これはフィナンシャル・タイムズに掲載された記事のロング・バージョンである。詳細なテイスティング・ノートも参照のこと。
ボルドーの一級シャトーに匹敵するほどのワイン産地がブルゴーニュのグラン・クリュに匹敵するほどの畑からわずか1マイル半の場所にあると想像してほしい。それこそが太平洋とシリコン・ヴァレーに挟まれたサンタ・クルーズ・マウンテンのもつれた木々のはざまにある驚くべき真実なのだ
リッジ・ヴィンヤードの歴史あるモンテ・ベッロの畑に立つと、1976年に世界的に輝かしい成績を収め、2006年にそのパリ対決と呼ばれるフランスとカリフォルニアの比較試飲を再現した畑から太平洋側、隣の尾根にリース・ワイナリー(Rhys winery)を望むことができる。下の写真はリッジ・ヴィンヤードをリースから見たものだ。リースの「取りつかれたように」植えられ、手入れを施された畑は今、世界のどこにもない最も野心的なピノ・ノワールを生み出している。そして素晴らしいシャルドネも。
それは通常では考えられないことである。カベルネ・ソーヴィニヨンというモンテ・ベッロの標高2,600フィート(約800m)にある畑に植えられているブドウは晩熟型で、通常温暖な気候を必要とする品種である。一方で早熟なブルゴーニュの品種は長く涼しい生育期を必要とする。ここは大半が太平洋の東の端に沿って広がっているため、海からの霧までの距離が大きな違いを生む。そこにサン・アンドレアス断層がこの2つのワイナリーの間を通っている事実が加わる。リッジのCEOであるポール・ドレーパー(Paul Draper;写真左、ハーヴェイ(Harvey)が右、スカイライン・ヴィンヤードにて)は「自分側の」尾根、フォグ・ライン(訳注;霧の到達上限)の上に住んでおり、自身の劇的な経験からそれをよく知っている。
サンタ・クルーズ・マウンテンのアペラシオンの一部が太平洋プレート、一部が北アメリカプレートに乗っており、どちらのプレートも活発に活動しているため、この急な丘陵地の地質学的、地形学的多様性はこのような小さな区域から想像できるレベルをはるかに超える(そして社会的にも他に例のないほど多様で、未開地に居座っているヒッピーからITで築いた財産を不動産につぎ込んでいる人々まで様々だ)。平坦に開けた都合のいい土地がなく、ベイ・エリアで働く人々のベッドタウンであったことから、サンタ・クルーズ・マウンテンには長いことほんの一握りのブドウ農家しかおらず、その多くは代々の農家だった。しかし近年多くの人々が真新しい大邸宅をあちこちに建て始め、その多くが趣味のブドウ畑を近隣に作り始めるようになり、その一部は趣味の域を超えるようになった。例えばクロ・ド・ラ・テック(Clos de la Tech)は1996年にサイプレス・セミコンダクター(Cypress Semiconductor)の創業者、T・J・ロジャースが設立したものだ。サンタ・クルーズ・マウンテンのワイン生産者協会はいまや60以上の会員からなる。
ケヴィン・ハーヴェイ(Kevin Harvey;下の写真は彼がリースのテイスティングルームに改装した鹿の角で飾られたダイニングルームである)は自身の新事業に彼自身のウェールズ語の姓、リースを付けた人物で、おそらく最も成功した新生ヴィニュロンと言えるだろう。もっともけして新人ではないのだが。彼は最初のブドウを1995年にサンタ・クルーズ・マウンテンのアペラシオンの境界線からわずか400フィート下に植えたため、その畑から作られたワインはサン・マテオ・カウンティとして販売しなくてはならなかった。はじめのうち彼は自分のガレージで効率的にワインを作り、その初めての商業的なヴィンテージは2004だ。しかし彼は厳格なピノ・マニアの風格を漂わせる男で、自身がベンチャー・キャピタルで築き上げた財のほとんどを惜しみなく注ぎ、カリフォルニアでブルゴーニュのグラン・クリュに対抗する究極の答えを追求することになるのである。
私はリッジのポール・ドレーパーに連れられ、リース本部を尋ねた。そこはバロニアル様式を模したホールが断層の上部に建つ、モンテ・ベッロからも見える場所である。テイスティングの前に我々はハーヴェイと愛想がよく物言いたげな表情をしたワインメーカー、ジェフ・ブリンクマン(Jeff Brinkman)にセラーへと招かれた。そこは彼らが山腹を掘削して作ったもので、我々は驚くほどリーズナブルな価格の付いたワインのパレットが増え続けるリースのファンへ出荷されるのを待っている横を素早く通り過ぎ、各区画のブドウを理解しそれを表現するために用意された様々な形や大きさの発酵容器の密集地帯を通り抜け、フランスで丸々4年間自然乾燥させたオークから作られたブルゴーニュ樽を通り過ぎて、サンタ・クルーズ・マウンテンの素晴らしい地形図に感嘆することとなった。それはドレーパーもこれまで見たことないほど複雑なものだった。
