女性のワインへの関わり方は男性と違うのだろうか?私は強くそう感じている。少なくとも消費者としては大いに違う。実際ワインに関して私自身は男性的になりたいとは思わない。車やスーツの着こなし同様、ワインも社会的なレッテルの重要な判断要素になっているように思われるからだ。社会では男性はワインを知っていることが前提になっており、ワインについて失敗をすることは不名誉なことである。一方女性の場合はワインのことを全く知らないことが前提であり、ほとんどのウェイターがパーティでワインを提供する前のホストテイスティングを男性に依頼するのを見てもわかる。
男性の地位はワインリストから選んだボトルや自宅でふるまうワインによって判断されることが非常に多い。「このワインは自分の上司や顧客、友人にふさわしい格式と価格だろうか」と考えてしまうのはワインに関する男性特有の悩みではないだろうか。一方で「このワインをこの人と一緒に楽しみたいかどうか」というのがプレッシャーのはるかに少ない女性の考え方だろう。
しかし、この性差はテイスティングの能力とは全く無関係だ。多くの文献にもあるように、広く一般的に(そして個人的な主張とは大きく異なるが)女性の方が男性よりもテイスティング能力が高いと言われており、より正確で一貫しているという実験結果が得られている。
私は先月今年度の「デジタル・ワイン・コミュニケーション・カンファレンス(Digital Wine Communications Conference;ヨーロピアン・ワイン・ブロガー集会(the European wine bloggers’ love-in)から改名)」のセッションに出席する機会があった。そのテーマは「もうワインに女性は要らない」という刺激的なものだった。オーストラリア生まれのフェリシティ・カーター(Felicity Carter)はマイニンガーズ・ワインビジネス・インターナショナル(Meininger’s Wine Business International magazine)の編集長で、彼女の主張は女性がすでに世界のワイン市場で元も大きな経済勢力であるというものだった。彼女が指摘する通り、アメリカが(ついに)世界最大のワイン消費国となり、日常的にワインを購入する人のうち59%が女性であり、時々はワインを購入するという人の50%も女性である。彼女はまた、調査会社であるニールセン(Nielsen)の報告を引用し、イギリスの巨大スーパーで販売されるワインの10本に7本は女性が購入しているとも指摘した。同様なことがヨーロッパワインの輸入国としてはイギリスのライバルであるドイツにも言える。
フィナンシャル・タイムズのワイン担当として私の前任だったエドモンド・ペニング・ロウゼル(Edmund Penning-Rowsell)は数十年前にこの現象について触れていたが、断固として「夫に買うものを指示されて買いに来ているだけだ」と言い続けていた。しかし私はそうは思わない。私の知っている女性たちは自分自身の好みに敏感で「女性好みのワイン」のようなくだらないブランディングがされた(「ついにレディが楽しめるワインが誕生」という宣伝文句の)ジェズベルやスキニーガール、あるいはバブリーガールなどといった聞くに堪えない名前の付けられたワインに心揺らぐこともない。一方、世界で植えられているブドウ品種の変遷を見れば女性の好みの影響がどれほどか知ることができる。シャルドネよさらば、ピノグリージョよこんにちは、である。
女性のワインへの影響力はマス・マーケット(大量市場)に限ったことではない。ワインの最難関試験であるマスター・オブ・ワインで女性の合格率は男性を超え、世界中で5万6千人の受験者がいるWSETの試験で年間最優秀賞を獲得した生徒はこの8年間全て女性だった。
ワインに関連する高等教育で輝かしい成績を上げ、醸造や栽培の分野に進出する女性は世界中で増え続けている。1980年代初頭、南オーストラリア州で唯一の女性の醸造家でありワイン審査員でもあったマクラーレン・ヴェールにあるチャペル・ヒル(Chapel Hill)のパム・ダンスフォード(Pam Dunsford)は特異な存在だった。しかし現在ではヴァーニャ・カレン(Vanya Cullen)、ルイザ・ローズ(Louisa Rose)、ヴァージニア・ウィルコック(Virginia Willcock)らは性別に関わらず単純にオーストラリアで最も注目を集めるワイン生産者のうちの3人であり、多くのオーストラリアの若者―醸造家、栽培家、ソムリエに関わらず―の模範となっている。南アフリカでは、古木からワインを作るという新しい流れの中、最も重要な人物は「栽培マネージャー」であるローザ・クルーガー(Rosa Kruger)に間違いない。
