これはフィナンシャル・タイムズに掲載された記事のやや長いバージョンである。職人が作る91のシャンパーニュのテイスティング・ノートも参照のこと。
ジャニソン・バラドンのシリル・ジャニソン(Cyril Janisson;写真では昔のポスターを抱えている)がわざわざロンドンにまで飛んできて、自身のシャンパーニュをヴィントナーズ・ホールで出展したのは先月末のことだった。彼は「実は来ようって決めたのはつい昨日なんですよ」と打ち明けながら試飲用のコンジュ2006を注いでくれた。それはエペルネの彼の自宅の裏にある畑で育ったピノ・ムニエから作ったものだ。「でも今日の出展者を見て、来るべきだと思ったんです。」他の14の生産者に称賛の眼差しを投げかけながら彼は言った。彼らは皆、ベリー・ブラザーズ・アンド・ラッドの顧客に非常に特別なシャンパーニュを忙しく紹介していた。
本家フランスでは長く定着しているものの、世界的に有名な巨大ブランドのオーナーではない小規模のブドウ栽培者が作るシャンパーニュ(グロワーズ・シャンパーニュ)は輸出市場においては比較的目新しいと言えるだろう。そういうワインには有利な点が多くある。そのトレーサビリティと特定のヴィンテージ、村、あるいは畑などの表現力はブレンドによりハウス・スタイルをコンスタントに表現する製品よりもはるかに現代の風潮に合っている。このようなブドウ栽培者の多くは非常に興味深いワインを生み出し、非常に個性豊かで、大量にノン・ヴィンテージのブレンドやヴィンテージ、あるいはロゼのシャンパーニュを作るだけの大手のシャンパーニュハウスとは大きく一線を画す。そのような多様性がワイン愛好家を引き付けてやまないのだ。たとえそれがワインを売る側への要求がより貪欲になる可能性があるとしても、だ。
ブドウ栽培者は多くの大手シャンパンハウスに比べ、ワインに関する全情報を公開する準備がはるかに整っている。グロワーズ・シャンパーニュのバックラベルはかなり自由で、ヴィンテージ表記のないブレンドに含まれる主要なヴィンテージやブドウの収穫地、熟成に樽を使ったかどうか、デゴルジュマン(二次発酵という瓶内で泡を生成する発酵過程の終了時)の日付から残糖、いわゆるドサージュ(年々低くなる傾向にある)まで記載されている。
だからグロワーズ・シャンパーニュは、上述の技術的な仕様に個々の生産者の息吹が加わり、非常に多くを語るのだ。もう一つの有利な点はマーケティング経費を最小限にしているため知名度の高いシャンパーニュ・ブランドの物よりはるかに安価である点だ。しかし私からすると、グロワーズ・シャンパーニュは最近かなり価格が高くなっているようである。少なくともイギリスでは。為替レートの動きからするとワインの価格はもっと下がっていいはずではないか。おそらくイギリスのワイン商は大手の名前に慣れていた消費者が当惑していた導入時よりそれらが売りやすくなったことに気付き、多くのマージンを取ろうとしているのではないだろうか。
ヴァイン・トレイル(Vine Trail)とそれに続いたザ・サンプラー(The Sampler)は一連のグロワーズ・シャンパーニュをイギリスに導入した先駆けのワイン商だが、セント・ジェームスの伝統的なワイン商、ジャスティリーニ・アンド・ブルックスとベリー・ブラザーズ・アンド・ラッドのライバルが両社ともそこに参入した事実はもはやグロワーズ・シャンパーニュがニッチな製品ではないことを物語っている。
ベリーズのバイヤー、サイモン・フィールド(Simon Field)MWは同社推奨の「職人の作るシャンパーニュ」の紹介文で、ブルゴーニュがネゴシアンに支配されていた時代から個々のドメーヌが台頭する時代へ進化を遂げたことになぞらえているほどだ。「シャンパーニュは今や20年前のブルゴーニュと同じ状態にある。勇気ある多様性という新たな世界の夜明けだ。実に心が躍るではないか。」
ベリーズで最も情熱的な「小さな栽培者」(体格が小さいと言う意味ではない)はエリック・ロデス(Eric Rodez)だろう。彼のワインはノッティンガムのゴーントリー・ワイン(Gauntley Wine)、ザ・サンプラー、ボトル・アポストロフ(Bottle Apostle)でも販売されている。禿げ頭で鮮やかな青色のメガネをかけた彼は「ブレンドの厳しさ」をアンリ・クリュッグと働いていた頃に教わり、土壌を表現する大切さを偉大な「テロワリスト」、アルザスのマルセル・ダイスから学んだそうだ。彼は言った。「現在我々は愚者の世界にいるんです。この25年間、私は自由にやってきましたが、同世代の人々は古いやり方にがんじがらめにされていました。私はミネラルを追い求め、なんでも自由に質問することができました。」彼はあえてナチュラル・ワイン派のように最小限の硫黄しか使わず、ほとんどのワインを樽で熟成し、膨大な量のワインの最後のドサージュには細心の注意を払い甜菜糖の代わりにブドウの濃縮果汁を使う。
シャンパーニュはサステイナビリティに関して非の打ちどころのないワイン産地であるとはけして言えない。事実、アメリカのワイン・ライターである私の友人はナパ・ヴァレーの健康的な畑に慣れているため、シャンパーニュを初めてこの春に訪問しそのブドウ畑の現状に「ショックを受けた」と言っていた。私が1970年代に初めて訪問した際にはそこはゴミだらけだった。月日が経ち、そのようなことは珍しくなったが、例えばビオデナミのブドウ栽培は今や世界のワイン産地で人気が高いが、シャンパーニュの栽培者の中でそれを試みているのはほんのひと握りであり、目立っているのはフルーリー・ペール・エ・フィスと、大規模シャンパーニュハウスの中でも珍しい、ほとんどのブドウを自社畑で賄うルイ・ロデレールだ。
