む書籍の出版社を設立、さらにワインスクールの経営からコーポレート・イベントスペースの運営など多岐にわたる。セント・ジェームズ宮殿の目と鼻の先にあるこのイベントスペースは最近改装され、広い敷地の地下には趣のあるワインセラーも備えられている。

ジャスティリーニの自慢はベリーズよりも保守的であることだそうだが、彼らがディアジオの所有であり、ベイリーズ(Bailey’s)やブロッサムヒル(Blossom Hill)、ピアドール(Piat d’Or)などと姉妹ブランドであることを考えるとやや違和感を覚える。ブレア自身は自分の会社がディアジオの中で異端であることをわかっているようだ。「ディアジオの99パーセントの人は我々の存在を知らないと思います。でも我々がワインを買う相手は我々の後ろ盾が信頼できるものだと知っていますよ。」おそらくディアジオから見たジャスティリーニの最大の価値はJ&Bスコッチ・ウィスキーに与えられる王室御用達の称号だろう。また、ジャスティリーニは、そしてブレア自身もスコットランドで強い影響力を持っている。彼の拠点はスコットランドであり、イーストコースト本線(訳注;ロンドンとエジンバラを結ぶ主要路線)のヘビーユーザーでもある。彼は1985年以来スコットランド女王の近衛兵であるロイヤル・カンパニー・オブ・アーチャーズのメンバーで、キルト(訳注;スコットランド人が着用するスカート)も4着持っている。彼のスコティッシュ・ボーダーズにある自宅は1マイルほどのリーダー川に囲まれており、犬を散歩させながら釣りを楽しむことができるそうだ。

もし、ジャスティリーニの新ヴィンテージの試飲会でブレアがピンストライプのシャツの胸を大きく膨らませて息を吸い込み、注文の総計を数百万ポンドの単位で書き込んでいたら、彼の仕事がうまくいった証拠だ。この方法でワインを販売するのは現在イギリスのワイン業界では当たり前のことだが、1992年にブレアが1990のブルゴーニュを販売するときに始めたものである。ジャスティリーニの2009ボルドーの売り上げは軽く2000万ポンドに達するが、最近のヴィンテージではブルゴーニの注文がボルドーのそれを超えているそうだ。ブレアが言うにはジャスティリーニの取引高は上昇をつづけており、それをたった50名ほどの従業員でこなしているそうだ(ベリーズは310名)。

ブレアがその確実な先見の明で知られているのに対し、ベリーはその気風の良さで知られている。数多くのチャリティへの熱心なサポートを行い、セント・ジェームズ通りを見下ろすベリーズの会議室で数々のもてなしを行う彼は、ワイン業界と劇場を対象とした一大慈善事業家であると言える。ベリーズは現在2つの王室御用達を与えられているが、クイーン・マザー(訳注;故エリザベス・バウエス・ライアン)の生前はジャスティリーニにも2つ与えられていた。ブレアは最近まで王室御用達委員会の長を務めていて、ベリーは2008年にブレアの先輩から王室セラーの管理人を任された。現在、ブレアは私や同じく王室に関わりのあるコーニー&バロウのアダム・ブレット・スミス同様、ロイヤル・ハウスホールド・ワイン・コミッティの一メンバーにすぎない。ベリーは私たちのために自慢のブラインド・テイスティングを企画し、その後にはほぼ必ず、我々全員を誘ってグリーン・パークを抜け、彼の執務室での「セラー飲みつくし」ランチに誘ってくれる。

