TT:木曜特別シリーズの意。最近の事例に関連のある過去の記事を再掲するコーナーです。
5月21日 この木曜特別シリーズは本サイトの過去の記事をかなり遡ることもあるし、比較的最近会員限定で公開した記事を再掲することもある。今日の興味深い記事は後者であり、つい先日月曜に公開されたものである。
5月18日 赤ワイン中のタンニンは、口の中での感じ方やボトルの中での変化について世界中で多くの研究が行われており、非常に複雑なテーマでもある。タンニンはブドウだけではなく多くの果物や樹皮に見られる化合物の総称だ。ワイン中のタンニンは(プロアントシアニジンや凝縮したタンニンとして)ブドウ、特に果皮および種子に由来するが、醸造や熟成の課程で使われる樽由来のものもある。ワインの構成成分とワインの味わいに関する研究はワイン中の成分の相互作用が(物質同士の作用だけでなく、我々の体との作用も)あるため、この上なく複雑なものだ。タンニンの詳細な情報については本サイトのオンラインOxford Companion to Wineに詳細な記述がある。
タンニンが最も重要な役割を果たすのは、(あまり優雅ではない響きだが)わかりやすい言葉として舌触りであり、突き詰めるとワインの品質であるとも言える。タンニンは我々の唾液に含まれるタンパクと相互作用し、収斂性を感じさせる。すなわち、厳密に言えば味ではなく食感に関係しているのだ。(事実、タンニンの機能定義にはタンパクと相互作用能をもつこと、というものがある)
アルコールの高いワインは低いワインに比べて収斂性を感じにくいという現象自体はとりわけ新しい話題ではないのだが、この現象の理由はつい最近まで説明されてこなかった。AWRI(オーストラリアワイン研究所)のジャッキ・マクレ(Jacqui McRae)はアルコールがワインのタンニンと唾液のタンパクの相互作用に与える影響についてクイーンズランド大学と共同で研究を行い、アルコールがタンニンと唾液中のタンパクとの結合を阻害するためにアルコールが低いワインほどこの相互作用が強くなることを明らかにした。
この「エタノール濃度はモデルワイン中でワイン由来タンニンとポリ・L・プロリンの相互作用メカニズムに影響を及ぼす(Ethanol concentration influences the mechanisms of wine tannin interactions with poly(L proline) in model wine)」(Jacqui M. McRae, Zyta M. Ziora, Stella Kassara, Matthew A. Cooper and Paul A. Smith)という研究はジャーナル・オブ・アグリカルチュラル・フード・ケミストリー誌 (the Journal of Agricultural and Food Chemistry DOI: 10.1021/acs.jafc.5b00758)のウェブサイトに発表された。タイトルが示す通り、使われたのは本当のワインではなくモデルであり、タンニンは2種類のカベルネ・ソーヴィニヨン、一つは3年、もう一つは7年経過したワインから抽出しているため、研究者は赤ワインの収斂性がワインの熟成によって減少するという説についても検証することが可能となった。
AWRIのe-ニュース(専門的なことに興味があるなら登録する価値はある)に噛み砕いて説明されているマクレの研究要旨によると、「ワインのタンニンは複雑な分子で、親水性(水と仲の良い)部分と疎水性(水と仲の悪い)部分からなり、そのどちらもタンパクと結合が可能である。最近の研究で(中略)低アルコール(10%)モデル中のタンニンは高アルコール(15%)のモデルワインに比べて唾液中のタンパクと強く結びつくことが明らかとなった。高アルコールワイン中ではアルコールによってタンニンの疎水性部分のタンパクとの結合が阻害されるため、親水性部分のみでその重労働を担わなくてはならない。低アルコールワイン中ではタンニンのどちらの部分もタンパクと結合することができ、タンニンがより強固に結合することが可能になる」と彼女は説明しているそうだ。
この魅力的な研究はけして概念的なものとは言えない。なぜなら、多くの場合その品質、そしてそのもたらす喜びにおいて味わいと同じぐらい口当たりが重要な役割を果たす赤ワインでは特に、タンニンの役割は軽んじることができないためだ。またその結論はもしかしたら現代の低アルコールワイン志向と多くの生産者がその流行に乗り始めている現状に影響を与える可能性がある。
(原文)