シリル・ジャニソンに畑の健全性は向上したと思うか尋ねてみると、「そう願っています。」彼は言い、「若い世代がよくやっていますからね。ブドウは確実に緑が濃くなっていますし、10年、20年前よりは良い状態だと思います。シャンパーニュには改善するための資金がありますから、投資しなくてはなりません。」
彼の隣にはジャン・バティスト・ジョフロワ(Jean-Baptiste Geoffroy)がおり、自慢げに最近行った家族経営のルネ・ジョフロワ(René Geoffroy)での投資の話をしてくれた。彼は以前キュミエール(Cumières)の村を拠点としていたが、2008年アイに歴史ある協同組合であるコレ(Collet)の土地を購入することができたのだ。彼は素敵な家と庭の写真をiPadで見せてくれた。私は負債で大変なのではと聞いてみたが彼は「ロンドンの小さなアパートぐらいの値段でしたよ。」と笑って答えた。「それに、ぼくは娘が5人いるので広さが必要だったんです。」
使い込んだロンドンの様々なガイドブックがテイスティング・テーブルに置いてあったのと、サイモン・フィールドが後にコメントしていた、彼が企画したテート・モダンの近くにある古いブリキ箱工場にあるヒクスター・バンクサイド(Hixter Bankside)でのディナーでいかにこのシャンパーニュ人たちが感激していたかを考慮すると、これらシャンパーニュの生産者は毎年ロンドンで開催されるシャンパーニュの大規模な一般向けテイスティングに押し寄せる大企業の面々と大きく異なることを認識せざるを得なかった。
これらのワインやその作り手の多くは本当に魅力的だが、RM、つまりレコルタン・マニピュランとシャンパーニュのラベルに書いてあるからと言ってそれが高品質な商品への近道であると誤解してはならない。シャンパーニュには16,000もの栽培者がおり、そのうちほんのわずかしか才能のあるワインメーカーはいないのだ。おそらく最も確実に高品質のものを見つける近道は年々重要さを増す一連のテイスティングに参加することだ。シャンパーニュの若い世代が自慢の製品を誇らしげに出展する催しは毎年4月に開催されるので自分の舌で確認することができる。
現在のお気に入りグロワーズ・シャンパーニュ
特に記載のない限り、下記のトップワインをイギリスに輸入しているのはブリストルにあるヴァイン・トレイルである。
Agrapart, L’Avizoise Blanc de Blancs Extra Brut Grand Cru 2008
Raphael et Vincent Bérèche, Blanc de Blancs Extra Brut Premier Cru 2008
Bonnaire, Blanc de Blancs Grand Cru 2005 (保税価格£145.98/6本、ベリー・ブラザーズ・アンド・ラッド)
Chartogne-Taillet, Orizeaux Extra Brut 2009
La Closerie, Les Béguines Extra Brut NV
Ulysse Collin, Les Roises Blanc de Blancs Extra Brut NV
René Geoffroy, Extra Brut 2004
Jacquesson, Cuvée 738 Extra Brut NV (保税価格£366.72 /6本、ベリー・ブラザーズ・アンド・ラッド)
Janisson Baradon, Grande Réserve
Laherte Frères, Les 7 Extra Brut NV
Guy Larmandier, Cuvée Signe François Vieilles Vignes Blanc de Blancs Grand Cru 2007
Larmandier-Bernier, Longitude Blanc de Blancs Extra Brut Premier Cru (£33.75 リー・アンド・サンデマン;Lea & Sandeman)
R&L Legras, Présidence Vieilles Vignes Blanc de Blancs Grand Cru 2007
Marguet Père et Fils, Éléments 10 Extra Brut Grand Cru NV
Marguet Père et Fils, Sapience Extra Brut 2007
Eric Rodez, Blanc de Noirs
Eric Rodez, Cuvée des Grands Vintages (based on 2007)
De Sousa, Blanc de Blancs Grand Cru NV (保税価格£163.98 /6本、ベリー・ブラザーズ・アンド・ラッド)
職人が作る91のシャンパーニュのテイスティング・ノートも参照のこと。
(原文)