カリフォルニアは女性がワイン作りへの専門性を開花させることのできる特に優れた土地である。1990年代までには名門カリフォルニア大学デイヴィス校の栽培科および醸造科の卒業生のほぼ半数は女性だった。そして現在最も人気のあるカリフォルニアワインの有名醸造家に占める女性の割合は際立って高い。技術があり、テストステロンの少ない人というのは事業に成功してその富を畑につぎ込み、その果実を高い評価を得るワインに変える手助けを必要としているビジネスマンにとって非常に魅力的なのかもしれない。ウーマン・ワインメーカーズ・オブ・カリフォルニア(Women Winemakers of California)というウェブサイトには約300名の高い技術をもつ女性が名を連ねており、その多くが有名人だ。
女性のワイン生産への進出はチリ、アルゼンチン、スペインのようなラテン文化でも目覚ましい。イタリアには非常に活発な組織であるレ・ドンネ・デル・ヴィーノ(Le Donne del Vino)がある。そして今日では樽を動かすのがどれほどの重労働であっても、ワイナリーに女性がいることは珍しいことではなくなった。シャンパーニュには大きな成功を収めた未亡人たちがこれまでも多くいる。その中でもヴーヴ・クリコは初めて大成功を収めた女性だ。彼女が最初のワイン・セレクションを60年前に作った頃、ブルゴーニュの女性の中ではラルー・ビーズ・ルロワ(Lalou Bize-Leroy)が稀有な存在だった。しかし今日では女性の感覚というものがブルゴーニュのような繊細なワイン作りにおいて非常に高く広く評価されている。(ボルドーの場合、最強の女性たちは自分でワインを作るよりもシャトーの運営に携わる傾向がある)
必ずしも賛同を得られないかもしれないが、世界中のワイン生産の現場ではおそらく同時発生的にますます女性の比率が上がってきており、このことだけが原因でないにしろ、女性の醸造家の数と影響力も増してきていると私は考えている。20世紀終盤にかけてワイン生産におけるトレンドは勢いのあるワイン、特に赤で、強く凝縮された味わい、樽とタンニンの要素が飛び抜けていて高いアルコール度数とつり合い、非常に濃い色のワインになっていった。ワインに点数がつけられるようになったことでワインを飲むことに競争心理が働き、(特に男性が)一度にどれほどのスコアを持つワインを集められるかを競うようになった。テイスティングで最もよく使われた賛辞の言葉は「~全開の」「果実爆弾」「超大作」などだった。
しかし全ての動きにはその反動がある。今世紀は軽やかでフレッシュなワインがもてはやされるようになってきている。これは色素やアルコール満載ではないが、醸造プロセスではなく畑のニュアンスをより表現しやすいものである。このようなワインは性別に関わらず増え続けている世界中の生産者によって作り出されている。今は「食欲をそそる」「フレッシュな」というような単語や、さらに頻度が高いものとしては「ミネラル」という単語がコメントには多く使われる。尊敬を集めるワインは今や1990年代に典型的だった遅摘みのブドウを使って樽を強くかけたワインのスタイルとは対極にあることが多い。
一握りの権威のある人間が点数をつけていた時代は終わり、消費者の口コミが牽引力を持ち始めた。ワインの世界の競合は減り、協力的になってきたように感じる。すなわち、典型的な言い方をすればより女性的になったのだと言えるのだ。たぶん。
お気に入りの女性醸造家のワイン
以下のリストはただ単に女性醸造家であるというだけではなく、それぞれの女性が作り出すワインの質とスタイルに基づいて選んでいる。生産者の名前は特に記載のない限りワインの名前に使われており、アルファベット順に掲載した。
Susana Balbo, Dominio del Plata, Argentina
Ghislaine Barthod, Burgundy
Theresa Breuer, Germany
Lalou Bize-Leroy of Dom Leroy, Burgundy
Cathy Corison, Napa Valley
Vanya Cullen, Western Australia
Sylvie Esmonin, Burgundy
Elisabetta Foradori, Italy
Anne Gros, Burgundy
Anne-Claude Leflaive of Dom Leflaive, Burgundy
The López de Heredia sisters, Rioja
Bérénice Lurton, Ch Climens, Bordeaux
The Mugneret-Gibourg sisters, Burgundy (写真左がマリー・アンヌ、右がマリー・クリスティン;写真はジョン・ワイアンド(Jon Wyand)提供)
Arianna Occhipinti, Sicily
Katharina Prüm, Germany
Louisa Rose of Yalumba, South Australia
Heidi Schröck, Austria
Rianie Strydom, Haskell and Dombeya, South Africa
Cécile Tremblay, Burgundy
Delia Viader, Napa Valley
Elena Walch, Alto Adige
Virginia Willcock of Vasse Felix, Western Australia
(原文)