ブレアは2014年にジャスティリーニ勤続40周年を祝い、10年ほど様々なフランスのセラーで修行をしてから入社したベリーもまた、40周年を迎えた。ベリーの仕事は会社のかじ取りに集約されている一方、ブレアは小売価格に疎く、ワインの買い付けの第一線にいることを好む(ベリーはその業務を8名のマスター・オブ・ワインに任せている)。ブレアは時には数年にわたる交渉の末に築き上げた品ぞろえが自慢だ。「シーフォース・ハイランダーズの将官だった私の叔父の言葉を借りれば、準備にかけた時間は裏切りませんから。」彼が最初に気に入ったのはボルドーやブルゴーニュだったかもしれないが、今では誰がうらやむ最高級のドイツやピエモンテの生産者のものまで手を広げている。ジャイルズ・バーク・ガフニー(Giles Burke-Gaffney)はバイヤーとしての彼の後継者だが、自分の師匠がバローロの名だたる生産者の信頼を得ることを子供のように喜んでいるのを見るのが好きだそうだ。彼らが取り扱うドメーヌ・ルロワコント・リジェ・ベレールなどはブルゴーニュの入手困難な作り手だし、最近になってブレアは長い交渉の末にようやくポムロールの至宝、シャトー・ラフルールとペトリュスからイギリスでの合同卸の指名を獲得した。

このような超高級ワインの生産者を取り扱う上で重要な点は、彼らをいかに仲買業者から隔離し、それを飲むに値する人々のためのセラーに彼らのワインを確保するかということである。ブレアは取引をしてくれそうな相手にはクライアントのリストをちらりと見せると言われている。「彼らは高貴な人たちの名前を見ると喜ぶんです。」彼は話した。いったい、ジャスティリーニの注文控帳はロンドンに流入してくる新たな資金源からどれほどの恩恵を被っているのだろうか。「ロンドンに住んでいる人の中で本当に(彼は一呼吸置いた)国際的な人というのは一握りですよ。」彼は慎重に続けた。「私どもはヒースローやプライベートな滑走路まで商品を運ぶこともありますし、中には私たちの開催するテイスティングの日に合わせてロンドンでの取引スケジュールを組んでいる人たちもいるんです。」

ジャスティリーニそのものの経営状態というのはディアジオのそれに埋もれてしまっていて詳細を知ることはできないが、ベリーズはその正反対である。彼らの取引は委細にわたるまでライバルたちの知るところとなり、年によってそれが彼らの一喜一憂につながる。最近香港の中国の取引相手とうまくいかなくなったときには大きな下落があったし、実際に会社を運営している人々の頭の上で親族だけの取締役会があるのは多くの厳しい経営コンサルタントの目から見ると好ましいことではないかもしれない。しかし結果としてベリー・ブラザーズは少なくともイギリスで最も勢いのあるワイン輸入会社のうち4つを吸収できるほどに成功を収めている。私の世代で最も優れたワイン商たちは現金収入が必要になったらサイモン・ベリーに聞け、と言っているほどである。

ベリーズが文字通り新しい境地を開拓し、顧客のワインを保管するための大きく近代的な倉庫をベージングストーク(彼らはそこを「ハンプシャーのセラー」と呼んでいる)に作った一方、ジャスティリーニは多くの競合他社同様ウィルトシャーにあるオクタヴィアン(Octavian)の専門家向け地下ワインセラーを使っている。ブレアが言うには所有権でのもめ事を避けるため、パレットではなくケースごとにわざわざ番号をつけているワイン商は彼を含めてたった2社だけだそうだ。その中には彼が(たいていはバッキンガム宮殿で)何年にもわたって私に「うっかり」飲ませてしまった多くの貴重なものも含まれているだろう。

セント・ジェームズのとっておき

J&B

Petrus
Ch Lafleur
Dom Leroy
Dom d’Auvenay
Dom Comte Liger-Belair
Dom Bruno Clair
Dom Weinbach (Faller)
Elio Altare
Terre Nere
Aalto
Weingut Keller
Dry River
Palliser Estate

BERRYS

以下の多くは彼らの補助機関であるフィールズ・モリス&ヴァーデン(Fields Morris & Verdin)の名前で販売されている。

Patrice Rion
Dominique Lafon’s own label
Olivier Bernstein
Clos de la Perrière
Arnaud Ente
Benjamin Leroux
Olivier Merlin
Bret Brothers
Ostertag
Le Soula
Luciano Sandrone
Giovanni Rosso
Finca Allende
Palacios
Knoll
Ridge Vineyards
Au Bon Climat
Sadie Family Vineyards
Giaconda
Dog Point

原文