ARTICLEワイン記事和訳 本記事は著者であるジャンシス・ロビンソンMWから承諾を得て、
Jancisrobinson.com 掲載の無料記事を翻訳したものです。

092.jpgこの記事の別バージョンがフィナンシャル・タイムズにも掲載されている。全テイスティング・ノートと2007ヴィンテージに関する2009 reportも参照してほしい。

ここのところ、おそらく2,3年の間だろうか、レストランのワインリストからワインを選ぶ際、その価格設定が強気すぎないと思えるヴィンテージは2007だった。2007の赤も白も、ブルゴーニュは現在飲むのに非常に心地よい。最高級の物を除けば現在がピークだ。凝縮感が最高とは言い難いが、今の時点で過剰なタンニンや酸を感じず、魅力的にバランスが取れたミディアム・ボディのフルーティなワインである。

最近私が楽しんだのは白のブルゴーニュの大御所と言える2人の生産者のムルソーで、ただの(とはいえ価格は「ただの」と言えるものではないが)村名クラスのコシュ・デュリと、もう一人の大御所、ピエール・イブ・コラン・モレのムルソー・ペリエールだ。

2007の赤のブルゴーニュで最近楽しめたものとしてすぐに心に浮かぶものにはミュニエのクロ・ド・ラ・マレシャル(Clos de la Maréchale)、ポンソのモレ・サン・ドニ、キュヴェ・デ・ザルーエット(Cuvée des Alouettes)、ラファルジュのヴォルネイ、ミタン(Mitans)、マルキ・ダンジェルヴィル(Marquis d’Angerville)のヴォルネイ、タイユ・ピエ(Taille Pieds)がある。

今月末にあるボルドー2014の樽試飲で見舞われるであろうその力強さに身構えながらこれを書いていたとき、ふと7で割り切れる(訳注:下2桁が、の意味と思われます)ボルドーのヴィンテージが頭をよぎった。ここ数か月間で私はその一つ、2007のボルドーを別々の機会に楽しんだ。トロタノワ、ラフルール・モランジュ・キュヴェ・マチルド((La Fleur Morange Cuvée Mathilde)、トゥール・デュ・オー・ムーランなどが我々のテイスティング・ノートのデータベースに収録されているが、それを見ると、どうやらそれほど長い熟成を期待できない味わいだったようだ。

赤のボルドー2007はどれもタンニンと凝縮感が低く常に熟成が早いため、毎年ファー・ヴィントナーズ(Farr Vintners)で古いボルドーのテイスティングを行う我々プロのチームは通常のタイム・テーブルを変更した。我々は通常10年熟成したものをテイスティングするのだが、私が最近ファー・ヴィントナーズのライバルであるボルドー・インデックス主催のテイスティングでその偉大なヴィンテージに関する見解を記した通り、ほとんどの2005はまだとても飲み頃とは言えない。そこで、2週間前の例年のテイスティングでは2005の代わりにはるかに熟成が進んでいる2007に注目してテイスティングを行うことにしたのだ。

そのイベントで我々は2007のテイスティングを10年が経過するまで待たなくて本当によかったと思った。ワインは全てブラインドでグループごとにテイスティングしたのだが、ほとんどがすでに飲み頃だったのだ。これはたった8年しか経過していないボルドーの格付け銘柄としては非常に珍しいことである。我々がテイスティングした94本のワインのうち数少ない例外としては(実質的に著名な銘柄全てだったとも言えるが)、左岸の1級シャトー(メドックおよびグラーヴ)、シャトー・ランシュ・バージュ、ラグランジュ、パプ・クレマン、そして熟成の遅さで悪名高いサンテステフのほとんどのワインなどが挙げられるのみである。

右岸(サンテミリオンおよびポムロール)のほとんどの2007はすでに飲みやすくなっているが、私はラ・コンセイヤント(La Conseillante)、ラ・モンドット(La Mondotte)、フィジャック(Figeac)に関してはあと数年待ってみたいと思った。ただ、このヴィンテージがあまりに早熟なため、我々は熟成の遅いワインのスコアを過大評価する傾向にあったのではないかという疑問も浮かんできた。

私はこのテイスティングをとても楽しみにしていた。とりわけ2007は市場に出回っている現在飲み頃のボルドーで最も価格が安いからだ。例えばパワーにあふれた2009と比較すると半額以下であることも多いのである。(比較的)安価かつ飲み頃ということは、このヴィンテージは理論的にはレストランのワインリストを作っている人々にとって魅力的なものになるはずである。とはいえ、赤のボルドーに注力している、あるいはそもそもそれらを掲載しているワインリストの数はここ数年で激減しているのであるが。