過激なピノ・マニアが皆そうであるように、ハーヴェイはブルゴーニュをよく知っていて、彼の土地は「コート・ドールよりはるかに地質が多様なんです。我々は冷涼で浅い石礫土壌を探していました。うちのスカイライン・ヴィンヤードは基本的には巨大な石積みなんですよ。」と明言した。私のノートにはこのセリフの横に「32myr」と殴り書きしてあり、その石積みの年代、3200万年を意味していた。アルパイン・ヴィンヤード(Alpine vineyard)は1から3(百万年)の間で、ホースシュー・ランチ(Horseshoe Ranch)は11となっている。彼らはさらにパハロ・ヴィンヤード(Pajaro vineyard)をサンタ・クルーズ・マウンテンの・アペラシオンの遥か南に開墾し、ベアウォロー・ヴィンヤード(Bearwallow vineyard)を別の非常に冷涼なカリフォルニア北部のアンダーソン・ヴァレー、すなわちゴールデン・ゲート・ブリッジを超えたはるか先のメンドシーノに開発中である。
しかし、やはり特筆すべきはスカイラインにある畑の設計だろう。そこはまさにワイン醸造用セラーの真上に畑が乗っているのだ。水不足が深刻化しつつあるこの州での節水という目的もあり、ブドウは相当な密植で17,000本/ヘクタールほど、1本のワインを作るのにブドウの木8本を必要とする。それらは現在手作業で鍬で木の間をくまなく耕すため、鍬の幅の選択は注意深く行わなくてはならないことが見て取れる。ドレーパーはけして栽培に手を抜く人物ではないが、このきめ細かい気配りには度肝を抜かれていた。一方でハーヴェイは誰もが抱くであろう疑問を「エーカーあたりのコストは思い出せない」と言って煙に巻いた。
リースは現在平均して10,000ケースのシャルドネとピノ・ノワール(それにごく少量のホースシュー・シラー)を毎年生産し、単一畑、さらには個々の畑の特別な区画ごとの瓶詰にこだわっている。13本の2012と更によいヴィンテージである2103はどれも緻密かつ純粋さが表現されていたが、中でもヒルサイド2013ピノ、アルパイン・ヴィンヤードとホースシュー・ヴィンヤードそれぞれの急斜面部分から作られたものはピノというくくりのあらゆる視点から見て群を抜いていた。それぞれのアルコールは12.4%と12.8%である。
2012シャルドネのホースシュー・ヴィンヤードの物もまた傑出していた。ハーヴェイはこの成長の遅いシャルドネとピノが挙げた素晴らしい成果にもほくそ笑んでいるに違いない。それらはブルゴーニュからポール・マッソン(Paul Masson)が輸入し、彼の弟分であるマーティン・レイ(Martin Ray)を経由した穂木から、数マイル離れた山の東面にあるマウント・エデンのジェフリーとエリーのパターソン夫妻の手によって生み出されたものだ。この場所は眼下にサン・ノゼが広がり、明らかにリースの西向きの畑よりも暖かく、シャルドネが2月下旬には発芽していたほどだ。パターソンは2015の収穫はその前二年よりも早くなると予測している。
リースですら、霧がサンタ・クルーズ・マウンテンに太平洋から流れ込む最前線に位置するにもかかわらず、ブドウの一部を昨年は8月19日という早い時期に収穫したのだが、リッジは通常10月下旬になるまで通常は収穫しない。しかも彼らは炭酸カルシウムを用いた減酸まで行わなくてはならないことすらあるのだ。将来的にはそのような調整が行われたかどうかを知ることができるようになる。リッジは全ての情報を公開するため成分表示ラベルを最近になって導入したためだ。それでも彼らは偉大なワインを作っている。
サンタ・クルーズ・マウンテンのトップワイン
一つだけ、リースのホーム・ヴィンヤードを例外的に加えた(訳注;サンタ・クルーズ・マウンテンではない)。
「North Americans and their Burgundian ways」も参照のこと。
Mount Eden Chardonnay 2009, 2010
Mount Eden, Estate Pinot Noir 2005
Mount Eden, Estate Cabernet Sauvignon 2005
Rhys, Horseshoe Vineyard Chardonnay 2012
Rhys, Home Vineyard Pinot Noir 2012 San Mateo County
Rhys, Skyline Pinot Noir 2012
Rhys, Alpine Pinot Noir 2012
Rhys, Horseshoe Pinot Nor 2012
Rhys, Alpine Hillside Pinot Noir 2013
Rhys, Horseshoe Hillside Pinot Nor 2013
Ridge Vineyards, Monte Bello Chardonnay 全てのヴィンテージ
Ridge Vineyards Cabernet Sauvignon 2011, 2009
Ridge Vineyards, Monte Bello全てのヴィンテージ
詳細なテイスティング・ノートも参照のこと。
(原文)