実際のところは、我々がテイスティングしたワインのうち、生産者はその有名な銘柄を掲げるにふさわしいと考えた(実際にはその素質が不足している)ワインが多すぎた。これらは辛口の赤ワインで一定期間上質なフレンチ・オークで熟成をしているのだが、本当の意味での魅力、迫力、活力は全く感じられない。例えば、17名のプロのテイスターが行ったマルゴーのフライトの平均スコアは20点満点中全く精彩を欠く15点でしかなかった。にもかかわらず、これらのワインの価格は優に50ポンドを超えているのだ。これはミュニエの素晴らしく美味しいニュサンジョルジュのクロ・ド・ラ・マレシャルより高い。これはひどい価格設定であるとしか言えない。

(最も魅力的な2007のボルドーはサン・ジュリアンのものだったが、それでも平均スコアは20点満点中16点に満たなかった)

少し前にナパ・ヴァレーから帰ってきた私は、これら一連のワインを最近彼の地でテイスティングした2011のナパ・ヴァレーのカベルネと比較しないわけにはいかなかった。カリフォルニアの2011はボルドーの2007に似て、稀にみる困難な年だったが、多くのナパ・ヴァレーのワインには少なくとも生産者の努力の跡が見られた(中にはそれが的外れな場合もあったが)。今のボルドーの品質が自己満足であるという証拠がこのテイスティングだろう。

2007年、自然がボルドーの栽培者に力を貸してくれなかったのは事実だ。2011年のナパ・ヴァレー同様、季節の移り変わりは全く絶望的だった。しかし8月のまさに終わり頃に太陽はようやくボルドーの畑に光を注ぎ始め、通常より日照が10~15%少なかったひどい夏を補うよい気候となった。4月はこれまでになく暖かかったため、困惑するほど不安定な気候の元で開花は非常に早かった。しかし鬱陶しく曇りがちで湿度の高いことも多かった、いうなれば「存在しない夏」のせいでブドウの成熟には非常に苦労した。その結果2007のボルドーの生育期は史上最も長く、開花から収穫までが通常の110日どころか、140日もかかった。長いハングタイム(ブドウが樹上にある時間)が品質に比例するなどと、けして言えるものではない。

雨の多い夏の後、糖度の上昇が著しくなる9月はいつになく乾燥していた。このことは一部の2007、特に右岸のものに心地よいとは言えない収斂性の余韻がはっきりと感じられることがあった原因かもしれない。(右岸の生産者たちが悪名高い過抽出と新樽を好む傾向の結果と言えるかもしれないが、この傾向は2007には落ち着いていたはずである。)

上述のテイスティング・チームは最近、同様のテイスティングをはるかに若い2011ボルドーで行った(私は南アフリカへ行っていたため不参加だった)。彼らの結論は、2007はボルドーの人々が販売に四苦八苦している2011と比べればまだましだと言うことだった。しかし私からすると、2007は同様に9月の良い天候に助けられた2004と比較すると果実味は明らかに上であるものの最高の2004の凝縮感と気品はほとんどの2007を上回っていると思われる。

このテイスティングを経ての私の総合的な結論は、ボルドーの生産者はもっと外に出て、世界の他の産地のワインとブラインドで比較テイスティングをし、現実的な価格設定を学ぶべきであるということだ。2007に関しては、ブルゴーニュ、イタリア、カリフォルニアに賭ける方がはるかに安心である。

以下は私がブラインドで16.5点以上を付けたワインである。市場にはほとんど2007は残っていないと思うが、セラーに持っている人たちの参考にはなるだろう。

サンテミリオン
Ch Angélus, Ch Cheval Blanc

ポムロール
Ch Clinet, Ch Clos l’Eglise, Ch La Conseillante, Petrus, Le Pin, Pomerol

ペサック・レオニャン
Ch Haut-Brion, Ch Malartic-Lagravière, Ch Smith Haut-Lafitte, Margaux Ch Margaux

サン・ジュリアン
Ch Ducru-Beaucaillou, Ch Lagrange, St-Julien

ポヤック
Ch Lafite, Ch Latour, Ch Mouton-Rothschild, Ch Pichon Baron, Ch Pichon Lalande

サンテステフ
Ch Calon-Ségur